2013年04月20日

◆ 安倍首相を評価する(保育所)

 安倍首相が成長戦略という方針を示した。保育所拡充など。これを評価しよう。 ──

 安倍首相が成長戦略という方針を示した。保育所拡充など。( → 朝日新聞 2013-04-20
  • エネルギー、医療システムなどで経済外交を展開
  • 再生医療・創薬の制度づくりと日本版NIH(国立保健研究所)の設立
  • 労働移動支援助成金やトライアル雇用制度を拡充
  • 大学生の就職活動の解禁時期後ろ倒しや、女性役員・管理職の積極登用を経済界に申し入れ
  • 「待機児童解消加速化プラン」を実行し、2013、14年度で20万人分、17年度までに40万人分の保育の受け皿を整備
  • 経済界に3年の育児休業期間を認めるよう要望。職場復帰に向けた「学び直し」のプログラムを用意
 詳細は、下記。
  → 会見の文字起こし(首相官邸)

 全体的には、好ましい内容だと言える。ただし、本質的に言うと、次の点がおかしい。
 「成長戦略という目的と、保育所整備などとは、あまり関係ない」

 つまり、個々の政策は好ましい政策なのだが、それは「経済成長」とはあまり関係ないのだ。「経済成長」というのは、マクロ経済的なものであり、それに必要なのは「50兆円規模の成長策」である。一方、今度の方針は、全部合わせても1兆円に遠く及ばない。つまり、成長の効果はゼロ同然である。これがどうして「成長戦略」なのか、さっぱりわけがわからない。首相は夢でも見ているのだろう。(妄想)

 とはいえ、目的に適うかどうかは別として、個別の政策としてバラバラに単独で見てみれば、それぞれ好ましい政策だと言える。
 たとえば、
 「大学生の就職活動の解禁時期後ろ倒しや、女性役員・管理職の積極登用を経済界に申し入れ」
 というのは、なかなか優れている。マスコミの報道では、「就活を4月開始へ延期」という方針が示されていたが、私は疑問に思っていたものだ。
 「3月は春休みで、どうせ暇なんだから、4月解禁でなく3月解禁にすればいいのに。4月にこだわるのはおかしい」
 そう思ってたら、安倍首相は、「3月解禁」と言い出した。
  → 産経biz
 これは賢明だ。マスコミよりも賢明ですね。感心した。
 次に、本題は、保育所だ。

 ──

 保育所については、私は先にも述べた。
  → 待機児童問題の裏側

 このあと、今回、安倍首相は「保育所定員 40万人増」という方針を示した。今後2年間で 20万人増、5年間で 40万人増。目標は待機児童ゼロ。
  → 上記・朝日新聞

 これは素直に「よろしい」と評価したい。ただし、よく調べてみると、いろいろと考えるべきことがある。

 (1) 従前の方針との比較

 「待機児童ゼロ」という目標は、安倍政権でできたものではなく、従来からあった。
  → Wikipedia 「新待機児童ゼロ作戦」
 つまり、方針そのものは、2008年からあった。
 ただ、安倍政権は、それを前倒しし、さらに、それを政権の重点項目とした。このことは評価していいだろう。
 つまり、目標や志は、「とてもよい」と評価していい。満点ではないが、90点だ。

 (2) 実現性

 問題は、実現性だ。いろいろ調べてみると、実現性がおぼつかない。
 そもそも国は、15年度から5年間で待機児童を解消する目標だった。今回の対策で2年間前倒しする。40万人分の保育所をつくるには総額6千億〜7千億円のお金が必要で、来年度は消費増税分の一部を充てる。
 ただ、政権がいくら旗を振っても、事業をになう自治体がどれだけ本腰を入れるかは未知数だ。さらに、都市部での土地や建物の確保、保育士不足の解消に向けた対策も必要だ。
( → 朝日新聞 2013-04-20
 ここでは実現性に疑問符が付いている。特に、次の指摘が重要だ。
 「経済界への要請は、ただの要請に留まっており、法的な制度化はなされていないので、実効性に疑問符が付く」
 なるほど。そのとおり。

 ──

 ただ、私としては、もうちょっと調べてみた。すると、次のことがわかった。
 (i)児童1人当たり公費支出は、0歳児で月約40万円、1歳児で20万円
  → 産経新聞
 (ii)首相は育休期間を3年に延ばすことを要請
  → 冒頭・朝日新聞
 (iii)横浜市では、多様な保育サービスを展開することで、待機児童ゼロを実現。
  → SUUMOジャーナル

