精神疾患を説明する新説が出た。トーマス・R・インセルの説。
→ 今までの精神疾患の認識を破壊せよ(トーマス・R・インセル博士の論文。その1。)
要旨は次のことだ。
- 精神疾患の理由は、化学物質でもないし、心的要因でもない。
- ゆえに、従来の治療法は無効である。(化学物質の薬剤による治療は無効であるし、心的なカウンセリングによる治療も無効である。)
- 現在の若年の医療費の 40%は、精神疾患向けである。これほど莫大な医療費が、無効な治療のために費やされている。
- 精神疾患の理由は、脳自体にある。特に、脳の回路の問題だ。
- 精神疾患の理由は、発達障害である。なぜなら、精神疾患は、生まれたときから発症しているのではなく、人の成熟につれて生じるからだ。
( ※ ただし、はてなブックマークでは、悪評がいっぱいだ。素人が多いせいか、とんでもない勘違いも見受けられる。)
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そこで、私なりに、少々解説しておこう。
第1に、この新説は、「脳の器質障害」というふうに述べているのではない。特に、「脳の機能局在論に基づいた、局所的な器質損壊による障害」というふうにはとらえていない。混同しないこと。
この新説で述べているのは、「脳の回路の障害」であり、神経細胞レベルの障害だ。組織レベルの障害とはいささか異なる。では何かというと、神経レベルで何らかの問題が起こっていることを示唆する。
ここで、「正常な神経があって、神経の働きだけが異常である」のならば、化学物質で解決するだろう。あるいは、心的カウンセルで解決するかもしれない。しかし問題は、そこにはない。「正常な神経があって」ということ自体が成立していないのだ。神経そのものに何らかの異常があるのだ。(物質レベルで。)
第2に、この問題は、人の発達の過程で生じる、という点が重要だ。たとえば、「智恵子抄」で有名な智恵子は、もともと優れた人格の才女だったが、神経疾患を発症することによって、人格の崩壊のような症状が生じた。
ここで、脳に問題が起こったのは(上の第1ゆえに)明らかだろうが、この問題は、「頭をぶんなぐる」というような外的傷害によって生じたのではないし、「毒薬を飲む」というような化学的傷害によって生じたのでもない。本人自身の成熟の過程で、ひとりでに生じたものだ。ここが重要である。
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さて。ここで注意。
上の第2のことを、トーマス・R・インセルは「発達障害」という言葉で呼んでいる。しかし、これを「発達障害」と呼ぶのは、誤解を招きやすい。
「発達障害」というのは、「正常な発達ができなくなること」(幼稚な段階に留まっていること)を意味するのが普通だ。
→ 発達障害 - Wikipedia
一方、上の第2で示しているのは、「正常な状態から異常な状態へと崩壊していくこと」である。これはむしろ、「発達異常」または「自己崩壊」と呼ぶべきことだろう。

正常発達では、時間とともに完成度が高まる。第二次性徴期に急激に高まり、20歳前後で頭打ちになる。
発達障害では、時間とともに完成度が高まる度合いが弱い。十分に完成しないで、停滞しがちだ。
発達異常(または自己崩壊)では、いったん完成したあとで、時間とともに完成度が急激に低下する。
著者のトーマス・R・インセルが意図しているのは、上の「発達異常」のことだ。とすれば、これを「発達障害」と呼ぶのは、用語の混同を招きやすいので、好ましくない。……これが私の認識だ。
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上の区別をするのは、私がもともと「発達異常」という概念で精神疾患をとらえていたからだ。トーマス・R・インセルはこのたび新たな説を出したわけだが、同様の認識は私も前から出していた。
また、私の場合は、その原因も示していた。こうだ。
「遺伝子の欠陥ではなくて、遺伝子の発現の異常」
説明しよう。
普通の遺伝子疾患は、遺伝子の欠陥がある。この場合、正常な遺伝子がないわけだから、その機能については「完成」自体がありえない。
比喩的に言えば、赤緑色盲は遺伝子疾患だが、患者はそのための遺伝子をもともともたないので、赤緑色盲という症状を発現する。当然ながら、あるとき突然、赤緑色盲を発症するのではない。生まれたときから赤緑色盲となっており、その症状は改善もしないし悪化もしない。
一方、「遺伝子の発現の異常」という問題が生じることがある。遺伝子そのものは正常ではあっても、遺伝子の作用が不完全になる場合だ。
これは、遺伝子そのものに異常があるのではなくて、遺伝子を発現させる仕組みに異常が起こることになる。特に、次のようになることがある。
「遺伝子そのものは、最初から最後まで、ずっと正常である。ただし、遺伝子を作用させる仕組みに、ある時期になって急に異常が起こった。そのせいで、遺伝子が正常に作用しなくなって、重大な問題が生じるようになった」
具体的な例としては、次のケースが想定される。
「ドーパミンを脳内で産出するための遺伝子そのものは正常である。しかし、その遺伝子を作用させるための補助的な遺伝子に、あるとき急に異常が起こった。そのため、ドーパミンの産出に異常が発生した」
このように考えると、いろいろとうまく説明できる。
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ここでは、「遺伝子を作用させるための補助的な遺伝子」というものが話題になっている。このような補助的な遺伝子があることは、「 DNAのガラクタ部分にも働きがある」ということで、前に話題になった。下記に詳しい。
ゲノム(つまりDNA)のうちの遺伝子の部分は2%であり、残りの98%は役割がわかっていなかった。「役割を持たないガラクタだ」と言われたこともあったが、「何の役割をしているのかわかっていない」と言われるのが普通だった。このような遺伝子の機能の異常による疾患として、自己免疫疾患がある、という話もした。そのことから、「統合失調症は、自己免疫疾患と同様のメカニズムをもつのだろう」と推定された。
ところがこのたび、新たな研究成果で、8割の部分は役割があるらしいとわかった。その役割は、遺伝子の ON・OFF の役割だ。
( → ゲノムの非・遺伝子部分 )
→ 統合失調症は自己免疫?
