コストが 10万分の1になるというというのは眉唾だろ、と思って読んだが、そうでもないようだ。コストが激減する理由は、ガラスの素材を紙にしたこと自体ではなくて、製造方法が印刷技術になることだ。(印刷機で)紙にインクを印刷するように、太陽電池を印刷する。これなら印刷コストと同程度で済む。なるほど。
《 紙の太陽電池:製造コスト10万分の1 》
製造コストも従来の10万分の1に抑えられるという。厚さ1ミリ以下で折りたたむことができ、災害時に被災地で使うなどの用途が考えられる。
木材パルプの繊維を厚さ15ナノメートル(ナノは10億分の1)と超極細にし透明にすることに成功。これを基板に使った。素子には一般的に使われるシリコンなどではなく薄い膜状になる有機物を、配線には細い銀のワイヤを用いた。
その結果、電気の変換効率は 3%と、家庭の屋根に取り付ける一般的な太陽光発電パネルの10〜20%よりも低いものの、今回と同じ素子を使ったガラス基板の太陽電池と比べると同程度。今回、試作したのは縦2センチ、横5ミリ。実用化した際の製造コストは、ガラス基板の約10万分の1、プラスチックの500分の1〜5000分の1。製造方法も、加熱して配線を基板に付ける方法から、圧力を加える方法に改め、消費エネルギーを少なくし、環境に優しくした。
( → 毎日新聞 2013年02月17日 )
《 紙の太陽電池、加工自在に 》なお、有機太陽電池は、現段階では実用化していない。3年後ぐらいに実用化が見込まれている。今回の報道のものが、3年後ぐらいの実用化を見込むのも、有機太陽電池の開発状況を睨んでいるせいだろう。
木材パルプの繊維を通常の3分の1にあたる15ナノ(ナノは10億分の1)メートルまで細くし、紙でありながら透明なシートを作った。その上から光を電気に変える有機材料と、電気を取り出す銀の配線を印刷技術で塗った。
印刷技術で作るため、製造時に300度以上の高い温度をかけなければならない、これまでの有機太陽電池の作製法に比べ、消費エネルギーが少なく設備規模も小さくできる。
( → 日本経済新聞 )
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似た例では、次の情報もある。
→ 塗って作れる太陽電池(三菱化学)
一部抜粋しよう。
「弊社の有機薄膜太陽電池の真骨頂は、エネルギー変換効率の高さではない。印刷技術が利用可能な製造方法にある」この場合も印刷技術を使うので、同様に大幅なコストダウンが見込まれる。しかもこの会社の場合、変換効率は 10%程度で、また、基盤は(紙でなく)プラスチックでもいいそうだ。
プラスチック状に印刷すれば、大幅にコストダウンするし、しかも、高性能で丈夫だ。冒頭の阪大の紙方式よりは、こちらの会社の方が進んでいるようだ。
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当然だが、他にも研究しているところはある。米国もそうだ。
→ MIT、太陽電池を紙に印刷することに成功!
これも紙に印刷する太陽電池だが、1年半も前に成功している。阪大に先んじること、1年半。
ただしネットで調べたところ、1年半前の記事しかない。
→ Google 検索
開発は停滞しているのかもしれない。それに阪大が追いついたということか。……いやいや、この業界、そんなに甘くはないだろう。MIT の方は、3年を待たず、もうすぐ生産するつもりなのかも。(かも、だけど。)
[ 付記1 ]
ま、どの会社が勝利するかは、一般人には関係ない。印刷方式が実用化に近づきつつある、ということだけが大事だ。
「シリコン結晶方式を、大量生産で、大幅にコストダウン」
なんていう主張はまったく成立しない(むしろ新技術の開発が大切だ)……ということは、私が前から何度も述べてきた。それが、いよいよ実証されることになりそうだ。
ともあれ、「金を出すなら、普及のための補助金ではなく、研究開発の金を出せ」と私が前から述べていたとおりになった、ということかな。政府はいまだに気がつかないけれど。
気がつく前にたんまりと補助金をかすめ取った孫正義は、超一流の詐欺師ということか。
( ※ 詐欺師 = 嘘をついて金をだまし取る人)
[ 付記2 ]
この手の「印刷する太陽電池」は、超低コストになるので、設置方法も変わるだろう。
屋根に設置するのは、設置費用がかかりすぎるので、適していない。むしろ、「壁にパネルをくっつける」(ネジ止めまたは接着剤)という方式がいいだろう。これならば日曜大工で済むので、設置費用はゼロで済む。単にパネルを買ってきて、接着するかネジ止めするだけだ。パネル代だけで、設置費用はゼロ。
あとはまあ、配線工事だが、そのくらいはたいしたことはない。
壁だと、夏場は発電できないので、夏場向けには、屋上か、ベランダか、庭ですね。いずれにせよ、「斜面状の屋根に設置する」という方式は、将来的にはなくなるだろう。(コストがかかりすぎるから。)
なお、防水のためには、表面に透明カバーをかぶせることになるが、これはそう高額にはならないだろう。(とはいえ、印刷代よりははるかにかかる。太陽電池代よりは、透明カバー代の方が高くなりそうだ。それも込みにすると、1平方メートルで 1000円ぐらいがメドかな。寿命は3〜5年ぐらいか。電気代で元を取るのにかかる日数は 3カ月ぐらいかな。ま、いいんじゃないの。)
[ 付記3 ]
ただし、実用化の時期は、かなりあやふやだ。というのは、本項で述べた「塗る太陽電池」については、過去記事があるからだ。
→ 塗る太陽電池
これによれば、2011-07-19 の時点で、「2013年の春には実用化します」と言っている。 (^^);
ところが、今になっては、「2015年の量産」に延期している。
→ 2015年に変換効率7%の有機薄膜太陽電池を量産、三菱化学 (2012/10/15)
1年半前には「2年もたたずに量産します」と言っていたのだが、それから1年たったあとでは、「3年後に量産します」になってしまっている。「近づけば近づくほど遠ざかる」というのでは、蜃気楼みたいだ。あるいは、不思議の国のアリス。
あんまり期待しないで、のんびりと待つしかないようですね。
たとえ変換効率が約1/7(現在比)であっても7倍の面積に設置すれば今と同等ですし、価格が1/1000以下なら買い替え普及も容易でしょう。
この系統はおそらく色素増感型と思われるので、銀塩フィルムの様に効率の良い波長毎に積層して有効波長域を拡大する事が可能でしょう。そうすれば今の効率を数倍に高める事は予測できます。
さらに効率は下がっても緑の光に吸収反応するが、赤と青の光は透過する色素で増感するシステムであれば、光合成と両立(光合成は緑色の光を使わない)できるので、広大な農地の上への展開によって設置面積はもっと拡大するでしょう(実際マゼンダ色のフィルムで覆う事で収量アップする効果も期待できるかもしれません)。
これは一部の可視光を透過するアモルファスシリコン系よりも使い易そうです。
こっちにドドーンと金をつぎ込んで、ミドリムシとか石油生成の藻とかも一緒にやってほしいところです。
障子を張り替えるように、太陽電池シートを張り替えるのが近未来の風物詩になったりして。