関電の大飯原発の再稼働を認めない、という福井地裁の判決があった。日経の「要旨」から一部抜粋しよう。
地震の際の冷やす機能と閉じ込める構造に欠陥がある。1260ガルを超える地震では冷却システムが崩壊し、メルトダウンに結びつくことは被告も認めている。わが国の地震学会は大規模な地震の発生を一度も予知できていない。頼るべき過去のデータは限られ、大飯原発に1260ガルを超える地震が来ないとの科学的な根拠に基づく想定は本来的に不可能だ。
被告は700ガルを超える地震の到来は考えられないと主張するが、2005年以降、全国の4つの原発で5回にわたり想定の地震動を超える地震が到来している事実を重視すべきだ。
過去に原発が基準地震動を超える地震に耐えられたとの事実があっても、今後大飯原発の施設が損傷しないことを根拠づけるものではない。基準地震動の700ガルを下回る地震でも外部電源が断たれたり、ポンプ破損で主給水が断たれたりする恐れがある。
( → 日経 2014年5月22日 )
より詳しい「要旨」もある。
→ 判決要旨(福井新聞)
いずれにせよ、この判決で述べられたことは妥当である、と私は判定する。(理由は後述。)
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一方、この判決に対して、読売新聞は記事でも社説でも、大々的に批判した。ほとんど偏向報道と言えるほどの一方的な批判だ。
社説では、「ゼロリスクを求めるのは過剰な要求だ」というふうに述べた。
→ 読売・社説 2014-05-22
より詳細な解説記事は、朝刊にある。(ネットにはない。)
言っている内容は、社説と同様で、「1260ガルを越える地震を想定するのは過剰な要求だ。それはゼロリスクを求めるもので非科学的だ」というもの。
ただし、まともな論理力がある人ならばわかるように、読売の主張はまったく非論理的である。
「1260ガルを越える地震を想定する」ということは「ゼロリスクを求める」というのとはまったく違う。1260ガルを越える地震なんてのは、ザラにある。震度6強にすぎないからだ。この程度の地震に耐えられる強度を求めるからといって、「ゼロリスクを求める」ということにはならない。
読売の論説は、あまりにも非科学的かつ非論理的である。こういう無知な素人が他人を「非科学的」と呼ぶのだから、まったく、頭がイカレているとしか思えない。
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では、正しくは?
実を言うと、今回の判決に関して、「私独自の意見」というようなものはない。なぜなら今回の判決は、私の以前の見解を、そっくりそのままパクったものであるからだ。
→ 関電の原発耐性評価
詳しい話はこの項目を呼んでもらいたい。(ぜひ読んでね!)
ただ、とりあえず一部を抜粋すると、次の通り。
関電が原発耐性評価をした。1260ガルまで耐えられるから大丈夫だ、という報告。しかし現実の地震では、4000ガル程度になる。
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要するに、1260ガルというのは、震度6強の地震だ。震度7以上の地震では、もっと大きな値となる。震度8を超える大地震では、4000ガルぐらいになるようだ。
つまり、今回の報告は、次のことを意味する。
「 1260ガル(震度6強)までは、かろうじて耐えきれます。それ以上になると、原発は壊れます。特に、震度8になったら、目も当てられない惨状になるでしょう」
──
3号機と4号機は、比較的新しい。1号機と2号機は、ずっと古い。こっちの方がはるかに危険だ。
で、その危険なもののうち、1号機は停止中だ。(2011年7月16日にトラブルが発生した。おお、怖い。) 一方、2号機は、稼働中だ。こいつのストレステストをすればいいのに。古い原発だから、1260ガルどころか、500ガル(震度6)ぐらいしか耐えられないだろう。それより大きな地震が来たら、おじゃんだ。
上のように私は述べていたが、今回の判決ではそっくりそのまま同趣旨のことが述べられていると言える。特に、次の解説記事は有益だ。
岩手・宮城内陸地震(2008年)で記録された「4022ガル」が、今回の判決文にも登場した。
