薬のネット販売について、賛否両論が鋭く対立している。これについては、次の解説記事がわかりやすい。
一般薬の中には、薬の副作用のリスクが高いものがあります。こうした一般薬をどのように販売し、安全性を確保するか、それについて。厚労省は今、ルール作りを行っているところです。他に、次の記事もある。
そもそも市販薬は、第1類、第2類、第3類と、基本的に3つの分類に分けられている。もともと厚生労働省は、この第1類と第2類のネット販売を、副作用などのリスクを理由に禁止していた。この第1類というのは、医療用の薬が一般薬としても販売が認められてまもないもので、服用の仕方によっては、副作用などのリスクが高いもの。そして、第1類に次いでリスクが高いのは、この第2類となっている。市販薬の多くは、この第2類に含まれている。
そこで厚生労働省は、こうしたリスクのある市販薬のネット販売に、ルールを定めようとしている。まず、第1類の販売規制。市販薬に移行して4年間は、インターネットでの販売を禁止して、安全性の確認を取るための期間を取ろうというもの。そして次は、テレビ電話などによる対面販売。文書でのやり取りだけではなく、対面で顔色など、状態を見ることが安全だとしている。
こうした厚生労働省の考えだが、これに対して、ネット販売業会は、これでは解禁の意味がないとしている。
橋本記者は「第1類の医薬品というのは、効果が高いため、ニーズが高いです。そのため、ネット販売業界は、これは絶対に売りたいと考えています。一方で、テレビ電話などの対面販売は、人がいない深夜などは売れないということになってしまいます。これは、ネット販売の利便性を損ねるとして反対しています」と語った。
インターネットでの購入で、これまで薬局が遠いなど、薬を購入しにくかった人などの利便性は増している。一方で、市販薬とはいえ、副作用の心配もある。
( → FNNニュース 2013-05-18 )
→ ダイヤモンド・オンライン
→ 朝日新聞 2013年5月28日
→ 読売新聞 2013-05-30 (朝刊・紙の新聞)
──
簡単に言えば、次の対立だ。
・ 賛成論 …… 全面解禁は便利だから、全面解禁せよ
・ 反対論 …… 全面解禁は危険だから、全面解禁は駄目
私の判断は? はっきり言って、どちらも正しい。
(1) 便利さ
全面解禁すれば便利なのは明らかだ。特に、僻地に住んでいる人は、わざわざ都会にまで買いに行かないで済む。地方の人に、恩恵が大きい。
この意味では、全面解禁派に理がある。
(2) 危険性
全面解禁すれば危険なのは明らかだ。特に、第1類、指定第2類については当然だ。全面解禁派は「大丈夫。これまでも問題は起こらなかった」と主張しているが、これは論理が破綻している。
・ これまで大丈夫だったのは、対面販売をしていたから。
・ 全面解禁がOKならば、第1類・指定第2類という
制度そのものを廃止するべきである。話の順序が逆。
特に最後の点が重要だ。第1類・指定第2類という制度があるのは、薬剤に危険性があるからだ。それを消費者が熟知しているとは言えない。
たとえば、イブプロフェンは、妊婦に有害性がある。その被害者は、妊婦ではなく、胎児である。妊婦が「自分は今までイブプロフェンを使っていても何の問題もなかった」と言って、何も知らずにイブプロフェンを使用したあげく、胎児に問題が起こる可能性がある。
妊娠後期のラットに投与した実験で、胎児の動脈管収縮が報告されている。また、他の解熱鎮痛消炎剤を妊娠後期に投与したところ、胎児循環持続症(PFC)が起きたとの報告がある。イブプロフェンは危険性のあまり大きくない指定第2類である。危険性がもっと大きい指定1類では、いっそう大きな問題が生じかねない。
( → 解説ページ )
このような危険性をもつ指定1類の薬品について、「ネット販売についてだけは指定1類から除外せよ」というのは、理屈が通らない。理屈を通すなら、次のいずれかだ。
・ 指定1類は、危険性がないから、制度が不要である。
・ 指定1類は、対面販売では危険だが、ネット販売では安全である。
これらは、論理としては成立するが、気違いの理屈だ。
前者は、「指定1類は危険性がない」というもので、医学的に無知であるだけだ。
後者は、「危険性が、対面販売とネット販売で異なる」というもので、まさしく気違いの理屈。
というわけで、「全面解禁」というものは成立しない。(「指定1類」という制度を前提とする限りは。)
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とはいえ、「ネット販売の利便性」というのも、とうてい無視できない。
とすれば、以上から得られる結論は、次の通りだ。
・ ネット販売の全面解禁は、不可。
・ 指定1類を含めたネット販売を実現する。
この二つをともに実現すればいい。それが論理から得られる結論だ。
