《 前口上 》
前項 では、Nature の掲載拒否について論じた。ここで私は、「掲載拒否は人類にとって損失であった」というふうに判定した。
ところが、次のような批判が来た。
「小保方さんにとっては悪くなかった」
「 Nature にとっては悪くなかった」
これは話の方向が全然違う。私は「人類全体の利益」という点から論じているのに、それを理解できずに、「小保方さんにとって」「 Nature にとって」という観点でしか理解できない。人類全体の損得という広い視野をもてず、自分だけとか、自分の専門だけとか、そういう狭い観点でしか理解できない。そういう人々が、結構多いわけだ。
とはいえ、世の中の専門家たちの多くが、「人類全体の利益」という視野をもてないのであれば、彼らのために、特に「自分だけが得する方法」というのを教えて上げたくなった。
そこで、本項を書くことにしたわけだ。テーマは、
「猿でもとれるノーベル賞」
である。さすがに猿では無理だが。 (^^);
では、いよいよ論じよう。テーマはこうだ。
「天才でなくてもノーベル賞を取る方法」
換言すれば、
「天才になり損ねた秀才でもノーベル賞を取る方法」
だ。
いきなり結論を言えば、「他人のノーベル賞を盗む」という方法だ。具体的には、以下の通り。
前項で述べたが、画期的な発見があったとき、次の二通りのケースがある。
(i) Nature のような有名な学会誌にこだわる。(掲載不明)
(ii) 有名ではない学会誌に発表する。
(i) は、今回の STAP細胞の発見だ。このケースでは、実際に掲載されるまで、小保方さんがどんどん研究を進めた。すべての情報は小保方さんが独占していた。こうして小保方さんが一人で画期的な発見を完成させた。他の人々は、何ら学問の進展を知らされなかったので、何ら新規発見に関与できなかった。
結果的に、ノーベル賞は、この発見では小保方さんが一人で独占することになりそうだ。他の人が関与することはなかったので、他の人が業績を分かちあうことはできない。ノーベル賞の賞金はすべて小保方さん一人のものになる。
(ii) は、前項でも述べたが、高温超伝導の発見だ。この新物質の発見は、有名ではない学術誌に掲載された。このような場合には、他の人が学問の発展に関与することができる。うまくやれば、ノーベル賞の半分ぐらいをもらうこともできる。
ただし、注意。高温超伝導の場合、田中グループが追試したが、田中グループはノーベル賞を分かちあうことができなかった。なぜなら、単なる追試しかしていないからだ。これではノーベル賞を分かちあうことはできない。
では、どうすれば、ノーベル賞を分かちあえたか? そのうまいコツを教えよう。(ここからが話のクライマックスだ。)
──
話のクライマックスの前に、過去の歴史を思い出すといい。それは、DNA の発見だ。
DNA の発見は、「ワトソンとクリックが発見という業績をなした」と思われているが、本当はそうではない。実際には、ロザリンド・フランクリンが大きな貢献をしていた。その貢献を、ワトソンとクリックはこっそり盗み見ていた。それを隠したまま、すべては自分たちの業績であるかのように偽って、DNA の発見の栄誉をワトソンとクリックの二人が独占した。
この点は、詳しくは、下記の書籍に記されている。
→ 生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)
→ ダークレディと呼ばれて 二重らせん発見とロザリンド・フランクリンの真実
→ ロザリンド・フランクリンとDNA―ぬすまれた栄光
ワトソンとクリックは、こすからい方法で、DNA 発見の栄誉を独占した。その真相が判明したあとでも、いまだにこの二人ばかりが称賛されて、ロザリンド・フランクリンの方はほとんど話題にもならない。
要するに、ノーベル賞を取るコツは、詐欺師かペテン師のようにふるまうことなのだ。
また、似た話はある。
政府や東大の方針では、「大学入試で TOEFL や TOEIC を重視する」という方針が取られた。これは「英語力重視」という方針ゆえだ。
しかしながら、 TOEFL や TOEIC の点数をアップするには、英語力は必要ない。「 TOEFL や TOEIC の点数をアップする方法」という、小手先の方法だけで、実際の点数をアップすることができるのだ。(ただの試験技術の問題。)
→ TOEIC,TOEFL で高得点を取る方法
ここでも、「本質的な英語力とは関係なく、ズルをして小手先の点数を上げたものが勝ち」というふうになっている。その点では、ワトソンとクリックの例に、ちょっと似ていなくもない。
とにかく、ノーベル賞であれ、大学入試であれ、まともな方法で正々堂々と何かを獲得しようとする必要はない。裏口からこっそりと何かを獲得することができるのだ。世の中は、そういうものなのである。
そしてまた、本項を読んでいるあなたも、そう思っているはずだ。なぜなら、こう思っているはずだからだ。
「自分は天才ではないが、天才ではなくともノーベル賞を取りたい」
つまり、あなたもまた、「詐欺師のように裏口から何かをほしい」と思っているわけだ。
そこで、そう思っているあなたのために、詐欺師のようにうまくノーベル賞を取る方法を教えよう。いかにもあくどい方法だが。
( ※ 「良心の呵責に耐えかねる方法は取りたくない」と思う人は、以下の文章を読まないでください。以下に書いてあるのは、汚いやり方でノーベル賞を取る方法です。正直な人は、ノーベル賞を狙わず、凡人として生きてください。私としては、それをお薦めします。)
──
では、いよいよクライマックスだ。うまくノーベル賞を取る方法を教えよう。
一般的な抽象的な書き方だと、よくわからないだろうから、具体的な例として、高温超伝導の例を取る。この例では、田中グループはノーベル賞を取れなかった。しかし、次のような方法を取れば、田中グループはノーベル賞を取れたはずなのだ。
(1) あらかじめ、学会誌を広範に見ておく。有名な学会誌だけでなく、マイナーな学会誌も見ておく。また、仲間同士の連絡も取っておく。
(2) あるとき、有力な情報が見つかる。「高温超伝導に成功した」という情報だ。それは、真偽が不明である。追試もなされていない。とはいえ、ここで「真偽不明だから」と見捨てるべきではない。こここそ、宝を生む可能性のある「金の卵」のようなものだ。
(3) 早速、追試する。そして、失敗したならば、見捨てていい。一方、成功したなら、大発見だ。(ここまでは、現実と同じ。)
(4) さて。ここからが現実と異なる。追試して、成功したら、どうするか? 発表するか? そうするのが常識だ。しかし、あえて発表しない。つまり、自分の発見を自分で却下の状態に置く。比喩的に言えば、nature に却下された小保方さんと同じ状況に、自分自身を置く。
このことが重要なので、注意しよう。「自分の発見を自分で却下する」というのは、情報を独占するためである。情報を独占すれば、人類全体にとってはきわめて有害である。しかしながら、自分自身にとってはとても有益なのだ!
