新国立競技場については、次のニュースがある。ちょっと古いが。
2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる国立競技場の建て替えの総工費について、文部科学省と財務省が26日、上限を1699億円とすることで合意した。内訳は解体費67億円、本体1395億円、周辺整備費237億円。文科省は強引に推進するつもりのようだが、実現を危ぶむ声も多い。「実質的に工事が不可能だろう」という見解。
延べ床面積を減らして計画を縮小したうえでの見込み額1852億円からさらに圧縮したが、もともと五輪招致時に開催計画で示していた1300億円からは399億円増となった。
来年1月から基本設計に入るとともに、文科省は東京都と負担割合について調整を進める。
( → 朝日新聞 2013年12月27日 )
「新国立競技場は、建物というよりは、アーチ構造を持つ巨大な橋としての構造物だ。さて。巨大な鋼材や長い梁材なども海や川であれば、船で運ぶことが可能。しかし、新国立競技場の巨大な橋の構造を、どうやって陸上で運ぶのか? とうてい不可能だ」
という趣旨。詳しくは、写真と図で示されているので、原文を読むといい。
→ 新国立競技場の工事費が下がらない理由(★)
これ以外にも、私も「工事は難工事なので、建築費は予算を大幅に超えるだろう」という見通しを先に示した。
→ 新国立競技場の解決案
また、基本的な問題点をたくさん列挙したこともある。
→ 新国立競技場の問題点と代案
私の案(B案)に似ているが、「現在の国立競技場を少し改装して使う」という案もある。上記のサイト(★)の人の意見。
→ 新国立競技場の建設コンペをめぐる議論について15
とはいえ、現在の国立競技場は、観客席をさらに増やすことはできるとしても、肝心のトラックのレーン数が足りない(9レーンでなく8レーンしかない)ので、オリンピックの主会場としての条件を満たさない。さらに、施設がそもそも老朽化しており、立て替えの必要がある。……だから、この案(改装案)は駄目だろう。
──
では、どうすればいいか? 私としては、「無料で済ます」という案を提案したい。
まずは、あらかじめ、次のことを理解する。
「本質を考える。オリンピックのメーンスタジアムの本質は、何か? それは、陸上競技の会場ではなく、開会式・閉会式である。ここにおいてのみ、6〜8万人規模の観客席が必要となる。一方、陸上競技の会場では、それほどの観客席は必要ない。あったとしても、ガラガラになるだけだ」
この本質を理解した上で、次の案を提出する。
「陸上競技場は、既存の味の素スタジアムを使う。これならば、かかる費用は無料で、国際規格(9レーン)の陸上競技会場を使える。
一方、開会式・閉会式のためには、新たに8万人規模のサッカー場を建設して、そこを使う。場所は、現在の国立競技場の場所」
わかりやすく言えば、次のようになる。
「現在の国立競技場は、8万人のサッカー場に改築して、そこをオリンピックの開会式・閉会式の会場として使う。一方、陸上競技の会場としては、味の素スタジアムを使う」
味の素スタジアム
大きな地図で見る
これは、コロンブスの卵もびっくりの、奇想天外な案だろう。
では、これは、可能か? 可能だとするためには、IOC が納得しなくてはならない。では、IOC は、陸上競技場にどれだけの収容人員を要求しているのか? 味の素スタジアムは、収容人員が5万人だが、それでも大丈夫か?
