北総鉄道の運賃は、やたらと高額である。これについて訴訟があり、判決が出た。そこで、ちょっと言及してみる。(論理クイズみたいなつもりで。)
北総鉄道の運賃は、やたらと高額である。それは次の状況にある。
北総鉄道 都内 __________ 印旛日本医大駅
京成電鉄 都内  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 成田空港駅
同じ線路を使っているのに、北総鉄道の運賃は高く、京成電鉄の運賃は安い。なぜか? 北総鉄道の親会社が京成電鉄で、運賃をそういうふうに設定しているからだ。
ではどうして、そういうふうに設定しているのか?
──
ここで、記事を引用しよう。
東京都東部と千葉県北西部をつなぐ北総鉄道の運賃は高すぎる――。通常ならば、「新興開発地の路線の料金が高いのは仕方ない」となるのだが、ここでは、「同じ路線を走る京成電鉄の方は割安だから、沿線地の住民ばかりが割を食っている」という不公平感がある。
通学路線は北総鉄道の千葉ニュータウン中央駅から新鎌ケ谷駅を経て、京成電鉄の千葉中央駅まで約1時間。半年間の定期券代は、市の通学定期補助で25%を割引されても9万円台で、約10分しか乗らない北総鉄道分(11・1キロ)が5万円超と半分以上を占めた。JR東日本だと、千葉近郊で営業距離11・1キロなら、通学定期(高校生)は6カ月2万5370円で済む。
1区間は最大290円。周辺の私鉄より2倍前後、通学定期券は4倍以上高く、全国の鉄道でも屈指の高額運賃とされる。
住民らは高額運賃の原因について、北総鉄道の親会社・京成電鉄が北総側に支払う成田空港線の線路使用料などが不当に安すぎるためだと裁判で主張。国は適正な使用料に改めさせ、北総の上限運賃も値下げさせるべきだと訴えた。国は「上限運賃の認可は鉄道事業の適正な運営の確保が目的であり、鉄道利用者の個々の利益を保護するものではない」と争ってきた。
( → 朝日新聞 2013年3月22日 )
ではどうして、こういうことが起こるのか?
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ここでは、次の事実に着目するといい。
「東京都成田空港の間では、京成と JR が競合している。ゆえに、京成は価格をあまり上げることができない」
もし京成が北総線の利用料をたくさん払うと、京成のスカイライナーの料金が高額となり、JR との競争に負けてしまう。そうすると、「値上げで客が減る」という形になり、京成の収入は下がってしまう。
だから、京成としては、「北総線の利用料を払わずに、スカイライナーの料金を低めにする」というのが、(会社の)利益最大化のためには最善だ。
ただし、単に値段を低くすると、収益が悪くなる。そこで、その分を、北総線にツケ回しするわけだ。
つまり、
・ 京成の利用客の料金は低めに
・ 北総の利用客の料金は高めに
という人為的な操作をすること(料金体系を歪めること)が、京成の利益戦略としては最善だ。その意味では、会社の方針には経済的な合理性がある。
とはいえ、これは、北総の利用客にとっては、たまったもんじゃない。会社の利益を最大化するために、沿線住民はひどい割を食っている。
──
この本質は何か? ずばりと指摘しよう。
「東京 − 成田 間は、JR との競争があるので、料金を引き下げる。北総の部分は、競争相手がいないので、料金を引き上げる。これはつまり、『独占区間については料金を人為的に引き上げるという操作をしている』ということだ」
だから、この問題の本質は、「独占区間における不当な料金設定」であり、一種の「独禁法違反」なのである。
比喩的に言えば、競争相手のいない東京近郊の私鉄が、勝手に料金を大幅に上げるようなものだ。
( ※ 関西だと、そういうことはないようだ。たいていは競争区間がある。たとえば阪神電鉄と阪急電鉄。)
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とすれば、裁判の原告は、「独禁法違反」を名目に訴えるべきだった。それならば、勝訴できただろう。
一方、今回は、「国は適正な使用料に改めさせ、北総の上限運賃も値下げさせるべきだ」と訴えた。これは、法的に成立しない。
今回の裁判で原告が勝訴できる見込みはない、と思っていたが、案の定、原告は敗訴した。論点が狂っているからだ。論点が正しければ、勝訴できただろうが。
もう少し説明しよう。
鉄道事業者は、赤字運営をする必要はないのだから、「適正な使用料に」という義務はない。特別な暴利を得るのではない限り、自由に料金制度を決めていいのだ。かなり高値にしないと収益が得られないのであれば、かなり高値に料金を決めていいのだ。「それは駄目だ」という原告の主張は成立しない。とにかく、鉄道事業者がなすべきことは、料金の絶対水準を下げることではない。
ただし、鉄道事業者は、好き勝手に料金を決めていいわけではない。原則としては、同じ路線の利用者間に差別を設けないこと(北総と京成とに格差を付けないこと)が必要だ。なのに、特別に不公平な差別を付けて、その理由が、「一方では競争相手がいないから馬鹿高値を付ける」というのでは、明らかに独禁法違反なのである。(優越的地位の濫用。)
