漫画「進撃の巨人」には、巨人が出てくる。これは、人間が巨大化してウルトラマンになる……という先例に似ている。
では、「進撃の巨人はウルトラマンのパクリだ」と言えるだろうか? よく考えてみよう。
ここでいきなり私の見解を言うと、こうだ。
「進撃の巨人に登場する巨人とは、ただの巨大な人間ではなくて、人形(ひとがた)の怪獣である」
したがって、この巨人は、ウルトラマンというよりは、ウルトラマンに敵対する怪獣に相当する。その原型はゴジラである。
つまり、進撃の巨人は、ウルトラマンのパクリというよりは、ゴジラのパクリに近い。
ただ、いかにも怪獣っぽいゴジラではなくて、人形(ひとがた)の怪獣であるところに、進撃の巨人の独創性がある。
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さらに似た例を挙げると、「人間に似て非なるもの」としてのアンドロイドがある。これは映画「ブレードランナー」(原作:アンドロイドは電気羊の夢を見るか?)が先例となっている。昔ながらのロボットふうのアンドロイド(サイボーグ009みたいなのを含む)とは違って、人間同様の姿でありながら人間に敵対する、という原理で話が進む。これは「進撃の巨人」と同様だ。
また、似た例として、エヴァンゲリオンがある。これは、いかにもロボットらしい巨大ロボットである鉄人28号や、ガンダムとは違って、人間ふうの姿をした巨大ロボットだった。作者自身が「ウルトラマンをパクった」というような話をしているらしい。
では、進撃の巨人は、ブレードランナーやエヴァンゲリオンと同様のものか? いや、実は、大きな違いがある。次のことだ。
「ブレードランナーやエヴァンゲリオンなどは、SF であり、科学に基づいた合理的な説明があった。一方、進撃の巨人は、科学に基づいた合理的な説明がない」
きちんとした説明があるかないか。ここに決定的な違いがある。
そして、このことゆえに、次の二つのタイプに分かれる。
・ 合理的な説明がある → SF
・ 合理的な説明がない → ホラー
つまり、進撃の巨人は、科学的に合理的な説明がないがゆえに、SF ではなくなって、ホラー になっているのだ。
このことで、ブレードランナーや エヴァンゲリオンや ガンダムなどとは まったく別のタイプの作品となっている。
逆に言うこともできる。進撃の巨人は、「合理的な説明がなされない」ことを逆手にとって、さまざまな謎を提示し、同時に、読者に不安感を与えるのである。
たとえば、「巨人が人を食う」というのも、そうだ。これもまたホラーの特徴だ。
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以上をまとめると、次の二つだ。
・ 巨人は、人形(ひとがた)の怪獣である。
・ この作品は、SF ではなく、ホラーである。
では、この二点で話は済んでいるか? 実はそうではない。
第1に、この作者は頭がいい。人形(ひとがた)の怪獣というのは、これまでのゴジラやウルトラマンやエヴァンゲリオンやブレードランナーなどをすべてまとめた総集編という感じであるが、その意味では当然だとしても、それをまさしく始めて登場させたという意味で、独創性がある。言われてみれば「コロンブスの卵」であるが、それをまさしく最初に提出したという意味で、頭がいい。独創性もある。
第2に、ストーリーテラーとしての才能がある。単に上記の二点だけならば、ただの一発屋になっていただけだろう。実際には、長々と話を続けて、多くの読者を引きつけている。それは「謎を少しずつ出す」というストーリーテラーとしての才能があるからだ。その意味で、立派な漫画家なのである。
最後に一言。
「ホラーだ」と述べたが、単なるホラーとは違う。普通のホラー映画とはかなり異なる。広い意味のホラーに含まれる、というだけだ。
大事なのは、「 SF ではない」ということだ。このことで、「読者は若い男性(特に理系っぽい人)に限られる」という傾向がなくなった。つまり、オタクっぽさがなくなった。エヴァンゲリオンみたいに一部のオタク集団のみに強く支持されるということがなくなった。要するに、大衆性を得た。……これが大事なことだ。
そして、それはまた、「優れたエンターテインメントである」ということを意味する。それが最も重要なことだろう。
そのエンターテインメントの性質が、この作品ではどういう傾向であるかを、本項では示した。
なお、当然だが、同種の傾向の作品を、別の人が漫画にしても、とても成功しないだろう。やはり、作者の優れた構想力がある。それが大事だ。
[ 付記 ]
ただ、商業的に言うなら、一番のヒット要因は、アニメの制作委員会が莫大な資金を投入して、作画に力を注いだことだ。これは、私が前に指摘したことに沿っている。
→ アニメ産業の低賃金
ここでは、「金をかけず、アニメーターが低賃金だから、ひどい作画のアニメばかりができる」と批判した。
一方、進撃の巨人というアニメでは、最初から莫大な資金を投入して、高品質な作画を実現している。もとの原作をはるかに上回るレベルだ。(後述:朝日)
