2013年05月20日

◆ 鳥インフルの治療薬は?

 鳥インフルの治療の指針について、日本感染症学会が提言した。タミフルを2倍量投与、というもの。しかし、これには賛同できない。 ──
 
 鳥インフルの治療の指針について、日本感染症学会が提言した。
 まずは一週間ほど前に、あらましの情報が出た。
 《 タミフル投与「2倍に」…鳥インフル発生なら 》
 中国で広がっている鳥インフルエンザ(H7N9型)の感染者が国内でも発生する場合に備え、日本感染症学会は通常のインフルエンザよりも抗ウイルス薬の投与量や治療期間を2倍に強化することなどを柱とした治療指針をまとめた。
 提言として近く公表する。
 指針では、治療薬として原則、飲み薬のタミフル(商品名)と点滴薬のラピアクタ(同)を使うよう求めた。インフルエンザの治療では、吸入薬のリレンザ(同)、イナビル(同)も使われているが、H7N9型では重い肺炎を発症するケースも多い。こうしたケースでは、肺の状態が悪化しているため、粉末の薬を吸引しても、患部に行き届かず、効果が十分に得られない危険性があるためだ。
 また、H7N9型の患者中には、発症直後にタミフルの治療を始めたものの、効果が乏しく重症化して急性肺障害となった症例も報告されているため、抗ウイルス薬の投与量や投与期間をそれぞれ通常の2倍に増やし、初期から強力な治療を行うとした。成人の場合、タミフルの投与期間は10日間、原則1回だったラピアクタは状況を見て反復使用も考慮する。
( → 2013年5月13日 読売新聞
 このあとで、提言が公表された。
 日本感染症学会が、中国で人への感染が拡大した鳥インフルエンザ(H7N9)が国内で発生した場合の診療に関する提言をまとめた。
 提言は、国内で使われている抗ウイルス薬4種類のうち、錠剤のタミフルか点滴薬のラピアクタによる治療を、発症から48時間以内に始めることを推奨。持病などで重症化が懸念される成人には、タミフルを通常量の2倍、10日間の服用も推奨している。
 口から吸入する2種類の抗ウイルス薬は、「使用を控えることが望ましい」とした。
( → 朝日新聞 2013-05-19
 ──

 以上の方針を読んだあとで、私としては「賛同できない」と判断した。理由は下記。

 「H7N9型の患者中には、発症直後にタミフルの治療を始めたものの、効果が乏しく重症化して急性肺障害となった症例も報告されている」
 というふうにあるように、タミフルは鳥インフルエンザには有効ではないことがある。それは当然であって、鳥インフルエンザは肺に症状が出るからだ。一方、タミフルは全身に効く。肺に効くのは、タミフルではなくて、リレンザとイナビル(どちらも吸入薬)である。
  ・ タミフル …… 胃腸で吸収して、全身に効く。
  ・ リレンザとイナビル …… 口から吸引して、呼吸器に効く。


 さて。鳥インフルエンザは、呼吸器(肺)に症状が出る。とすれば、肺に集中的に薬剤が行き渡るようなリレンザとイナビルこそが有効なのだ。

 一般的に、薬剤というものは、患部に集中的に投入する方がいい。今回の例では、患部は肺なのだから、薬剤は肺に集中的に投与する方がいい。それがリレンザとイナビルだ。なのに、今回の提言は、その逆だ。
 錠剤のタミフルか点滴薬のラピアクタによる治療を、発症から48時間以内に始めることを推奨。
 口から吸入する2種類の抗ウイルス薬は、「使用を控えることが望ましい」とした。 
 これじゃ、本末転倒というものだろう。およそ薬剤投与の原則に反している。

 ──

 ではなぜ、感染症学会は、そういう不自然な方針を取ったのか? たぶん、次のことが理由だろう。
 「いったん重症化したら、薬剤を吸引することが困難なので、吸引する薬は好ましくない」

