橋下市長が、桜宮高校の入試の中止を強要し、市教委はそれを受け入れた。
市教育委員会は21日、臨時会議を開き、同校体育系2科の入試中止を決定した。橋下徹市長が中止を強く求めていた。
会議では5人の教育委員のうち1人が反対を表明したが、賛成多数で中止を決定した。
中止となるのは同校の体育科(定員80人)とスポーツ健康科学科(同40人)で、計120人分を普通科に振り替える。
( → WSJ.com )
橋下徹市長から同校体育系2科の入試中止を要請された市教育委員会が21日午後、対応を協議した。体育系2科の定員120人分を吸収する形で普通科の定員を120人増やす案が示され、教育委員会の5人の委員のうち、4人が同案を支持した。
( → MSN産経west )
橋下徹市長が21日午前、桜宮高を訪れた。──
橋下市長は「スポーツの中で手を上げることは、ものすごく遅れた指導法。そんなことで技術力は上がらない。世界最先端の指導でないと、体育科の意味がない」としたうえで、「今回の件は一線を越えており、皆さんが社会人になった時に間違った道を進まないよう、クラブのあり方を考え、もう一度、全国に誇れる桜宮高校にしてほしい」と呼びかけた。
橋下市長の説明の後、生徒2人が手を挙げて発言。いずれも体育科の募集継続を求める内容だった。
これに対し、橋下市長は「皆さんに責任はないが、世の中には越えてはいけない一線がある」などと譲らなかった。
( → 読売新聞 )
これらの記事を読むと、まったく奇妙に思える。
今回の事件で、加害者は教諭であり、被害者は生徒だ。ならば当然、加害者を処罰するべきだろう。ところがどういうわけか、加害者には処罰がなく、逆に、被害者の生徒側に「入試中止」という処罰が来る。話が逆である。
比喩的に言えば、こうだ。
市民「おまわりさん。助けてください」こういう馬鹿げたことと同じことが、大阪では起こっている。
警官「どうしました」
市民「あそこにいるヤクザに殴られました」
警官「わかった。おまえを逮捕する。これでもうおまえは殴られない」
こうして警官は、殴られた市民に手錠を嵌めて、留置場にぶち込んだ。そして吹聴した。「事件は解決。おれって、頭いい!」
ではどうして、橋下はそんなに馬鹿げたことをするのか? 納得できないと思えるだろう。実は、そこには、合理的な理由があるのである。
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そもそも、今回の犯人は、誰か?
第一義的には、自殺した生徒を何度も殴った教師だ。
その次に責任があるのは、市教委だ。
ただ、より根源的に考えると、市教委に最大の責任がある。なぜなら、教師による体罰は一般に広く見られるが、それをきちんとチェックして止めるのは、市教委の役割だからだ。今回も、市教委には、相談が寄せられていた。その相談を事実上無視して、体罰を継続させたのが、市教委だ。なすべきことをまったくしないで、体罰を継続させた、という意味で、市教委の責任が最も重い。この件は、下記でも述べた。
→ 体罰 & いじめ
では、市教委を咎めればいいか? ここで、大阪の特有の事情が出る。
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大阪では、(大阪府も大阪市も)橋下のもとで「教育基本条例」というものが出た。その本質は、次のことである。
・ 教育をトップダウン型にする。つまり、
市長 > 市教委 > 教師
という形で、絶対的な権力統制をする。
・ 市長は市民の支持を得たのだから市民の声そのものだ。
・ 市長の声に逆らうことは許されない。
・ 市教委は、市長に服従して協調する。
・ 教師は、市教委に絶対服従する。違反すれば処分される。
要するに、独裁者ふうの絶対権力者たる市長がいて、そのもとでピラミッドが形成され、市教委は市長の手足となって働く。教師は完全に服従する必要がある。たとえば、君が代斉唱とか何とか。それに逆らえば処分される。
以上のことは、下記からわかる。
→ 大阪市教育行政基本条例
→ 「大阪府教育基本条例」を考える
→ 教育基本条例 - Wikipedia
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こういう「教育基本条例」がある。
ここで、直接の責任者である「教師」を処分するとしたら、どうなるか? 話の筋が通らない。教師は市教委の手下なのだから、この問題の責任は市教委にある。教育基本条例にのっとる限り、責任は市教委にある。
では、市教委を処罰するとしたら、どうなるか? その場合には、市教委を手下として動かしながら、市教委と協調する、市長にも責任がある。それまで市教委を自らの手足として動かしてきた市長が「市教委のやったことには責任を持てません」なんて言ったら、話が矛盾する。それは教育基本条例に反する。
結局、教師を処罰するなら、市教委を賞罰しなくてはならない。市教委を処罰するなら、市長を処罰しなくてはならない。しかし、市長は自分を処罰したくない。自分は何としても責任逃れをしたい。とすれば、
市長が免責 → 市教委が免責 → 教師が免責
というふうになって、市教委も教師も免責となってしまうのである。(ドミノ倒しみたいなものだ。免責が次々とドミノ倒しになる。)
かくて、責任者がすべて免責となってしまう。市長を免責するためには、真犯人はすべて免責とする必要があるのだ。(大阪の教育基本条例のもとでは。)
では、真犯人はすべて免責とするとしたら、あとはどうするべきか? 真犯人のかわりに、別の犯人を仕立て上げなくてはならない。つまり、冤罪で別の人を仕立て上げる。……そのとばっちりを受けたのが、生徒側である。
かくて、先の比喩のように、
「ヤクザを逮捕するかわりに、ヤクザの被害者を逮捕する」
というふうな形で、
「真犯人の市教委を咎めるかわりに、無実の生徒を咎める」
というふうになる。
そして、それは、次のことが理由だ。
「大阪の基本条例の下では、市教委の責任は市長にまで波及するから、市長への波及を阻止するために、市教委の悪を免責にしなくてはならなかった」
要するに、すべては橋下の保身のためなのである。
元はと言えば、大阪の教育基本条例という独裁的な教育体質が根源なのだが、その独裁的な教育体質のせいで、責任が市長にまで波及してしまう。そして、その責任を何とか免れるために、責任を生徒側に転じてしまうのだ。
かくて、「加害者のかわりに被害者を罰する」という形で、入試の中止が決まったわけだ。
( ※ 本当なら? もちろん、教師と市教委を処罰すればいい。……ま、教育基本条例のない自治体ならば、そうしていたでしょうがね。独裁者のいる自治体は、事情が違う。)


【 関連項目 】
→ 体罰 & いじめ
※ 市教委に責任がある、と指摘している。
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《 大阪・桜宮高:普通科でも体罰…全校アンケートで判明 》
普通科の生徒も、教員による体罰を受けていたことが、全校生徒へのアンケートで分かった。
アンケートには、既に体罰が発覚しているバスケット部やバレーボール部以外の複数の運動部で体罰があったほか、普通科の生徒も体罰を受けたとの記載があったという。
http://mainichi.jp/select/news/20130122k0000e040200000c.html
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橋下市長の論法なら、普通科も入試中止にするしかないですね。さらに、大阪の小中高、全部廃止にするしかないみたいですね。どこの学校だって体罰の一件ぐらいはあるんだし。
で、それでも、自分だけは居座る。 (^^);
独裁者のいる大阪は、アルジェリアに似ている。そのうちテロが起こるかもね。