( ※ 難解だが 重要 )
──
「デニソワ人・ネアンデルタール人との混血はあったか?」
という話題で、
「異種間の交雑は起こりにくい」
というふうに話が進んだ。
→ デニソワ人の分岐は?
そこには、次のリンクがあった。
→ 異種間の交雑
この項目のなかに、次の話があった。
哺乳類や一部の鳥類の場合、ゲノムインプリンティングという仕組みがありまして、父親の染色体と母親の染色体が 1セットずつ正常に揃わなければ発生できないよう、安全装置が備わっています。
ここで、「ゲノムインプリンティング」とは何か? ネットで検索すると、次の情報が得られる。
ヒトをはじめとする哺乳類はすべて父親と母親に由来する一対のゲノムを持っている。従って、常染色体上のすべての遺伝子座に一対の対立遺伝子があり、通常それらはともに発現して個体の発生や生体の営みを調節している。
哺乳類では単為発生が致死であること、特定の染色体が片親に由来するダイソミーに異常がみられることからわかるように、正常発生には父親、母親由来の両方のゲノムが必須である。実際、哺乳類の常染色体には一方の対立遺伝子だけが発現する遺伝子座があり、これが父親、母親由来ゲノム間の機能的な差をもたらしている。つまり精子や卵子の形成過程において何らかの形で遺伝子に「しるし」あるいは「記憶」が刷り込まれ、そのしるしにしたがって子での遺伝子発現が生じる。これがゲノムインプリンティングまたはゲノム刷り込み(genomic imprinting)である。
インプリンティングは遺伝情報に恒久的変化を与えず、世代ごとに新たにプログラムされるので、遺伝とは異なるエピジェネティック(epigenetic)な現象である。
── 佐々木裕之:「現代医学の基礎第5巻,生殖と発生」(岩波書店)第9章より引用
( → 遺伝学電子博物館 )
また、Wikipedia には、次の説明がある。
一般に哺乳類は父親と母親から同じ遺伝子を二つ(性染色体の場合は一つ)受け継ぐが、いくつかの遺伝子については片方の親から受け継いだ遺伝子のみが発現することが知られている。 このように遺伝子が両親のどちらからもらったか覚えていることをゲノム刷り込みという。
一方の親から受け継いだ遺伝子だけが選択的に発現することは、利用できる遺伝子が一つしかないため受け継いだ遺伝子に欠陥があった場合にそのバックアップがなく、流産または遺伝子疾患になってしまうことがある。 よく知られた例がPrader-Willi症候群であり、15番染色体にある遺伝子(セロトニン受容体かその近傍の遺伝子と考えられる)が父親由来の遺伝子のみが選択的に発現するため、父親の遺伝子に欠陥があった場合に(母親が正常な遺伝子をもっていても)、正常な個体発生ができなくなり、精神遅滞や生殖器の発生異常等の障害をもって産まれる。
上記のような問題点があるにもかかわらず、なぜゲノム刷り込みが必要であるか(なぜ哺乳類に備わっているか)については、いくつかの仮説が唱えられている。
仮説の一つとして、「全ての遺伝子を発現させるためだ」というものがある。この仮説に従えば、哺乳類のように高度に発達した生物に進化するには、ゲノム刷り込みが必要だったことになる。逆に言えば、ゲノム刷り込みがあったからこそ、哺乳類は(部分的に発現しない遺伝子をもって個体発生が成功するような危険を冒さずに)高度な個体組織をもつように進化できたことになる。
ゲノム刷り込みは、個体発生や胎盤形成と密接な関係があることもわかってきた。なお、ゲノム刷り込みが起こるのは、有袋類と有胎盤類である。単孔類は違う。また、有袋類と有胎盤類のあいだで、ゲノム刷り込みの機構は大きく進化した。
( → Wikipedia )
──
以上をまとめて言おう。
有性生物の遺伝子は、(対立遺伝子という)一対の遺伝子がある。通常は、その双方が発現する。一部がたまたま欠落している場合には、他方の遺伝子が発現するので、特に問題は起こらない。つまり、安全機構が働く。
ところが例外的に、そのことが成立しないことがある。つまり、安全機構がわざと働かない。これは個体にとっては不利なことである。(エラーが起こったときには個体発生が不可能となる[または遺伝子疾患となる]からだ。)
これがゲノム・インプリンティングという機構だ。これは個体にとっては不利な機構だ。では、どうして、不利な機構がわざわざ組み込まれているのか?
