2013年04月18日

◆ 北朝鮮の弾道ミサイルは迎撃不能

 北朝鮮の弾道ミサイルが米国に向かったらそれを迎撃せよ、という声がある。しかし技術的に迎撃不能だ。 ──

 北朝鮮の弾道ミサイルが米国に向かったら、それを日本の迎撃ミサイルで迎撃せよ、という声がある。
 これに対して、「集団的自衛権を逸脱している」という反対論がある。これは法的な問題だから、憲法改正などによって対処は可能だ。
 一方、技術的には対処不能な問題がある。そもそも日本の迎撃ミサイルでは、米国向けのミサイルを迎撃できない。
 これは軍事常識なので、わきまえておこう。

 ──

 日本にある迎撃ミサイルは、次の二種類だ。
  ・ PAC3 …… 近距離迎撃ミサイル
  ・ SM-3 …… 中距離迎撃ミサイル


 PAC3 は、ミサイルが落下していく時点で、落下地点の上空で迎撃するものだ。たとえば、首都圏の上空で迎撃する。これは、射程がきわめて短い。
 SM-3 は、ミサイルが昇り詰めた時点で、軌道の頂点付近で迎撃するものだ。たとえば、日本海の上空で迎撃する。これは、射程が中距離だ。


geigeki.png
防衛白書の図


 これが日本に用意された迎撃ミサイルだ。
 
 一方、北朝鮮が米国に向けて発射するとしたら、それは大陸間弾道弾(ICBM)である。その速度はきわめて高速であり、SM-3 よりも速く、とても追いつけない。また、高さは大気圏のずっと上であり、SM-3 には届かない。まして、PAC3 に至っては、指をくわえて見守っていることしかできない。

 だから、「北朝鮮が米国に向けたミサイルを、日本が迎撃ミサイルで迎撃する」というのは、比喩的に言えば、「軽自動車でレーシングカー( F1 )を追い越す」というようなものだ。性能の差からして、まったく不可能。

 「それじゃ、日本も高速な迎撃ミサイルを用意すればいい」と思うかもしれないが、その開発は凍結されている。
 ブロックIIAは射程と迎撃精度と威力が向上しており、より高速で高射程の射程5,500km程度の中距離弾道弾(IRBM)や上昇段階(ブースト・フェイズ)の最終段階まで迎撃可能になる予定であり2018年から実戦配備予定である。
 さらにブロックIIBでは多弾頭型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)にも対応する予定であるといわれていたが開発が凍結されている。
( → Wikipedia
 上記のように、近い未来に配備されるのはせいぜいブロックIIAだ。これで対応できるミサイルは、射程5,500km程度のものでしかない。つまり、北朝鮮から発射すると、アラスカまでしか届かないものだ。だからこれは今回の話題(北朝鮮から米国本土をめざすミサイル:射程1万キロ)とは関係ない。
 一方、 ブロックIIBならば、今回の話題になるミサイルを迎撃できそうだが、上記のように、これは近い将来に配備されることはないし、その計画すらもなく凍結されている。(その理由は技術的に困難だから。ICBM のように高速で高高度のミサイルに対応する迎撃ミサイルは開発がきわめて困難。)
 
 そもそも、計画が実現したとしても、迎撃が可能であるかは疑わしい。というのは、ICBM はきわめて高速なので、打ち上げに気づいたころにはもはや敵ミサイルは成層圏に達してしまっている。「後出し」で日本がミサイルを打ち上げたとしても、追いつけそうにない。(同じぐらいの速さのものであれば、遅れて出たものはなかなか追いつけない。)
 ここではっきりさせておこう。日本には、現在のところ北朝鮮から発射されたミサイルを日本上空で撃ち落とす能力はない。北朝鮮から発射したミサイルは3分後には日本上空を通る。「お、北朝鮮から何かが発射された」と認識して、3分後に迎撃ミサイルを発射するだけの能力は持っていないのだ。
 ミサイル防衛(MD)システムを米国と共同で開発しようという計画はあるが、具体的にどうすればそういうものが出来るのか、成案があるわけではない。飛び立つ瞬間、できればその気配の段階で敵の動きを察知しなくては、成層圏のはるか彼方を飛んで米国に向かうミサイルを、日本上空で打ち落とせるものではない。
( → 大前研一
 上の文章はちょっとおかしい。「3分後に迎撃ミサイルを発射するだけの能力は持っていない」と書くが、発射するだけの能力ならば持っている。問題は、「3分後に発射しても手遅れだ(追いつけない)」ということだ。(大前研一は、これがわからないほど馬鹿だとは思えないので、筆がすべったのだろう。今からでも書き直した方がいいのだが。)
 上には「成層圏のはるか彼方を飛んで米国に向かうミサイルを、日本上空で打ち落とせるものではない」という文章がある。これが正しい。



