2013年11月10日

◆ ITの才能の育成

 IT分野で、日本企業は世界的に出遅れている。この問題を解決するには、IT分野で若い才能の育成を促す場が必要だ。 ──

 IT分野の産業で、日本企業は世界的に出遅れている。米国に遅れるのならまだしも、韓国にさえ遅れている。(サムスンなど。)
 それだけならまだしも、人口 750万人のイスラエルにさえ遅れているありさまだ。
 イスラエルはIT分野が圧倒的に優れている。下記に記事がある。
 世界のハイテク産業の中心は、米西海岸のカリフォルニア州サンノゼ市周辺の「シリコンバレー」だ。そのシリコンバレー企業が、いま熱視線を送るのは、イスラエルのベンチャー企業たち。米IT企業が、企業合併・買収(M&A)を次々と仕掛けている。
( → 朝日新聞 2013年11月10日

 具体的な例は、リンク先に書いてあるので、そこ読んでほしい。
 
 ではなぜ、イスラエルはIT分野が優れているのか? 記事(有料版)には、次の話がある。
 軍は、兵役を務める若者の中から優秀な人材を選んで、テクノロジーの仕事をさせている。
 そうした若者たちは、数年間で軍の仕事を終えたあと、学んだ技術を応用して、当時の仲間とベンチャー企業を立ち上げることが多いという。
 軍関連や、そこから派生する豊富な民間技術は、イスラエルを技術立国に押し上げている。同国は人口 750万人ほどだが、国内総生産(GDP)に占める研究開発費は世界でトップ。国民1人あたりの起業率、技術者数、特許数、博士号保有者数なども世界1位だ。
 

 最後の点を再掲する。
 国内総生産(GDP)に占める研究開発費は世界でトップ。国民1人あたりの起業率、技術者数、特許数、博士号保有者数なども世界1位だ。

 これはとても重要だ……と言いたいところだが、実は重要ではない。なぜなら、「率」よりも「総額」の方が重要だからだ。いくら率が高くても、規模が小さければ、総額は小さくなる。人口 750万人しかなければ、規模は日本の 20分の1程度。日本の少子化を考慮しても、若年層では 10分の1程度。圧倒的に規模は小さい。比率が少しぐらい高くても、たいしたことはないのだ。だから、上記に引用した数字は、ほとんど意味を持たない。
 ではなぜ、イスラエルにできたことが、日本にはできないのか? 

 ──

 ここで私なりに結論を出せば、次のことだ。
 「画期的な IT技術を開発するためには、才能のある若手が、学びながら自由に研究できる場が必要だ」


 具体的な例を挙げれば、ゲイツやジョブズだ。彼らは高校生ぐらい(16歳ぐらい)のころから、IT分野でいろいろと好き勝手なことをやっていた。それは、現在から見ればおままごとみたいに見えるかもしれないが、当時では世界最先端の水準だった。
 こういうことが必要だ。

 では、日本ではそれはできるか? できない。実際になされているのは、よくても次のことだ。
 「才能のある若手が、ベンチャーに遊びに行って、そこでベンチャーの技術開発に携わる」
 これも悪くはないのだが、これではそのベンチャーという小さな企業の枠組みに収まる。これでは大規模な技術開発はできない。
 大規模な技術開発とは? 日本で言えば、「自動運転技術」というものがある。トヨタ・日産・ホンダなどがやっている。
  → 安倍首相 自動運転の車に試乗 NHKニュース
  → 安倍首相、自動運転車に試乗 - MSN産経フォト
 このような技術開発は重要だ。だが、それは、大手企業の熟練技術者だけでやっている。そこには高校生ぐらいの若者が入り込むことはない。
 とすれば、「天才的な能力のある若者が入社して、経験を積んで、数年後に画期的な技術を開発する」ということもない。
 一方、イスラエルでは、そういうことがある。だから次々と新技術が開発されているのだろう。

