リチウムイオン電池は劣化する、という話を先に述べた。
→ EV 電池の劣化(実証)
ここでは、次の趣旨の話をした。
・ リチウムイオン電池は、劣化するという問題がある。
・ 自家用車ぐらいならば、かろうじて実用の範囲にある。
・ タクシーのように長く走るならば、劣化の問題が起こる。
・ この問題があるので、スマートグリッドの蓄電には不適切。
(太陽光発電の充電という用途には向かない。)
──
さて。「劣化」という話題のあとで、新たに知ったことだが、リチウムイオン電池には、長寿命タイプのものがある。SCiB電池という。東芝製。( SCiB は、Super Charge ion Battery の略。)
メーカーの製品情報は下記。
→ 詳細説明
メーカー側の解説もある。
従来のリチウムイオン電池の寿命は、充放電の繰り返しサイクルで長くても1,000回です。これを越えると交換が必要になります。しかし、SCiBでは6,000回は十分に使用できます。SCiBTMで6,000回通常の充放電サイクルを繰り返した後の容量維持率は90%以上です。急速充放電を繰り返し電池に高い負荷をかけた場合でも、6,000サイクル後に80%以上の容量が維持されます。次の紹介記事もある。
( → SCiBは自動車メーカーの有力な選択肢に )
→ EVに最適? 東芝の2次電池「SCiB」
→ 電気自動車は本当に普及しないのだろうか
実用化もしている。すでに三菱の EV に搭載されている。
→ i-MiEV「M」、MINICAB-MiEV 10.5kWh への搭載が決定
→ 二次電池「SCiB」が三菱自動車の電気自動車に正式採用
というわけで、SCiB にすれば、「劣化」問題は解決する。これで万事めでたしめでたし……と思えるが、そうはどっこい。問屋が卸さない。
──
ざっと調べてみたところ、SCiB はコストがものすごく高いようだ。
→ SCiB搭載i-MiEVの補助金額の謎
仕様を決める際、変なインチキ操作をして、ベース車両(ガソリン車)の価格を下げて、多大な補助金をもらっている。それでいて、価格は日産リーフみたいに高い。また、インチキ操作のデメリットで、パワーは激減している。つまり、電池の積載量は少ない。(他は 16.0kWh だが、SCiB 車は 10.5kWh だ。→ 出典 )
ざっと見て、コストは6〜9割ぐらい高そうだ。これじゃ、なかなか売れないだろう。
ただ、劣化が少なければ、あとで「劣化ゆえの交換」というコストは不要となる。
とはいえ、自家用車の用途(街乗りだけ)であれば、「劣化ゆえの交換」はもともと不要であることが多い。
コストも考えれば、「劣化」の問題があっても、今のところは日産リーフの方が実用性はあるだろう。
──
それでも、「劣化」の問題を克服する技術がある、ということは大切だ。現状はともかく、未来では役立つからだ。
「コスト」の問題は、将来的には技術の進展によって解決されていくだろう。とすれば、「劣化」も「コスト」も、解決可能な技術だということになる。今は普及は困難だとしても、十年ぐらいたてば十分に普及させることができそうだ。つまり、今日のハイブリッド車みたいに普及しそうだ。(ハイブリッド車も、十年前には普及していなかったが。)
というわけで、「劣化」の問題については、将来的には解決できそうだ。コストの問題も含めて。
( ※ ただし今現在の時点では、何とも言えない。コストの点を考えると、普及にはかなり厳しい状況にある。)
[ 付記1 ]
では、その SCiB 電池を、スマートグリッドの蓄電池に利用できるか? ……これはまた別の問題だ。
技術的に言うなら、利用できる。上記のように、「劣化」の問題がなくなるからだ。
とはいえ、根源的な問題がある。
「日本の発電量全体に比べて、自動車に蓄電できる量は 2.5%程度に過ぎない」
ということだ。( → 前出項目 [ 付記 ] )
