結果は、GPS将棋の勝ち。 ──
これは機械と人間との雌雄を決する戦いだと見なされてきた。
・ 三浦弘行八段は現役トップクラス。A級順位戦第二位。
挑戦権争いでは羽生に負けたが、この上には二人だけ。
(渡辺竜王を除く。)
・ GPS将棋は、コンピュータ1位。スペックがすごい。
3224 コアの CPU、3272GB のメモリ。(去年の数値。)
このスペックにより、レーティングは 400点も上がる。
このレーティングは名人をかなり越えるらしい。
──
で、戦う前から、巨大スペックのコンピュータが有利という観測が流れていたが、案の定、予想通りになった。
→ 棋譜1 (一時、メンテ中)
→ 棋譜2 (小画面)
(どちらも盤面あり。駒を動かせます)
私の分析は、下記の通り。
コンピュータは細い攻めをうまくつなげて、詰みにまで持ち込んでしまった。これはコンピュータの特徴とも言える。
これが成立するには、細い攻めがつながるように、敵陣を不安定にすることだ。(そうすればさまざまな可能性が生じる。)
そのためにコンピュータは、敵陣をバラバラにすることを目的として、駒損覚悟で攻めていった。
先手(人間)は角金交換で駒得を狙った。ところが、その瞬間に、後手(コンピュータ)は先手陣をバラバラにしたあげく、細い攻めをつなげて、とうとう詰みにまで持ち込んでしまった。
このポイントは、次のことだ。
「先手が駒得を狙って自陣がバラバラにされたこと」
指し手で言えば、77手目、8二歩だ。この次の手の6六金から、のちの8八歩により、先手陣は崩壊してしまった。
では、どうすればよかったか? 私見では77手目、8二歩に変えて、7七銀だ。こうすることで、先手陣がぐっと引き締まる。6六金は打てなくなる。
【 追記 】
63手目、8六歩が、より根源的な敗着だという気もする。こんなところで戦端を切り開くなんて、どう考えたって筋が悪い。このせいで全般的に駒がうわずってしまった。
作戦ミスでしょう。というか、戦略ミス。(下記の鉄則の趣旨。)
──
一般に、コンピュータ将棋を相手にするときには、次の鉄則がある。
「コンピュータは細い攻めをつなぐのがうまい。ゆえに、攻め合いにしてはならず、自陣の守備を固めなくてはならない」
人間同士ならば、これは成立しない。一般には、「攻め将棋」をした方が、勝つ確率が高い。どっちも不完全な守備と攻撃であるならば、攻めをやった側の方が、相手の不備を突くからだ。
しかしコンピュータの場合には違う。コンピュータは、相手のちょっとした隙を見つけるのが、すごくうまい。だからまずは、「隙を絶対に作らないこと」が絶対に必要となる。
なのに三浦八段は、攻め合いに出て、駒得を狙った。そのとき、自陣の隙を放置した。これが敗因だったと思う。
三浦八段は、「どこが悪かったのか分からない」と述べた。それはそうだろう。細かな指し手で、特に悪かったところがあるわけではない。
三浦八段の敗因は、戦法そのものが間違っていたことだ。「相手は完璧な指し回しをする」ということを理解しないまま、小さな隙を残して、攻め合いに出た。しかし、こちらが小さな隙を見せれば、相手はその隙を完璧に突くのだ。だから決して隙を見せてはいけなかったのだ。攻め合いに出る前に、守備を整えるべきだったのだ。
一言でいえば、三浦八段の敗因は、こうだ。
「敵を甘く見ていたこと」
敵が完璧な攻撃をするとは思わず、人間並みだと思って、「自分よりは馬鹿だろう」と思っていた。しかし、そうではなかった。攻め合いに関する限り、コンピュータは人間を上回るのである。
このことを理解できないで、攻め合いの将棋をする限り、人間側が勝てるはずがないのだ。
そのことは、コンピュータと何度も戦っている私も、よく理解している。だから実際、前にこう述べた。
これは、コンピュータ将棋に対して、最もやってはいけない方法を取ったことになる。これは、2010年10月11日の「あから vs 清水市代」戦について私が講評したことだ。これがそっくりそのまま、今回にも当てはまる。プロの側がコンピュータとの戦い方を理解していない。
・ 防御態勢(築城)を不備にしたまま攻勢に出る。
・ 小さな駒得に目を奪われて攻勢に出る。(初心者ふう)
・ 防御不完全な状況で、局面を複雑化されて、対応に迷って、時間を浪費。
