再生エネとして風力発電を増やせと言われているが、たいして増えていない。再生エネ法案を通しても、効果がない。そういう報道がある。
《 再生エネ、規制が足かせ 太陽光以外伸びず 》「送電線への接続」「環境アセス」「農地法」の三つが、風量発電の普及を阻止している、という趣旨だ。まあ、それは間違いではあるまい。しかしそれが根本原因かというと、そうではない。
再生可能エネルギーが思うように増えていない。固定価格全量買い取り法(FIT法)による制度が昨年7月に始まったが、初期の導入の95%が太陽光発電。風力、中小水力、地熱、バイオマスはごくわずかだ。すべての種類が幅広く導入できるように買い取り価格を設定したのに、規制が足かせになっている。FIT法は絵に描いた餅になりかねない。
風力発電所は2012年10月から、原発や火力発電所と同等の環境アセスが必要に。アセスだけで40カ月以上。環境相や知事から意見が出れば事業化まで5〜9年かかる。
太陽光発電は環境アセスがなく、住宅などに設置すれば電力会社が買い取るという仕組みがある。
風力発電には三つの壁がある。「送電線への接続」「環境アセス」「農地法」だ。
送電線を保有する各電力会社が、受け入れ可能量を示して接続する発電業者を募集する。抽選で選ばれるが、倍率が高く、ほとんどの業者がこの段階ではじかれる。北海道電力の昨年2月の募集では、20万キロワットの新規枠に9倍の応募が殺到した。他の電力会社でも同様だ。
世界の再生エネの主力は、安くて大量に発電できる風力だが、日本では導入が遅く、今後も進みそうにない。
( → )朝日新聞 2013-03-25
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仮にこの三つの問題が解決したとしよう。それでも、日本では風力発電は普及しそうにない。というか、ある程度は普及するとしても、限界がある。理由は、下記だ。
・ 人口が多く、必要とするエネルギーが多い。
・ 国土が狭く、利用できる風力資源が少ない。
・ 山間地が多く、平野部は少ない。
・ 山間地の谷間などは、良い風力資源だが、「鳥の通路」
になっているので、風車による鳥の激突死が多い。
・ 人のいる地域では、低周波による健康被害が発生する。
・ 結局、利用できるのは、海岸や洋上ぐらいだ。
・ その利用できる量には、限界がある。
一方、欧州では、これらの問題がない。
・ 人口が少ないので、必要とするエネルギーが少ない。
・ 国土が広く、利用できる風力資源が多い。
・ 山間地よりも、平野部が多い。
・ 平野部が多いので、「鳥の通路」もない。
・ 人口密度が低いので、低周波による健康被害の恐れもない。
・ 結局、利用できる土地がたくさんある。
・ その利用できる量は、たっぷりある。
欧州の状況はどうかというと、ストリートビューを見るとわかる。最近では欧州の至るところがストリートビュー画像で見られるので、欧州の田舎を見ると、人のいない地域を道路が延々と延びているのがわかる。
適当にフランスの平野部をクリックしてみたら、これだ。
→ フランスの郊外の道路
人家のない土地が延々と続いている。これが欧州の大部分の地域だ。日本の平野部の何十倍もの領域に、日本よりもずっと少ない人口しか済んでいないのだから、土地はありあまっている。風車を建てる土地は、いくらでもある。
一方、日本には、人のいない平野部なんて、ない。たとえば、適当に田舎の土地を見ると、こうだ。
→ 福島の山野部の道路
山間地の道路を見ても、ちょっと平坦な土地があれば人家がいっぱいある。こんなところに風車を建てるわけには行かない。(やれば、低周波による健康被害が発生する。)
かといって、山地に風車を建てるとしたら、風量の多いところは「鳥の通路」となっていて、鳥の激突死をもたらす。それもまずい。
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結局、人口密度の問題があるから、風力発電には限界があるのだ。ま、努力すれば、いくらかは風力発電所を建設することもできるだろう。特に北海道の僻地ならば、人口密度が低くて、風車を建てる土地もあるだろう。
とはいえ、そういう場所は、限定的だ。北海道の海岸部をちょっとクリックしただけでも、そこにはすでに風車が設置されているとわかる。
→ 北海道の海岸部の風車
なるほど、日本にも風車を設置できる場所は、まだかなりある。特に北海道の僻地には、人家がなくて風力資源のある土地がある。とはいえ、そういう例外は、わずかなのだ。それらの風力資源をすべて有効利用したとしても、日本全体の必要電力の1%にもならないだろう。(日本は人口が多いので、必要とする電力は多大だ。)
こういう根源的な上限がある。これは自然条件によって制約された上限だ。ゆえに、「送電線への接続」「環境アセス」「農地法」の三つをいくら改善したところで、風力発電が多大に実現するということはないのだ。
