2014年07月03日

◆ 網膜の細胞の移植?

 網膜の細胞の移植が研究中だが、これは本当か? 実はほとんど嘘である。羊頭狗肉。 ──

 網膜の細胞の移植が研究中で、臨床研究が実現しそうだという。
  → iPS臨床研究が中止? (前日項目)
 だが、これは本当か? ちょっと考えたところ、きわめて疑わしい。
 「網膜の主体は、桿体や錐体などの視細胞だが、これらは脳に直覚した神経細胞である。神経細胞を細胞レベルで微細に制御することは、現代医学ではとうてい及ばないような、はるか先の先端医学である。実現は1世紀ぐらい先だと見込まれている。なのに、1世紀先の技術を、今すぐ実現できるのか?」 

eyeball.png

英語版 Wikipedia


   図の retina と書いてあるのが網膜である。
  (アップルの Retina ディスプレイは、ここから来ている。


 ──

 本当にそんな移植(神経細胞単位の移植)ができるのか? 
 どう考えてもおかしいので、ググってみたところ、「網膜の細胞の移植」というのは、ほとんど嘘であるとわかった。
 正しくは「網膜の上皮細胞の移植」であるにすぎない。つまり、皮膚みたいな部分の移植だけ。網膜の主体部分である視神経には、一切、手を付けない。

 詳しくは、理研のサイトの開設を参照。
  → 理研CDB | iPS細胞由来網膜色素上皮シートの移植 (図あり)
  → 理研CDB | 期待される効果と予想されるリスク
  → iPS細胞由来網膜色素上皮シート移植に関する臨床研究
  → 研究者・研究内容
  → MSN産経ニュース


 たしかに、上皮細胞は網膜の細胞の一部分だが、これを「網膜の細胞」と称して、「網膜の細胞の移植」というふうに宣伝するのは、ペテンも同然だろう。
 これは、完全な嘘ではないにせよ、羊頭狗肉みたいなものであろう。「豚肉を売ります」というから豚肉を買ったつもりでいたら、実際には豚の皮だけだった、というようなものだ。
 以前も食品の偽装表示が大問題になったことがあるが、それと同様だ。いや、もっとひどいな。食品販売業者が同様のことをやったら、大問題になる。
  → 食品偽装問題 - Wikipedia
  → 食材偽装問題 - Wikipedia

 ──

 ついでだが、マスコミもこういう虚偽宣伝に加担しないでほしいものだ。こんなペテン宣伝が正当化されるなら、次のことも可能となる。
  「胃粘膜の移植」 → 「胃の細胞の移植」
  「腕の表皮細胞の移植」 → 「腕の細胞の移植」
  「頭の表皮細胞の移植」 → 「頭の細胞の移植」(脳移植)
 こういう偽装表示が可能となってしまいそうだ。ジョークかネタみたいな扱いだ。  (^^);

 ともかく、「網膜の細胞の移植」という虚偽表示はやめて欲しいものだ。これは不正である。(タイトルの捏造に当たる。)
 正しくは、「網膜の上皮細胞の移植」である。たったの2字を追加するだけなのだから、きちんと正確に表示して欲しいものだ。
( ※ といっても、研究者もマスコミも、センセーショナルことを狙って、わざと虚偽表示しているんだろうな。故意の不正である。それをグルでやっている。)
( ※ なお、「上皮細胞だと、専門的すぎて一般読者向けではない」という弁解があるかもしれない。しかし、それだったら「網膜」という言葉を使わずに「目の細胞」というふうに ぼかして表現すればいい。これだったら、曖昧なままで、誤解の余地はない。一方、「網膜」という眼科の用語を使うと、視覚機能をもつ視神経の細胞のことだと誤解しかねない。だから、「網膜」という言葉を使うべきではないのだ。……もっとも本人は、わざと誤解させたがっているのだろう。もともとだまそうとしているわけだ。故意の不正表示。)



 【 追記 】
 本項はレトリカルな(修辞的な)表現なので、誤解を招きやすいようだ。そこで解説しておく。
 本項の言いたいことは、「高橋さんは研究者としてダメだ」ということではなくて、「不正」という言葉を安易に使って他人を批判してはいけない、ということだ。

 《 詳細 》
 高橋さんは安易に「不正だ」と他人を批判している。しかしそんなことをすると、それと同様のことが自分にも降りかかる。つまり、「ブーメラン」みたいに、他人への攻撃が自分にも当てはまってしまう。高橋さん自身の言葉(「不正だ」という批判)が自分自身に降りかかる。……そういうことを示している。
 つまり、私の趣旨は、「高橋さんを攻撃したい」ということではなくて、「不正だというふうに他人を安易に攻撃してはいけない」ということだ。「そんなことをすれば、その言葉が自分自身に降りかかる」という教訓を示しているわけだ。

