ホモ・エレクトスのうちで、最も新しいもの(ハイデルベルク人?)と見なされる化石が分析された。記事を引用しよう。
スペイン北部の洞窟で発見された古い人骨からDNAを取り出し、遺伝情報を解読することに成功した。分析の結果、約40万年前の人類とわかった。DNA分析はこれまで、猿人から原人、旧人、現代人へという進化段階のうち、旧人の段階にとどまっていたが、今回は原人の時代(200万?30万年前)までさかのぼり、最古の例になるという。
欧州最古の人類で原人と旧人の中間にあたるハイデルベルク人とみられる。研究チームは、保存状態のよい大腿(だいたい)骨から、細胞内の小器官「ミトコンドリア」のDNAを取り出して解読した。これを、旧人である欧州のネアンデルタール人(20万?3万年前)とシベリアのデニソワ人(5万?3万年前)のDNAと比較。長い年月の間に生じた変化の量などから、洞窟の人類は約40万年前のものと断定した。この人類が、デニソワ人の祖先と70万年前に枝分かれしたこともわかった。
( → 2013年12月5日 読売新聞 )

( → USA today )
──
以上の図を見ればわかるように、次のことが言える。
「ネアンデルタール人とホモ・サピエンスは、同じ系列である」
「デニソワ人は、それらとは別で、ホモ・エレクトスの系列から分岐した」
これは、実は、従来の見解に反する。なぜなら、従来の見解は、次のようなものであったからだ。
「デニソワ人は、ネアンデルタール人の姉妹系列であり、ホモ・サピエンスとは別の系列である」
それぞれを図式化すれば、下記の通り。
《 今回の見解 》
erec. (古) ┳━┳━━━ erec.(新)
┃ ┗━━ deni.
┗━ nean.(古) ━┳━━ nean.(新)
┗━━ sapiens
《 従来の見解 》
erec. (古) ┳━━━━━ erec.(新)
┃ ┏ deni.
┗━ nean.(古) ━┳┻━ nean.(新)
┗━━ sapiens
略称:
erec. は、エレクトス。
deni. は、デニソワ人。
nean. は、ネアンデルタール人。
【 注 】 上の 《 従来の見解 》 の図式は、前出項目からの転載である。
→ デニソワ人と混血?
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さて。このように、今回の見解は、従来の関係とは異なる。では、どちらが正しいのか? それを探ろう。
まず、私の過去記事を探る。すると、次の項目が見つかる。
→ デニソワ人
これは 2010年03月25日 の記事で、デニソワ人について初めて報道されたときの記事だ。
ここでは、私は次のように述べている。
よく考えると、デニソワ人がホモ・エレクトスの一種である可能性は、かなりあると思う。
というのは、デニソワ人が本当にホモ・エレクトスよりもはっきり進化した種であるとすれば、ホモ・エレクトスよりも明らかに有利な種として、かなり広範に分布したはずだし、それならもっと化石が見つかっていたはずだからだ。
現実には、デニソワ人の化石は僅少である。小指の骨がひとかけら見つかっただけだ。生存した数は少なかったのだろう。ネアンデルタール人の化石がたくさん見つかっているのとはまったく異なる。
とすれば、デニソワ人は、形質的にホモ・エレクトスと大差なかったと思える。
ここで述べたことは、今回の新たな見解と合致する。つまり、私が最初に述べたことは、今回確認された、と見ていい。
つまり、私の最初の推定が正しくて、のちの見解は正しくなかった、と見なしていい。
ではなぜ、そのあとで別の見解が出て、そちらが強く指示されたのか? それは、次の項目を見るとわかる。
→ デニソワ人と混血?