朝日のような盲目的なエコロジストは、「風力発電は素晴らしい」というふうに夢見ている。しかしそれは夢にすぎない。わずかな量ならば風力発電は実現可能だが、一国の多くの部分をまかなうには根源的に不足しているのだ。「風力発電は夢の再生エネです」なんて騒いだところで、それで発電できる電力の総量はせいぜい日本全体の1%にもならないのだ。それは、平野が多くて人口の少ない欧州とは、まったく別の事情だ。
その原理を理解することが必要だ。
( ※ 自然によってもたらされるエネルギーには、自然による制約がある、と理解するべき。日本は山地だらけであり、いくら頑張っても、平野だらけの欧州の真似はできない。)
[ 付記 ]
もう一つ、根源的な難点がある。
「日本では、欧州と違って台風があるので、風車が壊れやすい。特に、欧州製の風車は、たいていた壊れてしまって、使い物にならない」
この件は、しばしば報道されている。本サイトでも何度か言及した。(下記項目など。)
【 関連項目 】
似た趣旨のことは前にも述べた。
→ 風力発電(地理・気候) [重要]
→ 風力発電の妄想
→ 風力発電の NHK 記事
ただし、少量の風力発電ならば、可能だ。これについては、肯定的にとらえる記事を紹介したことがある。(私の見解ではない。)
→ 風力発電は増やせる
以上の話をすべてまとめた総集編が、本項だ、と言えるだろう。
『(日本のエネルギー自給、CO2排出ゼロの可能性を有する)
深海洋上風力発電を利用するメタノール製造に関する提案』
http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/dis020j/pdf/dp20j.pdf
例えば、福島、猪苗代湖の南の布引高原(標高1000m、150ha)では、冬季は厳寒で強風が吹きます。営農期間は5〜10月までで、残りの期間は農作業不可です。かつ農業者は高齢化しています。そこに33基の大規模な風力発電施設が建設されました(2007年営業開始)。
農業者にとっては、高原までの道路が整備され便利になり、高原野菜の知名度が上がります(ブランド価値。残念なことに、福島原発事故のため福島の農産物の価値は損なわれましたが)。賃料も入ります。
設置側にとっては、安い借料ですみ、風況が好条件の立地です。工事用の道路は整備しなければならないが、既成の農業道路を拡張すればよく、農林関係の補助金も出ます。いったん道路を整備すれば、33基の建設は円滑に進みます。送電線は、猪苗代あたりまで設置すれば既存のものに接続できます。
風力発電施設には落雷の可能性がありますが、福島の落雷は、冬季の日本海のような巨大電荷量はないので、避雷の工夫をすれば、被害を減らすことができます。
高知県の梼原町は、町内の尾根沿いに風力発電施設を2基設置しました(1999年から稼動)。売電が1kwあたり11.5円と安価であったにも関わらず成功しました。放牧用の牧道が整備されていたこと、年間平均風速は7.2m/sという好条件であることを調査・確認してから設置したからです。梼原の成功に刺激され、現在、四国では山間の尾根づたいに、大規模ウインド・ファーム建設が進められています。
山間部の地方自治体では、大電力は要らない。風力発電で、60%の電力が自給できれば、財政健全化に有益です。その収益で、小水力発電をしたり、太陽電池を普及させることで電力自給率をさらに向上できます。また、林業を修復したり、環境を生かす自場産業を興したり、自然教育をしたりと、まっとうな町政を進めることができます。
日本が斜陽化し、地方財政もじり貧になっている今日、それらの知恵と努力は重要なことです。
山だらけの日本、尾根は風力の宝庫です。
しかし、いかんせん、日本の電力需要は膨大です。風力をいくら増やしても、焼け石に水みたいな感じがある。風力で大部分の電力をまかなうのは無理だ、……というのが、本項の趣旨。
総計で電力全体の1%ぐらいのレベルまで増やすのであれば増やしてもいいでしょうが、それは本項の趣旨とは別の話題。
http://www.riam.kyushu-u.ac.jp/windeng/img/aboutus_detail_image/HP_20110622.pdf
要するに、方法にこだわることはないのです。家屋やビルの断熱性を高めれば、消費電力量は軽く20%程度削減されます。熱エネルギーが筒抜けに近いビルや家を建て続けている日本がノー天気ですね。官僚組織が有効に機能していないですね。
メガソーラーはとてつもなく広大な土地に無数のパネルでも同じくらいの世帯分しか無い。
両方共気候に左右されて安定していないことを考慮すると、将来性ははなはだ疑問です。
原発が将来的には無くなると仮定した代替エネルギーは天然ガスが最有力としか思えません。