 以上をかんがみて、次のように言える。
 首相は待機児童ゼロを目標として、育休期間を3年間に延ばそうとしているが、これは見当違いだ。そもそも、0歳児は保育所ではやたらと金がかかるし、母親だって自分の手元に置いておきたい。だから0歳児については、保育所に預けることは必要でなく、むしろ、母親に育ててもらった方がいい。その方がコストも低く済む。月40万円もかけて保育に預けて、その母親が月20万円ぐらいの所得しか得られないのでは、本末転倒だ。0歳児については、保育所設置は、本末転倒。
 一方、1歳児〜2歳児については、保育所に預けて、女性を社会の戦力にした方がいい。とすれば、「育休を3年間に延長」というのは、これも本末転倒だ。(育休を延長しようというのは、幼児を家庭で育てようとすることだが、それよりはむしろ、保育所に預けた方がいい。)

 ──

 では、どうすればいいか? 
 1歳児〜2歳児については、「育休を3年間に延長」というよりは、「育休のかわりに保育所で」という方針を取るべきだ。
 0歳児の母親には、その逆だ。保育所で月 40万円ものコストをかけるのは馬鹿げている。むしろ、「育児手当」を月20万円支給して、家庭で育ててもらう方がいい。

 ただし、現実には、0歳児を保育所に預けたがる母親が多い。なぜなら、そうしないと、1歳児になっても保育所に預けることができないからだ。
 「1年以上育休すると、認可保育所には恐らく入れない。周囲には、認可保育所に入るために育休を早めに切り上げ、0歳児で入所させる人もいる」とため息をつく。
 保育料が安く、設備や人員が整った認可保育所の人気は高い。一方、認可保育所では0歳児9人に対し、1歳児の新規募集が0〜3人など極端に少ない保育所もあり、1、2歳での入所は難しい。
( → goo ニュース
 つまり、現状の実態が、本末転倒になっている。
  ・ コストのかかる0歳児ばかりを募集する
  ・ コストに低い1〜2歳児は募集が少ない

 
 無駄で高コストなものはやたらと多いのに、有益で低コストなものは少ない。そういうおかしなことになっている。
 さらには、4〜5歳児については、保育の必要がないのに、募集がかなりあって、定員割れになっているところも多いそうだ。
 つまり、設備はあっても、最適配分ができていない。ミスマッチング。

 ──

 このような問題にきちんと取り組んでいるのが、横浜市だ。
 土地所有者と保育運営事業者のマッチングや、保育室の賃料補助制度、保育士確保のための就職説明会・就労支援講座の実施など、さまざまなサポートを行うことによって、着実にハード面の取り組みを進めてきた。
 一方、ソフト面ではユニークな取り組みも。「保育コンシェルジュ」がそのひとつだ。保育コンシェルジュは、保育専門の相談員。市内の各区に一人ずつ配置されていて、保護者それぞれのニーズや状況に最も合った保育資源・保育サービスの情報提供をしてくれる。
( → 上記ページ
 詳しくはリンク先を読んでもらうとして、多様できめ細かな対策がなされている、とわかる。お役所仕事の定型的な処理とは違って、ホテルのコンシェルジュみたいに、市民一人一人に対して個別に最適の処理をしようと取り組んでいる。このことで、コストの最小化と効用の最大化が実現する。
 ここに正解がある。
 
 ──

 結論。

 安倍首相のめざす方向はいい。しかし、それを実現するための手段が良くない。0歳児についても、1〜2歳児についても、やるべきこととは正反対のことを実施しようとしている。
  ・ 0歳児   …… 家庭で育てるべきなのに保育所へ(高コスト)
  ・ 1〜2歳児 …… 保育所で育てるべきなのに家庭へ(育休)

 こういうおかしな方向に向かわせようとしている。それというのも、個別の対応ができずに、頭ごなしに一定の方針を押しつけようとするからだ。
 厚労省の役人には、保育所や育児の実態はまったく理解できていない。育児をろくにしたこともない男には、女性へのきめこまかな対策などはできるはずがない。
 ここは「待機児童は最悪」の状態から「待機児童ゼロ」を短期間で実現した、横浜市の女性市長に見習うべきだ。
 「頭を垂れて教えを請え」
 というのが、私のお勧めだ。そして、男のくせに女に頭を下げることができるとしたら、そのときこそ、私は安倍首相を称賛したい。
 一方、マッチョな気分で「おれがトップ」という小泉みたいな方針を取るのであれば、私としては支持しがたい。「船頭が迷って船が陸に上がる」となりそうだからだ。

