「ネアンデルタール人からホモサピエンスへの交替が起こった理由を、さまざまな学問分野で共同研究する」
というプロジェクトがある。
→ 交替劇プロジェクト
→ 読売新聞・朝刊 2012-11-07 (紙の新聞)
文科省の補助金をもらって、文化人類学、発達心理学、生体力学、精密工学、認知神経科学、古神経学等とも連携して、学際的な研究をするそうだ。
──
ま、そこまではいい。問題は、その先だ。
「両者の間には学習能力の差があり、それが一方の絶滅をもたらした」
という前提で研究するそうだ。
本研究はヒトを取り巻く環境の時間変動・空間的異質性が学習能力の進化に影響することを理論的かつ実証的に調査し、両者の間に学習能力差が生ずるに至った経緯の理論的根拠を明らかにする。しかし、このように先入観に染まって研究を始めても、真実に達するという保証はない。
私なりに言えば、こうだ。
「このプロジェクトは、前提そのものが狂っているので、すべては無駄となる。砂上の楼閣」
その理由は? こうだ。
「一方が優秀で、他方が劣るから、片方が滅びた……という進化論的な発想は、成立しない。なぜなら、当時の人口はとても少なかったからだ」
つまり、こうだ。
「淘汰圧が高いときには自然淘汰が働くが、淘汰圧が低いときには自然淘汰は働かない。自然淘汰が働かない状況で、自然淘汰説を主張するのは、根源的に狂っている」
だいたい、「学習能力の差」が一方の絶滅をもたらすのであれば、ゴリラやチンパンジーだって絶滅していたはずだ。しかし、そんなことにはならなかった。棲む領域が異なるからだ。
ネアンデルタール人とホモサピエンスも同様だ。地球上はあまりにも広く、当時の人類数はあまりにも少なかった。両者が出会うことすら稀だった。ここでは両者の一方だけを(競争で)滅ぼすような淘汰圧などは働かなかった。
だから、そのような淘汰圧の存在を仮定して(前提として)、「学習能力の高い方だけが淘汰圧を乗り越えた」というような認識は、発想が根源的に間違っているのだ。
──
そもそも、このプロジェクトは、自然淘汰説というものを根本的に勘違いしている。
自然淘汰が成立するのは、「小進化」の場合だけだ。つまり、同じ種のなかの、個体間の優劣の場合だけだ。
一方、たがいに異なる種と種の間では、自然淘汰は関係ない。たとえば、猫が滅びて、犬が増えたからといって、「猫から犬への進化が起こった」ということにはならない。種が別々ならば、それは自然淘汰とは関係ないのだ。
ネアンデルタール人とホモ・サピエンスも同様だ。両者は別々の種だから、自然淘汰は関係ない。実際、両者は長期間にわたって共存した。もし自然淘汰があったのならば、このような長期間の共存はありえない。かわりに、「ネアンデルタール人が少しずつホモ・サピエンスに変化していく」というふうになったはずだ。
しかし、そんなことはありえなかった。いったん種が確立したあとでは、種と種との間で進化の関係はなかった。たとえば、いったんチンパンジーと人間という別々の種が確立したあとでは、「チンパンジーから人間へ」という進化はありえない。同様に、「ネアンデルタール人が少しずつホモ・サピエンスに変化していく」という進化もありえない。それゆえ、両者の間で自然淘汰が働くということはない。
──
ではなぜ、ネアンデルタール人が滅びて、ホモサピエンスが増えたのか? 実は、この二つの出来事には、関係がない。
・ ネアンデルタール人が絶滅したこと
・ ホモ・サピエンスが増加したこと
この両者は、無関係だ。それぞれ、まったく別々のことである。
ネアンデルタール人が絶滅した時期は、およそ3万年前だった。一方、ホモ・サピエンスが大幅に増加した時期は、人類が農耕をするようになってからだ。それは早くても1万年前だった。つまり、ホモ・サピエンスが増えたから、ネアンデルタール人が滅びたのではない。
1万年前よりも前では、狩猟採集生活があっただけだ。そこでは特に食料面での淘汰圧は働かなかった。人々は食糧不足で飢え死にしたのではなく、病気によって短命で死んだのだ。だから「学習能力の差で食料の獲得力の差が生じた」というような説は成立しない。
では何が差を生んだのか? 「衛生観念の有無だ」というのが、私の考えだ。
「ホモ・サピエンスは衛生観念があったから、食料の水洗いや、加熱や、日干しなど、いろいろと雑菌を取る手間を取った。一方、ネアンデルタール人は、衛生観念がなかったから、生肉や腐肉を食べて、雑菌から食中毒や伝染病という病気にかかって死んだ」
つまり、衛生観念の有無によって、一方は存続し、他方は病気で絶滅した。ネアンデルタール人が絶滅したのは、病気のせいだったのである。それも、ホモ・サピエンスから感染した病気のせいで。
それが私の考えだ。この件は、前に詳しく述べた。
→ ネアンデルタール人の絶滅
私の説に比べれば、冒頭の「交替劇プロジェクト」はあまりにも論拠が弱い。「自然淘汰の働かない状況で、自然淘汰が起こったこと」を、理由としているからだ。