・ 考える時間がなくなり、手将棋となり、詰め将棋ふうになり、撃沈。
負けるべくして負けたということか。
( → あから vs 清水市代(将棋) )
三浦八段が、戦いの前に上記項目を見ておけば、違った戦法になっただろうし、結果も違ったものになっただろう。
以上が、私の感想だ。
【 補説 】
全5戦を通じての感想は、こうだ。
コンピュータは、戦線を複雑化して、相手のほころびを突こうとする。
これに対して人間は、「戦線を単純化する」という方針を取るべきなのだが、それができたのは第3戦の船江五段だけだった。彼だけがコンピュータとの戦い方を理解できていた。
第1戦は別として、第2,4,5戦では、それができなかった。第5戦は特にひどく、人間の側が自分から玉頭で守備を崩していった。(駒得狙いで。)……これはコンピュータ相手には最もやってはいけない戦法だ。
結局、人間の側は、コンピュータとの戦い方を理解していない人が多すぎるわけだ。
では、なぜか? 「戦線を複雑化して、相手のほころびを突こうとする」というのは、攻撃力が突出している人にのみ成立する方針だ。全盛期の谷川とか、羽生とか。……とすれば、次のように理解するべきだ。
「コンピュータはもはや攻撃力に関しては人間を上回る」
こう理解すれば、「攻め合いに出よう」というような方針は無謀だとわかるし、「守備を固めるのが何よりも重要だ」ともわかるはずだ。
そして、それができなかった場合には、人間が惨敗することになる。(清水・あから戦,電王戦第5局)
結局、人間の側は、「コンピュータの攻撃力は人間を上回る」ということを、理解できていないのである。敵を見くびっている。そのせいで敗北することになる。
そして、そういうことのなかった船江五段だけは、「局面を複雑化しない(単純化する)」という方針を取りつつ、中盤まで優勢を構築できた。彼が負けたのは、疲労による体力負けであるにすぎなかった。
人間の側が自らの力の限界をわきまえない限り、今後もコンピュータに負け続けるであろう。たとえ人間の方が能力が上だとしても、だ。
「おまえは戦う前にすでに負けている」
そういうことだ。
[ 余談 ]
これは、私の個人的な感想ですよ。その当否(あたっているか否か)は別の話です。しょせんは素人の感想です。
どこかのトンデモマニアが「素人のくせにプロを講評するなんてトンデモだ!」と騒ぎそうだが。
ふん。文句があるなら、本項を読まなければいいだけです。文句を言いに来るなら、いちいち読まないで。本サイトはもともと、歯に衣着せず、私の独断と偏見を書くのが売りなんだから。
反論があればていねいに傾聴しますが、「素人のくせに黙っていろ」なんていう言論弾圧は受け入れかねます。
というか、そもそも、プロクラスの人が素人のたわごとなんか、いちいち読むはずがないでしょ。
【 関連サイト 】
→ 昨年の世界コンピュータ将棋選手権 決勝リーグ
昨年の GPS将棋の戦い。コンピュータ同士。
これを見ても、GPS将棋のきわだった強さが印象的だ。谷川や米長の全盛期を思わせる、切れまくりの攻撃である。棋譜を読むだけでも感動的。
攻撃に関しては、人間は GPS将棋 にはとても勝てない。次元の違う強さだ。
( ※ ま、詰め将棋についてなら、以前からそうだったが、それが「詰み筋以前」についても成立するほどになったわけだ。)
【 関連項目 】
→ 電王戦の感想(2013年) (次項)
→ 電王戦 第5局の考察 ( 2013/04/28 に追加。重要!)
なお、第1,2,3,4局については、下記から。
→ 電王戦 (項目一覧)
77手目8二歩に変えて7七銀は、8三金と打った手との繋がりがないのと、そもそもあの局面で先手は盛り上がってスクラムトライを狙いに行っていて、7七銀はその方針に合わないので個人的には違和感を覚えます。
多くのプロ棋士は、本局を盛り上がって勝てる将棋だと感覚的に判断するようなのですが、その感覚をGPSの演算能力が超えているということなのかもしれません。
三浦八段は8三金と打った時点ですでに悪いと仰ってましたので、もしかしたら後手のGPSに先攻を許すきっかけになった6八角引きがまずかったのかなと思いました。
あと質問なんですが、管理人さんは生放送をしっかりご覧になっているのでしょうか?