 ──

 結局、日本では、若手を養成する場がない。日本ではこの年代は、受験勉強をしているばかりだ。しかし、受験勉強をしているのでは、ITでは手遅れとなる。
 ゲイツにせよ、ジョブズにせよ、ホリエモンにせよ、これらの人々はいずれも大学生活を完遂しなかった。いずれも超一流大学に入ったが、卒業せずに中途退学した。大学時代には、講義を受けるかわりに、ITの技術開発に励んでいた。
 ところが、日本ではたいていの人々は、大学を卒業してから IT技術の開発に携わろうとする。しかも、そこでまずやるのは、組織の一員として働くための下働きのようなことだ。最初から第一線でバリバリに働くというようなことは少ない。(中小企業ならともかく大企業では。)
 こういう状況であっては、IT分野で画期的な技術開発など、起こるはずがないのだ。たとえ才能を持つ若者がいたとしても、大企業のなかで技術を伸ばす機会を奪われるのが普通だ。

 ──

 では、才能のある若者は、ベンチャーをやればいいか? そうかもしれない。
 しかしベンチャーをやるのは、「すでに技術開発が完成した」という場合に限られる。その場合には商売になるからだ。一方、技術開発が完成していない場合には、ベンチャーはできない。
 とすれば、日本でベンチャーができるのは、「容易に開発が済むようなソフトウェア」に限られて、「画期的で大規模なソフトウェア」というのはかなり困難になる。この意味でも、天才的な技術者が才能を開花させる場は存在しない。

 では、どうすればいいか? 才能のある若手が存分に才能を発揮できる場を提供すればいい。その条件は、こうだ。
  ・ 最先端の大規模な技術開発がテーマである。
  ・ その会社はベンチャーではなく、中〜大企業である。
  ・ その会社は、大企業の硬直性に縛られない。
  ・ その会社は、圧倒的に自由な雰囲気がある。
  ・ その会社は、高校生でも正社員待遇になれる。


 これは、会社というよりは、一種の「研究開発環境」と言える。会社そのものは、ソニーであってもキヤノンであってもいい。Google ジャパンであってもいい。ただし研究開発環境は、上記のように自由な雰囲気であることが必要だ。
 それは、通常のその会社の組織とは別組織になる。たぶん子会社ふうの独立組織になり、本社からの干渉をまったく受けないことになる。また、給料にしても独自の体系をもち、才能のある技術者は年収で億円単位であることも許される。また、株式のストック・オプションを持ち、成果に応じて数十億円の成果報酬を得ることも可能とする。

 このような会社があれば、そこでは天才型の技術者が集積して、画期的な技術開発が続々となされるだろう。そのときには日本の企業も世界最先端となって、圧倒的な成果を世界に誇るようになるだろう。何という素晴らしいバラ色の物語! 日本は世界トップクラスのIT先進国となり、働く技術者も莫大な成果報酬をもらえて幸福になれる。……何とすばらしい天国か! 

 ただし、天国から地獄に落ちるようだが、現実は正反対だ。
 上記の条件は、現状では何一つ満たされていない。現状は天国どころか地獄である。しかも、地獄を脱しようとする動きすら見られない。
 しいてそれに似た状況が見られるとしたら、イスラエルと韓国(サムスン)ぐらいだ。だからこれらの企業は、IT分野で頑張っている。
 その一方、日本企業では、天才的な技術者はタコ部屋に閉じ込められ、成果報酬もなく、「コストカット」の努力ばかりを強いられる。まさしく地獄。
 そして、地獄に勤務している社員がもたらすものは、次のようなことだけだ。
  ・ シャープは倒産寸前
  ・ NECも倒産寸前
  ・ パナソニックは大幅な業務縮小
  ・ ソニーも赤字で青息吐息

 社員に地獄の待遇をもたらそうとすれば、その会社自体が地獄の釜に放られてしまうのである。「こいつらを地獄の扱いでこき使えば、こっちが金儲け」と思った会社が、まさしく地獄の釜で煮られてしまうのだ。

