2014年03月22日

◆ バカンティ手順の意味

 バカンティ手順の意味を解説する。(世間ではかなり誤解が広まっているので。) ──

 バカンティ手順(バカンティ・プロトコル)については、前項で示した。
  → STAP細胞は存在する?

 その本質は、次の二点だ。
  ・ ピペット(管)に体細胞を通すこと
  ・ ピペット(管)の詳細を指定すること


 これを見て、いろいろと新聞報道があったが、不正確な点が多いので、本項で解説する。


 (1) 論文との比較

 上記の二点について、「論文には記載がなかった」という報道があった。しかし、それは間違いだ。
 論文には「酸にひたすだけ」という記述はあったが、同時に、「酸にひたすかわりに、細い管に通すだけでもいい」という記述もあった。
 酸性溶液処理以外の強い刺激でもSTAPによる初期化が起こるかについても検討しました。その結果、細胞に強いせん断力を加える物理的な刺激(細いガラス管の中に細胞を多数回通すなど)や細胞膜に穴をあけるストレプトリシンOという細胞毒素で処理する化学的な刺激など、強くしすぎると細胞を死滅させてしまうような刺激を少しだけ弱めて細胞に加えることで、STAPによる初期化を引き起こすことができることが分かりました。
( → 理研の発表

 より詳しい話は、論文に記載されている。
 STAP by exposure to other external stimuli. To give a mechanical stress to mature cells, a pasture pipette was heated and then stretched to create thin capillaries with the lumens approximately 50 mm in diameter, and then broken into appropriate lengths. Mature somatic cells were then repeatedly triturated through these pipettes for 20 min, and then cultured for 7 days.
( → 論文 HTML

 要するに、「論文には記載がなかった」という報道は間違いだ。記載はあったのだが、記載の仕方が変わった。以前は or だったのが、今度は and になった。そういう違いがあったのだ。それだけのことだ。急に「細い管」という方法が出てきたわけではない。


 (2) 研和

 バカンティ・プロトコルには、Trituration ないし Triturate という言葉が出てくる。これをうまく理解できていない人が多いようだ。
 Trituration は、日本語に訳すと「研和」である。
 研和(けんわ)とは、物質を加工する方法の一つ。例えば、乳鉢と乳棒を用いて手で粉末をかき混ぜることにより、研和する物質の粒子の大きさを小さくする工程のこと。加えて、混合を介して均質な物質を生産することを指す。
 STAP細胞の実験手法(バカンティ・プロトコル)の場合では、(きわめて微細な)先細のガラス管に、媒体(細胞と溶液の混合物)を通すことで、細胞の塊の大きさを小さくする工程のこと。
( → Wikipedia

 これを「粉砕」「すりつぶす」という訳語にするはことは、やや不適だ。
 実際には何を意味するかというと、「細い管に通すことで、細かな粒にすること」だ。訳語としては、「細分化」という語の方がいいかもしれない。とにかく、細かくすることだ。


 (3) 重要性

 バカンティ・プロトコルでは、研和という工程について、「extremely important 」と表現している。これは「非常に重要だ」ということを意味するが、「必須であること」を意味しない。
 ※ バカンティ手順にとっては「必須である」が、STAP細胞作成にとっては「必須である」と言えない。

 どういうことかというと、次のことだろう。
 「これによって STAP細胞を作成する効率が大幅に向上して、再現性が高まる」
 換言すれば、こうだ。
 「これをやらないと、 STAP細胞を作成する効率が大幅に低下して、再現性が低くなる。ただし、再現できないわけではない」
 換言すれば、こうだ。
 「これをやらなくても、無意識的にこれと同様のことを前段階でやっていれば、特にこれをやらなくても、結果は同様になる。つまり、STAP細胞はできてしまう」
 
 比喩的に言えば、こう言える。
 「パンを作るときには、こねることが大切だ。だが、こねる工程を明示的に指定しなくても、作っている人が知らず知らずこねる作業をしていれば、こねる工程を意図的に取らない場合にも、パンはうまくできる」


