Suica の乗降履歴という個人情報が有料で販売されていた。
提供データは、私鉄を含む首都圏約1800駅の利用者の性別、年齢、乗降日時。定期券として使う客の場合も氏名や住所は除き、IDで個々のデータを識別する。日立製作所が購入し、駅ごとの集客力や客層を分析の上で販売。情報料は最低で年500万円になるが、「企業のマーケティング戦略に役立ち、需要は大きい」と説明する。記事ではわかりにくいので、図を見るといい。
( → 2013年7月18日 読売新聞 )
→ 図
つまり、次のようになっている。
・ JR は日立製作所に、個人名を隠した生データを渡す。
・ 日立製作所は、それを統計処理して、一般販売する。
・ 一般企業は、統計処理したデータのみを購入できる。
(日立製作所のもつ生データを購入することはできない。)
──
さて。ここで懸念されているのは、次のことだ。
「ある特定の場所で特定の時刻に乗降したことがわかると、たとえ匿名だとしても、個人が特定されるので、個人情報の漏洩となる」
たとえば、ストーカーが美山花子さんを尾行して、「武蔵境駅に 08時05分44秒に入場した」という情報を得る。この情報を得たあとで、販売された Suica の乗降履歴と照合する。すると、「武蔵境駅に 08時05分44秒に入場した乗客は、年齢が 23歳で、毎日 08時45分に神泉駅に下車する」というような情報を取得する。こうして彼の大好きな美山花子さんの個人情報を入手する。
この問題は、匿名化した生データを見ることで、可能となる。一方、統計処理したデータを見るだけでは、不可能だ。
──
この問題を避けるには、次のようにすればいい。
「統計分析する前の生データは、たとえ匿名であっても、一般販売しない」
これならば、特に問題ないだろう。統計分析の結果ならば、個人情報は含まれないのだから、美山花子さんの行動はまったく見えなくなる。
だから、今回のポイントは、次のことだ。
「統計分析する前の生データを入手した日立製作所に、個人データの守秘義務があるか否か」
具体的には、次のことだ。
「日立製作所が個人情報を漏洩させた場合には、日立製作所が莫大な違約金を払う契約になっているか」
たぶん、なっていない。そこが問題となる。
逆に言えば、そのような契約があれば、特に問題ではない。たとえば、次の契約だ。
「日立製作所が個人情報を漏洩させた場合には、日立製作所が1件(1人)につき1万円の違約金を払う。100万人の情報漏洩があった場合には、100億円の違約金を払う」
このような契約をすればいい。そのあとで、情報漏洩があったなら、情報を漏洩された人々に「迷惑料」として1万円を払えばいい。これでOK。
だから、このような契約(違約金契約)ができているか否かが、ポイントとなる。
どこがポイントかを、理解しておこう。
[ 付記 ]
この問題は、「セキュリティの問題」というよりは、「個人情報の扱い」の問題である。似ているが、ちょっと違うので、注記しておく。
セキュリティの問題ならば、セキュリティを高めることだけが最優先事項となるが、個人情報の場合には、セキュリティを高めることよりも、個人補償の制度を整えることの方が重要だ。
「賠償金を払えば済む」という程度のことであるにすぎない。
( ※ 国家や企業の機密情報とは違う。)
経済合理性努力(ラーメン店の出店を検討)とプライバシーとは言えない段階の情報(年齢25歳、A駅から
B駅まで乗車くらい)をカップリングするだけなら、悪いことではないでしょう。
プロ野球のように、欺いて密かに「飛ぶボール」に差し替える白黒反転のキツネ精神は、よろしくありません。
プライバシーの線引きをして、そこを越えた情報を流したら、罰則を厳しくやればいいのではありませんか。
管理人さんが言われているように、そのような場合は補償してもらう制度があればいいでしょう。
>「武蔵境駅に 08時05分44秒に入場した乗客は、年齢が 23歳で、毎日 08時45分に神泉駅に下車する」というような情報を取得する。こうして彼の大好きな美山花子さんの個人情報を入手する。
こんな情報はストーカーなら用意に入手出来ます。わざわざデータを分析するまでもありません。
表札を出している家庭がこれだけある日本で、個人情報というとなんだか大げさに考える人が多すぎます。
年齢はわからないし、毎日の時刻はストーカーが会社を休まないとわからない。
あと、神泉駅って、渋谷のラブホ街に近い駅なんですよね。ある特定の日だけ、彼氏といっしょに神泉駅で降りた、なんて知られるのは、気持ち悪いんじゃないの?
あと、「ストーカーならば入手できるから、その情報を公開してもいい」というのは、理屈が変ですね。それはいわば「誰もがストーカーになってもいい」ということに相当しますから、論理が滅茶苦茶です。
例。
「殺人犯ならば容易に人を殺せる。ゆえに殺人ぐらいしてもいいのさ」
「痴漢ならば容易に女の胸に触れる。ゆえに女の胸に触ってもいいのさ」
この問題はストリートビューの話題で扱いました。
→ http://google-and.meblog.biz/category/60722.html
表札を、路上を通る人に見せるということと、電子化して日本中にデータ提供するということとは、まったく別のことです。前者が許されるからといって、後者が許されるということにはならない。なのに、論理飛躍をする人が多すぎる。
この違いがわからない人が多いから、最近では「クラス名簿」というものが作られなくなってきている。おかげでクラスの同級生同士で電話連絡することもままならない。
クラスないで名簿を共有するということと、その名簿を全国にデータ提供するということとは、まったく別のことなのだが、その区別ができない人々が、やみくもに「クラス名簿は禁止」というふうに唱える。
個人情報の保護とは何か、ということを理解できない人が多すぎる。