 以上は技術的な問題だ。
 他方、戦術的な問題もある。次のことだ。

 日本があらかじめ「米国向けのミサイルを迎撃します」と表明したら(そしてそれが可能であると北朝鮮が信じたら)、北朝鮮はまず日本の迎撃ミサイルを破壊しようとするだろう。
 といっても、北朝鮮のミサイルは、日本の迎撃ミサイルの基地(またはイージス艦)をミサイルで破壊することはできないだろう。なぜなら、たいして精度がないだろうからだ。
 そこで、北朝鮮は逆に、日本の迎撃ミサイルが自発的に北朝鮮のミサイルにぶつかってくれるように促すだろう。そのためには、北朝鮮は日本の本土に向かってミサイルを発射するだけでいい。そうすれば、日本の本土を守るために、日本の迎撃ミサイルが北朝鮮のミサイルに向かう。
 このあと、二つの問題が起こる。
 (1) 米国向けのミサイルを迎撃していくせいで、日本の迎撃ミサイルが弾切れになってしまう。弾切れになると、日本自身を守れなくなる。
 (2) 迎撃ミサイルを発射しても、「迎撃漏れ」(撃墜ミス)がいくらか生じる。その割合が3割程度だとしても、大量のミサイルが落下したら、日本には被害が生じる。

 ──

 特に、(2) が重要だ。
 本来ならば、北朝鮮が米国にミサイルを発射しても、日本には何の被害もないはずだった。また、米国は、自分のミサイル防衛網で、米国向けのミサイルを迎撃するはずだった。
 ところが、日本が「それを迎撃する」と言い出した。それを信じた北朝鮮は、米国を攻撃したいだけなのに、日本の迎撃ミサイルに迎撃されないために、まずは日本の迎撃ミサイルを無力化しようとした。その際、その目的のために、日本の都市(首都圏や関西圏など)に向けてミサイルを発射することになる。
 つまり、「米国向けのミサイルを迎撃しますよ」と日本が叫ぶことは、北朝鮮に「だったらまずは日本を攻撃する」という動機を与えることになる。
 馬鹿じゃないの? 

 ──

 比喩。
 狂犬 「あのライオンに噛みついてやる! あのライオンは百獣の王気取りでいるな。だが、俺様の方が強いということを見せつけてやる」
 子猫 「ライオン様に噛みつこうとするのか? それなら、僕がおまえを退治してやる!」
 狂犬 「何だと! 子猫のくせに。だったら、おまえを先に噛み殺してやる!」
 
 身の程知らずの子猫がどんな運命にあったか。そもそも、狂犬なんか、ライオンに任せておけば、ライオンがあっさり退治できたはずだ。なのに、子猫が身の程知らずで出しゃばるから、無駄な被害が生じるだけとなった。
 いくら子猫が「ライオン様に忠節を誓います。だからかわいがってね」なんて言ったって、死んでしまえば、元も子もない。
 
 ──

 結論。

 日本の迎撃ミサイルは、日本本土を直撃するものを防御するためにある。
 なのに、日本のはるか上方を飛んでいく高速 ICBM を追いかけて撃墜しようとしても、それは無理だ。とても追いつけない。
 米国の本土を守るのは、米国本土にある迎撃ミサイルだ。それを配備するべきなのは米国であり、日本ではない。
 日本が横から口を出して、「僕が守ってあげるよ」と威張っても、「できもしないことをしようとする軍事音痴」と馬鹿にされるだけだ。馬鹿をさらすのはみっともないので、やめた方がいい。「北朝鮮のミサイルを撃墜してあげます」なんて語るたびに、世界の物笑いにされるだけだ。
 