 (4) STAP細胞作成の原理

 研和という過程は、STAP細胞の作成では重要だ。では、どうして重要か? その話題は、前に示した。そちらを詳しく読んでほしい。
  → STAP細胞の原理 3
 
 小保方プロトコルでは「パスツールピペットに細胞を通す」という作業を取る。この作業によって細胞が損傷を受けることで、初期化が起こるのだ……という仮説を、上記で示している。一部抜粋しよう。
 パスツール細管を通過させる効果は何でしょうか。論文でも記しているように、trituration でしょう。和訳すれば「粉砕」ですが、「細胞部位の外科的切除」ということでしょうか、多分。分裂する細胞は、通常、細胞分裂後にすみやかに分裂前と同等の細胞に復帰しようとします。この復帰反応の多くは細胞質で進行しているはずです。trituration は、この反応部位を破り取ってしまう操作です。
( by Nekogu )

 小保方プロトコルでは、「パスツールピペットに細胞を通す」という作業が簡単に示されているだけだったが、バカンティ・プロトコルでは「パスツールピペット(のようなガラス管)の作り方」までが詳細に指定されている。つまり、研和の方法が詳細まで指定されている。それだけ研究が発展しているわけだ。


 (5) 研究発展

 以上のことから、研究の発展の過程が推察される。
 最初は、細管を通すこと(研和)の重要性については、わからなかった。だから、特許では「酸」とだけ記した。また、論文では「酸 or 細管」というふうに、 or の形で示した。(1月24日)

 その後、 細管による研和の重要性に気づいた。そこで、 or でなく and の形で示すようになった。それが小保方プロトコルだ。(3月05日)
  ※ ここでは、「研和」という言葉は出ていなかった。
    論文に記載されていたので、はしょったのかも。
    パスツール・ピペットという言葉で十分だ、と。


 この手順を見て、Nekogu さんが 細管による研和の重要性を指摘した。さらに、私が「細管による研和」と「細胞の集団」という概念を合成して、「 STAP細胞の原理 3」としてまとめた。(3月12日)

 もしかしたら関係者は、上の原理を知って、研和の重要性に気づいたのかもしれない。(かもしれない、ですよ。お間違えなく。 (^^); )

 その後、バカンティ・プロトコルでは、研和の詳細について記述し、しかも、「すごく重要」と注記した。(3月20日)
       *       *
 上記のように、研究は少しずつ発展してきた。最初に論文を公開したときには、研和の重要性に気づいていなかったが、その後にいろいろと情報を得たり研究をしたりして、研和の重要性をはっきり認識するようになった。かくて、公開されたプロトコルは少しずつ発展していった。
 研究というものはこのように少しずつ発展していくものだ。

 いっぽう、このような発展を見て、「三つの手順はいずれも違うぞ! 研究としてはおかしい!」と批判する報道がある。しかしそれは、研究とは何かをまったく理解できない判断だ。
 研究というものは、最初から「完璧な論文」という形で現れるわけではない。最初は未完成なものであり、それが少しずつ発展していく形で真実が明かされていくものだ。
 科学、特に実験科学は、事実の積み重ねです。それらの事実を論理的に説明するのが科学です。説明できない事実があれば、説明の仕方/理論を変えなければなりません。説明が間違うこともあります。見えない事実もあります。事実を誤認することもあります。真実は検証するしかありません。はじめから真実があるのではありません。事実の検証による修正や改訂の繰り返しによって真実になって行くのです。これが私の科学観です。
  by Nekogu
( → 読者コメント

 「三つのプロトコルが少しずつ異なるのはおかしい」という批判は妥当ではない。それは「研究が少しずつ発展するのはおかしい」という主張であり、「研究者は新しい真実を見出してはいけない」という主張であるからだ。ナンセンス。
 研究というものは、少しずつ発展するものだ。いったん公表すれば、そのあと、不完全な知識に、他人の知識が加わることで、研究はいっそう発展する。それが学問というものだ。

 さらに言えば、「三つの手順は全然違う」なんて批判する人は、表面上の違いばかりを見て、本質を理解できていないことになる。
 では、本質とは? それは、先の「原理3」の項目に記してある。そこを読めば、小保方プロトコルとバカンティ・プロトコルは、本質的には同じことをしているとわかるだろう。
( ※ 粗雑と洗練の違いはあるが。)


 (6) まとめ

 今回の話から、研究がどういうふうに発展していったかが伺える。
 細管による研和の重要性は、最初はわからなかった。単にいろいろと操作していただけだった。そのとき、細管に通すだけでは、初期化の兆候はろくに見られなかった。ところが、細管に通したあとで、酸にひたすと、初期化の兆候が見られた。そこで思った。
 「酸にひたすことで初期化が起こるんだ!」
 こう思って、論文に書いた。

