2014年06月29日

◆ 医療ロボット開発の問題

 医療ロボット「ダ・ビンチ」の日本版を作ろう、という政府主導の方針があるが、失敗するだろう。 ──

 医療ロボットまたはロボット手術室の「ダ・ビンチ」というものが知られている。これはすでに実用化している。下記で検索できる。
  → ダヴィンチ ロボット - Google 検索

 次の記述もある。
 手術支援ロボット「ダヴィンチ」は常に高レベルで均質な手術が再現できる。例えば、前立腺がんの内視鏡治療に応用すると、腹部にメスを入れる手術に比べて繊細な手術が安全に行えるようになる。
( → ロボットを制したものが世界を制する

 現物の動画も見つかる。




 こういう状況を見て、政府が「日本も一丸となって医療ロボットを開発しよう」という方針を立てた。読売新聞・朝刊に詳しいが、簡易版はネット上でも見られる。転載しよう。
 《 「ロボット手術室」開発へ…精密メスなど連動 》
 日立製作所やパナソニック、東芝などの企業と大学、政府が、「ロボット手術室」の共同開発に乗り出す。
 精密な手術を可能にするほか、MRI(磁気共鳴画像装置)などで患者の体内の様子を確認しながら手術を進めることができる。10年以内の実用化を図る。すでに普及し始めている米国製に対抗し、世界的な医療機器の開発競争で主導権を握ることを目指す。
 日本勢が開発する「ロボット手術室」では、電気メスを備え人間より精密な動きが可能なロボットアームや、MRIなどの機器を相互に接続して、データをやり取りできるようにする。現在、MRIなどの装置は手術前の検査で利用されるのが一般的だが、新しい手術室では、手術中にMRIを使い、腫瘍の広がりなどを確認しながら手術できる。これによって、ガンを取り残していないかどうか、より正確に分かるようになる。さらに、がんかどうかが短時間で分かる装置も連動させることで、摘出の必要性の判断がしやすくなる。モニターに映し出された患部や検査結果で、刻一刻と変わる患者の状況を把握しながら、執刀医は手術を進める。
( → 読売新聞 2014-06-29

 朝刊によれば、参加する企業は、日立・東芝・パナソニックなど。日本のそうそうたる大企業が並んでいる。
 
 さて。これは良いことか? 「良いことだ」と思う人が多いだろう。だが私は「ダメだ」と判定する。「これは確実に失敗するプロジェクトだ」と思う。これを成功させるには、根本的な変革が必要だ。

 ──

 このプロジェクトがダメなことは、参加企業を見るだけでもわかる。日立・東芝・パナソニック。ここでは、日本の医療機械の先端企業が抜けている。次の各社だ。
  ソニー、オリンパス、富士通、キヤノン

 いわば、心臓部が抜けているようなものだ。これではとうていまともにはならない、と推定される。比喩で言えば、サッカーの代表クラスが抜けた、控えクラスで、チームを作るようなものだ。とうてい、勝ち目はない。

 ではなぜ、上記の各社は参加しないのか? それぞれ思惑はあるだろうが、「自社が独自で開発した方が優れたものを作れる」と思っているのだろう。そして、それは正しい。日立・東芝・パナソニックが大学と連携したところで、しょせんは控えクラスだから、まともなものが作れるはずがない。しょせんはこのプロジェクトは失敗するに決まっているのだ。

 ──

 では、なぜ失敗するのか? 顔ぶれが二流だからか? いや、顔ぶれが二流なのは、結果にすぎない。原因は、別にある。では、原因とは? 

 一番大切なのは、「理念がない」ということだ。そもそも、こういうプロジェクトを開発するには、ジョブズのような人物が、理念を掲げて、全員を引っ張っていく必要がある。
 一方、二流のみんなが、わいわいがやがや相談したところで、そこでできるのは、くだらないキメラみたいなものでしかない。とうてい実用的にはなるまい。
 これだったら、各社が独自のリーダーの下で、理念をもって開発する方が、はるかにマシなのである。

 なお、この点を解決するには、「リーダーを公募する」というような方針も成立する。だが、公募したリーダーがうまくできるというような例は、歴史上、いっぺんもあったためしがない。私としては、懐疑的である。
 では、どうすればいいか? 
 