それについてはいろいろと仮説があるが、決定打はない。ただし、次の仮説は有力だ。
ゲノム・インプリンティングという機構があるおかげで、哺乳類は(部分的に発現しない遺伝子をもって個体発生が成功するような危険を冒さずに)高度な個体組織をもつように進化できたのだ、と。
( ※ ここで、最後の部分(紺色の着色部)は 示唆的だ。)
──
以上は、ネット上にある情報の紹介だ。このあとで、いろいろと考えたので、私の見解を示す。
私の見解(仮説)は、次の通り。
ゲノム・インプリンティングという機構があるのは、異種間の交雑を発生させないためだ。
もし異種間の交雑があれば、その種としては、父母の片側だけからしか遺伝子を得られない。したがって、ゲノム・インプリンティングという機構のせいで、個体発生は正常に行なわれない。つまり、個体発生が失敗したせいで、胎児は流産する。つまり、ゲノム・インプリンティングは、異種間の交雑を失敗させるためにある。(交雑種である個体の発生を防ぐためにある、とも言える。ごく近縁である場合以外は、これが成立する。)
ではなぜ、異種間の交雑を防ぐ必要があるのか? それは、退化を起こさないためである。以下では例示的に示そう。
画像の出典

ところがあるとき、早期ホモ・サピエンスの集団の一部で、ゲノム・インプリンティングという機構が働くようになった。こうなると、次の二通りに区別される。
・ 同じ早期ホモ・サピエンス同士の交雑 → 子が生まれる
・ 早期ネアンデルタール人との異種間交雑 → 子が生まれない
こうして、前者では子が生まれて、後者では子が生まれなくなる。結果的に、早期ホモ・サピエンス同士の交雑だけが成立するようになる。かくて、早期ホモ・サピエンス同士だけで、種が確立する。
要するに、こうだ。「種が異なると、交雑できない」のではない。その逆に、「たがいに交雑することができなくなると、新たな種が確立する」のである。それがゲノム・インプリンティングという機構の役割だ。
つまり、ゲノム・インプリンティングという機構の役割は、「新たな種を確立させるため」(新たな種を成立させるため)なのである。
ではなぜ、「新たな種を確立させること」が必要なのか? 実は、ここでも話が逆である。「新たな種を確立させるため」に、ゲノム・インプリンティングという機構が成立したわけではない。ゲノム・インプリンティングという機構が成立した場合に、「新たな種を確立させること」が可能になったのだ。
ここで注意。ゲノム・インプリンティングという機構は、「新たな種を確立させるため」に、必要不可欠であるわけではない。この機構がなくても、新たな種が発生することはある。特に、哺乳類以前では、しばしば起こっている。
ただし、ゲノム・インプリンティングという機構があると、「新たな種を確立させること」が容易になるのだ。そして、その意味は、「進化を容易にすること」である。(ここでは、「新たな種を確立させること」と「進化」とは、ほぼ同義である。)
ここまで理解すれば、本質は明らかだろう。有袋類と有胎盤類(単孔類は除く)には、ゲノム・インプリンティングという機構が備わっている。それだからこそ、「新たな種を確立させること」が容易になり、「進化」が容易になったのだ。
つまり、ゲノム・インプリンティングという機構が備わったからこそ、哺乳類[有袋類と有胎盤類]は、他の動物とは違って、急激に大幅な進化をなし遂げたのだ。
このことは、歴史的には、恐竜絶滅後の時期に相当する。この時期には、「進化の大爆発」と言われる、爆発的な進化が起こった。ただし、起こったのは、哺乳類に限られた。その理由はどうしてか? これまでは「適応放散」という概念で説明されるだけだった。しかし実は、遺伝子的にも理由があったのだ。哺乳類[有袋類と有胎盤類]には、ゲノム・インプリンティングという機構が備わっていた、という理由が。

その当時、哺乳類はネズミぐらいの大きさのものが大半で、大型の哺乳類はまだ登場していなかった。

ところが、である。ネズミぐらいの大きさのものだらけだった哺乳類が、恐竜絶滅後には、急激に進化をなし遂げた。