素人のくせに黙っていろなんて不遜なことは申しませんが、記者会見を観ていれば分かるはずのことを推測で書いているように感じられることがたまにあって、少し気になってます。
見ていませんよ。もちろん。私は将棋オタクじゃないし。そんな暇ないし。本局も、棋譜を見て、原稿を書くので、全部で1時間もかかっていない。
本サイトが将棋のことを書くのは、コンピュータと人間の戦いが話題になったときだけです。将棋ファンのサイトじゃないし。下手の横好きでちょっと口を出しただけ。
将棋ってのは、実際に指しているときよりは、ヘボのくせに岡目八目のつもりで、はたからギャーギャー喚いているときが楽しいんです。
実際に戦えば、負けることが多くて、ちっとも面白くない。
タイムスタンプは 下記 ↓
→ http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130420/k10014064021000.html
「大駒をバンバン切って、相手に駒得をさせながら、小駒で討ち取る」
という方式。今回もそうだし、昨年の戦い(【 関連サイト 】にあり)もそうだ。
これ、谷川の「光速の攻め」にそっくりだ。その意味で、GPS将棋の攻撃力は、人間の最高レベルに到達している。全盛期の谷川(の好調時)以外では、真似ができない。
この意味で、攻撃力ではもはや機械が完全に上であると判定していいだろう。特に、今回のようなモンスターマシンが相手のときには。
> 66手目△74歩▲同歩△64歩って、そんなんで手になるの?って感じですが、えらく細い攻めを繋ぐんですね。驚きました。
→ http://blog.goo.ne.jp/kishi-akira/e/131f77daa324eed4ffdbf4628463a1ad
私の見解では、これは攻めじゃない。単に先手の守備を弱体化させているだけだ。
△74歩は、先手の駒をうわずらせるため。金や銀をもっと上に持ち上げる。実際、その効果は出た。
△64歩は、攻めじゃなくて、角道を止めている。このままでは▲46角になって角交換が起こりそうだ。そうすると、2段目に飛車の筋が通り、飛車が防御力として働く。それを後手が防いでいるのが△64歩。
今回、先手の角と飛車はまるきり遊んでしまっている。自陣の角は飛車筋を止めているだけで無用の存在だし、飛車は単に遊んでいる。駒台の飛車と角も無用のままだ。
それはすべて GPS将棋の狙い通り。「駒の損得よりも駒の働き」を重視するという、きわめて高度な戦い方。それができずに駒の損得に目を奪われた人間が、まるで初心者に見える。
竜王ですら、コンピュータの戦い方を理解できていないようだ。この分じゃ、竜王も負けるな。
本文中でも書いたが、
「戦う前に負けている」
ということだ。
http://blog.shogiwatch.com/blog-entry-2010.html
管理人氏の書かれた内容について非常によく分かります。
PCに「しらみつぶし」タイプの仕事をよくやってもらってます。
ツールとしてのPCが手元になかった40年ほど前、手作業で1週間以上かかっていた「しらみつぶし」が、BASIC→WINDOWS95〜WINDOWS7と言語・OS・マシンがレベルアップする毎に早くなり、現在では2コアのPCでも瞬時に終了。
PCの凄さを、単純に将棋というゲームのみから捉えている人には、管理人氏が指摘する今回の三浦八段の敗因も理解できないでしょうね。
管理人氏が書くPCとの対戦の戦術は非常に共感を覚えます。
ただ、
『 これは、2010年10月11日の「あから vs 清水市代」戦について私が講評したことだ。これがそっくりそのまま、今回にも当てはまる。プロの側がコンピュータとの戦い方を理解していない。
三浦八段が、戦いの前に上記項目を見ておけば、違った戦法になっただろうし、結果も違ったものになっただろう。』
と書いておきながら
『というか、そもそも、プロクラスの人が素人のたわごとなんか、いちいち読むはずがないでしょ。』
と書くのはいかがなものかと。
ビートたけしが散々他人を誹謗中傷する発言をしといて、そこを突っ込まれたら「いちいちお笑い芸人の言うことにマジメに反応するな」と逃げていたのを思い出します。
このページの文章で、そこだけが残念です。
というわけで、プロ全体の悪口を書いているけれど、特定の誰かの悪口は言わないようにしています。
清水さんや三浦さんの敗因は、その人個人に責任があるのではなくて、プロ全体が共有するべき問題だ、というふうに書いています。
また、これは、悪口ではなくて、次戦では勝ってもらいたいからです。勝つ方法を示しているんです。悪口を言いたいためじゃないので、ご容赦ください。
ただ、私が言うと、「素人がプロに教えるなんて、トンデモだ!」と突っ込んでくる人がいるので、へりくだっているんです。「別に威張っているんじゃないんだよ。コンピュータ研究の立場からアドバイスしているだけだよ」という趣旨で。
「俺様はコンピュータのことに詳しいんだから、コンピュータの素人であるプロは俺様の言うことを聞け」