 ──

 ここで、話変わって、次の項目を参考にしてほしい。
  → ステッパーの敗北

 これを熟読すると、今回のプロジェクトの問題点がわかる。こうだ。
 「全体を統一的に開発すると、ステッパーで失敗したニコンやキヤノンの二の舞になるだろう。一時的には隆盛しても、最終的には衰退するだろう」


 では、なぜか? ここの技術が劣っているからではない。プロジェクト全体の統一理念が劣っているからだ。それは何か? 「モジュール化」という概念の有無だ。
 ニコンやキヤノンがステッパーで敗北したのは、ライバル企業が「モジュール化」という新思想で機械を構築したからだ。この方針を取った企業に、ニコンやキヤノンは敗北した。

 これと似たことは、何十年か前に、音響技術でもあった。それは当時、「コンポーネント化」と言われた。それ以前は、スピーカー、アンプ、チューナー、レコードプレーヤー、テープレコーダー、といったものが、一体化した機器が「ステレオセット」として販売されていた。しかるに、「コンポーネント化」のあとでは、それぞれの部分は単体で販売されて、ユーザーは自分でアンプやスピーカーなどを選んで購入した。そして、そういう時代になると、それ以前の「一体セット販売」という形式は廃れてしまった。
 ステッパーでも、これと似たことが起こった、と考えていい。
 
 ──

 医療ロボットも同様だろう。
 政府は各社の連携を考えて、統一的な機械を開発しようとしているのだろう。しかし、それは方向が逆なのだ。
 むしろ、コンポーネントとなる機械は、各社が自由に開発するべきなのだ。そして、政府または事業外が決めるべきは、それらのコンポーネントを統一的に構築するためのルール(規格)なのである。
 たとえば、コンピュータであれば、CPU やメモリを組み合わせるための統一規格があり、その統一規格に従って各社が開発する。ここでは、部品の開発は各社に委ねるべきであり、一方、規格は統一される必要がある。
 これが、ロボット開発でも取るべき方向だ。そしてまた、これは、手術ロボットに限らず、他のロボットについても当てはめていいだろう。
 そして、その上で、どういう組み合わせを取るかは、ベンチャーに委ねていいのだ。
 あるいは、ベンチャーそのものが規格を提案した上で、幾つものベンチャーの示した複数の規格から、市場原理で強いものが残るようにしてもいい。
 たとえば、ジョブズのような人物が現れて、画期的な規格を提案して、その提案に従って、各社が開発競争をする……というのでもいい。

 ──

 いずれにせよ、大切なのは、全体の理念なのである。その理念もなく、「みんなが集まればうまく行く」とだけ思い込んで、みんなが集まったところで、「船頭多くして舟陸に上がる」ようなものだ。あるいは、「泥舟に乗って全員沈む」というようなものだ。
 今回の政府の提案は、韓国のフェリーを思わせる。

 



    
posted by 管理人 at 20:48| Comment(5) | コンピュータ_04 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「捨てれをセット」は、たんなるマチガイなのか、それとも何かのイヤミなのだろうか?w
Posted by 王子のきつね at 2014年07月01日 14:02
理念よりも何よりも先ずはコスパでないですか。
ダビンチは使っても保険の点数で採算とれないと聞いています。つまり使えば使うほど赤字だとか。
せめてコストを1/3以下にしなくては。
こちらも参考にどうぞ。
http://www.tmd.ac.jp/med/uro/practice/cure/mies.html
Posted by 覚蓮坊 at 2014年07月02日 13:00
> 理念よりも何よりも先ずはコスパでないですか。

 コストを下げるのは重要ですが、ではどうやってコストを下げるのか? 「コストを下げよう」とスローガンを唱えれば自動的にコストが下がるのか? そうじゃないでしょ。

 ステッパーの場合は、キヤノンやニコンはコストがひどく高いので、敗北してしまいました。なぜか? ライバル会社が新しい理念で、コストを劇的に引き下げたからです。
 コストを下げる画期的な新技術というものは、スローガンや根性によって生じるのではなくて、画期的な理念から生じるのです。
ここを理解しないまま、スローガンだけ唱えているのが日本政府であり、根性だけを要求するのが日本の会社です。それでコストが下がりますか?

 比喩的に言えば、iPhoneを最初に開発するには、ジョブズの理念が必要です。そのような理念もなしに、やみくもに開発しても、迷走するだけです。
 さらに比喩的に言えば、太平洋で船が針路のを取るには、北極星などで針路を正しく知ることが大切です。方向もわからずに、やみくもにスクリューを回しても、正しい方向には進めません。「スクリューで推進することこそ大切だ」と思っている人が多いのだが、そうではいけない、ということ。

 本項で述べたのは、そういうことです。
Posted by 管理人 at 2014年07月02日 19:19
Posted by 管理人 at 2015年08月27日 21:56
参考記事:「8Kで革新的医療実現の可能性」の報告書
 → http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151115/k10010306541000.html

 はてなブックマーク:
 「8Kくらいないと手術の縫合糸がまともに映らないって展示をNHKがやってた。VRも4K程度では明らかに足りない。」
 → http://b.hatena.ne.jp/entry/www3.nhk.or.jp/news/html/20151115/k10010306541000.html

 ──

 画像は8K が必要だとしても、画像以外の部分もまた必要となる。
 そもそも8K でなくても、ダ・ビンチはすでに実用化されているんだが。
Posted by 管理人 at 2015年11月15日 05:52
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