ユニクロの社長が「年収1億円か 100万円」と語った。
柳井 「それはグローバル化の問題だ。将来は、年収1億円か 100万円に分かれて、中間層が減っていく。仕事を通じて付加価値がつけられないと、低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収 100万円のほうになっていくのは仕方がない」これは「貧富の差の拡大」を意味する。
( → 朝日新聞 2013/04/23 )
しかし、「貧富の差の拡大」は、犯罪発生率を高めるはずだ。理由は二つ。
・ 真面目に働くよりも、犯罪で盗む方が、容易に儲かる。
・ 失業率が高いと、真面目に働く方法がない。
ま、ここまでは、誰でも考えることだ。(わからないユニクロ社長が愚かなだけだ。)
──
というわけで、「いちいち私が書くまでもないな」と思っていたのだが、次の情報が出た。
→ これからの日本のためにも知っておきたい中米における格差社会の現実
一部抜粋しよう。
「年収100万円も仕方ない」というユニクロ柳井会長の言葉が話題になりました。これは「将来は、年収1億円か100万円に分かれて、中間層が減っていく」という話ですが、その貧富の差が中米には姿を見せていました。ベリーズ、グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラスの殺人件数は尋常ではありません。「貧富の差が大きいと、殺人発生率が高まる」ということが、数字から読み取れる。
Wikipediaの「人口10万人あたりの殺人発生率」のデータを引用すると、人口10万人あたりの殺人発生率と総数は
メキシコ (22.7、25,757)
ベリーズ (41.4、129)
グアテマラ (38.5、5,681)
エルサルバドル(69.2、4,308)
ホンジュラス (91.6、7,104)
ニカラグア (13.6、785)
コスタリカ (10.0、474)
パナマ (21.6、759)
日本 ( 0.4、506)
Wikipediaの「国の所得格差順リスト」のデータを引用すると、全世帯を所得の大きさで5階級に分類したときの最富裕層と最貧困層の所得比はこうなっています。
(国名の後ろの数字はそれぞれ、富裕層上位10%の貧困層下位10%に対する所得比、富裕層上位20%の貧困層下位20%に対する所得比、調査年度。)この数字が大きいほど貧富の差が激しいというわけです。
メキシコ (21.6、12.8、2008)
グアテマラ (33.9、20.3、2006)
エルサルバドル(38.6、20.9、2009)
ホンジュラス (59.4、17.2、2009)
ニカラグア (31.0、 8.8、2005)
コスタリカ (23.4、15.6、2009)
パナマ (49.9、23.9、2010)
日本 ( 4.5、3.4 2002)
──
ついでに調べてみると、次の情報も見つかった。( → 出典)
失業率と犯罪……グラフが以下の論文でも載っている。というわけで、あまりにも強く相関関係がある。ほとんど 100%に近い感じの関係性だ。
→ http://www.iser.osaka-u.ac.jp/~ohtake/paper/situgyoitami.pdf
犯罪発生件数と失業率を年ごとの折れ線グラフにかくと、とてもよく似た波形を描いている。
しかし、これはグラフで示されているだけで、統計的分析がなされているわけではない。それで、清水君にやってもらうことにした。
清水君は、失業してから犯罪が起こるまでにラグがあることを考えて、犯罪件数を、過去数年の失業率の平均で回帰することを試みている。その中でも最も成績のよかった、過去四年の失業率の平均で回帰した結果は次の通りであった。
こうなると、犯罪発生率と、失業率とは、切っても切れない関係にあるとわかる。
というわけで、冒頭で述べたこと(格差社会は犯罪をもたらすこと)は、はっきりと証明された、と言えよう。
ユニクロの社長が述べた「グローバル化においては、所得格差が拡大するのは当然だ」というような主張は、「犯罪社会は当然だ」と言っているようなものだ。