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結論。
新たな研究をすることは大切だ。しかし、勝手な思い込みで一つの発想を前提として、他の可能性をすべて無視すれば、独りよがりな研究となって、妄想や誤謬という落とし穴に落ちるだけだ。
研究するなら、他の説にも目配りする方がいい。勝手に一つの自己流の発想だけにこだわれば、虚偽に目を奪われ、真実に目を閉ざされる。
そのあげく、真実の説を見て、「トンデモだ!」と騒ぐのが関の山だ。
[ 付記 ]
今回の事例から、明らかなことがある。こうだ。
「専門家というものは、異論を受けつけない。自分の説が正しいと思ったら、他の説を聞こうとはしないし、どれが正しいかを検証しようとも思わない。先入観に凝り固まっており、他の説を受け入れようともしない。ネット上にあるさまざまな見解を一つ一つ検証するというようなことはなく、単に自説が正しいことを証明しようとするだけだ。彼らの求めるのは、自分が正しいということの証拠だけであり、(自説とは異なる)真実ではないのだ」
これはまあ、ほとんどの分野で当てはまる。
だから、パナソニックもシャープも、(勝手に正しいと思い込んだ)自説にこだわったあげく、倒産寸前となる。
これが日本人の体質なんですよ。いくら失敗しても、懲りない。やることは部外者を無視するか非難することぐらい。
[ 余談 ]
エコキャップの批判について、次のコメントが来た。(転載)
私が通っている学校で環境系の委員会に所属しています。これが日本人の体質だ。真実は批判され、虚偽がまかりとおる。そのなかで真実を主張すれば、「トンデモだ!」と文句を言う人が出てくる。
エコキャップ回収はエコでないし、なぜポリオの生ワクチンなのかと、委員会でエコでない仕組みの説明と問題提起をいたしました。
そうしたところ、顧問の先生、学生の方々皆さん、
「なぜ善意を信じないのか」
「エコはいいことなので」
「エコだから続けたい」
と、民主主義的採決により、エコキャップ回収の中止案は却下されました。
「善意は善」ではないし、「善意/無知で人を殺せる」と、思いました。どんなに論理的に事実を伝えても「善意」のまえでは、伝わらないことがあることをしりました。
( → ペットボトルのキャップでワクチン? (嘘) コメント)
【 関連サイト 】
次の検索結果がある。
→ 「ネアンデルタール人 絶滅 理由」 - Google 検索
この検索結果を見ると、いろいろと面白い原因推定が見つかる。
──
ネアンデルタール人の絶滅の理由としては、次の説が面白い。(笑える。)
→ ネアンデルタール人の女性がホモサピエンスにレイプされたから
現生人類の男性がネアンデルタール人の女性に出会ったら、必ず交配を試みたはずだ。異種間の交配なんて、グロテスクに決まっているのだから、ネアンデルタール人の女性は必ず拒否する。それなのに大量の交配があったと見なすのだから、「大量のレイプがあった」と見なすことになる。そしてそのすえに、「ネアンデルタール人の遺伝子集団は、交配により、ホモ・サピエンスの遺伝子集団に呑み込まれた。ネアンデルタール人は遺伝子的にホモ・サピエンスに吸収されて消えてしまった」という説だ。
こんな珍説(レイプ説)を語る連中がまともな顔をしているんだから、呆れる。
で、レイプ説を否定する私のことを「トンデモだ!」と非難するのが、トンデモマニアだ。
なるほど。トンデモマニアは、レイプ説が好きなわけだ。彼らにはいかにもふさわしい。

※ 女性の皆さん。トンデモマニアを見たら、近づかないように
しましょう。……ま、見ただけでも、すぐにわかるだろうが。
※ なお、トンデモマニアが私の説を非難する理由は、
「その説が論拠不足だから」
ではなくて、
「その説を唱える奴が非専門家だから」
だけだ。
それだけでは真偽不明と思うのが普通だが、彼らは
それだけで勝手に「間違いだ」と決めつけるわけ。
で、「こいつは間違いだ」と思い込むと、すぐに噛みつく。

非常に大きな公的科学研究費を取っているのですから、厳しい外部からの批判にさらされることは良いことです。研究の進捗の中身については本当に意味のある科学をやっているかどうか、外部から監視されることが健全であるためには必要です。内部からの批判は期待できないのですから。
タイムスタンプは 下記 ↓
「両者の間に学習能力差が生ずるに至った経緯の理論的根拠」
というのは、変ですね。それを環境要因に求めるということらしいが、学習能力差が生ずるに至った理由は大脳の大きさに決まっているんだが。
脳容量はどちらも同程度だが、ネアンデルタール人は小脳ばかりが大きくて、大脳は小さかった。(※) それが理由に決まっているのに。
※ → http://openblog.meblog.biz/article/2478827.html
[ 付記2 ]