「事前放流で貯水量増加」
というタイトルを読むと、「そんな馬鹿な! 放流して貯水量が増えるわけがないぞ!」と思う人が多いだろう。しかしそれは早とちりだ。このタイトルの意味は、
「事前放流をすると、放流後の貯水量が増加する」
という意味ではなくて、
「事前放流をすると決めると、普段の貯水量が増加する」
という意味だ。
ここで、貯水量が増加するというのは、現状の 100%という水準から、120%ぐらいの水準になることを意味する。
──
具体的に例示しよう。(モデル的。最大貯水量は 200%とする。)
《 現状 》
現状では、事前放流をしない。その場合、貯水率は、次のようになる。
1日目 …… 100% (台風前々日)
2日目 …… 100% (台風前日)
3日目 …… 200% (台風当日)
4日目 …… 150% (台風翌日)
5日目 …… 100% (台風翌々日)
つまり、台風の来ている間は、貯水率が上昇するが、台風が来る前と、来たあとでは、貯水率は 100% である。
《 新案 》
新案では、事前放流をする。その場合、貯水率は、次のようになる。
1日目 …… 120% (台風前々日)
2日目 …… 70% (台風前日)
3日目 …… 200% (台風当日)
4日目 …… 150% (台風翌日)
5日目 …… 120% (台風翌々日)
つまり、台風の来ていない時期では、貯水率は 120% である。ただし、台風が来る直前には貯水率が 70% まで下がる。そのおかげで、ダムによる貯水率の調整量(%)は、 200−70 に相当する 130 である。これは従来の 100 という値よりも大きい。それだけ、氾濫の危険が下がる。
しかも、「台風が来たら貯水率を下げる」という方針ができているので、普段は貯水率を高めて置いても大丈夫だ。つまり、 120% にしておいても大丈夫だ。
( ※ 実際の運用では、もっと高くして、150%ぐらいにしても大丈夫だろう。ただしその場合、台風が来ると予想された3〜4日前に事前放流を開始しておいて、前々日には 120%ぐらいまで下げておく必要がある。)
ともあれ、このように、「平常時の貯水量を 100%よりも高い数値に設定する」ということが可能になる。それというのも、「台風が来たら事前放流をする」という方針を立てておいたからだ。
つまり、
「事前放流をすると決めると、普段の貯水量が増加する」
ということが結論される。
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教訓。
「危険が来たらすぐに対処できる」という体制をもともと整えておくといい。そうすれば、危険でないときには、無駄な危険回避措置を取る必要がなくなる。
現状では、「固定的な危険対応」という方式を取る。つまり、危険が迫っていないときにも、常に危険に対応する準備をする。そのせいで、日常の業務能率(ここでは貯水率のこと)が低下してしまう。
[ 付記 ]
言わずもがなではあるが、貯水率を高めることには、次の効果がある。
「冬場に向けてたくさんの水量を確保できる。利水効果」
実は、冬場の降水量は、あまり多くない。だから秋のうちには、なるべく多くの貯水量を確保しておきたい。ところが、「台風が来るかもしれない」という理由で、貯水量は 100%ぐらいの低い水準に抑えておくことが多い。
しかし、もっと多くの貯水が可能なのに、低い水準に抑えておくというのは、無駄なことである。利水がうまくできていない。……この無駄を避ける方法が、「いざというときの事前放流」という制度なのだ。
いざというときに即応できる態勢を整えておけば、普段は無駄に緊張する必要はなくなる。これが知恵のある方法というものだ。
( ※ ダムの貯水率の上限は、 160%とか、380% とか、さまざまだ。ダムごとに異なる。)
【 関連サイト 】
2005年の早明浦ダムの貯水量について、次の記述がある。
2005年の渇水においてはダムの貯水量が大幅に低減、水没した旧大川村役場が姿を現しダム渇水のシンボルになった。特に2005年の渇水ではダム貯水率が0%となり、連日水不足がニュースや新聞のトップ項目に挙げられるなど全国的にも話題となった。
( → 早明浦ダムの貯水率や水位 )
9月6日に襲来した平成17年台風第14号により、貯水率が0%から100%に一気に回復しました。
前日までは渇水のため貯水量がなかったところに、大量の水が流入してきます。
( → YouTube )
スッカラカンの状態から満杯になるほど、大量の流入水量が押し寄せることがあるわけだ。
逆に言えば、これほど大量の流入水量に対しては、あらかじめスッカラカンにしておく方がいいとさえ言える。
【 関連サイト 】
→ 早明浦ダムの画像
※ 底部に近いコンジット部の放流口は、少なめだ。
その意味で、大量の事前放流はしにくい構造だ。
このダムは、利水が主目的で、治水は二の次だ。
そもそも地理的に、都会から離れた山奥にある
ので、治水のことは考慮しなくてもいいようだ。
【 関連動画 】