当時の「朝日新聞デジタル」によると、震源近くの岩手県一関で、上下方向に3866ガル、東西・南北の水平2方向の加速度と合わせて4022ガルとなった。重力は980ガルで、「これを超えると地上のものが浮く」。そんな地震が原発付近で発生したら大変なことになりかねない。
阪神淡路大震災の引き金となった1995年の地震(マグニチュード=M=7.3)で計測された最大加速度は891ガル、2000年の鳥取県西部地震(M7.3)では同1482ガルだった。03年宮城県北部地震(M6.4)は2037ガル、07年新潟県中越沖地震(M6.8)が国内観測史上最大の2515ガル、08年岩手・宮城内陸地震(M7.2)はそれを軽々と上回った。2011年の東北地方太平洋沖地震(M9.0)は2933ガルを示している。
新潟県中越沖地震では、同県の東京電力柏崎刈羽原発で、水平方向に最大2058ガルの揺れがあったと東京電力が発表(速報値)。7基の原子炉のすべてにおいて設計時の想定を大幅に上回り、5基で1000ガルを超えていた。
( → 東スポ 2014-05-22 )
ま、さすがに 4000ガルというのは、ありがちなことではないのだが、それでも、1500ガルぐらいならば十分にありがちだ。なのに、大飯原発の耐震性は 1260ガルなのである。これではとうてい許容できない。
さらに言えば、私は万一の場合への「水棺」の措置の必要性も述べていた。
→ 原発再開の条件
これは「フェイルセーフ」の発想に基づく防護措置だ。これも備えておく必要がある。にもかかわらず、大飯原発では、これが用意されていない。このことも「再開を認められない」ことの理由となる。
さらに別のこともある。
大飯1、2号機と3、4号機の間をほぼ南北方向に走る破砕帯が活断層である可能性があり、原子力安全・保安院の指示により、2012年11月2日に専門家による現地調査が開始された。
( → Wikipedia )
以上のような諸点からして、「再開を認めない」という地裁判決は妥当である、と私は考える。
[ 付記1 ]
ただし注意。私は次のようには述べていない。
「あらゆる原発をすべて停止するべきである」
こんなことは述べていない。かわりに、次のように述べている。
「危険な原発は廃止するべきだが、危険でない原発は安全措置を取った上で再稼働していい」
個別の原発については、次の項目で述べた。
→ 他の危険な原発
ここでは、古い原発を中心に、危険な原発は廃止するべきだと述べている。
一方、比較的新しい原発については、「水棺」などの対策を取った上で、再稼働した方がいいだろう。「水棺」などの対策を十分に取っておけば、万一の場合への対策にもなるからだ。
[ 付記2 ]
上では述べなかったが、浜岡原発もある。浜岡原発は、特に危険なので、私は「廃止するべきだ」と何度も述べた。
→ サイト内検索
ちなみに、読売の主張に従えば、浜岡原発も再稼働していいことになる。しかもその耐震性はきわめて脆弱だ。地盤がすごく脆い上に、配管はもろくなっている。あらゆる点で危険である。
読売の主張に従えば、浜岡原発を危険なまま再稼働させることになる。それを「科学的だ」と信じて。そのあと、静岡沖か南海トラフで大地震が起こって、浜岡はあっさりつぶれる。津波の心配はほとんどないだろうが、地盤の揺れが 2000ガルを大きく越えて、配管は破断され、原子炉はメルトダウンする。そのあと、大量の「死の灰」みたいなものが、東京を襲うのだ。関東全滅。日本壊滅。……これが読売新聞の狙っていることだ。
( ※ たぶん中国か北朝鮮のスパイなんだろうな。それがナベツネの正体だ。)
浜岡原発の呆れるところは、地盤対策も水棺もやらないで、無意味な薄っぺらな防潮堤を建設していることだ。それはあまりにも薄っぺらなので、効果はきわめて疑わしい。
防潮堤(防波壁)の形状は、ただの壁である。次のように。
この壁状の防潮堤の断面図は、 ┃ である。これでは、あまりにも薄っぺらだ。
( → 浜岡の防潮堤(改良案) )
その写真もある。
→ ぺラペラのおもちゃみたいなもの (防潮堤の画像あり)
→ 浜岡原発の防潮堤 (防潮堤の画像あり)
せっかく作っても、まったくの無駄金だ。そんなものに 1400億円もの費用をかけているのだ。
呆れるしかない。