鉄道事業者は、料金を高くしたければ、高くしていい。ただしそれは、沿線住民だけでなく、同じ線路を使うスカイライナーの乗客についても同様に適用するべきだ。そして、それができないとしたら、独禁法に違反するのである。
( ※ ただし料金水準そのものは問題とはならない。)
原告は、「料金を下げよ」と主張したが、それは成立しない主張だ。むしろ、「スカイライナーとの間で差別するな。差別するのは独禁法違反だ」と主張すれば良かった。それならば、勝訴できただろう。
( ※ 法律知識がないと、適用するべき法律を知らないせいで、正しい権利を駆使できないわけだ。)
──
なお、初めの質問に帰ると、こう言える。
Q 「北総鉄道の運賃は、やたらと高額である。それはなぜか?」
A 「京成が違法行為をしているからだ。京成が、自分が払う金を払わないせいで、北総鉄道の沿線住民が、代わりに払わされているからだ」
要するに、沿線住民は、自分の料金を払うだけでなく、スカイライナーの乗客の料金も払っている。そのせいで、北総鉄道の運賃は、やたらと高額なのである。
[ 付記1 ]
スカイライナーの運賃は、 JR の成田エクスプレスに比べて、かなり安めだ。「どうしてかなあ。経営が優れているからかなあ」と思ったこともあるが、実は、そうではなくて、北総線の沿線住民を食い物にしていたからなのだ。
ただ、このように不自然な料金設定をすると、いろいろと状況が歪んで、問題が出てくる。
たとえば、運賃が高すぎるせいで、沿線住民が増えない。沿線の発展が阻害される。
また、鉄道よりも自動車の利用者が増えるので、北総線は昼間の収入が増えない。料金を上げれば、客が減るからだ。
[ 付記2 ]
なお、北総鉄道は、別に赤字を出しているわけではない。かなり黒字を出している優良経営である。下記に決算が記してある。
→ 北総鉄道 - Wikipedia
沿線住民が高い金を払っているのは、会社の経営が苦しくて高値を強いられているからではない。高い金は、会社の赤字を減らすために使われているのではなく、スカイライナーの乗客の運賃を分担するために使われているのだ。
( ※ これが真相。世間の報道では、そのことが知られておらず、嘘が出回っている。そこで、私が真相を知らせるわけだ。例によって。)
【 関連情報 】
26日の判決を引用すると、下記の通り。
《 北総線の運賃設定は問題なし 値下げ訴訟で東京地裁判決 》
千葉県北西部と東京都東部をつなぐ北総鉄道北総線(印旛日本医大―京成高砂)の運賃が高すぎるとして、沿線住民ら5人が国に上限運賃の認可取り消しなどを求めた行政訴訟の判決で、東京地裁(定塚誠裁判長)は26日、運賃設定に問題は認められないとして、請求を棄却した。
住民らは、北総鉄道の親会社である京成電鉄が北総線の一部区間を使用している条件の認可取り消しも求めていたが、判決は、この訴えについては住民らに訴訟を起こす資格がないとして却下した。
住民らは訴訟で、高額運賃の原因について、京成電鉄が北総鉄道に支払う線路使用料などが不当に安すぎるためだと指摘。適正な使用料に改めさせたうえで、北総線の上限運賃も値下げさせるべきだと訴えた。
これに対して国側は「上限運賃の認可は鉄道利用者の個々の利益を保護するものではない」として、住民らに行政訴訟を起こす資格がないと主張してきた。
( → 朝日新聞 2013年03月26日 )
北総鉄道の運賃が高いのは、乗り入れている京成電鉄の「成田スカイアクセス」が線路の使用料を実質的には支払っていないためだとして、沿線の住民が国に線路使用許可取り消しと、運賃値下げを命じるよう求めていた裁判で、東京地裁は住民の訴えを退ける判決を言い渡しました。
(続き)判決では「線路の使用条件は鉄道事業者相互間の関係を規律するもので、利用者に直接影響を及ぼすものではないため、原告に訴えの資格はない」と指摘し、「北総鉄道の運賃については、国の判断内容に瑕疵があると認められる証拠はない」などと述べました。
( → NHK 首都圏 twitter )
【 関連サイト 】
関連情報は、下記で得られる。
→ 北総鉄道北総線 - Wikipedia
→ 京成成田空港線 - Wikipedia
→ 成田スカイアクセス(成田空港線)の地図
地図でわかるように、佐倉市を経由する路線(南側)もある。以前はこちらを通っていた。2010年から、北総線を経由する路線(北側)を通るようになった。これにともなって、スカイライナーの所要時間は短縮された。
それまで最速で51分かかっていた日暮里 - 空港第2ビル間が最速36分で結ばれ、所要時間が15分短縮された。利用することで時間短縮のメリットは得るが、そのコストにかかる代金は払わない、というのが、京成の方針。
( → Wikipedia )
参考画像は:
→ スカイライナー (画像が重い)
【 参考資料 】
料金がどれほど高くなっているかは、次の二つによって確認できる。