これについては、収容人員が「6万人だ」とか「8万人だ」とかの諸説があったので、改めて調べ直した。すると新しい記事で、次の情報が見つかった。
フェリ氏は五輪の運営や競技選びなどにかかわる専門家で、このほど退任したジャック・ロゲ前会長の片腕的な存在とも言われた有力者。
フェリ氏は「五輪スタジアムは2つの目的を果たすことができる。開閉会式、そして陸上競技とサッカーの決勝の会場。東京では、開閉会式と陸上競技と聞いている。IOCはキャパシティーについて、最低基準は設けていない。開閉会式に関しては、できるだけ多くの人が入れるよう要請する。東京は8万人規模のものを造るということなので、そのスタジアムの建設をお願いしたい」と語った。
( → 東スポWeb 2013年11月16日 )
ここでは、次の二点が重要だ。
・ IOCはキャパシティーについて、最低基準は設けていない。
・ 開閉会式に関しては、8万人規模の……建設をお願いしたい。
要するに、陸上競技場の収容人員については、特に注文されていないのだ。味の素スタジアムの「5万人」という数は、十分に足りるだろう。(現実には、オリンピックの最中には、この席がすべて埋まるとは思えない。円盤投げとか十種競技とか、不人気ですからね。)
その一方で、開閉会式に関しては、8万人規模の席が強く要望されている。オリンピックで最大の人気である開閉会式(チケットにはプレミアムが付くくらいの人気だ)については、8万人規模の席が強く要望されている。とはいえ、それは、陸上競技場である必要はない。サッカー場であってもいいのだ。
こうして、「コロンブスの卵」ふうの、奇想天外な案が成立する。読んだ人は、目が点になるかも。例によって、「トンデモだ!」と騒ぎ立てる人も出るかも。
しかし、これによって、「新国立競技場については1円もかけない」という方針が成立する。陸上競技場については、味の素スタジアムを使えばいいのだ。ここなら、補助競技場もあるから、何も問題ない。
その上で、新国立競技場とは別に、8万人規模のサッカー場を作ればいい。
以上で、問題は万事解決する。
( ※ 8万人規模のサッカー場の建設には、800億円ぐらいかかるだろうが、それは、新国立競技場にかかる費用とは違う。サッカー場の費用だ。勘定は別勘定です。だから、「無料」というタイトルに偽りはありません。「タイトル詐欺」とは言わないでくださいね。 (^^); ……なお、たとえひっくるめたとしても、当初予算の 1300億円に比べて、500億円も安い。お得ですよ。)
《 注記 》
「マラソンの選手が最後に入場するから、閉会式の会場には、陸上のトラックが必要だ」
と思うかもしれない。しかし、問題ない。マラソンの選手が走るための周回トラックは、陸上のトラックである必要はない。芝生の上に仮設トラックを敷設するだけでいい。
( ※ あるいは、味の素スタジアムと同様に、陸上用とサッカー用とを、切り替えればいい。味の素スタジアムの場合には、切り替えには3日間程度を要するそうだ。それと同様で、サッカーの決勝を終えた3日後に、陸上ふうのトラックに切り替えればいい。正式の 400メートルトラックは必要ない。マラソン専用の簡易トラックで十分だ。)
【 追記 】
「味の素スタジアムは、都心からの距離が遠くて、利便性が良くない」
という反論があるかもしれない。その場合には、次の対策が取れる。
「川崎市の 等々力陸上競技場 を用いる」
この場合は、都心からの距離はいくらか短くなるので、その分、利便性は増す。収容人員は2万人だが、別に不足するほどではない。また、現実に、現在では最も有力な陸上競技場だ。Wikipedia によれば、「日本国内で唯一国際陸上競技連盟(IAAF)が公認するIAAFワールドチャレンジミーティングスに含まれる大会として開催される」とのことだ。
- ただし、厳密には、この案はあまり必要ない。というのは、都心からの距離は短くなるが、かかる時間はほとんど変わらないからだ。そもそも、味の素スタジアムは、高速道路のすぐそばにあって、都心からの必要時間が短い。都心から必要な時間は、かえって短くて済む。時間的には、等々力陸上競技場よりも近いのだ。
等々力陸上競技場は、レーン数も8レーンしかないし、屋根も不十分だし、設備も古くて貧弱だし、味の素スタジアムに比べると大きく劣る。オリンピックの用途としては、一部競技のための補助的な用途ぐらいにしかなりそうにない。だからメインとしては、味の素スタジアムの方がいいだろう。(ただ、東京南部の人にとっては至近距離にあるという利便性があるので、等々力陸上競技場にもいくらかの利用価値はありそうだが。)
[ 付記1 ]
