2013年07月28日

◆ 3Dプリンタの発明者は日本人

 3Dプリンタが話題になっているが、その発明者は日本人である。ただしその産業化に成功したのは、日本ではなく米国の企業である。なぜか? ──

 3Dプリンタが話題になっている。政府も支援するという。
  → 「3Dプリンター」、政府支援で巻き返し図る
  → 政府の成長戦略素案、3Dプリンタ投資

 人間の内臓さえも3Dプリンタでつくれるという。
  → 肝臓の3Dプリントが成功、人体への移植を目指す

 ただし、3Dプリンタを開発・販売している企業は、米国企業ばかりだ。日本企業はまったく追いつけずにいる。(だから冒頭で示したような、「政府支援」という話も出てくる。)

 ──

 ではなぜ、日本はこれほど遅れているのか? 開発の最初から米国に遅れていたのか? いや、そうではない。
 CPU の開発では、世界初のCPU「4004」を開発したのは、日本のビジコンという会社の嶋正利であった。(インテルとの共同開発。)
  → Intel 4004 - Wikipedia

 これは共同開発だったが、3Dプリンタの場合は違う。日本人が主体であった。その人は、小玉秀男だ。
 嶋正利の名は広く知られているが、小玉秀男の名はほとんど知られていない。Wikipedia にも項目がない。しかし彼の貢献は非常に大きなものであった。
 このことは、2013-07-28 の朝日新聞に詳しく書いてある。
  → 朝日新聞・朝刊 「ザ・コラム」

 有料記事だが、重要な情報があるので、一部を抜粋しよう。(朝日の独自情報ではないので、転載する。)
 33年前、名古屋市工業研究所の若手研究者だった小玉秀男さん(63)が、ふと思いついた。ヒントは、別々の展示会で見た二つの技術だった。
 一つは、図面を手で引くのではなく、コンピューターで立体的に設計する3次元設計。もう一つは、光をあてるとその部分だけ固まる特殊な液体「光硬化樹脂」だった。「ちょっと待てよ」。この二つを組み合わせたら、コンピューターで設計したものを自動的に試作品として作れるのではないか……。
 理論をつきつめ、勢いで特許を申請した。その後の実験も成功した。得意になって論文にまとめ、学会でも発表した。
 実用化を申し出る企業を待った。しかし、反応は乏しかった。
 上司からは、もっと成果の出そうな研究を求められるようになった。「研究者に向いていないんじゃないか」。研究所を去り、弁理士になって特許事務所に移った。
 その特許事務所にある日、商社から相談があった。米国のベンチャー企業がおもしろい特許を持っており、使用契約を結ぼうとしているのだという。特許の中身をみて驚いた。自分が過去に出願したのとほぼ同じ内容だった。調べたら、自分のは申請から年数がたちすぎて、無効になっていた。
 そのときの米企業が、後にこの世界で2強の一つになる3Dシステムズである。小玉さんより何年か後に同じ発明をした技術者が会社を起こし、出資者を募って成長を続けた。特許の数は1千を上回り、他社を寄せ付けない。
 記事はまだ延々と続くが、話の全体の趣旨はこうだ。
 「独創的な技術者が画期的な技術を開発しても、日本の会社はそれを支援しない。その後、米国の会社が同様の技術を二番煎じで出したあげく、世界の市場を席巻する。日本はせっかく先進技術を創案しても、企業が受け入れないので、せっかくの宝を捨ててしまっている」

 上の文章は、私の要約だが、そういう話が書いてある。なかなか示唆に富む。

 ──
 
 上に引用した文章と同様の内容の話は、下記でも得られる。
  → 3Dプリンターの真の発明者は?
  → 光造形は日本で発明され

 有益な話なので、ぜひ読んでほしい。(いちいち引用・転載はしない。)

 ただ、小玉秀男氏の3Dプリンタの業績を紹介する文献が、あまりにも少ないのが、残念だ。3Dプリンタは、これから大きく育つ可能性があるがゆえに、歴史的経緯もきっちりと記録しておくべきだと思う。特に、氏が存命のうちに、氏からきちんと資料を得た方がいいと思う。ITジャーナリストには頑張ってもらいたい。

 【 追記 】
 あとで気づいたが、下記に詳しい情報がある。歴史的経過を記している。
  → 光造形法の発明 (北口秀美)