つまり、「全面解禁」も、「ネット販売の全面制限」も、どちらも正しくない。かといって、両者の折衷案も成立しない。これらの案を越えた、まったく別の案が要求される。その案を、以下で提案しよう。
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以上の問題をすべて解決する案を提示する。こうだ。
・ 指定1類を含めたネット販売を許容する
・ ただしそれは、全面解禁ではなく、制限付き。
・ 制限とは、「初回のみ薬剤師の対面販売」である。
・ 2回目以後は、「共通番号」制度を利用して、許容する。
モデル的には、次の流れになる。
(1) 客は、ネット販売店に行って、第1類薬品を購入申込みする
(2) 店は、「初回のみ、薬剤師のいる店で買ってください」と返信する。
(3) 客は、薬剤師のいる薬局で、その薬を購入する。
(4) 客は、共通番号カードを呈示して、購入履歴を登録してもらう。
(5) 店は、客の購入履歴を、センターに登録する。
(6) 次回、客は、ネット販売店に行って、第1類薬品を購入申込みする
(7) その際、自分の共通番号も示す。
(8) ネット販売店は、客の共通番号と購入薬を、センターに照合してもらう。
(9) センターは、購入履歴を見て、「OK」という返信をネット販売店に送る。
(10) 「OK」を得たので、店は客にその薬をネット販売する。
以上のようにすれば、問題は解決する。すなわち、次の二つが両立する。
・ ネット販売の全面解禁は、不可。
・ 指定1類を含めたネット販売を実現する。
つまり、「1回目は薬局の対面販売で、2回目以後は『確認後にネット販売を認める』というものだ」
[ 付記1 ]
ここで注意。個人情報の秘匿の問題があるが、それも考慮されている、ということだ。
上の方法では、客の購入履歴は、薬局にも、ネット販売店にも、残らない。センターに残るだけだ。(センターは国家機関。独立行政法人がいいだろう。)
[ 付記2 ]
ネット販売店は、客の購入履歴を蓄積できるはずだが、蓄積を禁止する方がいい。それは個人情報の蓄積に当たるからだ。半年ぐらいならば蓄積してもいいが、それ以上は自動消去するべきだ。また、蓄積した情報が外部に漏れた場合には、顧客1人に対して1万円ぐらいの慰謝料を支払うべきだ。それが可能な店のみが、販売情報の蓄積が可能となる。(そういうふうに制度を作る。)
[ 付記3 ]
「センターでは、共通番号による情報蓄積がなされるが、その情報は直接的には外部に出さず、一部についての照合の結果[可否の形]のみ答える」
という形の利用は、共通番号制度の民間利用に一般化できる。民間企業には、共通番号と結びつけた情報蓄積を認めないで、上記のように照合の利用のみにするのを原則とするといい。
[ 付記4 ]
センターは、独立行政法人の形になる。これによって、厚労省の天下り先が、一つ増える。厚労省としては、大喜びだろう。この案が一般に知られれば、実現性は極めて高くなる。
ただ、私の予想は、こうだ。
「この案が知られないまま、迷走状態が続き、最終的には、ネット販売は不許可」
たぶん、こうなる。
正確には、「対面販売なんて建前だけだった」ということなんです。
無資格者が適当に売っていたのが、一般薬販売の実態で、それでも、対して問題にならなかったのです。だから、通信販売しても、かまわないじゃないかというのが、常識的な判断だと思う。
どこでもそうです。たとえばこれ。
→ http://www.nikkei.com/article/DGXZZO50988120V20C13A1000000/
ネットじゃ届くまで日数がかかるんだから、どうせなら薬局で指定第一類をはずす方がマシ。だけど、それは副作用の点から無理。
店舗販売業や薬局が、「有資格者による対面販売」なんてことをやり始めたのは、せいぜい最近5年くらいです。それを可能にするために、登録販売者なんて資格が作られたのです。販売担当者を薬剤師に限定した場合は、数が足らない。
旧薬事法には、薬種商販売業や薬剤師が直接販売するなんてことは書いてなくて、「店舗を管理する」義務だけがありました。売り方は自由だったのです。だから、無資格者が好き勝手に売ってたのです。
薬事法が若干改正され、かつ、それを実際に運用する厚労省や、その出先機関である保健所が、
・店舗に管理者が常駐しているかどうか
・有資格者が直接売っているかどうか
をしつこく指導を始めたので、状況が変化したんです。
しかし、旧薬事法における適当な販売でも、問題なんてなかったのです。一般薬にリスクの高い薬が入るようになったなんてこともありません。分類はリスクの高い順ではなく、認可の早い遅いの順です。要するに、「昔から売られてる一般薬は2類と3類」「新しく一般薬に認可された薬は1類」となっただけです。
「対面販売でも1類を許容する」というのなら、それはそれで良いですけど。「対面販売では1類を許容しないで、ネットでは1類を許容する」というのは、無理でしょ?