そして、その「同様のメカニズム」というのが、遺伝子の ON・OFF であり、その異常から起こるのが統合失調症だ、と推定された。
→ ゲノムの非・遺伝子部分 2
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というわけで、トーマス・R・インセルの新説は、2012年09月09日の私の新説とよく似ている。
というか、トーマス・R・インセルの新説は、私の説にまだ追いついていない。「原因は遺伝子の非遺伝子部分の異常だ」ということを、指摘していないからだ。
トーマス・R・インセルの新説については、そのうち、さらに補強される新説が追加されるだろう。そして、その新説は、私が本項で述べたことそのまんまとなるだろう。
逆に言えば、誰かが、私が本項で書いたことを論文に書けば、それだけで立派な学術論文になるだろう。誰か、書いてみれば? (私の名前を共著者に書いておけば、剽窃扱いされることもありません。楽して、大論文を書けます。歴史的な意義もあります。)
[ 付記 ]
本文中の図には示していないが、ADHD というものもある。これについては、原論文にグラフがある。(冒頭リンク先でも見つかる。)そのグラフを見ればわかるように、
「完成度が数年間、時間的に遅れる」
というタイプの曲線だ。つまり、ある時期においては完成度が高まらないのだが、数年遅れて、完成度がどんどん高まり、やがては正常の人々に追いつく……というタイプだ。
これは、本項における「発達障害」とは異なる。では何かというと、単なる遅れだから、「発達遅延」と呼ぶといいだろう。
ただ、どうしてこういう「遅れ」が出るかという根本まで考えると、「一時期だけの発達障害」というふうに理解すればいいだろう。ある時期だけに発達障害が発生して、その後は回復した、というわけだ。「軽度の発達障害」というふうにも解釈できそうだ。
【 追記 】
精神疾患とストレスは、かなり強い関係がある。特に、うつ病や、PTSD は、ストレスが主たる原因だと言っていいだろう。
ではなぜ、ストレスが精神疾患をもたらすか? それは、本項の原理で説明できる。
「ストレスのせいで、遺伝子の作用が異常を起こす」
簡単に言えば、「遺伝子の暴走」または「遺伝子の停止」である。強いストレスのもとでは、「遺伝子の暴走」または「遺伝子の停止」が起こりがちだ、ということは、精神疾患に限らず、他の肉体器官でもあり得る。(典型的なのは、胃痛。他の例も。 → 一覧 )
頭を使って疲れが溜まるような頭脳労働者は、疲れが溜まりすぎないうちに、きちんと休みを取りましょう。私も先日、ひどく疲れが溜まったので、疲れが取れるまで1週間以上かかったものだ。
疲れが溜まると、心身とも変調を起こします。最悪の場合、うつ病になって、自殺します。ワタミやユニクロでは、よくある例。ご注意あれ。
( ※ コーヒーの飲み過ぎにもご注意。)

それが30代や40代なら若年性という枕詞がつくのでは?と。
ヒトの老化の話や、高齢化に伴う癌の発現率増加も繋がりそうです。管理人さんこそ論文化すべきでは(という暇はないのでしたね)。
ただ、よく考えてみると、アルツハイマー病は化学物質が原因となっているらしくて、化学物質の薬もできてきています。
→ http://www.qlife.jp/square/oshiete/story34118.html
その意味で、ちょっと方向違いかも。
ただ、示唆としては、いい線いっている感じもする。研究の価値はありそう。
タイムスタンプは 下記 ↓
解決策は予防をすることしかないのですかね。
精神疾患も、うつ病ぐらいならば、ストレスを溜めないことで治すことはできるが、統合失調症のように、人間がうまく扱える範囲内にはないものも多い。
予防としては、ストレスを溜めないことが大切です。
たとえば、若い女性が性的被害に遭ったとき、自殺するか否かは、その被害自体によるよりは、それ以前のストレス耐性訓練の有無によるとも言えます。
親としては、子供を甘やかさず、きちんと躾をすることが大事でしょう。また、子供をきちんと叱ることも大切でしょう。親に何度も叱られていると、いくらかストレス耐性訓練がつきます。スポーツ鍛錬も有効。
→ http://itmama.jp/2013/06/16/8928/
お手軽な対症療法が列挙してある。
ただ、私の見解を言うなら、「きちんと眠って休むこと」が、最も有効だ。特に、疲れたときの昼寝。単に雑用をしていたのでは駄目で、きちんと昼寝することが大切。この件は、前にも述べた。