これは、一見、不思議である。「恐竜の絶滅後に、空白領域が生じたから」というのが、通常の進化論の説明だ。しかし、空白領域が存在したことは、「新種の増加」を意味するが、「新種の進化」を意味しないはずだ。進化というものは、空白領域があったことぐらいでは、急激に起こるものではないからだ。
実際、このとき陸の王者であった恐鳥類は、空白領域において進化するどころか、あっさり絶滅してしまった。
なぜその違いが生じたか? 恐竜絶滅後に、恐鳥類はたいして進化しなかったが、哺乳類は大幅に進化したからだ。なぜなら、哺乳類はゲノム・インプリンティングという機構を備えていたからだ。(恐鳥類は備えていなかった。)
以上のようにして、進化におけるゲノム・インプリンティングの重要性が説明される。哺乳類の大幅な進化をもたらしたのは、ゲノム・インプリンティングだったのだ。(重要な話はここまで。)

──
さらに補足しよう。
ゲノム・インプリンティングはどうして、進化を大幅に促進するのか? その過程は、先に示した通りだ。(新しい種の確立を促進する、ということ。)
では、その本質は? こうだ。
「異種間の交雑は、種の進化を遅らせる効果があるが、それを遮断するのが、ゲノム・インプリンティングだ」
先に述べたように、ゲノム・インプリンティングは、進化を促進する。だが、その理由は、ゲノム・インプリンティング自体に進化を促進する機構があるからではない。何らかのプラスの働きをなすからではない。逆に、マイナスの働きを遮断するのだ。そして、マイナスの働きをするのが、異種間交雑なのだ。
新しい種が確立しかかったとき、異種間交雑は、旧種との交雑を意味するので、進化を遅らせるというマイナスの効果が発生する。たとえば、早期ホモ・サピエンスが成立しかかったときに、早期ネアンデルタール人との交雑は、進化を遅らせるというマイナスの効果が発生する。このマイナスの効果を遮断するのが、ゲノム・インプリンティングだ。
つまり、ゲノム・インプリンティング(の役割)とは、次のことだ。
ゲノム・インプリンティング
= 父母の双方の遺伝子を必要とする
= 異種間の交雑を失敗させる
= 旧種との異種間交雑を失敗させる
= 新種の確立を促進する
= 進化を促進する (= 進化の停滞を遮断する)
= 急激な進化をもたらす
以上を簡単に言えば、こうなる。
「哺乳類に急激な進化をもたらしたものは、異種間交雑をなくすという原理だ。その原理をもたらす遺伝子的な機構が、ゲノム・インプリンティングである」
こうして、哺乳類の進化がとても大きいことと、哺乳類では異種間交雑が起こりにくいこととが、統一的に説明された。
【 解説 】
Wikipedia の記事には「なぜゲノム刷り込みが哺乳類に備わっているか?」という問題提起があった。これについての解答も、以上のことからわかる。こうだ。
何らかの理由があって、哺乳類にゲノム・インプリンティングが備わっているのではない。話は逆だ。ゲノム・インプリンティングが備わったものが哺乳類になったのだ。
Wikipedia の記事では、あたかも「多様な哺乳類がもともと存在していて、それらの哺乳類にあとからゲノム・インプリンティングという機構が備わった」というふうに読める。しかし、そんな事実はない。事実は以下の通りだ。
もともと存在していたのは、ネズミのような哺乳類だけだった。それはろくに進化していなかったので、地上の一部でニッチに生きるだけだった。地上のほとんどは、高度に進化した恐鳥類に支配されていた。そのままであれば、ネズミのような哺乳類はいつまでたっても恐鳥類をしのぐことはできなかっただろう。ところが、いつの時点でか、哺乳類の一部にゲノム・インプリンティングという機構が備わった。すると、この一部の哺乳類は、ゲノム・インプリンティングゆえに、どんどん新たな種を誕生させ、どんどん進化していった。初めは単孔類にも劣っていたのに、いつのまにか単孔類をしのぎ、さらには恐鳥類をもしのぐようになった。さらには環境に応じて多様に分岐して、陸上で巨大化したり、水中で巨大化したり、小型化して空中で飛んだりした。それらは当初のネズミのような小さなグループとは異なり、実に多種多彩な種のグループとなった。このように多様なものの全体が、哺乳類と呼ばれるようになった。
