2014年04月27日

◆ 徘徊老人の事故(続報)

 徘徊老人が電車にはねられた事故で、JRが遺族に損害賠償を求めていた裁判の控訴審判決が出た。これについて、うまい解決案を示す。 ──

 徘徊(はいかい)老人が電車にはねられた事故で、JRが遺族に損害賠償を求めていた裁判があった。これについては、前に詳しく論じた。
  → 徘徊老人を監禁する?

 ここで示したように、「遺族は多額の賠償金を払え」という判決が出たので、「困ったことだ。監禁しろというのか?」という世評が生じた。それに対して、「監禁するよりは、閉じ込めて放牧(?)しろ」という案を提示した。

 さて。それから半年以上たって、控訴審の判決が出た。やはり賠償を認めるが、JRの責任を相殺して、「半額を支払え」という判決。
 介護に携わった妻と長男に請求通り約720万円の支払いを命じた一審・名古屋地裁の判決を変更し、妻の監督責任を認め、約359万円に減額して支払いを命じた。
 妻については配偶者として男性を見守る民法上の監督義務があったと判断。高齢だったものの、家族の助けを受けていて、男性を介護する義務を果たせないとは認められないと判断した。
 その上で、徘徊防止のため設置していた出入り口のセンサーを切っていたとして、「監督義務者として、十分ではなかった点がある」とし、事故に対する責任があると結論づけた。
 ただ、長門裁判長は、妻の日常の見守りについて「充実した介護態勢を築き、義務を尽くそうと努力していた」と評価。さらにJRの安全管理態勢については「安全性に欠ける点があったとは認められない」としたうえで、「社会的弱者も安全に鉄道を利用できるようにするのが責務だ」と言及。フェンスに施錠したり、駅員が乗客を注意深く監視したりしていれば事故を防ぐことができたとして、「賠償金額は一審の5割が相当」とした。
 なお、男性は「要介護4」と認定されていた。日常的な介護は、自らも「要介護1」と認定された同居する当時85歳の妻と、介護のために近くに転居してきた長男の妻があたっていた。事故当日、男性は部屋で2人きりだった妻がまどろむ間に外出していた。

( → 朝日新聞 2014-04-24

 「要介護1」で 85歳の妻に厳重な監視義務を負わせる、ということで、判決は強い批判を浴びている。(地裁判決も、高裁判決も。)
  → はてなブックマーク
 これじゃ安楽死させるしかないね、というコメントがチラホラと見える。もちろん冗談だが、これが冗談でなく見えるところが恐ろしい。

 ──

 では、どうすればいいか? 上記のはてなブックマークの元となるブログは、これだ。
  → 新小児科医のつぶやき

 ここでは、次の二つが考察されている。
  ・ 家族による監督は無理。
  ・ 立法府で対策する。

 前者は、もっともだ。今回の事例では、妻でさえ要介護1だから、とても家族は面倒を見切れない。むしろ、面倒を見られる方の立場だ。
 後者は、「立法府が何とかしろ」ということだが、ちょっと筋悪だ。
 第1に、徘徊老人の面倒を見るという根本対策ならば、それは行政府のやるべきことだから、立法府は関係ない。
 第2に、JRの側の権利を制限するということなら、それは筋悪だ。「好ましくないから法律を改定する」というのでは、理屈が通らない。まずは理屈を通らせるのが先だ。どういう理屈で、JRの権利を制限するのか? それはまず法律論的に道理が通らないから、とても無理だろう。
 というわけで、上の二つの考察(先のブログの考察)は、うまく行きそうにない。
 では、どうするか? 

 ──

 ここで、困ったときの Openブログ。こう求めればいい。
 「何か名案はないですか?」

 はい。あります。以下の通り。
 「JRの側の権利は制限しない。逆に、遺族の側が自らの権利を行使すればいい。具体的には、遺族は JR に対して、徘徊老人が死んだことへの損害賠償を請求すればいい」

 一般に、交通事故で人が死ねば、遺族は加害者に対して賠償金を請求できる。たとえ子供が車道に飛び出した場合でも、遺族は賠償金を請求できる。本人の過失の度合いによって、(過失相殺の形で)大幅に減額されることもあるが、それでも3割ぐらいは認められることが多い。
 それに準じれば、今回は明らかに多額の請求をできる。逸失利益に対する賠償は皆無だとしても、慰謝料だけで相当な額になるはずだ。相場は次の通り。
 弁護士基準(赤い本)では、被害者の家族内での立場により、次のようになっています。
 一家の支柱 2800万円
 母親,配偶者 2400万円
 その他 2000万円〜2200万円
( → 知恵袋