ここでは記事が引用されている。再掲しよう。
(デニソワ人の化石について) 今回、より重要な細胞核DNAを解読したところ、23万?3万年前にユーラシア大陸西部に生息したネアンデルタール人に近い姉妹グループと判明した。
進化史上、人類とチンパンジーの分岐が 650万年前とすると、ネアンデルタール人やデニソワ人が現生人類との共通祖先から分かれたのは 80万4000年前、ネアンデルタール人とデニソワ人の祖先は 64万年前に分かれたと推定された。
この記事で、先に「従来の見解」として示したもの(デニソワ人はネアンデルタール人に近い姉妹群であること)が、明示されたわけだ。
しかし、前出のように、この記事は正しくないはずだ。(今回の最新の研究が正しいとすれば。)
ではなぜ、上記の見解(従来の見解)は、間違えたのか?
話のすべてを整合的に理解することは、可能だろうか?
──
実は、今回の発見を見て、学者たちは大混乱に陥ってしまったようだ。「わけがわからない」と悩んでいる。そのあげく、次のような説まで出る始末だ。
「デニソワ人も、ホモ・エレクトスも、ネアンデルタール人も、ホモ・サピエンスも、みんな混血していたんだ。人類は太古には、やたらと異種間の交雑をしていたんだ」
→ WSJ.com
しかし、やたらと異種間の交配があった、と見なすのは、馬鹿げている。そもそも、異種間の交配が高頻度にあれば、それらはもはや「種」としての区別をなさない。同一種(の亜種同士)であったことになる。とすれば、ホモ・エレクトス、デニソワ人、ネアンデルタール人、ホモ・サピエンスは、いずれも同種であったことになる。また、ホモ・サピエンスの仲間は百万年以上前から存在していたことになる。 逆に言えば、ホモ・サピエンスは、百万年以上前から、亜種レベルの進化しかしていなかったことになる。……これはあまりにも馬鹿げた発想だ。およそ整合的ではない。
( ※ そもそも、それらが異種間交雑が可能だったとすれば、それらの中間的な亜種が多様に分布していたはずである。ちょうど、ホモサピエンス内部で、中間的な人種が多様に分布しているように。しかるに実際には、中間的なもの[たとえばネアンデルタール人とホモ・サピエンスの中間種]などは分布していなかった。それぞれの種は画然として別物となってグループ化されていた。このことは、それぞれの種がまさしく[交雑不可能な]種であったことを意味する。)
( ※ 異種間交雑について、もっと詳しい話は → 異種間の交雑 )
──
実は、すべてを整合的に理解する発想はある。こうだ。
「デニソワ人やネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスとは混血しなかった」
これですべては整合的に理解できる。
(1)
従来の見解では、デニソワ人とネアンデルタール人は姉妹群だ、とされた。それは実は、「デニソワ人やネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスと混血した」という結論に合わせて、勝手に歪めた図式を提出したのだ。
まず、「混血があった」という(虚偽の)結論をもってきた。そして、その(虚偽の)結論に合わせて、「デニソワ人とネアンデルタール人は姉妹群だった」という(虚偽の)図式を提出した。なぜなら、「デニソワ人はホモ・エレクトスに近い系列だった」という図式(真実)を採用すると、「デニソワ人とホモ・サピエンスが混血した」という結論に矛盾するからだ。
- ( ※ デニソワ人とホモ・サピエンスが、進化の経路で遠い位置にあれば、混血することは不可能である。そのことは、右記項目で詳しく説明した。 → 原人との混血はあったか? )
(2)
逆に言えば、「デニソワ人は、ホモ・サピエンスと混血した」という説は、今回の研究報告によって、完全に否定されたと言えるだろう。デニソワ人は、ホモ・エレクトスの系列にあって、ホモ・サピエンスからはあまりにも遠く隔たっているがゆえに、混血は不可能だからだ。
- ( ※ それでもどうしても「デニソワ人は、ホモ・サピエンスと混血した」という説にこだわるのであれば、「どれもこれもみんな異種間交雑した」というトンデモ説に至ることになる。上述の通り。)(獣姦ポルノの見過ぎかもね。 (^^); )
(3)
