これを使うと、用紙の費用が8割減。おまけに、エコだ。すばらしい新商品……と見える。
《 印字を瞬時に消せる複合機 東芝テック、世界初の実用化 》
東芝テックは、印刷した文字や画像を一瞬で消し、紙を再利用できる複合機「ループス」を開発した。文具大手のパイロットコーポレーションと共同開発した特殊インクを使い、加熱すると透明になる仕組み。紙は5回ほど繰り返し使えるという。
同じ紙を5回使った場合、インクを消すのに使う電力量を考慮しても、二酸化炭素排出量は従来より約6割抑えられる計算という。紙をつくる時に使う電力量を節約できるからだ。
( → 朝日新聞 2012-11-20 )
新製品は、コピー装置と印刷された用紙を加熱して消色する装置の2台セットで使用する。消色装置は、A4用紙30枚の印刷物を1分間で消せる。
東芝テックによると、従来品と比べ用紙の購入・廃棄費用を約8割削減でき、再利用による二酸化炭素排出も57%削減できるという。
希望価格は専用複合機「ループスLP30」が111万円で、専用消色装置「ループスRD30」が30万円。
( → 産経 2012-11-12 )
実にうまい話のように見える。だが、よく考えると、そうではない。
(1) コスト
用紙コストが8割減だとしても、初期投資が 141万円だ。これではよほど大量に使わないと、元が取れない。たぶん、元を取る前に、機械が壊れる。だったら無意味。
おまけに、大量に印刷したり消去したりしていたら、順番待ちができる。それでは業務能率が大幅に低下する。紙代を節約しても、その他の人件費などが大幅に持ち出しとなる。トータルコストはかえって増えてしまう。
(2) エコ
それでも、エコならばいいか?
「インクを消すのに使う電力量を考慮しても、二酸化炭素排出量は従来より約6割抑えられる」
ということだが、その程度だったら、たかが知れている。というのは、現状でも、次の方法があるからだ。
「紙をリサイクルして、古紙として再利用する」
この場合も、かなりの程度、エコになる。
一方、今回のシステムの場合、用紙ではエコだとしても、機械の製作のために、大量の資源を必要とする。 141万円にもなる機械というのは、製作のために大量の電力や資源を使うはずだ。そっちも考えると、たいしてエコではあるまい。
──
結論。
この新商品は、一部分だけを見れば、低コストで省エネだと見える。
・ 機械購入を無視して用紙コストだけ見れば低コスト
・ 機械製作を無視して運用だけを見れば省エネ
しかし機械のことまで考えれば、低コストでも省エネでもない。おおむねトントンだろう。しかも、それは、大量に使用した場合に限る。途中でやめれば、初期の投資が莫大なので、大幅に足が出る。壮大なる無駄になる危険がある。
肯定的な評価はできない。
──
では、どうすればいいか? こうだ。
「単純に古紙にして、リサイクルする」
これでいい。
特に、シュレッダーなんかにはかけない方がいい。シュレッダーにかけると、繊維が分断されるので、古紙としてリサイクルすることができなくなる。
製紙メーカーはシュレッダー古紙を原料として使用する際、未離解、禁忌品の混入、歩留りの低下等の問題があり、積極的に利用しようとする動きはありません。個別には、家庭紙工場での利用が最も多く、板紙工場も受け入れてはくれますが、洋紙工場での受け入れは限定的で、古紙の品質が保障されている場合のみとなっています。というわけで、エコを考えるなら、「シュレッダーを使わない」というのが、一番効果的なのだ。
( → 古紙四方山話 - シュレッダーにかけられた紙 )
また、次のこともある。
「トイレットペーパーは、現状では、古紙よりもパルプ 100%の方が圧倒的に多い。この現状を変えて、原則として古紙にする」
これだけで相当、資源の節約になる。そうするべきだろう。何だったら、パルプ 100%のトイレットペーパーは、高率の課税をしてもいい。
一方、オフィス用のコピー氏は、再生紙がかなり増えた。「エコのため」という理由だが、まったくお勧めできない。黒い点々が入って、可読性が落ちるからだ。また、白色度が下がるので、「インクを薄く印刷する」ということもできにくくなる。むしろ、紙の白色度を上げて、インクを薄くする方が、ずっとエコで低コストになる。
パソコンのプリンターで印刷するときに、再生紙を使うことは、エコであると思われている。しかし実は、エコではない。白色度で劣るせいで、インクを多用するからだ。だから、プリンタ用紙は、再生紙を使わない方がエコなのだ。
( → プリンターの再生紙はエコでない )
複合機でもインクジェットプリンタでも、どちらでもインクをなるべく薄くするといい。そのことで、エコと低コストを同時に達成できる。紙よりもインクで節約するべきなのだ。
今回の東芝の製品も、同じ傾向がある。紙の節約ばかりを考えていて、機械という別の側のコストやエネルギーをろくに考えていない。そのせいで、トータルではかえって高コストでエネルギー浪費となってしまっている。
一点ばかりに目を奪われ、他の箇所を失念している。頭隠して尻隠さず、みたいな。
【 追記1 】
あとで気づいたが、この「消えるインク」は、ものすごく高価であるはずだ。通常の何倍にもなるはずだ。(下記の「消えるインクのボールペン」に似ている。)
記事にはコストが書いてないが、実際には、こうなるはずだ。
「用紙代を節約できるが、その何倍もインクコストが上昇する。トータルでは大幅なコストアップ」
危うく引っかかってしまうところだった。本項を書いて1時間ちょっとで気づいたので、だまされていた時間は1時間ちょっとということになる。危ない、危ない。
