2013年09月17日

◆ サイバネティックスとダム制御

 サイバネティックスとは、制御の方法。状況に応じて可変的に制御を変化させることで、制御を最適化する。(ダムとの関連) ──

 これは、前項の解説だ。
 
 前項では、ダムの放流量の制御法として、次の三つを示した。
  ・ 定量法 (常に一定値)
  ・ 定率法 (常に一定比:流入量に対して)
  ・ 階段法 (階段式に変化させる:時間に応じて?)


 いずれも、量は事前に決定されている。状況に応じて変動することはない。
 このような方式が、ダムの放流量では採用されている。

 ──

 一方、サイバネティックスという制御法がある。それは次の二つが基本だ。
  ・ 出力は、入力の関数である。
  ・ フィードバックがある


 (1) 関数

 出力は、一定値ではなくて、入力に対する関数である。入力の増減に応じて、出力も変動する。
 その変動は、最も簡単な場合では、(1変数の)1次関数となる。この場合は、「定率法」と同様になる。
 現実には、1次関数よりもはるかに複雑な関数が採用されることが多い。
 また、他の変数も考慮されることが多い。特に重要なのは、外部環境の数値だ。ダムの放流の例で言えば、気象の予測値や実測値だ。この気象の数値に従って、出力(放流量)はいろいろと可変的に変動することになる。

 (2) フィードバック

 実際に出力しても、その結果が最適だとは限らない。
 ある時点 1 における出力と、その結果としてもたらされた状況とを照合して、出力が狙い通りであるかを観測する。
 もし狙いからズレていれば、出力を微調整する。そうして新たな時点 2 における出力を得る。
 さらに、その結果を観測して、出力を微調整する。
  ……
 こういうことを何度も繰り返して、少しずつ微調整を繰り返しながら、現実と狙いとのズレを最小化していく。(つまり最適化する。)

 これは、ロボットの制御には有益である。
  ・ 手足を動かす量を決めて、動かす。
  ・ 実際に手足が動いたのを観測して、予測通りか調べる。
  ・ その結果から、動かす量を微調整する。
  ・ さらにそれを観測して、また微調整する。
   ……

 こういうことを何度も繰り返すことで、狙いと現実とのズレを最小化する。
 これがフィードバックだ。

 この方式は、ダムの放水量についても、適用できる。ダムの放水量と、気象庁の降水データと、下流域の河川の水位とを、それぞれ観測データとして得る。そのことで、ダムの放水量を微調整して、最適化することができる。

 ──

 以上において、サイバネティックスの基本原理を示した。
 近代では、このように、「関数」と「フィードバック」を二つの柱とした制御が主流である。たとえば、自動車の無人運転では、この制御法が取られている(はずだ)。

 ところが、ダムの制御では、どういうわけか、「定量法」や「定率法」という前近代的な方式が採られているのである。しかも、その前近代性に、専門家ですら気づかない。
 まことにお寒い状況にある。
  


 [ 付記 ]
 サイバネティックスとは、要するに、
 「理想の制御とは何か?」
 「究極の制御とは何か?」
 を求めて、最適の方法を追求するものだ。

 一方、「定量法」や「定率法」や「階段法」は、「もっともお手軽な方法は何か?」という発想から生じたものだろう。あるいは、「何も考えられないような(小学生並みの)頭で思いついた、能のない方法」かもしれない。

 そして、現状では、土木業界では後者ばかりが幅を利かせているのである。「サイバネティックス」という言葉さえも聞いたことのない人々ばかりがそろっているのだろう。
posted by 管理人 at 21:08 | Comment(6) | 科学トピック | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
たとえ間違っていようともそのような連中が
中心人物としてあるいは組織として関与していることも変数として織り込んだ考えをしなければ意味がないでしょ。
それらが訂正され、新たな指針が公に示されて
いない以上、やはり現実を無視したタラレバ論の域をでない。
提言としてのあなたの主張に一定の理があるとしても、現段階では一応伺っておきますぐらいにしか捉えられない。
Posted by パーチクリン3 at 2013年09月17日 22:08
http://www.enpitu.ne.jp/usr4/bin/day?id=41506&pg=20110915

同じことの繰り返しだからね
Posted by パーチクリン3 at 2013年09月17日 22:17
> それらが訂正され、新たな指針が公に示されて いない以上、やはり現実を無視した

 もちろん「今すぐ私の方式でやれ」と言っているわけじゃないですよ。また、「適当な中心人物に従え」と言っているわけでもないですよ。今すぐどうこうしろという話じゃない。
 
 「新たなシステムを構築する必要がある。その新たなシステムとは、こういうふうに構築されるべきだ」
 というふうに、指針を示しているだけです。
 現実には、この指針を採択したあとで、実用化のための研究をいろいろとする必要があります。また、具体的な制御システムも構築する必要がある。それはかなり学術的なものであり、大学で制御理論を使って構築するべきものです。かなり高度な学問知識を必要とする。

 本項は「新たなシステムを構築しろ」という話です。「いますぐこのシステムを採用しろ」という話ではありません。そのようなシステムはまだできていません。前々項の【 放流のモデル 】は、あくまで仮の簡略モデルであり、このままでは使い物にはなりません。