→ Yahoo 路線情報
→ 成田スカイアクセス(成田空港線)の地図
都内から、北総線の最後の駅までは、1030円。
都内から、成田空港駅までは、1200円。
この二つを見ると、料金の逆転は起こっていない。その意味では、「同じ区間で北総線の方が高い」とか、「同じ区間で京成の方が安い」とかいうことはない。
しかしこれは巧妙なインチキが駆使されている。上の地図を見ればわかるとおり、北総線の最後の駅(印旛日本医大駅)から、成田空港駅までは、ものすごく距離がある。なのに、料金差はたったの 170円だ。距離は5割ぐらい長いのに、料金は15%ぐらいしか上がっていない。その分、割安になっている。……実を言えば、「5割長い」というところ(印旛日本医大駅〜成田空港駅)の方が、余計にコストがかかっているのだから、もっと高くなっていいのだが。
以上を勘案すると、京成の方は、北総線区間では、北総線沿線住民に比べて6割ぐらいの料金しか払っていない、と見なせる。
( ※ 料金 1200円のうち、600円ぐらいが北総線に払われる代金。残りの 600円は、「印旛日本医大駅 〜 成田空港」の新線を通るための代金。)
( ※ なお、スカイライナーに別途かかる特別料金 1200円は、指定席の代金。全席指定だと、乗客が半分になるので、代金を2倍にするわけ。それがイヤな人は、指定席なしの急行に乗ればいい。40分間、ラッシュの混雑のなかで立ちっぱなしでいいなら、1200円を浮かせることができる。)
なお、渋谷から成田空港駅までは、時間はほぼ同程度で、料金は
・ JR 成田エクスプレス …… 3,310円
・ 京成 スカイライナー …… 2,590円
つまり、京成の方が、大幅に安い。どこかで不正をやっているからだ、と思った方がいいだろう。
( ※ ただ、以上からすると、適正料金は、次のようになるだろう。「北総線は、現状の1割引。京成スカイライナーは、現状の3割高(北総線の部分のみ)」……つまり北総線は、下がるとしても、1割にすぎない。現状に比べて、大幅に下がるわけじゃない。案外、効果は大きくなかったですね。)
( ※ この計算で、「1割引」となるのは、北総線の利用者数が、スカイライナーの利用者数よりも、ずっと多いから。ここでは「加重平均」の発想が必要となる。)
【 関連項目 】
本項の続編。 ( 2014-02-07 )
→ 北総鉄道をどう解決するか?
──
直通というのはとても大切だ。京成は今では日暮里が始発駅なので、東京北部の人を中心として客を集めることしかできない。東京南部からだと、山手線などで大きな荷物を持つのは大変なので、成田エクスプレスを利用するのが普通だ。(料金は高いが、指定席で座っていける。都内で大きな荷物を持つ必要がない。)
京成の最大の弱みはここなのだから、ここを改善するべきだろう。
なお、直通が大切だということは、次のニュースからもわかる。
「JRと小田急が相互直通運転に合意」
→ http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20130327-OHT1T00084.htm
国も羽田の国際化に対する成田空港への見返り対策、そしてオープンスカイ戦略によるLCC対策の一環として成田空港へのアクセスを優先して京成の手助けをしているのだと思います。
ただし、これは役人特有の建前で実態は自分たちの天下り先の確保が目的のように傍からは見えます。これまで債務超過だった会社、北総鉄道に10人以上の役員がいます。国交省のOB2名、県のOB1名、URのOB1名の4人も天下りがいます。
ちなみに同じように債務超過の東葉高速鉄道の役員は4名です。無論、10名の役員の報酬が債務超過の会社に見合ったものなら問題ないかもしれません。そして、株主としての経営監視を行うためのものなら。しかし、そんなことはありません。要は京成の人質なのでしょう。
ここで管理人さんに質問です。
小室駅から印旛日本医大駅まで鉄道施設保有者の千葉ニュータウン鉄道がペーパーカンパニーだというのはご存知ですか。役員1名と職員2名はすべて京成の役職員の兼務です。もう1名の役員は北総鉄道の社長自身です。京成の本社が住所ですが、京成の建物の中に事務所スペースはありません。これは憶測ではなく、事業者も国交省も認めています。
つまり、千葉ニュータウン鉄道は京成そのものです。京成は同じ区間に第2種と第3種の事業免許を持っていることになります。鉄道事業法では2種と3種の事業免許を同時に持つことはできないはずです。京成はこの区間については実質的には第1種事業者です。国は脱法行為を最初から承知して千葉ニュータウン鉄道を認可したことになります。
京成は全区間、第2種事業者として運行していることになっていますが、実際は千葉ニュータウン鉄道の区間は京成が第1種事業者です。
つまり、高砂から小室までは北総鉄道が第1種事業者であり、小室から印旛日本医大までが京成が第1種事業者です。であれば、線路使用料の支払いは同じルールで支払われるべきではないかと考えますが、管理人さんはどう考えられますか?