これが結論だ。つまり、哺乳類にゲノム・インプリンティングが備わったのではない。ゲノム・インプリンティングが備わったものが哺乳類となったのだ。
しかるに、それを事後的に見た学者たちが、事実を勘違いして、見当違いの疑問を出す。「哺乳類にゲノム・インプリンティングが備わっているのはなぜだろう? それは進化をもたらす自然淘汰において、どんな利点があったのだろう?」と。そして、間違った問題に対して、ありもしない解答を求めているのである。いわば、「1+1=3 であるのは、なぜだろう?」と悩むように。
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《 注記1 》
本項の前半(ゲノム・インプリンティングについての要約の箇所)では、ゲノム・インプリンティングについて「個体にとっては不利だ」と述べた。
それについて、「どうして、不利な機構がわざわざ組み込まれているのか?」という疑問も示した。
その疑問への回答は、もはや与えられたことになる。こうだ。
「ゲノム・インプリンティングという機構は、個体にとっては不利だが、種全体にとっては有利である。『進化する』という利点があったからだ。そして、その利点を備えたものが、進化をなし遂げた」
ここでは、小さな不利さを許容することで、「進化」という大きなメリットを得たことになる。哺乳類というのは、そういう生物なのだ。
一方、やたらと異種間交雑の可能な昆虫類は、何億年もかけて、ろくに進化しないままである。
《 注記2 》
上記の発想は、従来の進化論の発想(ダーウィン説)からは出てこない。ダーウィン説では、「個体にとっての有利さ」が重要となって、「有利な個体が生き延びる」というふうになるからだ。(自然淘汰説)
本項の発想は、「自然淘汰説」の発想ではない。「有利な個体が(他の個体と比較して)多く生き延びた」のではなくて、「有利な種が(他の種と比較して)多く進化した」のである。当然ながら、対比群を見ると、「不利な個体が(他の個体と比較して)多く淘汰された」のではなくて、「不利な種が(他の種と比較して)進化しなかった」のである。(滅びるのではなく、現状維持になっているだけだ。)
本項の発想は、自然淘汰(種の存否)を説明するものではなく、進化の速度(進化の有無)を説明するものである。その点、勘違いしないように。
ちなみに、本項以外の仮説は、「ゲノム・インプリンティングがあると、自然淘汰で有利だから」というふうに説明しようとしている。( → 出典 )……ここでは、目的としているものが、根本的にズレているのだ。
《 注記3 》
進化において、「分岐」というものが大切だ、ということはたびたび指摘されてきた。そして、分岐をもたらす理由として、「地理的隔離」を含めて、「生殖隔離」(生殖的隔離)の例が例示されてきた。特に、接合前隔離と接合後隔離が指摘されることもあった。( → Wikipedia )
この際、言及されることはあまりなかったが、実は、ゲノム・インプリンティングもまた、生殖隔離(接合後隔離)に含まれるのである。そして、これこそが種分化(種の分岐)において決定的に重要や役割を果たすのだ。特に哺乳類で。……それが本項の見解だ。
【 補説 】
進化についてはどうか? 私はもともと次の見解を取っていた。
「大進化と小進化は、異なる原理をもつ。
小進化は、小さな突然変異の蓄積である。それは長い時間をかけて少しずつ進むが、大規模な変化をもたらさない。
大進化は、突発的な大きな進化である。それは比較的短い時間(20世代程度?)で進み、一挙に巨大な変化をもたらす」
→ サイト内の項目一覧
ただ、原理はすでに示したが、どうしてそうなる加藤機構については、「交配による突然変異遺伝子の集中」というふうに示すだけだった。
→ 遺伝子の集中 (クラス進化論)
一方、本項では、別の原理によって、大進化の発生原理を示している。(ゲノム・インプリンティングによって異種間交雑をなくすことが、大進化の原理だ、というふうに。)
この二つの原理(遺伝子の集中/ゲノム・インプリンティングの効果)は、矛盾するものではなくて、並立するものである。この双方によって「大進化」というものが規定される、と考えていい。¶
( ※ 「遺伝子の蓄積」という小進化とは別に。)