この案のような「専用のサッカー場」が必要なのは、どうしてか? その解説をしよう。
建築家は、サッカー場というものをろくに理解しないから、次のような案を考える。

しかし、これでは観客席がフィールドからあまりにも遠いので、観客席からはサッカー選手の動きがろくに見えない。「テレビで見る方がマシだ」というありさまとなる。
そのことは、陸上競技場をサッカー場に転用している横浜マリノスで実証済みだ。下記項目で述べた通り。
→ マリノスの赤字解消法
では、どうすればいいか? 次のようにする。
・ フィールドと観客席との距離は、最小限にする。
・ 観客席は、急傾斜にする。3階席でもフィールドに近くする。
口で言ってもわかりにくいだろうから、実物の映像を示そう。これだ。
ここでは、観客席とフィールドとがいかに近い距離にあるか、よくわかるだろう。3階席から見ても、十分に臨場感がある。
ひるがえって、横浜マリノスだと、こんなにひどい。
→ 画像 ,画像 ,画像
これだと、陸上トラックがよく見えるだけで、サッカーのフィールドははるか彼方となる。反対側のゴールなんか、ほとんど見えない感じだ。
そして、これと同様のことをやろうとしているのが、新国立競技場(でやるサッカー)だ。あまりにも馬鹿げている。
[ 付記2 ]
現状では、こういうひどいことになる。(サッカー場としては最悪のものができる。)
だから、新国立競技場については、サッカー協会も口を出すべきだろう。今のままだと、とんでもないことになるのだが。
特に、客があまり入らないと、赤字続きのマリノスみたいになるから、Jリーグそのものの財政基盤が揺らぐ。もっと財政面を考えた方がいい。
ドルトムントは、映像のように迫真感のある競技場だから、毎回、莫大な数の観客が来る。それは、浦和と同様だ。(浦和も専用サッカー場があるので、毎回、莫大な数の観客が来る。交通の便が悪いのにもかかわらず、だ。交通の便がいいのに、閑古鳥の鳴いている日産スタジアムとは、雲泥の差だ。)
[ 付記3 ]
新国立競技場では、アーチの陰ができるが、これについて問題点を指摘する人もいる。
確かにアーチの影で、競技がかなり見にくいと予想される。さらに、屋根の開口部が狭い競技場は芝生の育成が悪くいつもぐちゃぐちゃかボサボサ。大分ビッグアイとか。>Open ブログ: 新国立競技場の問題点と代案 http://t.co/F1KTOt79oR
— くまべあ (@Cumabear) 2014, 1月 6
[ 付記4 ]
本項の提案に対して、次の反論もあるかもしれない。
「いや、どうしてもオリンピックのときには代々木で陸上競技をやりたいんだ!」
その場合には、先に述べた項目を参照。
→ 新国立競技場の問題点と代案
ここで述べた A案 または B案 の方式を採ればいい。特に、B案がお薦めだ。つまり、次のことだ。
「陸上競技場として建設するが、オリンピックの終了後にはサッカー場に改築する」
具体的には、次の通り。
「オリンピックのときには、陸上競技場を建設する。ただしスタンドは、1階部分を設置しない。その後、オリンピックが終了したら、陸上競技場のフィールドの外周部分に座席を設置して、ここを1階席とする。中央の残ったフィールド部分を、サッカー場とする」
この場合には、多少の改築費が必要だが、基本的には、オリンピックのときの陸上競技場と、以後のサッカー場、という理想が可能となる。
[ 余談 ]
関連する情報で、次の記事もある。
国立競技場を管理運営する独立行政法人・日本スポーツ振興センター(JSC)は、2012年3月、計画の内容を検討するため、「国立競技場将来構想有識者会議」を設置しました。メンバーは佐藤禎一元文部次官をトップに、猪瀬直樹東京都知事や竹田恒和日本オリンピック委員会会長ら政界、スポーツ界関係者ら14人で、建築関係の専門家は、建築家の安藤忠雄さんだけでした。あらら。建築の専門家は安藤忠雄だけ、という独裁体制で、あとは素人ばかりの集団が決めたわけだ。呆れるね。
( → THE PAGE(ザ・ページ) )
新国立競技場がどうしてゴミみたいな案に決まったか、その理由がわかるね。
立派な新国立競技場をつくっても 結局はオリンピックだけに終わってしまい、陸上競技に使うには欠陥があり 集客の見込めるサッカーの試合でも観客にとっては観戦しにくい施設になってしまいます。
http://openblog.meblog.biz/article/20621380.html#comment
で教えてもらったが、次のブラジル五輪(リオデジャネイロ)では、開会式・閉会式の会場は、サッカー専用球場であるそうだ。Wikipedia に記述がある。
→ http://j.mp/1gJAVAs