 [ 付記 ]
 3Dプリンタの発明は、時代からあまりにも先んじていた。こういう人に浴びせられる称号は、何か? たいていは「トンデモ」みたいな言葉で呼ばれることになる。日本というのは、そういう国なのである。
 世間からあまりにも先んじた業績は、日本では理解されない。日本で理解されるのは、 enchantMOON みたいな製品ぐらいだろう。つまり、「世間から一歩先んじている」と見せかけておきながら、実際には他の競合者と同等レベルでしかない、というような製品。
 こういうふうに「一歩先んじた」と見せかけた商品は、日本ではとても人気がある。どんぐりの背比べ状態で、他人との競争ばかり、考えているせいかもしれない。それで、「一歩先んじた」と見せかけることで、非常に注目を浴びる。
 一方、「世間よりも 30年ぐらい進んでいる」というような独創的なアイデアだと、日本では受け入れがたいようだ。
 
 ちなみに、 enchantMOON の問題点を指摘した前項については、はてブや twitter などで、たくさんの批判が寄せられた。こういうガラクタのオモチャについては、大甘になるのが日本らしい。
 で、そんなことをしているうちに、米国あたりでは 他の誰かが Note Anytime みたいなアプリをさっさと実用化させて、大儲けしてしまうわけだ。
 
 enchantMOON みたいな製品を擁護している人々に忠告しておこう。
 「製品というものは、ひどい低レベルの未完成品は容認されない。一方、研究開発というものは、未完成品であっても、可能性が大きければ容認される。……ここでは、成否と、研究開発とを、区別するべきだ」

 enchantMOON は、試作品として研究開発するだけならば、私としても大いに支持しよう。しかしそれを販売するのは、ひどすぎる。特に、「未完成品だ」と告知しないのは、詐欺的と言われても仕方ない。
 
 日本がなすべきことは、未完成品を完成品と称してカモに売りつけることではない。新たな可能性を持つような独創的な研究開発をすることだ。
 3Dプリンタの特許の大部分は、今のところ米国企業に奪われてしまった。(小玉秀男の特許は、すでに時効になった。)
 とはいえ、新たな独創的な技術は、どこかに眠っているはずだ。そういう技術を大切にするべきだ。enchantMOON のような完成寸前の技術については、研究開発ではなくて、大手企業が本格的な製品開発をするべきなのである。(実際、ソニーなどがすでにやっている。 → 前項の最後 )
posted by 管理人 at 09:27 | Comment(10) | コンピュータ_03 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
重箱の隅をつつくようで恐縮ですが、Note Anytimeは日本製です。ATOKで有名な浮川和宣氏が開発し、自分の会社で販売しています。まぁ、日本の大企業ではなく、小さな組織ならではの好事例と言えるかもしれませんね。
Posted by 深海誠 at 2013年07月28日 21:43
> Note Anytimeは日本製

 あ、そうだったのか。この件、確認する必要があるな、と思いながらも、外出の直前で時間がなかったので、調べないままアップロードしてしまった。

 ご指摘ありがとうございます。訂正しておきます。
Posted by 管理人 at 2013年07月28日 22:07
研究者の人件費などは今払わないといけませんし、先進的ですぐにはお金にならないものを支えるのはそれなりの土壌やシステムがいりそうですよね。
日本はそういう余裕(?)が少ないということですかね?。
Posted by K at 2013年07月29日 00:17
リンク先を読んで、交渉に負けた日本人の悲哀を感じました。無効化請求さえ通らなかったのは実に悔しい。
特許でよくある事例ですが、先発明主義の米国と先願主義の日本の違いも影響していたのでしょう。
20年以上前からマイクロマシン関連で光造形は進んでいて、レジストのエキシマレーザー露光による微細加工技術、メッキによる厚膜加工技術を組み合わせることは成されていました。
リンク先の歯車の写真はまさにそれです。
樹脂でできた歯車を雄型にメッキで雌型を作ろうとかしていましがが、結局用途が無かったので予算を削られていた様な気がします。
アイデアと技術だけではなく、それを用いた製品像をアピールするセンスも要求されるので、技術者、研究者も大変だと思います。
Posted by 京都の人 at 2013年07月29日 22:12
戦時中に開発された八木・宇田アンテナが日本軍には全く無視された。それをYAGI-RAYとして英国がメッサーシュミットに採用し、日本軍がレーダー技術で不利になった。日本軍は敵機の残骸にYAGI-RAYと書いているのを観て「なんだこれは?」と理解不能だったという。ばかだよね。