 ──

 日本企業が世界最先端になることは、十分に可能だ。その方法は、上記に示した通りだ。つまり、天国になるように、開発環境を整えることだ。
 しかるに現実には、会社経営者が逆のことをやっている。だから、すぐ上に記したような状況(シャープ・NEC・パナソニック・ソニー)みたいになるのだ。
 「利益を出すため」という目的ばかりを考えて、従業員を虐待することしか眼中にないような企業は、衰退するのが当然である。彼らは真の「成長戦略」とは逆のことばかりをやっているからだ。
 
 そして、日本企業が最も駄目なのは、彼らが愚かであることではなくて、彼らが「自分自身が愚かである」と気づかないことだ。
 それはいわば、裸の王様である。「自分は裸だ」ということに気づけば、彼らは服を着ることができる。しかし、裸でありならが、「自分は素晴らしい服を着ている」と思い込んでいる限り、彼らが裸を辞めることはありえない。
 これが今の日本企業の状況だ。

( ※ で、私がいくらこう言うことを指摘しても、日本企業は聞く耳を持たない。私の警告[ 2008年 ]を聞かなかったシャープと同様だ。だから日本企業は地獄の釜で煮られることになる。)
( ※ 日本企業が聞く言葉は、何か? 耳に痛い言葉ではない。「プロ野球で優勝した監督に聞く経営のコツ」みたいな話ばかりだ。以前は「織田信長に学ぶ」みたいな話が流行っていたが、それと同様だ。未来志向どころか、過去志向・歴史志向。アホ丸出し。)



 [ 補足 ]
 参考として、企業や政府の方針を示す。
  → 特許庁、「職務発明」見直す委員会

 「企業がその発明で得た利益の5%ぐらいは支払え」という成果報酬の発想が、現在の判決だ。( → 検索
 ところが、その5%ぽっちをも惜しんで、「全部をオレに寄越せ」という強欲な発想が、企業や政府の方針だ。
 こんなことをすればますます天才タイプの人は企業に寄りつかなくなる。自滅政策。「5%を惜しんで 100%を失う」という馬鹿政策。
 「金の卵を産むダチョウを殺してしまえば儲かるぞ」というわけ。これが日本という国の発想だ。ストックオプションの普及している米国とは正反対。
 日本が没落しつつあるのは、日本があえてその方針を取っているからだ。そしてそのことに気づきもしない。私が教えて上げても、聞く耳さえ持たない。
 滅びるしかないね。
 


 [ 付記 ]
 新技術の例。



 上記の解説。
 → ついに現実がCGを超えた「自律型ロボットが群れなす」
 → Lexus Launches ‘Swarm’ for ‘Amazing in Motion’
 → Lexus
 → Swarm behaviour - Wikipedia 英語版
posted by 管理人 at 09:34 | Comment(5) | コンピュータ_03 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
大学でも院生はろくに休みもなく待遇も悪く自由に研究できない奴隷だがそれに文句をいうような人間は使えないとかなり有名な教授が言っておりました。
それでいて優秀な人間がこないと嘆いておりましたが優秀な人間がどうして好き好んで奴隷になりたがるんだと思いました。
会社だけでなく大学でもそうなんだから日本人にはその天国案は不可能なんじゃないでしょうか。
Posted by RFT at 2013年11月10日 18:58
> 日本人にはその天国案は不可能なんじゃないでしょうか。

 日本人であっても、米国国外流出すれば、大丈夫。これが最善です。  (^^);

 日本中でそろって亡国政策をしているんだから、それに従うのが吉。
Posted by 管理人 at 2013年11月10日 19:34
サムスンは日本の超一流技術者を超高給でヘッドハンティングしているいそうだ。つい最近もキヤノンの画像処理のエースが姿をくらましたが、サムスンに移籍したらしいと言われている。
 他の会社からも、有機ELやリチウムイオン電池の超一流研究者など。
 → http://diamond.jp/articles/-/44210