【 補説 】
とはいえ、ユニクロ社長のように「格差社会は当然だ」と述べる人は、他にも多い。特に、古典派経済学者がそうだ。「市場原理で経済成長が進むと同時に、格差が拡大するのも当然だ」というような主張。
この手の主張ですぐに思い浮かぶのは、池田信夫だ。そこで、ざっと調べてみると、次のような主張(過去記事)が見つかった。
《 ITとグローバル化は格差も所得も拡大する 》
ポズナーは、すべての階層の所得が上がる限り、格差が拡大することに何の問題もない、とコメントしている。各国別にみると、日本は格差もフランスに次いで小さいが、成長率もブラジルに次いで低い。全体として、格差の大きい国ほど成長率も高い。
( → 池田信夫 blog(旧館) )
《 問題は格差ではなく生産性だ 》バーナンキFRB議長の話の引用という形を取っているが、これが池田信夫の主張したいことは明らかであろう。
バーナンキFRB議長の所得分配についての論文を紹介しておこう。要旨は次の通り:
先進国の平均所得は戦後一貫して上昇しており、最低所得も上昇している。しかし所得格差は、戦後は縮まっていたが、ここ30年は拡大している。この期間に、アメリカの下位10%の所得は4%しか上がらなかったが、上位10%の所得は34%上がり、その結果、上位1%の所得は全所得の8%から14%に拡大した。さらに大卒のホワイトカラーと高卒のブルーカラーの賃金格差は、38%から75%に拡大した。
格差拡大の最大の原因と考えられるのは、ITによる生産性の急速な上昇である。
CEOの巨額報酬がよく批判されるが、経営者も「資産」の一つと考えると、その報酬は彼らの能力による収益の差によって正当化されるとする実証研究が多い。」
( → 池田信夫 blog )
ただし、池田信夫の翻訳は、インチキ翻訳であることが多い。「どうせ今回もそうだろう」……と思って原文を見たら、案の定だ。
なるほどたしかに、
「CEOの巨額報酬がよく批判されるが、経営者も「資産」の一つと考えると、その報酬は彼らの能力による収益の差によって正当化されるとする実証研究が多い。」
という意味の文章はある。しかしそのすぐ後に、次の文章が続く。
However, critics have responded that increases in CEO pay may have been amplified by poor corporate governance, including the substantial influence that some CEOs appear to have had over their own pay (Bebchuk and Fried, 2003). This debate will no doubt continue.池田信夫の引用では、肝心のこの部分がすっぽり抜け落ちている。そのせいで、話の趣旨が正反対になってしまっている。(我田引水。またやったな! (^^); )
(拙訳: しかしながら、批判的な反応もあった。つまり、CEO の報酬の増加を増幅するのは、企業統治のひどさであって、それはたとえば、十分な影響力を行使することによって自分自身の報酬を増加させることだ、と。 この議論は疑いなく続くだろう。)
( → 原文 )
ともあれ、CEO の報酬の増加は、彼自身の能力によるというよりは、企業統治のひどさのせいだ、と考える見解が有力なわけだ。
実は、この文章を読むずっと前から、私が考えをまとめたことがある。次のことだ。
「企業経営者が高額の報酬を得るのは、彼が優秀だからではなくて、彼が自己および部下の報酬を決定する権限を持つからである。そのことによって、部下(一般労働者)の所得を減らして、その分、自己の報酬を増やすことができる」
これはつまり、マルクスの言う「搾取」の概念と同様だ。簡単に言えば、経営者が高所得なのは、実力(生産力)が高いからではなくて、労働者の富を盗む能力を持つからだ。