( ※ この点では、浜岡原発の停止を決めた菅直人は偉かった。この件は、当時、私は称賛していた。……というか、その前から、私は「さっさと浜岡を止めろ」と言っていたので、それを実行したという点で、称賛していた。)
( ※ 今回の福井地裁の判決も、私の主張をそっくり取り入れたので、私としては称賛しておきたい。)
これで『再稼働推進』というのですから、困ったものです。
耐震性については、加速度だけではなくて、振動周期や3軸の変位量についても考慮したほうが良いのではないかと思います。(配管系など、あやしいので)
(大筋と関係ありませんが、気象庁の震度階は7までしかありません)
福島第一の四号機も震災当時は停止中でしたし。
福島第一のように当初予定の耐用年数を超えて稼働させたり(延長稼働決めたのは民主党政権)しなければ、福島第二や女川原発みたいに震災を乗り切ったのもありますんで。
稼働して問題の無いものは稼働させ、新規エネルギー源を模索しつつ、老朽原発は退役させて労をねぎらう「乙原発派」
菅直人にすべての責任を押しつけたい連中は浜岡を動かしたいだけ。原発再稼働派はこっそり「元通りにすること」をもくろんでいます。
>えまのんさん
の言う「乙原発」は当然の議論なんですが、こいうった冷静な中道派はいつも割を食う。双方から非難されておしまい。
結局日本人というのは日常生活をまとめ上げるのに長けているが、いつまで経っても重大な問題をマネージメントする能力に欠けているのか。
くやしいのう。
ちなみに、日本で原子炉が設計基準を越える地震動を経験したことは2005年の宮城県沖地震以来5回あり、計26基の原子炉が経験しています。この中で、安全関連設備が損傷した例は一つもありません。原子力プラントだけではありませんが、高圧流体を扱うプラントの配管系というのは内圧がクリティカルな荷重であり、地震応力というのはそれに比べると大したことがなかったりします。阪神大震災でも、配管は無傷で配管を支えるはずのサポートで破損したコンクリート片が配管からぶら下がっているという本末転倒な状況があちこちで見られました。
地震で原子炉が壊れるというのは、イメージだけが先行して事実のように勘違いされていますが、実例もなく、実態からはかけ離れています。もちろんどんな地震でも絶対に壊れないなんてことはありませんが。
おっしゃることはごもっともですが、もともと概算値だと思ってください。
あと、現場に即して言うならば、実際にはもっとひどいことになります。
(1) 大飯原発の敷地には活断層が走っているらしい。
(2) 浜岡原発の地層は軟弱でぐちゃぐちゃ。
だから、そちらの趣旨に従えば、いっそうひどいことになります。
──
私は別に、ガルの数値だけで物事を断じているわけではありません。大飯原発と浜岡原発では地盤の問題が大きいので、それで批判をしています。
私は「あらゆる原発を止めよ」とはなくて、「危険な原発は止めよ」という見解です。危険なものには、大飯原発と浜岡原発が含まれます。
一方、他の原発について、一律に「絶対止めろ」と論じているわけではありません。
本日記事を参照。
判決でも書いていますが基準地震動を超えたとする記述は誤りです。
基準地震動の加速度である700ガルはあくまでも周期を一秒とする加速度です、2000ガルを超えたとか4000ガルが記録されたのは事実ですが振動周期が異なるのです。
周期一秒で4000ガルを記録したとしたら4000cm/ssですから40m/ssすなわち秒速40mまで加速したということであり、振幅も40mということになります。そんなことは普通に考えてあり得ませんし、その加速度を記録した建物の被害も軽微でした。
なぜそんな加速度が記録されたのかと言えば単に短周期振動を記録したからで短周期なら振幅が小さくなり地震動の影響自体小さくなります。
実際には耐震ダンパーなどで短周期振動はほとんど伝わりません。
大飯原発の基準地震動のスペクトルのクリフエッジを超える地震動を記録したことはなく、判決文は根本的に間違っています。
とすれば、ガルを基準とした従来の安全基準そのものを見直さないといけませんね。ガルと周期とを組み合わせた別の基準が必要となる。
判決文が間違っているとしても、それは「危険だ」という説が否定されただけで、「安全だ」と主張するには足りません。不明状態。
もっと学問的にきちんとした基準が必要となりそうです。