すでに述べたように、鳥類の祖先は、おおよそ次の図で書ける。
オビラプトル類 → 恐鳥類 → 走鳥類 → 現在の鳥類
これを別の形で書けば、こうなる。
オビラプトル類 ──
└┬── 恐鳥類
└─┬─ 走鳥類
└── 現在の鳥類 (走鳥類以外)
一方、前項で示したように、オビラプトル類の前には、テリジノサウルス類がある。これを上図に追加して書くと、次のようになる。
┬ テリジノサウルス類 ──
└─ オビラプトル類 ──
└┬── 恐鳥類
└─┬─ 走鳥類
└── 現在の鳥類 (走鳥類以外)
ここで、テリジノサウルス類 と オビラプトル類は、どういう関係にあるか?
──
(1) 兄弟関係
上の図のままに見れば、テリジノサウルス類 と オビラプトル類は、並置された関係にある。ゆえに、「兄弟関係」だと見なせそうだ。(テリジノサウルス類の方が、年上の兄に当たる。あるいは、年上の従兄みたいなものか。)
(2) 親子関係
しかし、ちょっと図を書き換えて、下記のようにすれば、親子関係(祖先と子孫の関係)になる。
テリジノサウルス類 ──
└ オビラプトル類 ──
└┬── 恐鳥類
└─┬─ 走鳥類
└── 現在の鳥類 (走鳥類以外)
これはこれで、成立しそうだ。
──
では、(1) と (2) の、どっちが正しいか? これについて、英語版 Wikipedia を調べたところ、次の図を得た。

日本語で図示すると、次のように書き直せる。
オルニトレステス類 ──
└ テリジノサウルス類 ──
└ アルヴァレスサウルス類 ──
└ オビラプトル類 ──
└┬── 恐鳥類
└─┬─ 走鳥類
└── 現在の鳥類 (走鳥類以外)
というわけで、英語版 Wikipedia の図に従えば、(2) の方が妥当であることになる。
──
ではそれで決着したのか、というと、そうでもない。次の記述がある。
オヴィラプトル小目は……テリジノサウルス類に近縁とされる。ここではあくまで近縁種の扱いだから、(1) の方が妥当であることになる。
( → Wikipedia )
──
結局、(1) か (2) かは、はっきりとしない。それも当然かもしれない。大昔の化石のことだし、化石の数もさして多くはないから、厳密な系統関係を確立することはできない。形態や年代から、おおまかな系統関係を推定するだけのことだ。
私としては、(2) が正しそうだと思うが、(1) である可能性も否定しきれない。
ただ、(1) であれ (2) であれ、たいした違いはない。細かな違いがあるだけだ。おおまかには、次の順序で考えていいだろう。
オルニトレステス類 → テリジノサウルス類 → アルヴァレスサウルス類 → オビラプトル類 → 恐鳥類 → 走鳥類 → 現在の鳥類 (走鳥類以外)
──
結論。
オビラプトル以前については、次の順序で認識していい。
オルニトレステス類 → テリジノサウルス類 → アルヴァレスサウルス類 → オビラプトル類
こうして、鳥類の祖先の深いところ(オビラプトル類以前)について、おおまかに理解できた。
[ 付記 ]
ただし、次のことを念頭に置く必要がある。
「進化とは、旧種が新種へと変化していくことではない。旧種があるところへ、あるとき突発的に新種が誕生する」
「その新種は、旧種の後期のものが変化して誕生したのではなく、旧種の前期のものがひそかに大幅に変化したことで誕生したのである。そしてあるとき突発的に、大規模に拡散した」
例示的に言えば、こうだ。
「ネアンデルタール人(または共通祖先)が、少しずつなだらかに変化して、ホモサピエンスになったのではない。ネアンデルタール人がいたところへ、あるとき突発的にホモサピエンスが誕生する」
「ホモサピエンスは、ネアンデルタール人の後期のものが変化して誕生したのではなく、ネアンデルタール人の前期のもの(原ネアンデルタール人)がひそかに大幅に変化したことで誕生したのである。そしてあるとき突発的に、大規模に拡散した」
上のことを図で書けば、次のようになる。
原ネアンデルタール人 ─┬─ネアンデルタール人
└── ホモサピエンス
この図式と同様のことが、前出の図(オビラプトルなどの図)にも成立する、と言える。
そして、正確には上のように認識するべきことを、単純化して、次のように書く。
ネアンデルタール人 → ホモサピエンス
これは進化の順である。ただしこれは、次のことを意味しない。
「ネアンデルタール人の後期のものが、少しずつ変化して、ホモサピエンスになった」
このことは成立しない。
この意味で、「ネアンデルタール人がホモサピエンスに進化した」という表現は、ダーウィン式の進化論(漸進的進化論)を取る限り、間違いである。
[ 注釈 ]
すぐ上の説明を読んで、疑問に思うかもしれない。
「それは従来の説明とどう違うんだ? 共通祖先から分岐したという発想と同じではないか?」
そこで説明しよう。
上の説明は、「共通祖先がある」ということ自体は同じだ。ただし、そのあとが違う。
・ ネアンデルタール人 …… 共通祖先から小進化した
・ ホモサピエンス ………… 共通祖先から大進化した
この違いがある。そして、この違いは、次のことから来る。
・ 小進化 …… 分岐はない。種の同一性を保つ進化。
・ 大進化 …… 分岐がある。別種になる進化。
上の例で言えば、こうだ。
原ネアンデルタール人からネアンデルタール人への進化は、小進化である。それは種の同一性を保つ進化である。つまり、分岐はない。
原ネアンデルタール人からホモサピエンスへの進化は、大進化である。それは種の同一性を保たない進化である。つまり、分岐がある。
この両者は、「原種と新種」という関係にある。「主と副」というふうに見なしてもいい。両者は対等ではない。
一方、従来の発想では、そのような違いを考えない。単に「小進化の蓄積が大進化だ」と考える。つまり、「時間がたつと小進化がたくさん溜まるので大進化になる」と考える。ここでは分岐した二つの種は、たがいに対等の関係にある。

人類ネオテニー仮説(チンパンジーの幼形が人類と似ている点が多いため、ヒトはチンパンジーのネオテニーだという説)は、直観的には正解かもと思わせるものがあります。
米スタンフォード大のギル・ベジェラノ准教授の研究チームの研究は、あるいは、それを裏付けているのかも。
1)チンパンジーとその数百万年前にさかのぼる祖先に深く根付いた500以上のDNA群が、ヒトゲノムには全く存在しない
2)ヒトの直近の祖先とされるネアンデルタール(Neanderthal)人には一部が存在していた。このことは、ネアンデルタール人が少なくとも50万年前までにはヒトの祖先に至る枝から分岐していたことを意味する。
サルからヒトへの大進化は、画期的な新遺伝子を追加することで達成されたように思われてきたが、逆転の発想で、余計な発達(顎を大きく頑丈にしていくなど)を抑制することで、長所(直立、頭脳、可塑性)が大きく促進されたのではないかと。
羽毛恐竜から鳥への大進化も、そのような過程を辿ったのかも知れないという仮説は楽しめますね。