 ま、超一流技術者にろくに報いようとしない日本企業の自業自得。ちゃんと特許の成果報酬を出せば、こんなこともなかっただろうに。
Posted by 管理人 at 2013年11月11日 12:50
ITの才能の育成 投稿

 管理人さんのご指摘の通り、日本は衰退に向かっていますね。金の卵を産む技術者たちをリストラし会社が築いた資産を片端から売り払う、安直で短期的な収支の帳尻あわせしか能力がないソニーの文科系経営者たちの系譜は典型例です。コンテンツでぼろ儲けしたい症候群はかなり重症です。
 ソニー復活には、ソニーは文科系経営者による「コンテンツで楽に儲けたい」会社と理系経営者による「骨身を削る革新的なものづくり」会社に分離するしかないのでは。後者に期待しますが、分離するには世話役や国の支援が必要かも
 日本は2020年の東京五輪までは大丈夫でしょうが、原発と五輪への借金大判振る舞いのつけが決定打になり、宴の後に、国家負債の膨張にもはや耐えられなくなってカタストロフィが起きる可能性を案じます。最悪は日本発の世界恐慌? 国家レベルの防災対策も望みたいですね。
 管理人さんが例示されたイスラエルの方法は、本質を衝いています。たとえば、ITなら、多数の人間に少しやらせてみて、嵌った者(最適任)を選んで伸ばす。不向きな人間(人間的に成長していれば、ITでなくても他の何かに向いているはず)を教育しても効果は上がりません。ITなどは、平凡なものに意味はなく(タダでもいらない)、エクセレントなものしか価値がない。エクセレントに辿り着くには、愛や審美眼や人生観など心が重要なので、人間的な成長は不可欠です。

 現在のお受験過重主義の誤りは、
1)頭を大学入試(おもちゃの)問題を解くことに最適化させる。神経回路網がその方向で固まる。
2)対人、対社会経験、心の成長、本当の思考力を度外視して、お受験対策ばかりやることで、「人間もどき」を大量生産している。
3)お受験に適合した者を「万能人間」と看做す。どんな仕事に就けても有能だろうと。
 実際はそうではないので、社会がおかしくなってくる。親を殺す子、子を殺す親、万引きする警察官、生徒にいたずらをする教師、災害予防対策を想像できない町長、平気で食材偽装する老舗経営者、大会社をろくに経営できない経営者等。

 日本を復活させる3つのシンプルな方法は、たとえば、
1)公務員組織を「天下り作りの仕事」から「本来の仕事」へ向けさせる(公務員制度改革) 
 天下りしなくて生活できる制度にする(定年延長。ただし61歳からは高位役職を外す)。公務員組織は日本の舵取りで、最重要です。
2)教育目標を「お受験問題を解く」から「対人、対社会経験と心と思考力を育てる」へ変える。
 今のやり方を続けると、慈愛と深みのある人材の供給は干上がる。やがて、現在の朝鮮、韓国、中国のような国になるのでは。
3)真に才能ある者を登用する。
Posted by 思いやり at 2013年11月11日 16:10
そういう受験と研究室気質をくぐり抜けてきた滅私奉公型の技術者がついに離脱ですか。
戦中もそうですが、金より安定と名誉を望む技術者を蔑ろにしすぎましたね。
設けたもん勝ち、バブルの頃は数学者だけではなく、農学部まで証券会社にさらわれてました。
今、国外脱出技術者はその頃技術畑に行った方々です。
安定と名誉、ソコソコの生活。これを捨てさせるためにあと十年前後で得られるより多くの金を積めばいいだけ。
3年で契約更改できないと戻るしかないが、次は大陸が待っている。
さすらいの技術者が大量発生してそうですね。
Posted by 京都の人 at 2013年11月11日 18:27
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