その意味で、「遺伝子の蓄積」つまり「突然変異と自然淘汰」というダーウィン説とは、まったく異なる形で、進化の原理を説明していることになる。
ここでは、新しい進化論が提出されていることになる。
なお、ダーウィン説と、私の説とは、次の点で大きく異なる。
・ ダーウィン説 …… 進化は連続的に発生する
・ 私の説 …………… 進化は突発的に発生する
ここで、「突発的」というのは、次の二点を意味する。
・ 大進化は、「新種の誕生」という形で、急激に大規模に発生する。
・ いったん大進化が発生したあとでは、小進化が起こるだけだ。
(小規模でなだらかな進化が起こるだけだ。種は変わらない。)
この件は、下記項目で論じた。
→ 進化は 変化か交替か
→ 断続進化 (断続平衡説)
( ¶ ちょっと注記しておく必要を感じた。上記では「二つの原理」というふうに述べたが、この二つの原理が必要なのは、哺乳類だけだ。他の生物では、大進化のためにゲノム・インプリンティングを必要としない。……とすれば、「二つの原理」というほど、大きな柱ではないようだ。特に哺乳類のときだけ重要性がある、と解釈した方がいいだろう。)
※ 以下は、人類の進化との関連。
[ 付記1 ]
本項の説明を、人類の進化に適用できる。
本項の説明に従えば、当然ながら、人類のレベルでも異種間交雑があったはずがない。特に、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの間では、異種間交雑があったはずがない。
仮に、異種間交雑があったとすれば、中間的な携帯の個体がたくさん分布していたはずだが、そういうことはない。ネアンデルタール人の化石のグループは、ホモ・サピエンスの化石のグループからは、遺伝子的にも形態的にも分離しており、中間種によって連続的に分布するということはない。このことは、異種間交雑がなかったということを示す。
[ 付記2 ]
ホモ・エレクトスについては、何とも言いがたい。ホモ・エレクトスは、初期と後期との間に、連続的とも言える進化の過程がある。(中間的なものもある。)
この件は、「これらの時間的な進化においては、ゲノム・インプリンティングの機構は働かなかった」というふうに説明できるかもしれない。
( ※ ただ、断言はしない。はっきりとしない。)
( ※ ただ、それぞれのホモ・エレクトスを「亜種」と呼ぶには、脳容量の差が大きすぎる、という問題がある。 → デニソワ人 / 結局、何とも断言しがたい。)
[ 補足 ]
異種間の交雑は、まったく起こらないわけではない。哺乳類でも近縁種では、異種間の交雑は例外的に起こることもある。その意味で、「起こらない」と言うよりは、「起こりにくい」と言う方がいいかもしれない。
→ 異種間の交雑
とはいえ、例外的に起こっても、繁殖力は弱いし、その子孫が急激に広がるということもない。仮にそのようなことがあるとすれば、そもそも新種が確立するということがなかったはずだ。
だから、(哺乳類での)異種間の交雑は、例外的にはあるとしても、いちいち考慮するほどのことはない。「わずかな例外があるから、最初の命題は否定された!」などと息巻く必要はない。わずかな例外なんて、あってもなくても、無視していいのである。
- ネアンデルタール人との混血について考えよう。
ネアンデルタール人との混血はあっただろうか? あったとは思えないが、例外的にはあったかもしれない。だとしても、そんな例外は無視していい。
たとえば、ネアンデルタール人の遺伝子がホモ・サピエンスの集団に急激に拡大するとすれば、その対立遺伝子であるホモ・サピエンスの遺伝子がホモ・サピエンスのなかで拡大していったという歴史的事実に反してしまう。その遺伝子 A がホモサピエンスのなかで急激に拡大するのだとしたら、その対立遺伝子 A’は、最初からホモ・サピエンスの内部で拡大するはずがなかったのだ。かくて矛盾に陥る。ゆえに 最初の過程[ネアンデルタール人の遺伝子がホモ・サピエンスの集団に急激に拡大するということ]は、成立しない。(∵ 背理法 )
というわけで、ネアンデルタール人との混血が例外的にあったとしても、その例外は無視できる。その例外が種全体に影響を及ぼすというようなことは、ありえない。つまり、「種全体レベルでの混血があった」という説は否定される。
