混合診療の是非が問われている。この問題は前にも論じた。
→ 混合診療の是非
→ 抗ガン剤と混合診療
以上において私は、次の見解を取った。
「抗ガン剤については、混合診療に移行する。高額な薬剤は、患者の 100% 負担とする。ただし、一定限度(たとえば50万円)ぐらいまでは、健保の負担としていい。また、入院料なども、健保の負担としていい」
──
ただ、それとは別に、「未承認薬」という問題がある。抗ガン剤には、明らかに有効である場合がある。また、抗ガン剤以外でも、明らかに有効である場合がある。ところが、「日本では治験がなされていない」という理由で、(承認がされないので)未承認薬となってしまう場合がある。
これが「日本独自の治験」という問題だ。
そして、これは実に奇妙なことに、日本だけにある問題だ。

出典:ブラックジャックによろしく 第7巻
このような「日本独自の治験」をやる理由は、「人種差」だが、これはあまりにも非科学的な発想だ。
・ 白人と日本人の、人種間の遺伝子差は、ごく小さい。
・ 黒人同士の遺伝子差の方が、ずっと大きい。
・ 米国ではさまざまな人種を含めて治験がなされている。
・ 人種差よりも個人差の方が圧倒的に大きい。
つまり、大きな差のある個人差についてはまるきり無視しておきながら、小さな差しかない人種間の差ばかりに着目する。その差を見るために、日本独自の治験をする。……これはあまりにも非科学的だ。
そして、そのせいで、次の問題が起こる。
・ 治験のコストが膨大 (薬価が上がる)
・ 効果がろくにないのに承認されることがある。
・ 有効でも承認されないことがある (患者数の少ない病気)
・ 承認の遅れ (数年間)
このうち、最後の問題については、次の反作用もあった。
「イレッサについては、効果が大きいという世論があったので、日本で
→ イレッサ問題の本質
このように多大な被害が国の責任で生じたのにもかかわらず、法的不備がなかったという理由で、最高裁は「被害者の全面敗訴」という判決を下した。
→ イレッサ、遺族が敗訴。全訴訟終結。 (東京新聞)
私としてはこの判決が不当だという見解を取るわけではないが、現状の制度がひどいという根源を見失ってはならないと思う。そして、その根源とは、こうだ。
「日本独自の治験という制度があるせいで、日本の薬剤承認制度がいい加減である」
この問題を解決するには、次のようにすればいい。
「薬剤承認については、欧米と統一基準にして、日本独自の治験はやめる」
これに対して、
「人種差の問題はどうする?」
という反論が来そうだが、こう答える。
「人種間の差などは、個人間の差(個人差)に比べれば、はるかに小さい。したがって、あくまで個人差の枠内で対処する。効かない場合もあるし、副作用が出る場合もあるが、いずれも、個人差の範囲内で対処する」
つまり、人種間の差については、無視するわけではなく、より大きな枠組み(個人差)のなかでとらえる。
さらに、これを有効にするために、次のようにする。
「有効性や副作用についてのデータベースを構築して、世界的に利用できるようにする」
この場合、逆に、欧米のデータベースも利用する。世界的に統一されたデータベースを作るといい。
言語間の問題については、翻訳ソフトを使って、表示言語を変えればいい。どうせたいていの項目は選択式(択一式)だから、言語間の問題はあまり存在しない。例外は、注記の記述だが、それは英語に統一すればいい。
( ※ 仮にこのようなデータベースが十分にできていれば、イレッサの副作用による被害は、小規模な状態で食い止められていたはずだ。イレッサの問題が示すことは、この箇所が日本には欠けている、ということだ。そして、その問題は、今なお解決されていない。→ 後述 【 補説 】)
──
まとめ。
混合診療の是非を問う前に、日本独自の治験をやめるべきだ。
治験は欧米と統一したものだけでいい。(欧米追従でもいい。)
人種間の違いについては、個人差の枠内で扱えば十分だ。
有効性や副作用についてのデータベースを、世界的に構築するべきだ。
[ 付記 ]
本項で述べた内容は、個々の点については、特に目新しいものではない。大事なのは、
「混合診療の問題と、日本独自の治験とは、密接に関係している」
ということだ。やみくもに混合診療の是非だけを論じても仕方ない。その背後または根底には、「日本独自の治験」という問題がある、と理解するべきだ。それが本項の趣旨だ。
【 補説 】
( ※ 以下の情報は不正確なので、後で取り消します。)
日本にも副作用のデータベースは、あることはある。しかし、あまりにもひどいものだ。
サイトはここだ。
→ 医薬品副作用データベース
しかしここで得られるものは、超巨大な CSV ファイルを zip 圧縮したものだけである。
・ いちいち解凍する必要がある。
・ OpenOffice で開くと、ビジー状態(無反応)になり、
ファイルを開けない。(ファイルサイズが巨大なので。)
それでも、エディタでならば開けるので、開いてみると、次のことがわかる。
「ただの症例の羅列であり、データ集計がなされてない」
これじゃ、役立たずだ。オマケに、データの更新は、リアルタイムではなくて、毎月いっぺんの提供だ。(どうやら人手でやっているらしい。)
ネットで検索すると、かわりに、次のサイトが見つかる。
・ 副作用のデータベースを構築しようという構想。(1995年)
・ 民間の事業者による副作用のデータベース(有料)
呆れてものも言えない、というありさまだ。実質的には、ごく貧弱なデータベースしか得られていない。
こういうありさまが、イレッサの事故のあとでも、いまだに続いているわけだ。情けないね。
( ※ 以上で述べたことは、以下で修正する。)
【 修正 】
実は、日本にもきちんとしたデータベースがあるとわかった。
下記で詳細情報が得らる。
→ http://www.info.pmda.go.jp/
たとえば、ジェムザールならば、これ。
→ http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/4224403D1030_1_14/