というわけで、池田信夫や古典派学者が、いくら「格差はすばらしい」と称賛しようが、それは要するに、「企業経営者による泥棒は素晴らしい」と称賛しているのと等価である。とすれば、盗まれた側に当たる一般国民が、「だったらおれも盗んでやろう」というふうに思うようになるのも、不思議ではあるまい。
かくて、貧富の格差は、犯罪をもたらすのが、不思議でも何でもないのである。
( ※ そもそも、貧富の格差そのものが、犯罪的な行為である。それを称賛する池田信夫みたいな経済学者は、犯罪者のおかかえ弁護士みたいなものだ。屁理屈によって、犯罪を正当化して、大量の貧者から富を奪おうとしているわけ。)
( ※ なお、このような傾向は、近年になって強まったことだ。近年の米国では CEO の報酬は、労働者の 200倍ぐらいになっている。一方、以前は、50倍ぐらいだった。それだけ貧富の格差が拡大している。一方、日本では、16倍程度だ。だから日本では犯罪が少ない。)[ここで述べた数値の出典は、失念した。ある程度はネットで見つかるが、知りたければ自分で探してください。]
( ※ ついでだが、このように「労働者から富を奪う」という形で、最も成功したのが、日本ではユニクロの社長だ。労働者の賃金を最も低くしたから、社長が最も豊かになった。ユニクロの社長が最も有能だからではなく、ユニクロの社長が最も奪ったからだ。)
【 関連サイト 】
(1) 世界各国の貧富の格差(所得水準との相関)
(2) 「貧富の差が少ないから」 外国人が語る日本の犯罪率が低い理由
以下、引用。
《 どうして日本の犯罪率は低いんだと思う? 》
■ 日本は中流階級が多いし、他の先進国と比べると貧富の差が少ない。 +59
■ 結局これが一番の理由だよね。貧困は犯罪と密接に関係してるから。
日本は金持ちと貧乏人の差が極めて小さいし、中流階級が凄く多い。 +20
■ カランカラーン! 大正解。
経済的不平等は犯罪に走るきっかけを生む。
もし皆が同質の生活水準があって、さらにそれが相対的に高いものなら、
この世界に犯罪をする理由なんてなくなるよ。
【 追記 】
「経済格差が社会に支障をきたす」
という趣旨の TED 講演がある。特に大事な点は、下記のグラフ。

横軸が格差の大小。(右が大きい)
縦軸がさまざまな社会問題の指標(上が社会問題 大)
つまり、「格差が大きいほど、社会問題が大きい」ということが、相関関係で見て取れる。
詳しくは下記で。
→ TED: いかに経済格差が社会に支障をきたすか
動画を見るのが面倒なら、下の方に全文テキスト(日英対訳)がある。ただ、図が見にくいので、動画を見た方がいいだろう。じっくり見る価値がある。
( ※ この TED は、コメント欄で教えてもらったもの。)
企業経営者の報酬が何らかの理由により過大になっているという仮説は、統計的な調査からほぼ確からしいということになっているようです。最近邦訳が出版されたフリーク・ヴァーミューレン 著「ヤバい経営学: 世界のビジネスで行われている不都合な真実」(原題:Buiness Exposed、東洋経済新報社)に、そのあたりの話題がまとめられていました。過大になる原因の推定についても踏み込んでいます(第六章)。
もうご存知かも知れませんが、ご参考まで。
「グローバル化するので、世界各国の賃金は同一になっていく。日本も途上国も賃金は均一になる。ユニクロ化する」という趣旨。
→ http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51855781.html
→ http://www.newsweekjapan.jp/column/ikeda/2013/05/post-675.php
しかしそこには、重要な条件が抜けている。こうだ。
「同一商品を生産するならば」
たとえば、フリース上着を同様に生産するならば、どこの国でも同じだろう。しかし、フリース上着は途上国では生産するが、日本では生産しない。一方、高度なハイテク商品は、日本では生産できるが、途上国では生産できない。
