「燃料電池車は究極のエコカーだ」
と言われることもあるが、これはメーカーの誇大宣伝にすぎない。現実には、いくつもの問題がある。特に、「炭酸ガスを排出しない」というのは、まったくの嘘だ。 ──
前項では、「燃料電池車は小便を垂らす」という話題で述べた。
だが、燃料電池車には、これ以外にも、いくつかの問題がある。
・ 白金の資源量
・ 水素ステーションの基盤
・ 炭酸ガスの排出
これらについて、順に述べよう。
──
(1) 白金の資源量
1台だけならばともかく、大量に生産すれば、稀少資源である白金がたちまち品不足になり、価格が高騰する。
ここでは、「大量生産すればするほど、価格が高騰する」という現象が起こる。とうてい、大量生産は不可能だ。
( ※ 白金を用いない燃料電池ができれば別だが、それはまだ無理。)
(2) 水素ステーションの基盤
ガソリンステーションのかわりに、水素ステーションを配備しなければならない。それが基盤として必要だ。しかるに、その設置はとても実用レベルにならない。
電気自動車ならば、すでに電線が配備されているので、あとは電気を出す装置を設置するだけで済む。しかし水素は、そうは行かない。ガスの配管みたいな水素の配管を全国規模で設置しなければならないが、とうてい無理だ。
一方、配管のかわりに液体水素のタンクローリーで配備する、という方式もある。これだとガソリンスタンド並みで済む。とはいえ、ガソリンスタンド並みに配備するとしたら、莫大なコストがかかる。電気自動車用のスタンドとはまったく異なる高コストだ。しかも、初期には客はほとんど来ない。まず、実用レベルにならない。
これらのコストを考えると、水素の燃料費用は、固定費が莫大にかかるので、ガソリンの 10倍をはるかに超える価格になるはずだ。
( ※ 遠い将来はいざ知らず、最初の数年間はそうだ。国からの補助がなければ。)
( ※ 次の情報もある。
→ 100カ所を設置する計画、1基3億〜5億円 )
(3) 炭酸ガスの排出
「燃料電池車は水素を燃やすだけだから、炭酸ガスを発生しない」(だからエコだ)
と言われるが、これはまったくの嘘である。燃料電池車は、普通のガソリン車と同様に、大量の炭素を排出する。これが真実だ。嘘にだまされてはならない。
その理由は、下記で詳しく説明しておいた。
→ 水素生産のペテン
要旨は、以下の通り。
燃料電池車そのものは、水素を燃やすだけだが、その水素を発生させるために、天然ガス(シェールガスを含む)を用いる。天然ガスの主成分はメタンで、メタンから水素ガスを得る。メタンのうちの水素の部分は、改質して水素ガスにする。残りの炭素はどうするかというと、炭素を燃やして熱源として、その熱源から(水の電気分解で)水素を得る。
結局、全体としては、天然ガスを燃やしているのと同じであり、炭素の排出量も同じである。ただ、燃料電池車そのものは、水素を燃やすだけなので、炭酸ガスを出していないように見える。しかし実際には、水素製造工場で大量の二酸化炭素を出しているのだから、差し引きして、天然ガスをそのまま燃やすのと同量の炭酸ガスが出る。
要するに、「燃料電池車は水素を燃やすだけだから、炭酸ガスを発生しない」というのは、ただのペテンなのである。
似た例を言うと、次のような例がある。
「 iPhoneを無料で差し上げます。ただし月額通話料として 6000円を24カ月間払っていただきます」( → 記事 )
これじゃ、総計 14万4000円を払うのだから、単に iPhone を分割払いで買うのと同様だろう。これを「無料」と呼ぶのはペテンだ。機械代金を無料にしても、通話料金をその分だけ上乗せするのだから、ちっとも無料になっていない。「左手では無料にするが、右手では高額を請求する」という形。両手を合わせれば、高額の請求になる。
同様のペテンが、「燃料電池車は炭酸ガス放出しない」という文句だ。これもまた、「左手ではゼロでも、右手ではたくさん排出する」という形。両手を合わせれば、大量の炭酸ガス放出となる。
( ※ そういうわけだから、どうせなら、天然ガスをそのまま発電に利用して、電気自動車を稼働させる方がマシだろう。あるいは、天然ガスを燃料にしてエンジンを回せばいい。その方が効率的だ。いちいち水素を作成してから燃料電池で発電するのでは、かえって非効率となる。)
( ※ ただ、将来的に、太陽光発電で水素を作成できるのであれば、クリーンな形で水素を得られる。しかし、それは遠い先のことだ。現状ではコスト的にとうていシェールガスに太刀打ちできない。燃料電池車が実用化するとしたら、太陽光発電が大規模に普及したあとのことになる。そして、それは、電気自動車が普及したずっと後のことになる。2030年までは、まず無理だろう。)
[ 付記 ]
以上のように、燃料電池車には、いろいろと問題がある。
ゆえに、トヨタやホンダがいくら「燃料電池車の実用化が近い」と標榜しても、その実現性はほとんどゼロに近い。なぜなら、燃料電池車は、それ自体がいくら実現可能であっても、その原料となる水素自体の生産や配備やコストが心許ないからである。特に、天然ガスを原料とする限りは、「エコである」ということはまったく成立しない。それどころか、小便を垂れ流すだけ、エコに反する。エコというよりは、エゴであり、オシッコである。
【 関連項目 】
次の項目も参照。
→ 燃料電池車を推進するな
また、燃料電池車については、過去記事がたくさんあるので、そちらも参照。
→ サイト内検索 「燃料電池車」
2013年12月02日
過去ログ
「一般的なガソリンスタンド(GS)の整備には約1億円の費用がかかるといわれますが、水素ステーションのコストはGSの5倍程度はかかるとされています。このため経済産業省は国が半額を補助する事業を今年度から始めました。」
→ http://thepage.jp/detail/20130725-00010001-wordleaf
実用化しそうもないもののために莫大な金を投じるのは馬鹿げている。ここでも無駄金が。
どうせなら、LPG車の補助金に出せばいいのに。
→ http://openblog.meblog.biz/article/7965156.html
トヨタが燃料電池自動車の販売を開始すると報道されています。ただ、残念なことに、燃料電池自動車が存在しなくてはならない必然性が見当たりません。その理由を下記のPDFファイルに説明してみました。燃料電池自動車は画期的だと思っておられる方がおられましたら、一読していただけませんか。
大袈裟にいえば、我が国の信用にかかわる、かなり深刻な話です。
http://hws7.wh.qit.ne.jp/m-murai/HP1301.pdf
(最後のHPはhpではなく大文字にして下さい)
どうせなら、本サイトの記事を読む方が良くわかりますよ。「燃料電池」でサイト内検索するといいでしょう。
あの頃から私は「燃料電池車」と「太陽電池」について大批判していた。いずれも「夢の技術」と言われていたが。
で、太陽電池については、最近では「高コストなので強制普及はダメだ」ということが広く知られてきた。夢から覚めた。
燃料電池車については、いまだに夢から覚めていない人が多い。
私自身は最近停滞している蓄電池の技術革新が起これば、燃料電池車の様な複雑な技術は吹き飛んでしまう様に思えます。蓄電池の技術革新の種はあちこちに散らばっている様ですから。