( ※ ただし、「女性は家庭に閉じこもって子育てせよ」という従来の自民党の方針に比べれば、圧倒的に優れていると言える。「子供手当」というバラマキばかりにこだわった民主党よりも、はるかに立派だと言える。歴代の首相のなかでは最善だ、とも言える。……本文中では辛口の評価だったが、歴代の首相と比べた相対評価ならば、「大変良くできました」という花丸が付く。……それでも、横浜市の市長に比べれば、雲泥の差で劣るが。)
( ※ ひるがえって、横浜市の市長ならば満点だ。保育所問題については。)



 [ 余談 ]
 安倍首相はこれまで、「女性は家庭に」という自民党の保守的な家庭観を信奉してきた。それなのに、なぜ今になって、「女性は社会進出を」という進歩的な方針を取るようになったのか? これは大いなる疑問である。
 これに対して、私は次のように推測しよう。
 「安倍首相は大病を患って、首相の座を降りて、病院に入院した。そこで看護婦の偉大さを知るようになった。病院を切り回しているのは医者だけではない。看護婦も病院の半分をになっている。それなしには国は回らない。女性の社会進出を促して、看護婦のように働いてもらうことは、日本全体にとっていいことなのだ」
 こう理解したのだろう。
 そして、それは、彼が大病を患ったからだ。そのとき、看護婦の意義を理解した。そしてまたそれは、彼が「他人の気持ちや価値を理解する」という、保守政治家らしくないことができきるようになったからだ。
 人は大病を患うと、弱者の痛みや心を理解できるようになる。これまで「大政治家だ」と思って自惚れていた彼が、他人の価値も理解できるようになった。
 大病を患って、他人の価値を理解できるようになったという意味で、もしかしたら、彼は日本史上で傑出した政治家になる可能性を持っている。……彼の長所ゆえではなく、彼の短所(不健康)ゆえに。

 人を成長させるものは、長所だけではないのである。
 


 《 オマケ 》


  → 出産の漫画(無料)

 出産(産科医)の小説もある。
  → ジーン・ワルツ (新潮文庫)

posted by 管理人 at 11:11 | Comment(4) | 一般(雑学)1 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
本当は子供がほしい夫婦が、妊娠による収入減が怖くて、妊娠したくない、と悩んでいる例。
 → http://anond.hatelabo.jp/20130420202213

 保育所なんかに月 40万円をかけるより、母親に払う方がいいんだが。そうしないから、少子化になる。亡国政策。
Posted by 管理人 at 2013年04月21日 13:06
「成長戦略という目的と、保育所整備などとは、あまり関係ない」
ゴールドマン・サックスが2010年のリポートで、日本で現在は60%の女性の就業率が男性並みの80%に上昇した場合、国内総生産(GDP)の伸び率は15%に拡大すると推計したとのこと。
安倍首相はこれを知って急に女性の社会進出に注目したかもしれません。
保育所整備で女性の就業率が上がれば経済成長に寄与するが、実際GDPが15%も上がるでしょうか。
Posted by passerby at 2013年04月21日 15:30
> 実際GDPが15%も上がるでしょうか。

 人手不足の場合には、ちゃんと上がります。人手が足りなくて、需要も設備もあるならば、人手を投入した分、きちんと成長します。

 ただし現状では、需要が不足しています。供給過剰・需要不足の状況。ここで人手を大量に投入しても、男性の失業者が増えるだけで、経済の総量は拡大しません。
 デフレとは需要不足だ、ということに政府が気づいて対処すれば、成長はありますが、しかし現状では「供給主義」(サプライサイド)だから、何をやっても無駄でしょうね。
 デフレとは需要不足だ、ということに政府が気づくのがいつになるか、しだいです。
Posted by 管理人 at 2013年04月21日 17:03
3歳までは家庭でしっかり育てたいと考える女性
もまだまだ結構いるもんですよ。

それまで働いていた女性が、子育てによって退職
し、数年間を子育て一本で過ごしてきたとしても、
無理なく復職できるような仕組みを構築すること
が、女性を活かすポイントになろうかと思います。
Posted by 反財務省 at 2013年04月22日 01:35
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