つまり、国ごとに、得意・不得意がある。だから比較生産費の概念で、各国の生産物は異なる。異なるんだから、「同一商品」という前提は成立しなくなる。
池田信夫は、比較生産費の概念を学び直せ。また、「生産性」という概念も学び直せ。異なる商品を作っていて、生産性が異なるのに、同一賃金になるわけがないでしょうが。
彼は自分で言っていることを、自分で理解できていない。「グローバル化」と語るとき、比較生産費も生産性も為替レートも、すっかり忘れてしまっている。
リチャード・ウィルキンソン 「いかに経済格差が社会に支障をきたすか」
1)能動的に自殺する。
2)孤独に餓死する。
3)腹いせに大暴れする。
4)刑務所へ入るために、犯罪を犯すなど。
人間が壊れ、社会が不安定になるのは当然の結果です。
「一将功なりて万骨枯れる」方式を推奨する経済学は、国家を無茶苦茶にします。欲をかくのも
ほどほどにして、日本は助け合う経済学も加味したいもの。
追記の図の、イタリーは興味深い。格差大でも、衣食住は何とかなってる大衆と大富豪という
構図であれば理解できる。イタリー南部は農業国。住む家があり、食べるに困らず、気候は良し、
観光地に住んで、テーブルワインが飲めれば、実質セレブと似ている。
→ http://www.italogiapponese.it/made_in_italy/mii/roudou.htm
お気楽生活とはほど遠いようです。実質セレブじゃなくて、親への寄生生活。
に熱狂しているという矛盾。
(トリクルダウンは起こらないことは小
泉内閣時代に実証ずみなのに)
熱狂するパワーがあるのなら、労働組合
でも作って、自分の待遇を改善できるよ
うに動けばいいのに。
こんな状況だから、格差は縮まるどころ
か、さらに広がる。
良い異常値という意味は、格差が大きい割には凶悪犯罪が少ない。先だって、アリタリア航空の係員ら計86人が旅行客の荷物から貴重品を抜き取っていたことで逮捕された。これは、やさしい犯罪の部類ではある。南米を旅行中の日本人女性は、バッグを盗られかけたので必死に握って抵抗していたら、面倒だと手首ごと盗まれた。やさしくない犯罪。イタリアが、かろうじてやさしい犯罪でとどまっている理由を推測すると、
1)相続税が軽く家は引き継げるので、ホームレスに転落する率が低い。
2)親族ネットワークに依拠した互助的関係がある。
3)何とか衣食住と絆はある。贅沢品はお金持ちの旅行者からいただく。
一部の経営者や太鼓もちの経済学者は、日本を、家族や地域の絆を弱めた弱肉強食の社会へ導こうとしているが、とても危険。助け合う経済学を加味して、精神的にも実質的にもセーフティネットのある社会にすることが必要ではないだろうか。
イタリアは人口が6000万人、GDPが18000億ドル。スウェーデンは、人口が1000万人、GDPが5000億ドル。
大雑把にいえば、イタリアの人口を1/6にし、GDPが1/3になった国がスウェーデン。すると、一人当たりのGDPは2倍となる。しかし、イタリアは10%の人間が富の50%を占有するので、富裕者でない90%の国民のひとりあたりGDPは15000ドル。スウェーデンは、ほぼ平等社会なので、ひとりあたりのGDPは45000ドル。大筋の比較はそういうことだろう。スウェーデンは適正人口なので、国民は夏の別荘が持てる(自分で建てる)。夏は家族そろって別荘で過ごすことができる。
スウェーデンが不法入国者を摘発し本国へ強制送還し始めた。移民や密入国者が増え、国と社会が傷つき始めたからである。スウェーデンが幸福度の高い国であるゆえんは、適正人口と平等理念と持続的な人間教育にある。船や国家には定員があり、よそ者が大挙して乗り込んでくると転覆する。先進国はそのことを代償を払って理解するようになった。倫理観のない国からの不法もしくは不法に近い入国者の天国にしてしまっている日本は能天気。計画的に乗っ取られ始めている危険性さえ想像していなかった。在日政権がやり始めた政策を見て、遅まきながら気づいた日本は、強制送還も含めてガードを固めていく必要がある。
愚かですね。
資本主義は限界だと思う。