 現実にどうするかは、本項のずっと後になって来る話題です。本項はとりあえず、基礎を導入している段階です。実用性を論議するのは、時期尚早です。
Posted by 管理人 at 2013年09月17日 22:32
学際交流が無いので、お手軽対策を推進するのでしょうね。
この考えを提言する役人やダム管理者が出てくる事を期待してます。そのためにはポジティブな意見交換で、より良いものにする事が必要なのでしょう。
旧来のダムは治水効果が無かった。という釣り雑誌の記事は今回の様にダム管理者の対応をさらに良くする事で、治水効果の増加が見込めそうです。
一方、本項とは別になりますが、ダムが砂で埋まって行くという悲しき問題も解決策を考える必要がありそうです。
Posted by 京都の人 at 2013年09月17日 22:33
初めまして。

たしかに電気物(モータとか)などは複雑な制御をして、見返りとして精密な位置制御などができます。これは「センサの精度が十分にある」、「最大能力よりもかなり小さな出力を使う頻度が多い」、「目標値への追従性を挙げたい(あるいは現状では不測)」などの制約から成立しています(と思っています)。

ダムの事前放出についてはおっしゃるとおりだと思います(これによる効果は別途)。

ダムの流量制御については、放流増量時も放流減少時も、流入量=流出量にできているので、応答性については今の制御で破綻していないと思います。応答性が十分である以上、あまりフィードバック制御(クローズド制御)は効果が出せないと思います。

定格放流150m3/sで決壊はしなかったので、この値は問題が無かったと私は思います。また、ダムからの流出ピークも、降雨のピークから6時間ほど遅らせられているので十分かと思います。
事前放水ができていれば、150m3/sを140m3/sにしたり、放出ピークをもう3時間遅らしてたりできたと考えます(特に2つ目については、被害をどれだけ減らす事ができたいかの評価が別途必要です)が、これもそれほど複雑な制御はいらないと思います。

ダムは簡単なモデルににかならないので、ダム自体の制御は簡単な方法で十分です。多分多くてこれぐらい。結局は1入力、1出力(&1初期値)
・流入量、(推定流入量)
・現在の水量、(最大貯水量、最低貯水量目標)
・流出量、(推定流出量、許容最大流出量)

ダムの放流制御自体は、複雑な処理を導入するは効果が見いだせないです。これは結局目標値(許容最大放出量?)がそれほど可変にできないからだと思います。

初期の放出量を増加させたりは意味があると思いますが、これは結局ダムの制御と言うよりは、流入量の予測になり、降雨予測と単純な1次遅れ系でモデル化できると思います。


もう1つの改善点としては、許容放出量については、下流の降水量を考慮して変更すると、浸水が減らせられるのかもしれません。
しかし、各地の浸水も主要因は各地域の下水処理能力だと思うので、ダムの放出量を変更できたら浸水が減るという理屈が必要になると思います。

結局は、予測の精度(例えば6時間後の降雨量)や計測の遅れ(例えばアメダス)が不十分なら、複雑な制御はかえって危険なんですよね。一定量を超える降雨が予測されるときは、予防放流をすべきなので、まずは今回の降雨量予測と、実際の降雨量がどれぐらい乖離があったのかの確認がまず必要だと思います。
Posted by 新井 at 2013年09月18日 01:55
例えば、代表的な豪雨、ダム、河川を仮定します。
総貯水量 6000万トン
洪水調節 2000万トン
ダムの流域に400ミリの総降水量があり、河川に最大8000万トン/日の流量があり、氾濫した。
 このケースでは、
洪水調節を3500万トンにして、事前放流等して均せば、4000万トン/日の流量に収まります。
(細かい数値は省き)

 その差1500万トンを1日で放流するためには、+173m3/s(毎秒173立方メートル)の
ペースで放流する必要があります。ダムの放流能力(通常の最大値600m3/s)からすれば、特に
問題はありません。未来の全てが事前に分かっていれば、技術的には可能です。

 問題は、
1)夏場に渇水を経験したダム管理者が、事前に、2500万トンの貯水量にまで放流して減らすこと
は、勇気が要るでしょうね。
2)ゆえに、合理的な根拠が必要です。

 ダム管理には、
1)信頼できる河川流出モデルが前提です。流域に降った降水量の時系列データが分かれば、河川流量
をほぼ正確に予測できるようなモデルです(数か月前の降水状況も影響します)。
2)初期値を少しずつ変えた予測を20本くらい走らせて、平均的な予測を基準にし、σ(標準偏差)
くらいの増減したものの3本で、ダム管理のシミュレーションを積み重ねる。
3)管理人さんの言われる、予測と実況のずれをフィードバックしていく補正法も重要です。
4)過去50年分くらいの大雨でテストして、利害得失を評価すれば、方法論のカイゼンが見えてくる
のでは。
5)公務員組織や公益法人組織は、定年延長をすること(60歳過ぎたらサポート役)、定員を3/4
へ自然減にすること、天下りしなくてすむので公益の仕事に専念できるようになることが、逆説的では
あっても、日本を復活させるためのポイントの一つでしょう。
Posted by 思いやり at 2013年09月18日 20:07
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