炭酸ガスの増加は、大気の温暖化をもたらすだけでなく、海洋の酸性化をもたらす。通常は弱アルカリ性である海水が、どんどん酸性化していく。そのせいで、炭酸カルシウムの形成などが進まなくなる。かくて炭酸カルシウムの多い生物(サンゴや貝類)では、生存の危機にさらされている。
こういう問題がある。すでにあちこちで指摘されたが、最近、「珊瑚礁の消失」という形で報道された。
→ 海の酸性化 とは - コトバンク
→ 今世紀末、サンゴ消滅も=海が酸性化、「ソフトコーラル」に
→ 酸性化する海 ナショナルジオグラフィック
→ 広がる海洋酸性化の脅威 - NHK
→ 生物による炭酸カルシウムの形成
→ 気象庁 | 海洋の健康診断表 海洋酸性化の影響
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では、どうすればいいか? すぐに出る声は、こうだ。
「炭酸ガスの増加が根源だ。だからこの根源をなくすことが大切だ。つまり、炭酸ガスの排出を抑制するべきだ」
ま、それはそうかもしれない。だがそれは子供でもわかる単純な発想だ。単純なことは特に悪くはないが、コストが莫大にかかるのが問題だ。炭酸ガスの抑制にはものすごく莫大な金がかかることがわかっている。海洋の pH をちょっと変えることのために、これほどの莫大な金を投じるというのは、コストパフォーマンスが悪い。もっとうまい方法はないか?
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そこで私は提案しよう。
「海水に金属イオン(鉄・カルシウム)を溶かすことで、海水の酸性度を下げる」
実はこれは、別項でも述べたことだ。
「海洋で植物プランクトンを増やすと、炭酸ガスを容易に吸収することが可能になる。そのためには、海洋で栄養素を散布すればいいだろう。ただし、現実の海では、栄養素不足になっているわけでもないのに漁業資源が少ないところがある。そこを調べると、栄養素のうち、鉄分だけが不足している。他の栄養素はあっても、鉄分だけが足りないから、植物プランクトンが増えない。そこで、鉄分だけを散布する、という実験が試みられている」環境保護論者が鉄の頒布に反対するのは、たぶん、「環境が変化してしまうから」ということだろう。具体的には「海水の酸性度が変化して、アルカリ性になってしまうから」ということだろう。
「そこで、鉄分を散布する実験をしようとしたら、各国などの関係者が反対している。というのは、海洋での廃棄物投棄を禁じる条約があるからだ。たとえ好ましい栄養素である鉄分の散布であっても、廃棄物の投棄と見なされて、禁じられる。環境保護団体も『不当投棄だ』と騒いで、各国政府に働きかけているらしい」
( → 海洋緑化計画:朝日新聞の記事の要旨 )
ところが、海水の酸性化が進むという状況がある。とすれば、鉄を散布すれば、酸性度を下げることができるから、かえって環境を改善することになる。
ここでは、「酸性度を下げる」ことと「栄養不足を防ぐ」という二つのことが両方ともなされる。一石二鳥。
しかも、これが実現可能であるためには、海洋の酸性度が上がった方がいい、とも言える。海洋が酸性化しているおかげで、鉄の散布によるアルカリ化を中和してくれるのだ。
災い転じて福となす。「困った、困った」と思える海洋の酸性化は、実はかえってありがたいことなのだ。鉄の散布のためには。
こういうやり方が、うまい方法だ。頭はこういうことのためにある。(頭は帽子をかぶるためにあるんじゃない。)
【 関連項目 】
→ 海洋緑化計画
→ 海底の骨
あと、植物プランクトンが増えるとその捕食者が増加すると考えられるので、植物プランクトンの量を高いレベルで維持するためには供給する鉄イオンの量を増やし続けなければならないように思います。