詐欺師に引っかかるな、というのがモットーの私にしては珍しく、引っかかってしまうところだった。ペテンが一つだけでなく、何重にもあるので、一つ見つけただけで安心してしまっていたのが、やばかった。ペテンの本体は、インク代にあったのだ。ああ、危なかった。冷や汗。
それにしても、東芝は気づかなかったのかな? 「紙代は節約できてもインク代は節約できないし、かえって高価格になる」と。
「素人の気づくことぐらい、専門家ならば誰だって気づいているよ」
というのがトンデモマニアの口癖だ。もしそうだとしたら、東芝はわかっていて、それをやっていたことになる。意図的な詐欺。
だったら、消費者庁に訴えて、摘発してもらう方がいいかも。「インク代を隠すな」と。
なお、東芝のページに行ったら、詳細な価格表が示してあるが、どういうわけか、トナー(インク)価格だけが記してない。本気で隠蔽工作を行なっているな。
→ 東芝のページ
おまけに、次の文句があった。
「平成23年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰(技術開発・製品化部門)を受賞しました」
げげげ。国が(環境省が)詐欺師のお先棒を担いでいる。
教訓。
エコの分野は、詐欺師ばっかり。引っかかる人が続出。(私ももうちょっとで……)
【 追記2 】
あとで調べてわかったが、そもそも紙を節約する必要はない。なぜなら大量の間伐材が余っているからだ。紙を節約すると、森林の伐採量が減るのではなくて、間伐材が紙にならないままゴミとして腐るだけだ。
森林の伐採を防ぐためであれば、紙の使用量を減らすのではなくて、アフリカなどの途上国で薪としての森林伐採を防ぐことが大切だ。日本で紙の使用量をいくら減らしても、それはエコにはならない。
どちらかと言えば、「紙の使用量を増やしましょう。その分、植林しましょう」と言う方が、森林の量は増えるし、二酸化炭素の吸収にもなる。
森林の植樹は大切だが、その逆の、森林の伐採は(必ずしも)悪いことではないのだ。伐採のあとに植林するのであれば、単純に木の交替があるだけであり、森林の減少にはならない。持続的な森林利用と、森林の消滅とは異なる。環境省や東芝は、そのことを理解できていないようだ。
次の情報もある。
パルプ材は国産材・輸入材ともに利用される木材は、製材残材や、他には使い道の少ない木材、人工林材などが中心である。つまり、日本だけでなく世界的に、使い道のない木材が余っている。それを紙にしているだけだ。したがって、紙の使用量をいくら減らしても、それはエコにはならない。単に木材が腐るだけだ。
( → 日本製紙連合会 | 製紙産業の現状 | パルプ材 )
どうせエコを考えるなら、いったん紙にした上で、古紙をエネルギーとして熱利用すればいい。この件は前に述べた。
→ 古新聞を燃やすストーブ
場合によっては、古紙をバイオチップとしてエネルギー源にした発電をしてもいいだろう。それならエコな発電となる。(再生エネルギー発電にもなる。)
また、新聞社は、エコを考えるならば、自社の古新聞の回収を考える方がいい。
→ 古紙リサイクルと新聞社
これを書いたころとは違って、最近では朝日も古新聞のリサイクルを始めている。私が書いたことの効果があったかな?
ついでに、オフィスの紙も、シュレッダーにかけないでリサイクルするよう、キャンペーンを張ればいいのにね。
まとめ。
紙をいくら節約しても、エコにはならない。エコが目的ならば、使い道のない木材を紙にしてから、古紙の再利用をする方がいい。それならば本当のエコになる。
[ 付記 ]
それとは別に、ボールペンの「消えるインク」というのは、なかなか意義がある。私も使ったことがあるが、これはこれで十分に価値がある。通常のボールペンや鉛筆とは違う価値がある。替え芯のインクを使えば、コストも低い。
誰にでもお勧めするというわけではないが、既存の商品にはない独自のジャンルを確立しているので、用途によっては最適だと言える。
消えるインクのボールペン(一覧)
タイムスタンプは 下記 ↓
タイムスタンプは 下記 ↓
紙をワンスルーでしか使わなくなったのは、製紙法が改良されて、紙が安くなったからであり、資源制約がきつくなったら、自然と再利用するようになります。
江戸時代には、便所の紙ですら、再利用してました。
インクだけ消してリユースした方が良いと思う。
ただ、消えるインクの製造やそのインクの消去にかかる環境負荷が、
既存のインクの不使用や紙の節約によるメリットより大きければ、
確かにかえって悪いということになるだろうけど。
あと、大量に余っている間伐材の用途としては、
紙以外にも薪やバイオ燃料など他にもあるだろう。
機械については既存のものと同じくらいの数を
同じくらい長く使えば良いだけで、
「途中でやめる」意味がわからない。
インク代が高いというが、普及と技術革新が進めば
そのうち安くなる可能性もあるのでは?
東芝がライフサイクルアセスメントか何かして、
全ての要素について評価した上でエコだと
言っているのなら良いのだが、
それでもこのブログでの議論で
詐欺だと決めつけるのも早いと思う。
> 同じくらい長く使えば良いだけで、
普通のコピー機は 10万円程度(家庭用ならば3万円程度)なんだから、今回の 141万円とはコスト的に大きな違いがあります。
コスト差がこれほど大きいということは、環境負担も同様にいっぱいかかっているということです。
> 「途中でやめる」
事業が破綻すれば、インクの発売もなくなるので、途中でやめるしかありません。
WindowsXP を3年前に買った私みたいに、たったの4年間でサポート打ち切りということもある。
あと、利用枚数が少ないと、141万円を回収するには、十年以上かかるでしょう。それまでに機械が錆びて壊れるかもね。