この件については、コメント欄( at 2013年04月14日 14:08 )でも言及した。
【 関連項目 】
→ 治験と人種差
治験については、「人種間の差よりも、個人間の差の方が大きい」と言える。その理由を示す。
→ http://openblog.meblog.biz/article/4146467.html
→ http://togetter.com/li/487256
→ http://www.chikennavi.net/word/kokusaikyoudou.htm
「大規模臨床試験や症例が集まりにくい試験など、 日本国内だけでは症例数が足りない場合に、 人種差の比較的少ないアジア各国との国際共同治験が 有効と考えられています。
また、中国、韓国などアジアでは、 日本よりも比較的安く治験を実施できるので、 コスト面からも魅力的とされています。 加えて、同時開発によって治験のスピードアップ、 上市時期の前倒しが期待できます。」
ま、これは、遺伝子を見てもわかることだが。
「抗がん剤を、腫瘍内科医(抗がん剤専門医)以外の専門医が処方している(処方することが許されている)国は、先進国の中では日本だけです。このような日本でよいのでしょうか?」
「腫瘍内科医(抗がん剤専門医)は、現在900名。米国の10分の1しかいません。日本では、少なくとも、5000人は必要です。」
http://togetter.com/li/487008
薬の研究、開発はとても高度な科学レベルが求められ、世界でもやれる国は限られています。
現在、日本もその一つに食い込んでいます。
グローバルに合わせるのもよいのですが、
日本として産業を捨てるのか?というところでしょうかね。
アメリカ、ヨーロッパ、日本が、今は三本柱なんです、、、
・ 国際共同治験をする。
・ コストの安い国で治験する
というのが好ましい、と十年以上前から指摘されています。
 ̄ ̄
国際共同治験とは、新薬の世界規模での開発・承認を目指して製薬企業が企画する治験で、一つの治験に複数の国の医療機関が参加し、共通の治験実施計画書に基づき、同時並行的に進行する臨床試験のことです。
抗がん剤など難治疾患の薬剤では、海外の患者様には標準治療で使われているのに、日本では開発が遅れているためにその薬剤を使えないことを、ドラッグ・ラグといいます(海外と日本との差は約4年)。
ドラッグ・ラグの解消を目的とし、臨床開発のスピードを上げていくために、日本でも国際共同治験が増加しています。治験の届け出件数でみてみると、平成19年度は508件のうち国際共同治験件数が38件(7.5%)、平成20年度は502件のうち82件(15.6%)と2倍以上の増加です。
しかし、諸外国に比べるとまだ多くはありません。
http://www.onh.go.jp/clinicalresearch/r_news/index006.html
臨床開発もれっきとした産業ですから、国として捨てるのは譲れないのだとおもいます。
例えば外資の国内法人も現在はどこも国内に開発組織をおいて日本人を雇っていますが、海外データそのままで良いなら日本に開発組織不要になりますから、バッサリ切るでしょうし。
ただ、海外データをつかって不都合がないなら、主さん言われるとおりの流れはとめられないでしょうねぇ。TPPもありますし。
ドラッグラグに関してはあげられたソースの時期から現在までの数年で大きく改善されてきて、時間、期間に関してだけは海外と差がなくなってきています。
PMDAや、製薬協に新しい情報がありますのでご覧になって下さい。
時間はわりと追いつきましたがあとはコスト、効率の問題が大きいです。
 ̄ ̄
《 ドラッグラグは解消されず、潜在化しているだけ 》
問題は解消に向かっているのではなく、ただ見え難くなっているに過ぎない。日本に導入される新薬候補化合物の数は減少しており、事態はむしろ悪化しているとさえいえる。
→ http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/cr/201207/525524.html
「承認するか否か」よりも、「効果の有無」をデータベースで調査することの方が重要だと思える。
治験のときには統計的な数値情報が得られるのだが、承認されたあとはそういう数値情報が出ないで、単にメーカーからの薬剤情報が出回るだけだ……と思ったのだが、調べてみたら、違いました。 (^^);
下記で詳細情報が得られます。
→ http://www.info.pmda.go.jp/
たとえば、ジェムザールならば、これ。
→ http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/4224403D1030_1_14/
副作用も効果も、詳細なデータが得られるとわかる。
だけど、このページ、あまり知られていないみたいですね。私がここで書くまで、医療関係者からの指摘はなかった。不思議。全然、有名ではないようだ。
とすると、情報はあっても、情報を使いこなせていないようだ。とすれば、大事なのは、抗ガン剤の使用を専門家に限ることだろう。先のコメント(at 2013年04月14日 08:45)で引用したのと同様に。
→ 「イレッサ問題の根源」
http://openblog.meblog.biz/article/15529976.html
元祖「ブラックジャック」だったら、ウソを含む手塚漫画として読むから害がないけれど、「よろしく」だと、事実だと思っちゃう。
> いいえ、第三相試験のデータは海外のを用いる方針だったようで、欧州6 カ国、豪州、南アを含めた国際共同試験です。
ご指摘を受けて修正しました。
× 独自の治験
○ 承認
昔、この作品の連載の後半くらいの時期に、知り合いの外科医の人に感想を聞いてみたら
「よく調査してあるし扱っている問題も切実なものだったけど、
今の時点でだいたい解決の目処がついたものも多い。
(医局の問題とか)
どうしても後追いになっちゃうのでしょうがないけれど、
扱っている話題がトラック1週遅れくらいの印象がある」
って言ってました。