小保方さんの場合は、Nature に却下されたあと、自分だけでどんどん研究をするしかなかった。だからその間、自分だけでどんどん業績を上げた。
それと同じことを、自分自身で意図的にやればいいのだ。そうすれば、誰も知らないまま、自分一人でどんどん業績を上げることができる。
(5) 具体的に言おう。田中グループの場合には、次のようにすればよかった。
- 新物質が高温超伝導物質であることを確認する。
- その事実を隠す。(発表しない。)
- そのまま事実を公表すると、追試の扱いとなる。それではノーベル賞を取れない。だから、この事実は無視する。かわりに、少し材料を変えた高温超伝導物質を開発する。
- この例で言えば、最初の高温超伝導物質の発見のあとで、材質を少し変えた、さまざまな高温超伝導物質がたくさん発見された。そこで、そのような物質があるだろうと見込んで、いろいろと探す研究をすればいい。そうすれば、うまく見つかる。(実際、たくさん見つかった。)
- そうして見つかった新物質について、高温超伝導の性質があると確認したあとで、その確認した実験データを添えて、学会誌に発表すればいい。
- こうすれば、「世界で最初に高温超伝導物質を発見・開発した」ということになる。厳密さでは唯一かつ最初であるし、物質についてもほぼ最初である。(前の物質とは似て非なる。)
- 以上の業績で、ノーベル賞を獲得できるはずだ。うまく行けば、第1発見者となる。うまく行かなくても、最初の発見者二人といっしょに、共同でノーベル賞をもらえる。(私の見通しでは、三人で三等分ではない。最初の二人が半分。新たに新物質を確認した人[あなた]が半分。)
- こうして、天才ではないあなたが、ノーベル賞をもらうことができる。
──
どうです。見事なものでしょう。こうすれば、天才ではない人でも、ノーベル賞をもらうことができる。
そして、その本質は、「他人のノーベル賞を盗む」ということだ。比喩的に言えば、ワトソンとクリックの真似をする、ということだ。(ちょっと違うが、いくらかは似ている。)
そして、「ノーベル賞を盗むためのコツ」というのを、本項では示した。その本質は、次のことだ。
「人類の利益なんかはまったく無視して、自分だけの利益を重視すること」
「そのために、画期的な新事実を発見しても、その新発見を隠すこと」
「新発見を隠している間に、どんどん研究を進めること」
以上を一言でいえば、こうだ。
「自分の発見を自分で却下する」(わざと学会誌に掲載しないこと。)
──
「学会誌が掲載を遅らせると、人類にとっては不利益だが、小保方さん自身にとっては有益だった。ノーベル賞を取るための業績を、独り占めできたからだ」
このことを、Nature の却下に頼らずに、自分自身の却下によってなせばいいのだ。そうすれば、人類の研究は停滞するので、人類にとっては損失となるが、発見を秘密にしている人自身にとっては圧倒的な利益をなる。……こうやって、ノーベル賞を盗むことができるのだ。
※ STAP 細胞の業績は虚構であることが判明したので、上の数行を取り消します。
[ 付記1 ]
以上の話を読んで、
「何て悪賢い奴だ!」
と思うかもしれないが、さにあらず。私が悪賢いとしたら、このことは公開しないで、こっそり実行します。 (^^);
私が本項で示しているのは、「新発見の公開を遅らせること(掲載を却下すること)が、人類にとっては不利益だ」ということだ。
そのことを、裏側から見て、皮肉の形で示したのが、本項だ。
だから、本項を読んだら、
「そうか。論文はさっさと公開した方が人類の利益になるのだな」
と読み取るのが正しい。
本項を読んで、「ノーベル賞を取る方法がわかった」と思っても、それはちょっと浮かれすぎです。
なぜなら、私がその方法をここで公開してしまったから、同じことを考える人がいっぱい出てくるからです。
しかしまあ、本項の方法によってノーベル賞をもらう人は、実際、今後どこかで出現しそうだ。それがあなたであるかどうかは、神のみぞ知る。
[ 付記2 ]
本項を読んだあとで、こう思う人もいるだろう。
「すごく皮肉の効いた文章だった。おもしろかった」
そういう人は、頭がいい。そういう人は、他人のノーベル賞を盗もうなんて考えないで、自分の力で業績を上げる方がいいでしょう。真実を見抜くセンスがあるので。