 しかるに、それは勘違いだった。酸にひたす実験を他人がいくらやっても、初期化の兆候は見られなかった。だから人々は「再現性がない! STAP細胞は存在しない!」と批判した。

 ところが、大切なのは、酸にひたすことでなく、細管に通すことだったのだ。意味はないと思っていた細分化にすごく重要な意味があるのだ。自分が見失っていた点に重要性があったのだ。そう気づいた小保方さんは、細管に通すという手法を小保方プロトコルに書いた。

 その後、本サイトで、細分化の重要性が指摘された。「これこそが STAP細胞の原理の一部だ」と。

 その後、バカンティ・チームは、細管に通す方法について、いろいろと試行錯誤した。最初のうちは再現の成功率はあまり高くなかったが、そのにち再現性の高い方法を見つけた。つまり、いっそう洗練された方法を見つけた。
 それが、今回の A5 という方法だ。その方法をバカンティ・プロトコルとして記載した。

 以上のように、経過をまとめることができる。


 (7) オマケ (量が半分?) 

 バカンティ・プロトコルの記載の文字量は、小保方プロトコルの記載の文字量に比べて、半分しかない。ゆえに、情報量はずっと少ない……という趣旨の報道があった。しかしこれは勘違いだ。
 小保方プロトコルには、次の二点があった。
  ・ STAP細胞の作り方( Oct4 発光まで)
  ・ STAP幹細胞の作り方

 バカンティ・プロトコルには、この二つのうち、前者だけがあり、後者がない。だから、分量が半分しかないのは、当然である。「情報量が少ない」という判断は正しくない。「扱う範囲が半分しかない」というのが正しい。




 【 関連サイト 】

 (1) バカンティ手順

 原文の A5 の箇所を転載する。ここがポイントだ。
A5. As a final extremely important step in the trituration process, make two fire polished pipettes with very small orifices as follows:

Heat the standard 9" glass pipette over a Bunsen burner and then pull and stretch the distal (melting) end of the pipette, until the lumen collapses and the tip breaks off, leaving a closed, pointed glass tip. Wait until the pipette cools, and then break off the closed distal tip until a very small lumen is now identifiable. Repeat this process with the second pipette, but break the tip off a little more proximally, creating a slightly larger distal lumen. The larger lumen should be about 100-150 microns in diameter, while the other pipette should have a smaller lumen of about 50-70 microns.

Now triturate the cell suspension through the pipette with the larger lumen for 10 minutes. Follow this with trituration through the pipette having the smaller lumen (50-70 microns) for an additional 15 minutes. Continue to triturate the suspension until it passes easily up and down the fire polished pipette of the smaller bore. This is a very important step. Do not skip this step, or take a shortcut. Again, remember to precoat a each pipette with media. Also, during trituration, try to avoid aspirating air and creating bubbles or foam in the cell suspension.

 《 機械翻訳 》
A5。製粉プロセスの最後の非常に重要な手順として 2 つの非常に小さな開口部を持つ洗練されたピペットを次のように火を作る。

ブンゼン バーナーを介して標準的な 9「ガラス ピペット熱し、しプルとストレッチ ルーメン崩壊と先端までピペットの遠位 (溶融) 端が途切れる、閉じたままガラス先端を指摘しました。ピペットが冷えるまで待つし非常に小さい腔が識別可能な今まで閉鎖の先端を断絶します。2 番目のピペットでこのプロセスを繰り返しますが破談先端近、もう少し大きめの遠位ルーメンを作成します。他のピペット約 50-70 ミクロンより小さい内腔を持っている必要があります大きな内腔は、直径約 100-150 ミクロンをする必要があります。

10 分間大きいルーメンとピペットによるセル中断カップ刻んだ今。この後、さらに 15 分ほど小さい内腔 (50-70 ミクロン) を持つピペットを製粉。それはより小さい口径の火磨かれたピペットの上下簡単に通過するまで懸濁液をカップ刻んだし続けます。これは非常に重要なステップです。このステップをスキップまたはショートカットを取るしないでください。もう一度、各メディアによるピペットのプレコートを覚えています。また、および trituration 中吸引空気作成泡や細胞懸濁液中の泡を避けるためにしてみてください。
( → バカンティ手順