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ただね。処方薬は、医師が見ていますよね。だから妊婦にイブプロフェンを処方することはないでしょう。他にも同様の副作用の考慮すべき場合がある。
これらの処方薬が OTC として市販されたとき、医師にかわってチェックする人がいないと、副作用の問題がある、ということは考えられます。
で、これは、私の意見じゃなくて、厚労省の意見です。井上さんがたてつくべき相手は、厚労省です。「指定1類を全廃せよ」というふうに。
その話題は、私に向けて言っても、仕方ない。私は何も言っていません。厚労省の見解を紹介しているだけ。
私は、この件については、中立です。
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一般用医薬品(市販薬)のインターネット販売に関する新しいルールを検討する厚生労働省の検討会は31日、薬局などでの対面販売とネット販売の基本的な考え方を併記した報告書案をおおむね了承した。報告書案では、ネット販売を認める市販薬の線引きは行わず、ネット販売の適否についても両論を併記した。厚労省は新たな検討会で議論することも検討する。
報告書案は、市販薬販売の安全性を確保するための基本的考え方として、薬剤師らが、(1)使用者の状態を的確に把握する(2)使用者との円滑な意思疎通を確保する−などと明示した。
高リスクの第1類は「薬剤師により、最大限の情報が収集される必要がある」と指摘。ただ、販売に当たって薬剤師の対面を義務づけるかは意見が大きく割れ、目視や接触などを通じ「慎重に販売すべきだ」という意見と、問診票活用などで情報収集できるため「ネットでの販売は可能」と両論を併記した。
→ http://sankei.jp.msn.com/life/news/130531/bdy13053123440002-n1.htm
仮定に相当する分類区分が間違っているというのが僕の言いたいことだけどね。
「1類はもともと医師が処方していた薬が多く、副作用の発生しやすさは2類に比べて2倍近い。処方薬から切り替わった直後は特に注意が必要で、2011年に市販された解熱鎮痛剤ロキソニンSでは2年間で肝障害などの重い副作用が少なくとも8件発生し、1人が死亡している。 」
→ http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201305310729.html
安全性だけを云々するなら、アスピリン、イブプロフェンを、一般薬としては、販売禁止して、ロキソニンとセレコックスだけにすべきですが、そうはならない。販売側の既得権益があるからです。
処方薬としてのアスピリンには、抗血小板作用があるので、禁止されると困りますが、解熱鎮痛薬としては禁止するべき。
中毒量も、アセトアミノフェンと比較すると少量であり、危険性が高い。
それはそうですよね。いまだにあちこちで「アスピリンを使うな」という記事を見かけますが、そんな無駄情報を出すぐらいなら、あっさり禁止した方がマシだ。
何があるかと思ったら、バファリンがそうだった。いまだにトップクラスの売上げらしい。
→ http://www.kenko.com/product/seibun/sei_751313.html
困ったことだ。
だけど、バファリンは、胃腸障害が起こりにくくしている。また、胃腸障害では、死にはしない。
一方、「ロキソニンSでは2年間で肝障害などの重い副作用が少なくとも8件発生し、1人が死亡している」だから、こっちの方が危険性は高いかも。私は詳しくはないから、断言はできないけど。
どうも、わけがわからなくなってきました。 (^^);
「ネットじゃ届くまで日数がかかるんだから、どうせなら薬局で指定第一類をはずす方がマシ。」
これについては田舎(人口1万人未満の町村)だと、大型ドラッグストアが無かったりして当てはまらない場合もあります。
「ネットなら即日注文だけはできるけど、地元の薬屋は18:00に閉まるし取り寄せはトロいし嫌な顔するし、休日に大きい街に買いに行くならネットの方が早い」
という状況。もちろん、この問題は過疎地だとあらゆる商品の課題なので、過疎地対策としては個別の規制緩和ではなく、大規模な手法でまとめて解決すべきかもしれませんが。