 それはそれでわかる。ただしそこには論理のミスがある。というのは、これは「重症化したら」という条件が付いているからだ。
 なるほど、重症化したであれば、吸引薬は適さない。それには私も同意する。とはいえ、重症化した後であれば、もはやタミフルを飲むこともできなくなっているはずだ。重症化したならば、注射薬のラピアクタしか選択肢に入らない。タミフルはありえない。(タミフルは胃腸に負担がかかるので、吸収されないこともある。胃腸を弱めて、体力低下の恐れもある。だから重症化したら、ラピアクタしかありえない。)
 一方、重症化するであれば、吸引薬はかえって好ましい。呼吸器に集中的に薬剤が登用されるからだ。(前述の通り。)
 ただし、「最初は吸引できても、日がたつうちにだんだん症状が悪化して吸引できなくなる」という懸念もある。それはそうだ。しかしながら、この点は、次の方針で解決できる。
 「毎日吸引するリレンザのかわりに、5日ぶんをいっぺんに吸引するイナビルを使う」

 これなら、1日目の症状が軽いうちにイナビルを吸引するから、「あとで吸引できなくなる」という問題はない。

 ──

 さらに、別の考察もできる。
 感染症学会は、「タミフルの2倍量投与」という案を示した。しかし、2倍量投与をするならば、「タミフルとイナビルの併用」の方がいいだろう。モデル的には、次の方式。
  ・ イナビルは、1日目に吸引する。(これで5日分)
  ・ タミフルは、「1日2回を5日間」という標準式でなく、
   「1日1回を10日間」という変則式にする。

 この場合、薬効は次のようになる。
  ・ 前半の5日間は、イナビル標準量と、タミフル半量。
  ・ 後半の5日間は、タミフル半量。

 つまり、前半は「1.5倍」で、後半は「0.5倍」となる。しかも前半では、呼吸器に集中的に薬剤が投与される。

 私としては、以上の方針の方がいい、と思う。逆に言えば、「イナビルを使うな」という感染症学会の方針は、鳥インフルエンザに有効なイナビルの使用をあえて禁止することで、鳥インフルエンザの感染を拡大する効果がある。それはまずい、と思う。感染症学会は、鳥インフルエンザの感染を防ぐどころか、かえって拡大するという結果をもたらしそうだ。

( ※ なお、二つの薬を併用することは、「多剤併用」ゆえに、耐性ウイルスの出現を抑止する効果がある。 → Wikipedia
 
( ※ 誤読されると困るので、再度述べておくが、これは「重症化した患者」を除く。重症化した場合には、呼吸薬の吸引も、飲み薬の服用も、どちらも難しくなるので、注射薬であるラピアクタだけが推奨となる。そもそも、重症化するとしたら、それまでに投与した薬剤が無効であることになるので、まったく化学構造の異なる薬であるラピアクタを使うのが当然だ。)
( ※ 「タミフルの2倍量投与」というのは、治療後に重症化した場合には無意味だろう。効かない薬を倍量与えても、たいして意味はない。ただし、治療を受けずに、いきなり重症患者が運び込まれた場合には、タミフルも有効かもしれない。とはいえ、本人はタミフルを服用できないから、その場合には、「タミフルまたはリレンザの静脈注射」という非正規の方法を使うことになる。実例はある。これだ。だが、こんな非正規な方法を使うくらいなら、ラピアクタを使う方が先だろう。)
( ※ 「リレンザやイナビルは、肺の状態が悪化したら、もはや吸収できなくなる」というのが、感染症学会の発想なのだろう。しかし、薬剤を吸収できなくなるほど状態が悪化したら、それはもう、ひどい重症患者となる。ほとんど瀕死だ。よほどの大がかりな処置が必要となる。そういう場合については、普通は考えないでいいだろう。通常は、いくらか症状が悪化したと言っても、「サイトカイン・ストームで肺が滅茶苦茶」ということはないのだから、リレンザやイナビルはまだ十分に有効であるはずだ。その意味でも、通常は、イナビルが第1優先となるはずだ。)



 以下は、参考情報。

 [ 付記1 ]
 抗インフルエンザ薬が有効だった、という報告。
 《 既存4薬、有効の可能性 中国の鳥インフルで国が調査 》
 中国で拡大しているH7N9型の鳥インフルエンザウイルスに対し、現在使われている4種の抗インフルエンザ薬が有効である可能性が高いことがわかった。国立感染症研究所が、中国疾病対策センターから入手したウイルスの増殖を抑えることを確かめた。厚生労働省が12日、発表した。
 感染研が、タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタの4種について確認した。また、新たに作製した検査試薬で、感染が確定診断できることも確認した。
( → 朝日新聞 2013年4月13日