「デニソワ人は、ホモ・サピエンスと混血した」という説は、もはや完全に破綻した。とすれば、それと同様の理屈に頼った「ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスと混血した」という説もまた、根拠が大幅にぐらつくことになる。どっちも同じような理屈で「混血」を唱えていたのだから、片方が否定されれば、他方もぐらつくのは当然だ。
逆に言えば、「デニソワ人やネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスと混血しなかった」という説(私の説)が、いっそう有力になったわけだ。
異なる種の間に、共通遺伝子が見つかるとしても、それは、「異種間の交雑があった」ということを意味しない。なぜなら、両者がもともと共通遺伝子をもっていた、という可能性があるからだ。
→ ネアンデルタール人との混血はなかった
図式で示せば、次の通り。
ネアンデルタール人 ネグロイド 非ネグロイド
●▲■ ●△□ ●△□
↓ ↓ ↓
●▲■ ○△□ ●△□
ネグロイドと非ネグロイドは、ネアンデルタール人との共通遺伝子 ● を持っていた。ところが、ネグロイドは時間の経過とともに、共通遺伝子 ● を失った。(かわりに変異遺伝子 ○ をもつようになった。)一方、非ネグロイドは、共通遺伝子 ● を持ち続けた。
結果的に、ネアンデルタール人と非ネグロイドだけが、 ● を持ち続けた。つまり、別に、両者が交配したわけではない。
この仮説が正しいことが、今回の最新の研究で、いっそう裏付けられた、と見なせばいい。それですべては整合的に理解できる。
[ 付記 ]
すぐ上の仮説が正しいことは、実はとっくに科学的に実証済みである。そのことは、上記項目に説明されている。
そこでは、論文が示されているが、その論文は、「混血があった」と示した最初の論文である。
つまり、「混血があった」と示した最初の論文をきちんと読んで、そのあとは論理的に矛盾がなくなるように理論を構築していけば、自然に、「混血がなかった」と結論できるのである。
「混血があった」と示した最初の論文は、同じ事実を見ても、そのあとの論理的な推論が大幅に狂っていた。それゆえ、事実から、正しい結論を導き出せず、間違った結論に到達してしまったのである。(論理力が弱かったせいで。)
とはいえ、少ない証拠から、真実に到達するには、名探偵並みの明晰な推理力が必要だ。それは、私が示したが、先の論文の研究者は示せなかった。
しかるに、そのような推理力を用いなくても、今回の事実を見るだけで、「混血がなかった」という真実に到達することができるのだ。……ただし、今回も若干の論理力は必要だ。(上記の (1)(2) のこと。)
そして、その若干の論理力さえもなければ、今回もまた学界の人々は混乱に陥るだろう。本項を読めばわかることなんだけどね。
【 関連項目 】
→ サイト内検索 (項目一覧)
たくさんあるので、読みたければ、下記の項目を最初にお読みください。この項目以後、シリーズが続きます。
→ デニソワ人・ネアンデルタール人との混血 1
【 関連サイト 】
英文情報を知りたい人のために、英文ページを示す。
→ Mystery humans spiced up ancients’ sex lives : Nature News
→ Oldest Human DNA Contains Clues to Mysterious Species | Science
→ ROldest hominin DNA sequenced( Max Planck )
→ Baffling 400,000-Year-Old Clue to Human Origins - NYTimes.com
→ Ancient Humans Had Sex With Mystery Species, New DNA Study Shows
→ Leg bone gives up oldest human DNA- Pick News
→ | Pit of Bones: Leg fossil has oldest yet human DNA!
【 関連項目 】
本項の続きが、次項にあります。とても重要な話題。
→ 異種間交雑が起こりにくい理由 ( 次項 )
図はこれ。
→ http://j.mp/1brF2fQ
解説はこれ。
→ http://j.mp/JtfxnA
→ http://j.mp/18MvTUh
→ http://j.mp/1jKZCBS