 あの時とまた同じ事をやっていたなんて、ほんとに悲しくなりますね。
 現在も人型ロボットの技術はピカイチなのに、なぜ政府がこの産業を推進しないのか不思議です。テスラモーターズの汎用ロボット受注はドイツのKUKAに取られてるし。
 最近日本政府は介護ロボットを支援するらしいけど、これもヨーロッパが筑波大学のHALに対して医療機器の認定をしたからだろう。成功する見込みが少しでも不確かだと手をだそうとしない日本政府。責任回避の体質はまだ残ってる。ほんと、だめだめだね。
Posted by パピガニ at 2013年08月15日 23:37
3Dプリンタについては Wikipedia も参照。

 日本人が開発したのは、光硬化樹脂を使うタイプだったようだ。
 一方、現在の3Dプリンタでは、熱溶解積層法方式が主流であるらしい。
 この双方は異なるので、3Dプリンタと言っても、別々のものと見なした方がいいのかもしれない。
Posted by 管理人 at 2013年08月23日 21:00
ここで書かれているのは光硬化樹脂を用いたいわゆるラピッドプロトタイピング装置ですね。
(通常この形式の物は3Dプリンタという名称は用いられません)

今話題になっている3DプリンタとはFDM(熱溶融方積層式)という物で、米国ストラタシス社で開発された純然たるアメリカ産ですよ?
Posted by at 2013年11月18日 10:27
> ここで書かれているのは光硬化樹脂

 一つ前のコメント欄に書いてあります。
Posted by 管理人 at 2013年11月18日 12:16
日本で権力持ってるのって理解力に乏しい人ばっかりだから、せっかくの資質を腐らすのかもねぇ
Posted by at 2014年01月29日 20:00
記事にケチをつける積もりは毛頭ありませんが、CPU(Central Processing Unit)の発明者も日本人(島正利さん)ではありません。

今では当たり前の事ですが、昔は蓄積プログラミング(≒実行命令列)制御などと称して、プログラム外出し方式計算機のインプリメンテーションの中核装置として、CPUは発明されました。
その装置は最初は真空管で、その後トランジスタが発明されると複数枚の半導体基板で構成されて、CPUはけっこう大きな部品群でした。このプログラム外だし方式の計算機の全体を、いわゆるノイマン型計算機と呼びます。
このノイマン型計算機の中央処理装置(群)がCPUです。

島さんがもたらした大きな業績というのは、これら複数の半導体基板から為るCPUをワン・チップ化させたことです。
しかしそれは、CPUを発明したことにはなりません。

余談ですが・・・。
CPUのU、つまりUnitという単語は、複数の部品(モノ)で統合的に(Unitedに)ひとつの有意な集合体を為す、というニュアンスの語彙です。
CPUという単語の中のUnitという頭文字は、CPUという代物が元々は複数の部品/基盤で構成されていたという事実を、今に伝えています。
実際、マイクロ・プロセッサ・チップすなわちCPUチップが一般的になる前までは、計算機全体でCPUというユニット架は沢山のIC基盤で構成されていました。

このCPUのワンチップ化→量産化を可能としたのが島さんです。どの機能までをチップ内に納めどこから先をチップ外に追い出すか、大きな葛藤(チップ・デザインの選択)はあったと思いますが、どちらかといえば製造技術にあたります。CPUを発明したのではありません。

反対に、ご指摘の主旨の全体像、すなわち日本の政府やアカデミズムや果てはプライベートな大企業に至るまでが、自身の構成員が時折だしてくるアイデアの重要性に気づかぬという事態がまゝあって、組織としてセンスや創造性に乏しいというご指摘は、これは本当にそう思います。全面的に賛成です。
ただいっぽうで、その様な創造性薄い組織に飼い慣らされているせいか、我々日本人自身・構成員自身も、想像性豊かな革新的なアイデア・素晴らしい発想になかなかたどりつけていない、これも事実だと思います。
Posted by RA at 2014年05月23日 10:47
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