しかも 2.5% というのは、「自動車がすべて電気自動車になった場合」の数値である。ガソリン車やハイブリッド車などが半分ぐらい残っていれば、2.5%という値は半減する。……ま、どっちみち、誤差みたいなレベルだが。
2%ぐらいの変動であれば、LNG や古い火力発電所の変動で対処できる。だったら、そっちで対処した方が、簡単だろう。EV にスマートグリッドとの接続装置を付けたら、装置だけで5万円ぐらいになる。日本中の自動車の半分にその装置を付けたとしたら、ものすごい巨額になる。設備投資の費用をまかなえそうにない。(既存の火力発電所を使えば、新規の設備投資費用はゼロだ。)
なるほど、「太陽光発電をうまく利用するため」という発想は、悪くない。ただし、その発電の変動を吸収するためのシステムは、自動車の蓄電池である必要はない。ただの火力発電所で十分だ。いちいち電気を「出したり入れたり」する必要はないのだ。火力発電所が発電量を「減らしたり増やしたり」というふうに変動するだけで、同じ効果が出せるのだから。
また、太陽光発電は、日中に発電するのだから、発電した電力が余るということはない。「どこかに保存しておく必要がある」ということはない。あくまで火力発電所の発電量の変動によって対処できるのだ。
というわけで、「自動車の蓄電池に充電するスマートグリッド」という発想は、根本的に不要なのだ。また、コストがかかりすぎて、実現しえない。
電力については、「電気を溜める」という発想が、根本的に方向のズレた発想なのである。
[ 付記2 ]
地震対策も同様だ。
「地震対策で蓄電池を」
と思っている人が多いが、通常は、
「地震対策には発電機を」
という発想の方がいい。コストもはるかに低く済む。また、連続運転が可能だという点でも、性能的に大きく上回っている。
充電池というものは、どれほど技術的に発達しても、その容量は限られている。自動車の運転ぐらいならばできるとしても、工場や家庭の電力をまかなうにはあまりにも容量が小さいのである。家庭で一日や二日ぐらいならば持つとしても、震災のあとで何週間も持たせることはできない。
充電池を系統電力に組み込もうという発想は、とうてい無理筋だ、とわかる。それが実現するとしたら、EV や リチウム電池なんかではなくて、超伝導による大規模な蓄電所が開発された場合だろう。何十年も先の話となる。
【 関連項目 】
→ EV 電池の劣化(実証)
太陽電池発電所の発電量を飛躍的に増やすことを前提にするならば、街中のビルや国内の未利用地(空き地)に設置する必要があります。発電した電力は高圧配電線に接続して送電することになりますが、既設の需給調整に使用できる火力発電所は配電用変電所の上流に連系されており、配電用変電所を超えた調整電力の融通が必要になります。現状の設備では逆向きに電力を流すこと(逆潮流)を許す設備になっていませんので、一つの配電線に接続できる太陽電池発電所の合計出力が制限されているのが実情です。
太陽電池発電を推進したい人は、それでは困るので、EVの利用が言われていると認識しております。もっとも配電線や変電所を超えて調整ができるように電力会社が設備投資をするか、太陽電池にセットで蓄電池を設置すれば解決する話ですが、利益を生まない設備に投資したい人はいません。
どうも、他人にコストを負担させて儲けは自分のものにしたいという根性の人が多いようで、電力の安定供給、安全とコストについてバランスの良い議論がされていない気がします。
一方、現状は、自宅での消費を優遇せず、遠隔地の大規模発電所を優遇している。(自宅消費の分のみ、高値買い取りしない。)
これは本末転倒と言えますね。
いずれにせよ、太陽光発電の発電量が全体のごくわずかにすぎない状況では、蓄電池は不要であり、火力発電の稼働率低下で済むはずなので、太陽光発電所の配置を最適化することが大事だ、ということになりそうです。
田舎に大規模な太陽光発電所を建設する、という方針は、否定されるべきでしょう。