自治体が古紙回収に躍起になっている。読売が夕刊1面トップ記事で大々的に扱っている。
《 古紙持ち去り許すな…自治体が「GPS追跡」 》何とまあ、GPSまで駆使して、警察騒ぎにするそうだ。呆れるほど大がかりだ。しかし、そのすべては無駄である。この件は、これまでにも何回も指摘したので、過去記事を引用する形で説明する。
自治体が回収し売却益が財源にもなる古紙の持ち去りが横行している。
頭を悩ませる自治体と、古紙問屋の団体が協力し、全地球測位システム(GPS)による追跡調査に乗り出す動きが全国に広がりつつある。
相模原市は20日、この問屋に不正持ち去りの古紙を買わないよう要請した。市が回収した古紙類の売却益は年に約3億円。市は条例で資源ごみを自治体の所有物とし、持ち去りを禁じているが、古紙持ち去りの被害は推計で年約3000万円にのぼる。都リサイクル事業協会は都内の古新聞の持ち去り被害を約15億円(2009年度)と推計している。
( → 読売新聞 2013年8月26日 )
(1) 軽犯罪法
上記のように大がかりな摘発をするが、その対象は、ごく軽微な犯罪にすぎない。
裁判所というものは、人殺しにはとても甘い。酒酔い運転をした人も、たいして罪にならない。(次項で述べる予定。)こんな軽微な犯罪について、GPSやら警察やらを導入するのは、まったく馬鹿げている。古新聞を持ち去りすることぐらい、めくじらを立てなくてもいい。どうせなら、ひろゆきの脱税みたいな、数千万円規模のことでも考えたらいい。警察は、軽犯罪法違反みたいな微罪のためにあるんじゃない。
一方、古新聞を拾う古紙回収業者にはやたらと厳しい。どうも「猫ババ」の扱いのようだが、ただの「猫ババ」ならば、「遺失物横領罪」と同様で、軽犯罪法違反ぐらいの罪にしかならないはずだ。
ところが、自治体は、勝手に条例を制定して、古新聞を拾う古紙回収業者を目の敵にする。現金を10万円ほど猫ババした人だって、たいして罪にはならないが、たかが古新聞を猫ババすると、いちいち裁判所に訴えて(というか身内の検察を駆り立てて)、しきりに有罪に仕立てる。「こいつは悪質な犯罪者だ」とばかり。
( → 古紙リサイクルと自治体 )
(2) 被害額
上のように「見逃せ」という見解に対しては、「古紙持ち去りの被害は推計で年約3000万円にのぼる」という上記記事のような批判があるだろう。しかし、これは勘違いだ。
古紙回収業者は、誰かに損失を与えるかどうかより、むしろ、損失を減らす。つまり、「自治体の古紙回収コストを下げて、税金の損失を減らす」という効果がある。この効果の方が大きい。これは狛江市の例だが、どの自治体でも似たり寄ったりだろう。つまり、古紙回収によって売上げを得るが、その9倍ぐらいの経費がかかっている。
( → 古紙リサイクルと自治体 )
──
回収の経費と、回収物の売上げは、次の通り。
《 経費 》 《 売上げ 》
75718 千円(平成18年) 8750 千円(H 17.4〜18.3)
91545 千円(平成19年) 10107 千円(H 18.4〜19.3)
時期がいくらかずれているが、ざっと見て、売上げの9割程度9倍程度の経費がかかっていると見ていいだろう。(9割でなく9倍。げげげ!)