本文中に書いてあります。
そちらの見解は、私の主張と同方向です。私の主張を補強するものだとも言えますね。
> 「最大収入が得られるような運賃体系とすることが、結果的に全体として運賃水準の抑制につながる」
これは詭弁ですね。
たしかに「結果的に全体として運賃水準の抑制につながる」とは言えますが、その際、北総線沿線住民ばかりが割を食います。そういう不平等は違法でしょう。(地域独占企業の公益性からして。)
本音は次の通り。
「最大収入が得られるような運賃体系とすることが、会社の収益性を増すので、結果的におれたちの給料のアップにつながる」
これが本心。
ところで独禁法で住民が訴えるというのは難しいのではないでしょうか。実は、私も昔、同じようなことを考えたことがあります。
裁判は手段の一つに過ぎないと思います。目的が達成されるなら独禁法でも何でも構わないと思います。
独禁法では、誰でも公正取引委員会に申告することができますから原告適格といった問題はないと思います。しかし、申告した内容を審査するのは公正取引委員会(以下公取)ですから、公取が審査しなければそこで終わりです。
昨年、東電の法人の値上げについて公取が「東京電力が企業向け電気料金の値上げを一方的に通告したのは、独占禁止法違反(優越的地位の乱用)につながる恐れがあったとして、東電に文書で注意」したことがありました。
しかし、「経済産業省の指導を受けて値上げ時期を現行の契約期間終了後とするなどした。公取委は問題点は改善されているとし、排除措置命令などの行政処分、警告などの行政指導は見送った。」ということで一件落着しています。
北総線問題については国は最初から事業者擁護優先(というよりグル)ですから国交省が事業者を行政指導することも考えられません。
管理人さんの独禁法も今回の値下げ裁判の根拠になっている鉄道事業法も本来ならJRが原告として訴えるのが一番、筋が通っていると思います。
JRが不公正取引として京成を訴えるべきなのでしょう。しかし、電力会社と同じで業界と政官界の「村」があるようです。
また、仮に公取が排除命令を出したり、課徴金の支払いを命じたとしてもそれが運賃の値下げにつながるのかわかりません。また、消費者が被害額を算定するのも難しいですし、適正な運賃を算定することもできないと思います。
もともと総括原価について詳しい規定がないことを運輸審議会の審議の中で国交省が認めています。適切な運賃かどうかは結局、国交省が決めていることになります。
運輸審議会は単なる形式に過ぎず、国の審議会はガス抜きのために作られているだけです。鉄道事業法は鉄道局の裁量行政の根拠となっているザル法に過ぎないと思います。国の被告書面は、その論旨が極めて稚拙です。日本の役人や弁護士のレベルがこの程度なのかと。民主党もひどかったですが、役人も弁護士も期待できないと思います。
民主党政権下で値下げ裁判の裁判官が今回の裁判官に変更になっています。まさか政治的な関与は存在しないとは思いますが、尖閣諸島問題での民主党の対応を考えると不信感を抱く人もいると思います。
千葉ニュータウンはこんなんだから人口は増えないし、住人は鉄道に見切りをつけて車主体になっているので、あの一帯の開発自体が失敗だったということになってしまいますね。
しかし、新しくできた路線が実質従来の鉄道会社の子会社とか、ダミーに近い会社だったりするのに、料金は別会社ってのはどうにも納得が行きがたいです。
東京モノレールだって、完全にJRの傘下なんだからあんなに高い料金にしないで、JR羽田空港線として通常料金にしてもらいたい物です。