※ 【 追記 】 あり。 ──
ネットで話題になっているので、ちょっと調べてみた。
これは次の商品だ。(同じ商品だが店が違う。)
【第2類医薬品】アットノン 15g
メーカーの効能書きは、こうだ。
傷あととは、傷ができたあと傷口を修復する時に皮ふ組織が異常に増殖する
ことでできる赤み(つっぱり)などやもり上がり(しこり)のことです
1).アットノンは、有効成分ヘパリン類似物質が血流の循環を良くして皮ふの新陳
代謝を促進し、皮ふの炎症を鎮めて皮ふ自体の正常化機能を回復させ、角質に
水分を保持させ柔軟性を取り戻すことで、傷あとを改善していきます
-1.血行促進作用 血流の循環を良くして、皮ふの新陳代謝を促進します
-2.抗炎症作用 皮ふの炎症を鎮めて、皮ふ自体の正常化機能を回復させます
-3.水分保持作用 角質に水分を保持させ、柔軟性を取り戻します
2).サラッとした透明ジェルタイプの塗り薬です
こんな効能書きは素直に信じられないので、利用者の体験談を調べてみる。それにはググればいい。すると、次のページが見つかる。
→ アットノンで昔の傷跡は本当に消えるのか?
→ 小林製薬『アットノン』9週間の体験レポートと感想
→ 小林製薬アットノンで本当に傷跡が直った話
→ アットノンは、どれくらいの期間塗り続けたら効果があるでしょうか。
→ アットノン 口コミ|buzzLife(バズライフ)
いろいろ見たところ、想像した以上に効果があるようだ。「どうせ気のせいでよくなった程度だろ」と思ったのだが、写真で見ると、かなり大きな効果がある。ただし、「常に」ではない。まとめると、こうだ。
・ 十年以上も前の傷跡は、「少しはよくなったかも」という程度。
・ 2年前の傷跡だと、「はっきり改善した」と言える。
・ 数週間前の小さな傷だと、「ほとんど傷跡が消える」ほどだ。
では、数日前の傷は? それは、効果がわからない。実際に薬のせいで改善したのか、自然治癒の効果で治ったのか、どちらとも決めかねる。とはいえ、最も効果があるのも、この時期である。この場合には、数日間の治療だけで、劇的な効果があると推定される。
一方、2年前の傷だと、かなり長期間(2カ月ぐらい?)の治療継続が必要らしい。また、十年以上前の傷跡だと、半年以上も続けても効果は少なめであるらしい。
というわけで、効果の量にはいろいろと違いがあるが、いずれにせよ、「はっきりとした効果を持つ薬」と言えるだろう。このような薬は、これまではなかっただけに、かなり画期的な薬だと言える。爆発的な人気が出るのもうなずける。
特に、手術で傷口がふさがった後に使うと、良さそうだ。
( ※ 手術の傷跡は醜いので問題だ……という話は、先日にも記した。 → 該当項目1 ,該当項目2 )
──
さて。以上の話だけでは、ただの商品紹介になってしまうので、本サイトらしくない。本サイトはアフィリサイトではない。学術サイトだ。では、学術的には?
問題は、こうだ。
「数カ月もたって状況が固定している傷跡が、たかが薬ぐらいで劇的に改善するのは、どうしてか?」
これは不思議ですね。謎だ。謎が出れば、理由を知りたくなるのが、本サイトの読者だろう。(というか私のことですね。 (^^); )
そこで、頭をひねって考えているうちに、思いついた。これだ。
「動的平衡」
この概念については、下記のように説明した。
「普通の物質(鉱物など)は、一個の静的な固定物である。だが、生物は、そうではない。生物は、それ全体としては一個の物として存在しながらも、その成分は動的に変化している」
( → [書評] 生物と無生物のあいだ )
ルドルフ・シェーンハイマーは、1930年代後半に、次のことを示した。
「同位体窒素のアミノ酸を含む餌を、ネズミに取り込ませると、その窒素は、ネズミに大量に取り込まれ、その後、少しずつ、放出された。」
つまり、原子レベルで見ると、ネズミという個体を構成する原子は、刻々と変化しているわけだ。普通の物質ならば、原子はいつまでも同じ原子だが、生物の場合では、そうではなくて、刻々と交替している。
( → [書評] 生物と無生物のあいだ )
「分子がたえず交替されている」ということは、「組織(タンパク質)がたえずつくられている」ということだ。では、どうやって、つくられるか? そこではDNAが働いている。DNAが組織をつくっているのだ。
( → 遺伝子の意味(生命子) )
この本では、「動的平衡」という概念が示されている。その概念は、「生物とは絶えず変動している存在だ」ということだ。もう少し正確に言えば、「生物とは、組織の各要素がたえず交替している存在だ」ということだ。
このこと(動的平衡・組織の交替)。それが、「遺伝子がたえず作用している」ということの意味であり、「生きている」ということの意味だ。
遺伝子とは、個体が誕生しているときだけに作用するものではなくて、個体が生存しているときにも作用しているものだ。
そして、そのことは、こう言い換えることができる。
「個体はたえず部分的に生み出されている」