( → 古紙回収はエコでない 2 )
読売の記事では「都リサイクル事業協会は都内の古新聞の持ち去り被害を約15億円」と述べているが、その分、古紙回収の手間が減っているから、経費は大幅に減っているはずで、差し引きして、「盗まれれば盗まれるほど得する」ということになっているはずだ。
仮に、摘発が進めば、15億円の売上げ増加があるだろうが、回収の手間が大幅に増えて、経費が 100億円以上増えてしまうだろう。
結局、自治体と警察がやっているのは、「住民の税金の無駄遣い」を目的としたことだ。犯人をつかまえればつかまえるほど、巨額の税金が浪費されることになる。
( ※ たとえると、「害虫を退治しろ!」と言って、益虫を退治するようなものだ。その結果は? 益虫がいなくなったせいで、害虫が大繁殖して、莫大な損害となる。……それと同じことをやっている。アホくさ。)
(3) エコでない
それでも自治体は「エコのため」という名分を掲げるかもしれない。しかし自治体による古紙回収は、エコに反する。
民間の古紙回収業者がやれば、トイレット・ペーパーをプレゼントしてくれる。そのトイレットペーパーは、再生紙だ。一方、市販品のトイレットペーパーは、(シェアで)大半が新パルプだ。要するに、「古紙回収がエコになる」というのは、嘘八百なのである。自治体は嘘つき。
したがって、古紙回収業者がトイレット・ペーパーをプレゼントすれば、世間における再生紙の利用率が高まり、エコになる。
一方、自治体が古紙回収やれば、個人はトイレット・ペーパーをもらえない。仕方なく、自分で金を払って、トイレットペーパーを買う。その場合、大半は、再生紙でない「パルプ 100%」だ。自治体が古紙回収やればやるほど、再生紙の利用率が下がる。だから、自治体の古紙回収は、エコにならない。
( → 古紙回収はエコでない )
なぜ嘘をつくか? その理由は、下記。
→ 古紙リサイクルと利権
つまり、悪徳な役人の利権が、真の目的だ。(エコが目的ではない。)
(4) 新聞社の愚かさ
自治体がおかしなことをするのはともかく、新聞社がそれを是認する報道をするのはおかしい。
回収業者が各戸をめぐらないので、各戸から指定場所まで運ぶ必要がある。しかも、それは、非常に重たい。若い人ならば可能だが、年寄りには困難だ。年寄りでなくたって、非常に面倒だ。自治体の古紙回収によって、新聞の購読率がどんどん低下している。「昔は古紙回収業者が自宅まで取りに来てくれたのに。今さら、あんな重たいものをいちいち運べるか。もう、新聞購読はやめた」と思うわけだ。
「こんなしんどい思いをするくらいなら、新聞を取るのをやめよう」
と思う高齢者も多いだろう。それで当然だ。近年の新聞購読率の低下の一因は、ここにもある。
( → 古紙リサイクルと新聞社 )
自治体の古紙リサイクルを推進することは、新聞社にとっては、自分で自分の首を絞めるに等しい。むしろ、逆のことを推進するべきだろう。
「自治体の古紙リサイクルを止めよう! 古紙回収業者に任せよう! そうすれば、税金の無駄遣いが減るし、再生ペーパーの普及によってエコになる。金とエコのために、自治体の古紙リサイクルを止めよう!」
こうすれば、正義の報道となる。ところが現実には、読売みたいな新聞社は、悪のために報道する。(自治体の悪徳な利権のために貢献している。暴力団に貢献しているのと同様だ。)
まったく、呆れるばかり。
( ※ 以上の話について、詳しくは、引用した記事の本文を読んでほしい。)
[ 付記 ]
書いているうちに気づいたのだが、次の過去記事があった。
東京・西東京市は、リサイクル資源になる古紙が勝手に持ち去られるケースが相次いでいることから、古紙にGPS装置を取り付けて、持ち去る業者を特定する、全国でも珍しい取り組みを行うことになり、11日、運用テストが実施されました。つい先日も、この話題で言及していたわけだ。 (^^);
( → 古紙回収はエコでない 2 2013年06月11日 )
【 関連項目 】
→ 古紙回収はエコでない
→ 古紙リサイクルと自治体
→ 古紙リサイクルと利権
→ 古紙リサイクルと新聞社
→ 古紙回収はエコでない 2
これからも行政の無駄をどんどん指摘していただきたいです。
そうでもしないと、地方のお役人さまは生活できないんでしょうね。
個人業者も仕事が増えるのにな。