なんて言えないでしょ? そういう意味。
幾つか質問と反論が、
1,『実はプロ棋士の中にかなり高レベルのコンピューター研究者が既にいる場合 終わってんじゃね?』
2,『もし、管理人さんと日本将棋連盟が共闘し互いに出し惜しみせず戦略 戦術 作戦を作り上げるならもう一度人間側の優位を作り出せるのか?』
です。
いくらか戦略を立てて、人間優位の状況を作り出せても、数年たてば追い越されます。その数年というのがいつになるかという問題だけがある。
チェスの場合については、次項で述べています。もうチェスでは人間は勝てそうもありません。ディープブルーというスパコンが勝利したのが1997年で、それから15年もたつと、パソコンですら人間をしのぎます。
Wikipedia から引用。
> 現在では、アルゴリズムの改良およびパーソナルコンピュータの計算能力の向上により、一般消費者向けのチェス対局ソフトが人間のトッププレーヤーに匹敵するようになってきている。
ディープブルーというスパコンは、だいたい東大のクラウドシステムに相当する。
将棋でも、相手がパソコンなら、まだまだ勝負になると思うけど、東大のクラウドみたいなモンスターが相手だと、なかなか困難でしょう。
特に、「光速の攻め」がてごわい。この攻めを受けきるのは非常に困難。アナグマで防御しても、うまく行って1勝1敗かな。大駒4枚渡して勝つ戦法なんて、これまでのどの名人もやったことがないと思う。谷川の「光速の攻め」がそれに近いが、GPS将棋は「超光速の攻め」ですね。
何とか序盤で優位を構築するしかないが、それでも船江五段は勝ちきれなかった。体力勝負にまで持ち込まれると、勝つのは非常に困難。
──
ただし。
これは盤面が9×9で、駒の種類が 10以下という、将棋の世界の話だ。
この広い世界全体を勝負の場にすれば、コンピュータが人間の相手をすることは、とうてい無理。計算能力はものすごく優れているが、知能というレベルで見ると、せいぜいネズミぐらいかな。
もうちょっと正直に言うと、コンピュータの知能指数はゼロ。考えているように見えるが、実は何も考えていない。人間の設定した評価関数に従って、計算しているだけだ。
偉いのは、コンピュータじゃなくて、ソフトの開発者だ。この点で言うと、チェスのプログラムで評価関数というものを発明した人が、一番偉い。誰が考えたのかと思って調べてみたら、Wikipedia によるともう 1950年には英語論文が出ている。まだ真空管の時代なのに。
人間の偉大さにびっくり。
そんな暇ないし。←これは一般に言うところの「一言多い」ではないでしょうか?
どうしても書かなくてはいけなかった事なのでしょうか?
管理人様の中で、何かすごく意味があるとあると思ってやっていることが、第三者から見て、「暇人のやる事」に見えている可能性は皆無なのでしょうか?
お邪魔しました。失礼します。
これは特定の人向けの返信ですから、他の人は読まなくていいんです。
あと、これは私個人の話ですから、一般化はできません。私は暇なときに将棋をやることもある、というだけ。一方、プロにとっては人生の主目的でしょう。人それぞれ。
あんまりこだわらないでください。さらっと読み流せばいいだけ。
あまり良くない書きかたですね。
将棋ファンほとんどを敵にしてしまうような文章です。
無駄に敵を作るのは賢くない人のやることですよ。
私は将棋ファンですが、管理人さんの文章にとても好感を持ちました。
素晴らしい解説じゃないですか。そう思いませんか。ここでしか読めませんよ。
楽しく読ませていただきました
電王戦、次に又あったら見ようと思いました
http://j.mp/14aZeon
http://j.mp/17jT43z
http://j.mp/Zmtqcq
http://j.mp/Zmtnxw
http://j.mp/15J2tng
http://j.mp/ZmtnNK
http://j.mp/13wH7oZ
http://j.mp/15J2tnj
http://j.mp/14RB0QA
http://j.mp/Zmtqcs
http://j.mp/12lF5YA
http://j.mp/15J2tDA
http://j.mp/XYKioL
http://j.mp/ZK7R5f
http://j.mp/ZupHuy
http://j.mp/13wH7Ff
http://j.mp/10eMAN1
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http://j.mp/11G7XJZ
http://j.mp/11EsM9S
http://j.mp/12lF470
http://j.mp/Zmtqcy
とても面白いブログですね。参考になる部分や共感できるところがたくさんありました。私よりずっと将棋が強そうで参りました。
気に入りましたので、勝手にリンクを貼らせて頂きます。ご迷惑でしたらご一報下さい。
楽しかったのでまた訪問します。
ではまた。
とてもいいブログですね。「世の中に貢献しよう」という方針が見られるので、こういうサイトの人には敬意を抱いています。