[ 余談 ]
※ 読まなくてもよい。
「ネアンデルタール人の遺伝子と、現代人女性の遺伝子をミックスして、中間雑種を誕生させよう」
という試みがある、と報道された。
→ 米ハーバード大教授がネアンデルタール人の子どもを産んでくれる“冒険好きな女性”を本気で募集している件
仮にこれが事実であるとしたら、とんでもないことだろう。そこで産まれてくる子供は、ゲノム・インプリンティングのせいで、原則として流産するはずだが、ひょっとしたら遺伝子疾患をもつ奇形として生まれる可能性もある。どっちにしても、ひどい結果になる。
ただ、これを掲載したサイトはトンデモサイトなので、念のために原文を調べてみたところ、案の定、誤報だと確認された。
元記事はこれ。
→ Neanderthal Baby Idea Floated By Harvard Geneticist Sparks Ethics Debate Over Cloning
その後、本人が「誤報だ」と否定した。
→ George Church, Harvard Geneticist, Says He's NOT Seeking Woman To Bear Neanderthal Baby
【 関連サイト 】
ゲノム・インプリンティングについては、下記サイトで詳しい情報を得られる。
→ 生命誌ジャーナル 2003年秋号
→ 生命誌ジャーナル 2003年冬号
→ 遺伝学電子博物館 (目次)
英文情報もあるのだが、英語版 Wikipedia に比べれば、上記の日本語情報の方がずっと詳しい。お読みすることをお薦めする。
( ※ いずれも、Google で上位に位置する。また、Wikipedia の関連サイトにも記してある。私がいちいち紹介するまでもないことだが、紹介する価値のあるサイトなので、特に紹介する。)
【 追記 】
ゲノム・インプリンティングについては、次の記述を見つけたので、引用する。(関連サイトの一つとして。)
哺乳類の発生には、オス(精子)とメス(卵子)の両方の遺伝子が必要であり、オス由来の遺伝子のみ、あるいはメス由来の遺伝子のみでは、胚(受精卵であって胎盤を形成する前のもの)の形成は生じても発生は進まず、個体は形成されない。実は、正常に発生した胚をみると、オス由来とメス由来のゲノム上のエピジェネティクス(DNAメチル化)のパターンが異なっており、このように“エピジェネティクス的に異なっている”ゲノムを2つ組み合わされることが哺乳類の発生に重要である、ということが現在までにわかっている。
胎生の哺乳類の中でも有袋類であるカンガルーやコアラと、それ以外のヒトやマウスなど(真獣類)はゲノムインプリンティングに関わる遺伝子に違いがあり、有袋類と真獣類の共通の祖先が進化上でカモノハシと分かれた後にゲノムインプリンティングに関する遺伝子を獲得し、その後に有袋類と真獣類は分かれて、独自のゲノムの進化をとげたと考えられている。
( → エピジェネティクス研究の最近の動向 2009 )
【 参考 】
imprinting は、動物行動学では「刷り込み」と訳されるが、一般的には「捺印(する)」というふうに訳される。語感で言えば、「刻印する」という語(の比喩的な意味)がふさわしい。
「あの記憶が私の心に刻印された」
というふうな感じで、父または母にある何かが遺伝子に刻印されて、子の世代に伝えられる。
その刻印の化学的なメカニズムは、メチル化(エピジェネティックス)である。
その刻印の生物学的な内容は、「両親の遺伝子の必要性」であり、「異種間交雑の不成立」である。
その刻印の進化的な意味は、「種の確立の促進」であり、「進化の促進」である。
※ 和訳するなら、「遺伝子の刻印」「遺伝子刻印」がふさわしい。
タイムスタンプは 下記 ↓
タイムスタンプは 下記 ↓
タイムスタンプは 下記 ↓
種単位での進化も退化も発展も無く(地球生命全体ではあるでしょう)、種の誕生(分岐)と種の持続と種の絶滅のみがある……。
ゲノム・インプリンティングがあったからこそ
変温性で卵生の単孔類が定温性で胎生の哺乳類に分岐して
今では単孔類はカモノハシしか残っていない、そう思えました。