 わかりやすい日本語解説もある。転載しよう。
 ガラスピペットをブンゼンバーナーで熱して引っ張り、冷えた後で先端を潰して穴を開けるという方法で「直径100〜150 μm」「直径50〜70 μm」の二本の細管ピペットを作成します。
 次に、太い方の細管ピペットで細胞の懸濁液(バラバラに分離した細胞が浮いてる溶液)を10分間 研和(triturateって表現)します。
 更に、細い方の細管ピペットで15分間、溶液がスムーズに上下するようになるまで(ということは、最初の段階ではスムーズにピペッティング出来ないってことを意味してると思われ)研和します。
( → ka-ka_xyzの日記




 【 追記 】
 「バカンティ手順には小保方手順には記述されていないことが記述してある! 矛盾だ!」
 と騒いでいる人がいるが、勘違いだろう。
 小保方手順には「パスツール・ピペットを使って細胞を物理的に解離する」と記述されている。その「パスツール・ピペットを使って細胞を物理的に解離する」という方法は、論文に記述されている。(本項 (1) )。論文に記載されてあるから、小保方手順にはいちいち書かなかっただけだろう。
 「それは手抜きだ! 不十分だ!」という批判は成立するかもしれない。しかし、そもそも小保方手順はダイジェスト版にすぎない。初めにそう記してある。
To facilitate the broad testing and use of this technique, we are now preparing a full protocol article with step-by-step instructions. However, as the preparation, submission and publication of a full manuscript takes a significant amount of time, we would like to share a number of technical tips for STAP cell conversion culture (and related experiments) in this Protocol Exchange.
( → 小保方手順

 フルバージョンを書くには時間がかかるから、とりあえずは今回の分だけを示す、と記してある。手抜き板であることは最初から明示されているのだ。
 で、手抜き板では不親切すぎる、とバカンティ教授が思ったのだろう。そこで、論文にある重要な点を加筆した。さらに、その詳細を記した。……そういうことだろう。
 だいたい、あとになって出てくるものほど情報量が多いのは、当たり前のことだ。特に、先に出たものが手抜き板であることが明示されている場合には、当たり前のことだ。
 「後に出たものが前に出たものよりも詳しいのはけしからん」
 と批判するのは、馬鹿げている。まして、「情報が加筆されているから、矛盾だ!」というのは、もっと馬鹿げている。
 今回のバカンティ手順(の追加分)は、基本的には論文に書かれた通りである、と理解するべきだろう。



 [ 付記 ]
 本項では、バカンティ・プロトコルの意味を解説した。
 ただ、バカンティ・プロトコルについて「ああだ、こうだ」と議論をするのは無意味だろう。なぜなら、これによって STAP細胞(と称するもの)ができるのは、ほぼ確実だと見ていいからだ。
 問題は、「 STAP細胞ができるかどうか」ではなくて、「 STAP細胞が多能性をもつかどうか」である。つまり、バカンティ・プロトコルそのものではなくて、バカンティ・プロトコルの先である。そここそを問題とするべきなのだ。
 そして、その問題への回答を与えるのは、「捏造か否か」というような議論ではない。実験である。なのに、実験もしないで、「捏造か否か」という議論をして結論を与えようとするのは、馬鹿げたことだ。実験科学において真偽を判定するのは、実験であって、それ以外にはない。捏造があったと判明しようが判明しまいが、それは科学的真実にはまったく影響しない。小保方さんが捏造をしようがしまいが、小保方さんには科学的真実を左右する力はない。
 真の科学者は、無駄な議論をするよりは、実験結果を待つべきなのである。



 【 注記 】

 コメントは本項に関係のある話に限定してください。さもないと、削除します。

 本項に関係のない話は、下記に書き込んでください。
  → STAP細胞 掲示板

( ※ 本項の話題は、バカンティ・プロトコルだけです。)
 
posted by 管理人 at 19:15| Comment(2) |  STAP細胞 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最初はバカンティさんもよく分かってなかったってことですかね。

うーん それならきちんと再現できるようになるまでプロトコルを詰めなかったことが理解できない
中途半端な方法で良いからとりあえず発表ってのでは再現性疑われるのは分かってることですし
Posted by tomo at 2014年03月23日 00:38
(1) の後半に、論文の一部(英語)を引用しました。



> tomo

(5) の後半で解説してあります。
Posted by 管理人 at 2014年03月23日 08:52
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