もともとは国立精神・神経医療研究センターの研究成果だが、要を得た解説記事があるので、紹介しよう。
悲惨な事故・事件などの記憶はできるだけ早く消し去りたいものだ。そうした”恐怖記憶”は、イワシやサバ、カツオなどの青魚を多く食べることで弱まることが、最近の研究で分かってきた。つまり、オメガ3系の脂肪酸を増やして、オメガ6系の脂肪酸を減らせばいい。そうすれば、恐怖の記憶は和らぐ。そういう話だ。
研究チームは、オメガ3系と6系が異なる比率で含まれる数種類のエサを作り、それぞれのエサでマウスを6週間飼育した。その後実験箱に入れ、電気ショックを与えて恐怖を体験させた。さらに再び同じ実験箱に入れ、それぞれのマウスが恐怖記憶によって動かず、すくんでいる状態の時間を測った。
その結果、オメガ3系を豊富に含むエサを食べていたマウスは、脳内のオメガ3系の量が増加し、恐怖記憶が弱まることが分かった。しかし、同時にオメガ6系も多量に含まれていると、恐怖記憶は弱まらなかったという。
しかしこのことは、恐怖記憶を弱めるためには単に「オメガ3系をたくさん食べればよい」というものではないらしい。オメガ3系もオメガ6系もともに人体に必要な栄養素なので、オメガ6系の摂取量を抑えること。つまりは、オメガ3系とオメガ6系のバランスが「恐怖記憶を調節する鍵だ」という。実験の範囲では、オメガ3系の摂取量は、オメガ6系の2〜2.2倍が適正のようだ。
( → THE PAGE )
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ここで、具体的な食品は……
オメガ3系 ── 「ドコサヘキサエン酸」(DHA)、「エイコサペンタエン酸」(EPA)、「αリノレン酸」など。 オメガ6系 ── 「リノール酸」や「ガンマ・リノレン酸」「アラキドン酸」など。
前者は、青魚(イワシ、サバ、ニシン、ブリ、カツオ、マグロ、サケなど)やキャノーラ油などに含まれる。
後者は、大豆油やコーン油、ゴマ油、マーガリン、豚レバーなどに含まれる。
単純に言えば、前から良く言われているように、油の多い魚を食べて、魚油(DHA,EPA)を取ればいいわけだ。
( ※ ついでだが、オリーブオイルは オメガ9系なので、上記のどっちにも当てはまらない。言及外です。)
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【 関連サイト 】
この研究については、下記にプレスリリースがある。詳細はここを読めばわかる。
→ 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター
【 補説 】
本項は、別項の話題と関連する。下記だ。
→ 恐怖は遺伝する?
ここでは「恐怖の記憶が遺伝する」という仮説が紹介されており、その仮説の非論理性を指摘した。
だいたい、「記憶が遺伝する」なんて、ラマルク説みたいなもので、とうていありえない。たとえエピジェネティック的な変化が DNA に刻まれるとしても、それは、「DNAに傷が付いた」というだけのことであって、「記憶が刻まれた」というのとは違う。……そういう趣旨だ。
以上のことは、本項と照らし合わせると、いっそうよくわかる。
本項で示されたように、脂肪酸は脳の状況に影響する。
一方、脳の 60%は脂肪でできている。( → Wikipedia )
こういう原理があるからには、脂肪酸その他の状況が脳に影響を与えたとしても、不思議ではない。つまり、
- 恐怖体験 → DNAに傷 → 子において脳の状況に変化(脂肪酸不足など) → 子において恐怖に過敏
こうして、
「恐怖は遺伝する」
という奇妙な仮説を否定して、
「恐怖が遺伝したように見える」(親に過剰な恐怖があると、子にも過剰な恐怖が出現する)
というふうにして、同じ現象を科学的に説明できる。
これが、本項で特に言いたいことだ。