 【 関連項目 】

 本項では、速度の点から「迎撃不能」と結論した。
 一方、角度の点から「迎撃不能」と結論することもできる。


seisha5.jpg
平射図法


 詳しい話は、下記項目で。
  → 集団的自衛権と迎撃ミサイル
posted by 管理人 at 19:10| Comment(3) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
発射されたミサイルを打ち落とすことは、管理人さんの分析どおり難しいでしょう。
 では、北朝鮮は有利かといえば、全然不利。資源のない小さな国が、なけなしの国費を費やして、何本かのミサイルを作った。しかし、虎の子のミサイルを撃って、どこかの国を傷つけたら、北朝鮮の国土を総反撃されて、国家指導者は間違いなく抹殺される。
 米国を消滅させるには多数のミサイルが必要。抹殺させる大義もない。敵は米国だけでない。それだけのミサイルをもっていない。また、手持ちのミサイルを打ち尽くすまで、のんびり待ってくれる訳でもない。

 自分に勝ち目がないのに、世界を脅迫する、喧嘩を売る馬鹿なことを普通やらない。
 何故、そのような行動をとるのか? 
(1)過去に、多少の脅しは有効であると学習した。
(2)これしか手段はないという思い込み。
(3)北朝鮮のゲームの理論の研究者による助言。
 しかし、ゲームの理論は不完全なしろもの。狂気を装うと有利だと、功名心から吹き込んだのかも。

 今、北朝鮮の指導者は、どうも思惑通りではない。ひょっとしてヤバイことになったのではないかと、半ば恐怖感に苛まれていると推測される。

 平和的な解決策のひとつは、(1)金一族の命と生活の保証(抹殺論者を抑える必要があるが)、(2)政権を手放すこと、(3)北朝鮮から難民を出さず、平和的に復興させるプランの提示と復興までの経済支援。
  日本の戦国大名は、自分の首を差し出すから、部下の命は助けてくれと、潔かった。

 他には、北朝鮮内にクーデターなどが起きるまで、兵糧攻めにする。放置しておけばそうなる。自壊するのは時間の問題。
 つまり、詰んでいるように見える。
Posted by 詰んでいるように見える at 2013年04月19日 21:33
関連項目:

 北朝鮮に全面降伏せよ
  → http://openblog.meblog.biz/article/14138543.html

 北朝鮮のミサイル実験を止めるには?
  → http://openblog.meblog.biz/article/12799827.html
Posted by 管理人 at 2013年04月19日 22:21
日本は迎撃できませんが,アメリカはアメリカ本土の迎撃ミサイルで迎撃できるのでは?

そもそも,北をどうするかなんてのは各国どうでもよい話です。いつでも潰せる相手なので相手にする必要がないからです。

それよりも各国の関心は,日本の「声」です。
北が日本にミサイルを打てば日本は武装化するでしょう。これが各国の最悪のシナリオ。

打たなくても、同盟国を守るためという美辞麗句の名のものに、大陸間弾道ミサイルを迎撃できる程度の武装化はしようなんて声も出てしまっています。これをいかに阻止するかが各国の現在一番の関心ごと。

仮にこれが配備されてしまえば中国はアメリカに打つことができなくなる。
また、アメリカは日本が中国に寝返ったとき中国に打てなくなる。
また、どこを守るでもなく、どこでもを日本が狙えるようになる。

こうなっては世界みんなが困るのです。
だから今各国は一致団結して北の阻止に動いている。
実際に北が日本へ実発射の兆候を見せようものなら、中国かアメリカのどちらかが間違いなく先制攻撃で北をつぶすでしょう。

だから今みんなが考えていることは、熱を帯びた北の空気をいかに短距離又は中距離ミサイルの発射でガス抜きをさせ、北に首輪をつけ、日本の武力強化の声を鎮静化させつつも、自国武装は強化するかです。

そういう意味では管理人さんの日本がエサをあげる案は悪くないと思います。ペットを従順にする一番の方法は餌やりですよ。しかも、各国の財布は痛まないときたものです。
Posted by しろーと at 2013年04月20日 12:13
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