ここでは、制作委員会の慧眼を称えよう。ただ、そういう慧眼が生きたのも、原作となる漫画のストーリーが良くできていたからだ。その意味でも、作者の才能が大事だろう。「漫画に大切なのは絵柄よりはストーリー性だ」ということが窺える。
[ 余談 ]
ついでに一言。
ひとつ注文を付ければ、(アニメでなく)漫画の絵が下手すぎる。だんだんうまくなってはいるが、まだまだ下手だ。本人も自覚している。アニメでは、スタッフが優秀なので、とても上手な絵柄になっているが、漫画の方は違う。
ただ、この点は、絵の上手なアシスタントを雇えば済む問題だ。「作者はストーリーに注力して、絵柄はアシスタントに任せるべきだ」と助言したい。たとえば、赤塚不二夫はそうだった。本人はネーム(台詞)ぐらいしか書かず、あとの作画はアシスタントに任せていた。進撃の巨人の作者も、そうするべきだろう。
次の参考記事がある。
→ 巨人、快進撃 (朝日新聞)
絵柄について引用すると:
「巨大なものが迫ってくるという、人間の原初的な恐怖に強く訴えてくるマンガだ。絵も、洗練されたものだったらこんな不気味さは出なかった」と、評論家の呉智英は評する。
これがデビュー作の諫山は「自分の絵は商品のレベルに達していないと思っていた」と言い切る。それが大ヒット。「マンガ大国・日本の読者層の広さに驚いています」。ちなみにアニメ版の出来については「マンガが百点だとしたら2億点ぐらい。そのぐらい満足しています」。
【 関連サイト 】
→ およそ8年ぶりに二次元に萌えて、同人界の激変を感じた
※ エンターテインメントとしての出来が良いらしい。
→ 進撃の巨人は寓話性がないので再読がきつい
※ 寓話性を重視しているが、関係ないだろう。この作品は
あくまでただのエンターテインメントだ。
→ その はてなブックマーク
※ 再読に堪えないという点には同意する声が多い。
ま、エンターテインメントだし、芸術性はない。
その点は、「火の鳥」みたいな高度な漫画とは違う。
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こうして見ると、「進撃の巨人」は、「風立ちぬ」(ジブリ)とは、まったく逆方向の作品だ、とわかる。
前者はエンターテインメントに突き進み、芸術性はほとんどなし(作画以外は)。すごく面白いが、感動は何もない。
一方、「風立ちぬ」(ジブリ)は、エンターテインメント性がほとんどなくて、芸術性がある。ちっとも面白くないが、(大人には)深い感動が残る。
ま、どっちが好きかで、好みが分かれるんでしょう。
( ※ 私は? 実は……むにゃむにゃ。ナイショ。)
【 関連項目 】
映画では脚本が大切だ……という話を、前にもしたことがある。
→ 日本映画がコケるわけ
→ 映画「あしたのジョー」
その点、進撃の巨人では、脚本に相当する原作のストーリーがしっかりしている。それが最も大切なことだ。
メルヴィルの「白鯨」は、大自然全体の象徴であり、神のごとき偉大さを感じさせます。その前では人間があまりにも小さな存在であることを窺わせます。
これはまだ怪獣やキングコングが登場する以前の作品です。ゴジラが初めて登場したときに、神のごとき威厳を持っていたのと似ています。
「巨人」に神のごとき偉大さがあるかと言えば、そうではないでしょう。あくまで恐怖の対象です。だから人間を食ったりする。人間を食うようなものは、恐怖の対象にはなりますが、神のごとき威厳を持つことはできません。むしろ下劣な存在だと見えます。
ただ、「津波」にたとえるのは、いいかもしれませんね。同様の巨大なパワーは感じられる。
私は別に、進撃の巨人を否定しているわけじゃありません。芸術性があまり高くはないと言っているだけ。作者の話を聞いても、知性の高い人間だという気はしません。メルビルや手塚治虫がとても高い知性だったのとは大きく違っています。この二人の水準には遠く及ばないと思えます。(エンターテインメント性では上回っているかもしれない。それで十分でしょ。)
メルビルや手塚治虫は、天才と呼ばれることも多いのですが、諫山創は、天才と呼ばれるほどではないと感じられる。ガラスの仮面の作者なら、天才と呼んでもいいけど。
→ ガラスの仮面・最終巻の予想
http://nando.seesaa.net/article/76085642.html
エヴァと違い大衆向けというが今じゃエヴァの方が大衆向けだろう。
パチンコファンの老若男女が本編に逆流する事でファン層が大きく広がりましたし。
この作品が本来強烈なエンターティンメント指向を持っている事は、新劇場版の2
作目を見ていただければ(管理人様なら)容易に喝破されると確信しております。
>マヴラヴ
エロゲは創作の母体として以外に侮れない所がありますね。スケベを入れて購買本
数を確保できれば(かつてのロマンポルノみたいに)それ以外の表現はかなり自由
にやって構わないですし。昔当方が遊んでみた某タイトルは、タイムパラドックス
を実にうまく処理していて感嘆した後、それがヒロインを年齢別に使いまわす意図
だった事に気が付いて苦笑した事がありました。
参考にしたガンパレ自体が本来の設定が黒いので
大衆向けにそう言った部分を切り離して、黒い部分を世界の謎と分けてぐらいです。
アニメ化も本編ではなく外伝からの様子見って
感じでしたからね。