( → 生物と遺伝子 (その2) )
まとめて言おう。
生物では、遺伝子が常に働いている。個体が誕生するときに働くだけでなく、生まれてから死ぬまでたえず遺伝子が働いている。その最中では、個体の肉体は「動的平衡」のうちにある。つまり、見た目は同じ肉体であるように見えても、その構成要素である分子は少しずつ交替していき、数カ月もたてば個体の分子はすっかり別の分子に置き換えられてしまう。そして、そのことが可能なのは、遺伝子が常に個体の肉体を作り替えているからだ。
普通の機械や物質は、最初から最後まで同一の分子によって構成される。しかし生物は違う。刻々とその構成要素である分子が交替しつつあるのだ。ということは、生物は常に生まれ変わっているということだ。実際、現在のあなたと、1年前のあなたでは、個体としては同一の個体であっても、その構成要素である分子はすっかり入れ替わっている。そして、そういうことが可能なのは、遺伝子が常に働いているからだ。
以上のことを前提とすれば、本項の薬が効果を持つわけもわかる。
本項の薬は、「動的平衡」を非常に活発化させるものだ。生物に本来的に備わっている「動的平衡」の機能を、さらに大幅に活発化させる。そのことで、「古いものから新たなものへ」と交替する能力を高める。つまり、「生まれ変わる」能力を高める。それはいわば、古い傷ついた細胞を、新しい赤ん坊の細胞に置き換えるようなものだ。(比喩的に言っているが、部分的には真実でもある。遺伝子は赤ん坊の細胞を作るが、それと同様のことが行なわれているからだ。)
──
こうして、冒頭の薬の効能について、その原理が説明された。この薬は生物の「動的平衡」の機能を高めるのである。それは、細胞に対して直接的に化学的に作用するのではなくて、おそらくは遺伝子の働きに作用して、遺伝子の機能を高めるのである。……そういうふうに理解できるだろう。
( ※ ただしその原理は、詳しくはわからない。遺伝子そのものに作用しているというよりは、遺伝子の働きに影響するレセプターとか何とかに作用しているのかもしれない。あるいはRNA に作用しているのかもしれない。詳細は不明。ま、その薬理的な原理は、製薬業界の人には関心があるだろうが、普通の人にはどうでもいいことだろう。)
( ※ なお、効能書きを見ると、同じ内容のことが説明されている。ただし用語は「新陳代謝」だ。この用語でいいのかな? ちょっと違うみたい。だけど「動的平衡」ではわかりにくいので、仕方ないのかも。)
[ 余談 ]
iPS細胞は、再生医療のホープと言われるが、そんな大がかりなことをしなくても、ただの塗り薬を塗るだけでも、かなり大きな効果を得ることができるわけだ。
この薬を発見した人は、けっこう偉いね。……と思ったのだが、よく調べたら、意外なことがわかった。下記。
この薬は、「ヒルドイドソフト軟膏」として、すでに知られている。ただし、一般販売用ではなくて、処方箋の必要な医療用だ。この薬を、家庭向けにして、高額で販売したのが、アットノンだ。
→ 薬局のオモテとウラ
このとき名前も、「あとがなくなる」という意味のダジャレになっている。ダジャレと商魂で、うまく大量販売しているようだ。
とはいえ、処方箋の必要な医療用薬品を、どうやって家庭向けに販売しているのかは、謎だ。薄めているんですかね。それでもって、値段は高めにしているわけ? よくわからん。
ともあれ、「ヒルドイドソフト軟膏」もしくは「ヒルドイド軟膏」は、処方箋なしでは買えないので、いくら安くても買えません。処方箋を使うにしても、どういう名分で使うのかは不明。
となると、面倒臭いことは考えないで、アットノンを買えばいいのかもね。(そうするしかないみたいだし。)
【 追記 】
新たに重要情報を得た。お役立ち!
今日アットノンを買いに行こうと思っていたら、薬剤師さんに「アットノンと全く同じ成分で大容量のこちらがオススメです」とピアリンHPクリーム50g980円を出され、同じ成分でアットノン15g880円よりお得だなぁと思い購入しました。
( → 知恵袋 )
この商品である。
【第2類医薬品】ピアソンHPクリーム 50g
ジェネリックみたいなものですね。これでお安く買えます。よかったね!
( ※ ただし、薬効などを調べたところ、広範囲に塗布するのは問題があるようだ。あくまで局所的に使うものである。ご注意あれ。)
人類はいまだに未開人だとわかる。
おお、ホレーショ、天と地の間には……以下略。
ただ、何年もたてば、元の木阿弥だと思うけど。
新しい細胞になると言う事は、細胞分裂が促進されているということですので、細胞の寿命(分裂可能な回数)はその分だけ短縮されますね。
ただ目に見えてその部分の皮膚だけが老化してしわやくすみが出来る、なんて事態にまではならないと思いますが。
この薬で実際に細胞分裂が促進されるのかどうかは、わかりません。情報不足。
補記していただいてありがとうごがいます。その細胞老化についての疑問でした。子供の方が老人よりも傷の直りが早いということをきいたものですから。