 [ 付記2 ]
 新たな抗インフルエンザ薬が開発される見込み。「エリトラン」という敗血症の薬が、インフルエンザで重症化した場合に有効だという。ただし現在は、マウスの実験レベル。
  → 「エリトラン インフルエンザ」 - Google 検索
 化学式は、既存の抗インフルエンザ薬とはまったく異なる。作用機序も異なるようだ。
 細菌から出る毒素が細胞表面にある「TLR4」という免疫に関わる受容体に結合するのを阻害することで炎症を抑える効果がある。
( → 共同通信 2013-05-10
 重症者向けには、これが有効になりそうだ。

 [ 付記3 ]
 実を言うと、重症者には、タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタの、そのいずれも適していない。これは、ノイラミニダーゼ阻害薬というものの、根源的な限界である。
 感染した細胞からインフルエンザウイルスが放出される際に必要となるノイラミニダーゼを阻害することにより、インフルエンザウイルス表面にあるヘマグルチニンと宿主細胞表面のシアル酸の結合を維持することで、インフルエンザウイルスが細胞から出て行くのを阻害する。そのため、感染初期のみで有効である。発症から48時間以降の場合、個体治癒効果はほとんどない。
( → Wikipedia
 この意味でも、有効なのは、吸引薬(イナビル)を初期に投与することだ。
 逆に言えば、「重症化した場合には有効ではないから」という理由で吸引薬を忌避するのは、薬剤の作用原理を根本的に誤解している、としか言いようがない。
 感染症学会は、「ノイラミニダーゼ阻害薬とは何か」ということを、基礎から理解した方がいいだろう。まずは化学式から理解した方がいい。
( ※ でも、化学式を、理解できないんでしょうね。臨床ばかりやっているお医者さんだから。無知。そういう無知な医者が、薬剤使用の方針を示すんだから、ひどいものだ。どうせなら、薬物学者に任せればいいのに。)



 【 追記 】
 米国 CDC の方針を示す。( → 出典
  • 感染確定例だけでなく疑い例などでも、できるだけ早くタミフルやリレンザの投与を開始すること。確定診断を待って投与開始を遅らせるべきではない。(有効性が下がるとされる)48時間以降でも投与すべき。
  • 入院患者や重症患者、別の病気を抱えている患者の治療には、吸入するタイプのリレンザではなく、服用するタイプのタミフルを推奨する(重症患者へのリレンザに関するデータが不足しているため)。
  • 重症患者や別の病気を抱えている患者への抗ウイルス薬の最適な投与期間は不明。新たなデータが得られるまでは、通常(5日間)より長い投与期間(10日間など)を考慮すべき。
 ここからわかるように、「リレンザよりもタミフルを推奨する」というのは、「重症患者」に限られる。発症初期で、入院していない患者は対象外だ。日本の感染症学会は、そこのところを理解できていない。豚インフルエンザの場合と同様で、「私と CDC と WHO の見解が同じで、日本の感染症学会の見解だけが違う」というふうになっている。
 また、「確定診断の前に投与せよ」というのは、私の「簡易検査を使うな」という方針とも合致する。
  → 簡易検査を使うな
posted by 管理人 at 19:07| Comment(2) |  感染症・コロナ | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
どうして吸入薬の使用を控えることが望ましいかというと、まだ鳥インフルエンザに対する有用性や投与量、期間が判明してないから、みたいですよ。タミフルは中国とかの例でもう有用性はわかっているそうです。
別に
いったん重症化したら、薬剤を吸引することが困難なので、吸引する薬は好ましくない
とか
重症化した場合には有効ではないから
という理由ではなさそうです。
まあ言い方は悪いですが人体実験待ちということなんですかね。
Posted by 通りすがり at 2013年05月21日 00:46
引用した記事にこうあります。

> H7N9型では重い肺炎を発症するケースも多い。こうしたケースでは、肺の状態が悪化しているため、粉末の薬を吸引しても、患部に行き届かず、効果が十分に得られない危険性があるためだ。
Posted by 管理人 at 2013年05月21日 00:55
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