> 「休むときは、きちんと眠る。起きたままツイッターなんかをやっていれば、単に時間を無駄にするだけであり、疲労回復効果はゼロも同然だ」
→ http://openblog.meblog.biz/article/9991871.html
「今までの精神疾患の認識を破壊せよ(トーマス・R・インセル博士の論文。その2。)」
→ http://blog.livedoor.jp/beziehungswahn/archives/28857720.html
これ昔からよく言われていることですが、うつ病などの精神疾患(ブログで取り上げている)レベルになると、逆のような気がします。
程度の差はあれ子供の頃から甘やかされて育っている子ほど、社会に出て自分を守る術を身に着けている(自分を犠牲にしない)=ブラック企業でストレスを抱えて自殺するというルートを辿りにくい(耐えられないから)
子供の頃から苦しいことや辛いことに耐える訓練をしていると、社会に出てもそれに耐える習慣を身に着けてしまう=ブラック企業で深刻なストレスを抱えても耐えようとする⇒逃げることを知らずに自殺
今回の記事は遺伝子の発現異常ということで、ならば、その異常は子供時代にスイッチを切られている可能性もあるのでは。子供時代に何らかの理由で日常的なストレスを受けていると、ストレスから逃げる(交わす)スイッチを切られてしまうとか。ストレスに対する耐性がないのではなくて、ストレスによってフリーズしてしまう状態(まさに発現異常)。
うつ病は真面目な人ほどかかります。
子供の頃から苦しいことや辛いことに耐えていた人ほど大人になって深刻な精神疾患に陥いる気がします。
さんざん甘やかされて育ってきた人が精神疾患にかかった例は聞いたことないですね。
智恵子の場合も人格的に立派な、強い自制心のある方だったから崩壊したのかもしれません。
我がままな人だったらそうなる前にさっさと光太郎の元を離れるでしょうから。
私の話は、「同じ現実的圧力を受けたときに、自分の抵抗力を高める」という話。
ふむふむ さんのは、「抵抗力を高めると、かえって限界が高まって破綻する」という話。
ブラック企業の場合は、もともとブラック企業が悪いのであって、被害者の側がどうこうするといいというわけじゃなくて、逃げ出すのが正解でしょう。
「ブラック企業で死ぬのが怖いから、子供を思いっきり甘やかそう」なんて、話の方向が変でしょう。ブラック企業対策で人生を歪める必要はない。
>うつ病は真面目な人ほどかかります。
これは同意します。
でも、だからといって、「不真面目になれ」というのは、結論の方向が狂っています。
智恵子の場合は、うつ病じゃなくて、統合失調症です。環境はあまり関係ない。何をしようが、先天的に必然的に発症していた可能性が強い。
コメント欄のリンク「続編」(その2)にあるように、先天的な要素が高いんです。
発現異常を起こす何らかの原因が成長段階に起因しているとおっしゃってますよね?
それを子供時代に訓練やストレスに対する耐性をつける、とコメントの方で結論付けていることに疑問を呈したのです。発現障害についてまるで訓練や耐性がないから異常をきたしたと言わんばかりですよね。
私の書き方が誤解を生んだのかもしれませんが、ブログ主さんの体育会系的な提案はかえって溝を深めてしまう気がしました。
私は発現障害はストレスに対してフリーズしてしまう、と指摘しましたた。心因的な何かがあるはずだと。
智恵子の例も先天的な異常ならここで例にする必要はないでしょう。智恵子は明らかに光太郎と一緒になったことで発病しました。先天的なんてとんでもないです。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1016194645
こちらには智恵子が病んだ環境的な原因と、生前その苦しみをなんら理解できなかった光太郎について書かれていて興味深いです。
Wikipedia にもあるように、先天的要因と環境要因が組み合わさって発症するようです。
> 発現障害についてまるで訓練や耐性がないから異常をきたした
それは悪意の読み方です。
私は、「少しでも発症の可能性を下げるためにはどうすればいいか?」という話題から、「ストレス耐性を付けることで、発症の可能性を下げることができる」というふうに述べているだけです。
比喩的に言えば、風邪に感染しない方法は、無菌状態で過ごすことではなくて、普段から免疫力を高めることです。
あなたのお勧めする「無菌状態で過ごして抵抗力を弱めれば、風邪の地域からさっさと逃げ出すようになるので、大丈夫」という案は、非現実的だと存じます。