 この例からして、少なくとも 2000万円程度が基準となるだろう。その上で、過失分が相殺されるが、その分は、半分程度である。理由は、今回の判決で示された通り。
 上記の記事から再掲すると、こうだ。
 フェンスに施錠したり、駅員が乗客を注意深く監視したりしていれば事故を防ぐことができた

 また、次の記事もある。
 「利用客への監視が十分で駅ホームの扉が施錠されていれば、事故を防止できたと推認される」などとしてJR東海側にも安全に配慮する責務があったと判断し、賠償額は一審から5割減額した。
( → 日経 2014/4/24

 こういうふうに、JRの側にも半分の責任が認められるのだから、2000万円の半額を請求すればいい。

 つまり、すべてまとめると、こうなる。
  ・ 遺族は JR に対して、720万円の半額を支払うべきだ。
  ・ JR は遺族に対して、2000万円の半額を支払うべきだ。


 差し引きすれば、1280万円の半額である 640万円(プラスアルファ)を、JR は遺族に支払えばいい。
 こうして、話は丸く収まる。
 しかも、今後は、JR は駅の線路に入り込めないように、ドアに簡易ロックなどの機構を付けるだろうから、徘徊老人による同様の事故はなくなるはずだ。つまり、真の原因である JR が対処することで、同様の事故は起こらなくなるはずなのだ。
 当然、遺族の側で監視とか監禁とかの必要はない。また、JR の側に厳重な注意義務も生じない。単にドアに簡易ロックなどの機構を付けるだけで問題は解決する。
 これが名案というものだ。頭をひねるだけで、問題はあっさりときれいに解決する。



 [ 付記 ]
 以上で述べたことは、一般論である。
 一方、今回の事例に限って言えば、きわめて特殊な事情があったようだ。引用しよう。
 一方でこの判決の事例には,このような背景が認定されています。
この事故以前にAは何度か徘徊して,保護されていた。事務所と自宅がつながっていたが,事務所の出入り口は日中,開放されていた。
Aの遺産は,不動産を除いてすぐお金になる金融資産だけでも5000万円を超えていた。
もし,あなたがこの内容を聞いた第三者だったら, 「それだけお金があるのであれば,ヘルパーなどを依頼して,もう少し在宅介護の体制を整えられたのでは?」 と思わないでしょうか??
裁判所も基本的には,この立場に立って判断していると思います。
( → 弁護士の解説

 つまり、JR はやみくもに貧乏人の金をむしり取ろうとしているわけではないようだ。あまりにも強欲すぎる金持ちがいて、その金持ちが金をケチったせいで、被害者は死んでしまったし、JR には損害が発生した。だから、そういうケチな金持ちを懲らしめるために、裁判所は厳しい判決を下した……ということらしい。
 そうだとすれば、今回の判決は、きわめて例外的な事情にあったと言えるだろう。
( ※ 比喩的に言えば、ロールスロイスを買いあさる詐欺師とか、キャバクラ遊びをしている芸人とか。こういう連中が、強欲ゆえに介護の金をケチったせいで、親を死なせてしまった……というような事例を思い浮かべるといい。それなら、厳しい判決も出るよね。)
 


 【 関連サイト 】
 実際に徘徊老人がいる家庭で、どうしたらいいのか困っている場合には、下記のサービスがある。
 → セコムの徘徊老人を探索する無線装置(GPSふう)
 月額 900円で利用できる。
 探索後、駅などで見つかったら、警備会社員が現場に急行して、徘徊老人を保護してくれる。利用は1回1万円。
posted by 管理人 at 19:45| Comment(2) | 安全・事故 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
あれ
そもそも最初に遺族がJRに損害賠償を請求したから
JRも請求した話と聞きましたが・・・デマかな?
Posted by 先生 at 2014年04月27日 21:09
> 最初に遺族がJRに損害賠償を請求した

 そうなのかもね。そっちはどう報道されたのかな?
 いずれにせよ私の見解は「相殺せよ」だから、結論は同じ。
Posted by 管理人 at 2014年04月27日 21:38
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

過去ログ