 ここを誤解すると、私が高橋さんを不正だと批判している、というふうに読めるだろう。しかし、それは私の言いたいことではない。私は高橋さんのやっていることが不正だとは思わない。やたらと「不正だ、不正だ」というふうに批判したいとは思わない。その逆に、やたらと「不正だ、不正だ」というふうに批判してはいけない、というふうに主張している。
( ※ もっと単純に言えば、「科学者は科学的であれ」つまり「証拠もなしに断罪する魔女狩りみたいなオカルト主義はやめろ」ということだ。)
 
 以上のことは、いちいち書くまでもないと思ったのだが、文字をそのまま読んで、誤解する人もいるようだ。そこで、老婆心みたいなおせっかいふうに、ここでいちいち解説しておく。
 私が言いたいのは、「小保方さんも高橋さんも同様である」ということだが、その本意は、「両者をともに不正だとして指弾せよ」ということではなくて、「両者をともに指弾するな」ということである。
 また、私が守りたい相手は、小保方さんではない。彼女が攻撃されて泣こうが喚こうが、私の知ったことではない。また、彼女が苦しんで自殺することになろうと、私の知ったことではない。
 私が守りたいのは、日本中の人々だ。彼らが間違った道を取って、魔女狩りのようなことをして、小保方さんを死に至らしめるような「殺人者」となることを防ぎたいだけだ。「殺人者」ではなくても、「誹謗中傷」というような悪徳なことをするのを阻止したいだけだ。

 ジャイアンがのび太を殴っているのを見て、ドラえもんみたいなX氏が止めたとする。そのとき、X氏はのび太を守りたいとは限らない。ジャイアンが少年院送りになること(もしくはジャイアンが非行少年になること)を阻止して、ジャイアンを守りたいのだ、ということもある。たとえば、ジャイアンの父親がそうだ。彼は、のび太を愛しているのではなく、ジャイアンを愛しているがゆえに、我が子の非行を止めたい。……私がやっているのは、そういうことだ。

( ※ その際、ジャイアンの使った「のび太を殴り道具」で、ジャイアン自身を殴ることがあるかもしれない。「他人を殴ることの痛さを自分自身で知れ」という意味で。……ここでは、父親はジャイアンを憎んでいるのではない。ジャイアンが非行をしてほしくないだけだ。他人の感じる痛みを知らせることで、我が子の非行を正したい。そういう思いが、親の愛というものだろう。それを見て、「父親はジャイアンをいじめている暴行者だ」と思うのは勘違いである。)
   




 《 オマケ 》

 高橋さんはちょっとドラえもんみたいな夢物語を語りすぎている。
 −−iPS細胞で目指す再生医療の姿は

 高橋 網膜の外側を全て治すのが一般的になり、世界標準になること。網膜の外側には視細胞、今回の研究で再生させる網膜色素上皮細胞、血管の通る脈絡膜がある。それらは三位一体で、どれか一つが悪くなると全てに影響が及んでしまう。加齢黄斑変性や網膜色素変性症などの網膜変性疾患で重症の人は、3つ全部を治した方がいい。まずは色素上皮が対象だが、夢は視細胞を治すこと。いずれは治療できると確信を持っている。
( → MSN産経ニュース

 これは安易すぎる発想だ。
 視細胞そのものは iPS の技術で作ることはできる。しかし、病変した視細胞を、正常な iPS細胞に置き換えること(移植すること)は、容易ではない。それは神経レベルの移植であり、脳を神経単位で移植するのと同様だ。それは一種の「脳移植」なのである。
( ※ 「目は脳の一部である」とはしばしば言われることだ。)
 高橋さんの述べた「夢物語」が実現するには、 iPS の技術発展だけでは足りない。 iPS の技術だけならば、近い将来に、視細胞の再生も可能だろう。しかし、それを治療に生かすには、「脳移植」の技術が完成する必要がある。脳の後頭葉(視覚野)における視細胞の一つ一つのレベルで、神経細胞単位の移植技術が確立している必要がある。あるいは、網膜の神経において、分断した神経細胞を接合する技術というウルトラ級に難しい新技術を確立する必要がある。……どっちにしても、ものすごく難しい。あと1世紀は無理だろう。
 これを「夢物語であり、実現性は不明」と述べるのならばともかく、「いずれは治療できると確信を持っている」なんて、虚言癖があるのかもしれない。それは「人類の寿命を200歳にまで引き延ばせる」とか「癌を撲滅できる」とかいうのと同様だし、遠い未来のこと(実現性が不明のこと)である。なのに、「いずれは治療できると確信を持っている」というのは、ほとんど詐欺師の虚言癖だ。……はっきり断言しておくが、神経単位の脳移植みたいな技術は、彼女の存命中には絶対に実現しない。そんなことをやろうとしている研究者さえ存在しない。
 
( ※ なお、まったく悲観的かというと、そうでもない。網膜の視細胞を移植して接合することは無理でも、半導体技術による CCD 撮影素子の電気信号を、神経細胞に伝えることならば、そう難しくはないだろう。こちらの方の実現性は、かなり高い。神経細胞レベルの治療であれば、iPS よりは半導体技術の方が有望である。人体のサイボーグ化とも言えるが。)
posted by 管理人 at 19:33| Comment(8) | 科学トピック | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
【 追記 】 を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2014年07月04日 05:22
最後に 《 オマケ 》 を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2014年07月04日 05:59
浅はかな人が多いと気苦労が絶えませんね。
いちいち、にもきっとカチンときているのでしょう。
お疲れ様です。
Posted by 京都の人 at 2014年07月04日 07:54
神経細胞の接合は、ES細胞時代から研究されていたと思います。
確かサルで行われていたと思うんですが
簡単に紹介すると、脊椎を損傷させた後ES細胞から発現させた神経細胞を損傷部分で増やして適当に神経ネットワークを繋ぐ(つまり完全ランダムに繋いでしまう)とどうなるかって実験でしたが、結果は数週間(このへん曖昧です)で上手く動かせるようになるみたいな結果だったと思います。
後で論文を見つけたら、リンクを張っておきますね。

CCD 撮影素子の電気信号を、神経細胞に伝える研究も昔ありましたね。こちらも見つけたら張っておきますね
Posted by ほう、なるほど at 2014年07月04日 20:38
> ランダムに繋いでしまう)と……上手く動かせるようになる

 ランダムで大丈夫なのは、運動野だからでしょう。新たにニューロンネットワークを形成できる。

 視覚野は、網膜の視細胞と、後頭葉の視覚野とが位置を合わせて1対1で対応しているので、ランダムは無理。ここはCCDの方がいい。

 ※ ご存じでしょうけど。
Posted by 管理人 at 2014年07月05日 00:13
運動野ですね。私の見た元文献ではないですが、プレリリースでマウスの系を見つけました。ご存知のようでリンクするに及ばないかもしれませんが一応誘導しておきます。
www.keio.ac.jp/ja/press_release/2011/kr7a43000007knfv-att/110927_1.pdf
1対1対応とはレチノトピックマップのことを言っておられるのかと思います。ですが視神経ニューロンネットワークの再形成は出来ないかどうか分かっていませんので、(人間に自己の神経細胞を移植したことがないのでどのように見えているかわかりません)現在視神経欠損モデルを用いた視神経再生の研究を(幹細胞系の研究を含め)行っている段階と言えると思います。
kaken.nii.ac.jp/pdf/2010/seika/jsps/32713/19500280seika.pdf

道のりは長いといえますね。
論文や研究費申請の常套句ですから、あまり憤慨されるのも体に毒ですよ。

CCDに関してはご存知なようですから、別段文献については再確認しておりません。
Posted by ほう、なるほど at 2014年07月05日 02:02
> あまり憤慨される

 何も憤慨していないと思いますが。……
 私は性格が悪いので、他人のアラ探し(些細なミスを見つけること)をして、喜んでいるだけです。高橋さんについても、こんな揚げ足取りみたいなことをやったって、無意味なのにね。
 こういうこと(みみっちい批判)をやるのは、私は本来は大嫌いなのだが、彼女が小保方さんを攻撃するから、「おまえもなー」と言っているだけです。
Posted by 管理人 at 2014年07月05日 07:20
なんということでしょう。この記事だけは管理人さんの間違いであってほしかったと思う今日この頃であります。
加齢黄斑変性のiPS臨床は国の最重要プロジェクトであると教えて頂いたばかりなのに…。研究自体はたしかに尊く履歴も業績も輝かしい。そこに異論はありません。
けれども、
<網膜の上皮細胞の移植>を
<網膜の細胞の移植>という表記では問題あり。<故意の不正表示>との指摘もやむなしですね。このような問題は他でも指摘され問題視されているのでしょうか。
その表現を訂正されないのは管理人さんの考察の通りであるのか?
あれこれ反論を考えましたが無理でした。
とても梅しいですが無理でした事実を基にした指摘ですから。

<いずれは治療できると確信を持っている>との発言は<いずれは夢の若返りも可能かもしれません>と語った小保方さんの発言と同種のもの。その発想自体は科学者の描く夢であり研究の原動力でありましょう。けれども大衆にあたかも実現間近の様に錯覚させる事が罪なこと。<いずれ>が百年後二百年後なら誤解を招く発言は問題です。

なんということでしょう。STAP細胞の大騒動=バッシングはそこに根本的な問題の一つがあるというのに、そして<研究内容とイメージのギャップ>。
加齢黄斑変性のiPS臨床でも同じ問題を孕んでいる事がよく解りました。大発表をしたかしないか、衆目が集まっているかいないかの違いのようです。

けれども不思議です。感情のまま墓穴を掘り問題を表面化拡大させている方々があちらにもこちらにも。国民の代表や指導的立場にある方々の不適格テストでも始まったのでしょうか。ぜひ問題是正され研究に邁進されますことを。
Posted by 割烹義太郎 at 2014年07月05日 23:08
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