私は国産の無人戦闘機を開発することには賛成だ。
→ 無人戦闘機システム
しかしながら、今回のは無人偵察機だ。これについては、熟慮のすえ、反対したい。
まず、報道を紹介しよう。
《 国産無人偵察機を開発へ…ミサイルを早期探知 》まず、動機が滅茶苦茶だ。リンク先の図を見るとよくわかるが、「打ち上げに失敗して低い高度で落下したため探知できなかった」のを解決するためであれば、無人偵察機は必要ない。なぜなら、「打ち上げに失敗して低い高度で落下した」のであれば、日本には脅威ではないから、「探知できなかった」としても問題ないからだ。北朝鮮が何回打ち上げに失敗しようと、失敗した発射については探知する必要がない。何時間かたってから米軍や韓国軍の情報を得るだけで十分だ。失敗を探知するために兵器を開発するなんて、方針が根本的に狂っている。
防衛省は来年度予算の概算要求で、「滞空型無人機システムの研究」として4年間で計30億円を計上。12月に決定する予定の予算案にも一定額が盛り込まれる見通しとなった。
防衛省は現在、弾道ミサイルの探知システムとして、地上配備型レーダーとイージス艦を配備し、米軍の早期警戒衛星の情報(SEW)の提供も得て対処している。ただ、レーダーなどは一定の高度に上がった段階でないと探知できないという制約がある。4月に北朝鮮が人工衛星と称して発射を強行した弾道ミサイルについても、打ち上げに失敗して低い高度で落下したため探知できなかった。
これに対し、実用化を目指す無人機は高度約1万3500メートルを飛べ、日本近海の上空から、低い高度の動きの探知が可能となる。パイロットが乗らないため、22時間ほどの連続航行も可能と想定している。
防衛省はまず来年度には、無人機の試験機の基礎設計を行い、試験機が完成後に強度調査などを進めた上で、2020年度の実用化を目標とする。熱を感知する赤外線センサーについてはほぼ開発済みで、防衛省幹部は「技術的な基盤はそろっている」としている。
無人機による警戒監視が実現すれば、地上配備型レーダーより早く弾道ミサイル発射を探知でき、早期に迎撃態勢を取れるほか、衛星では難しい発射後の追尾もできるため、発射後に失速した場合も航跡を捕捉し続けることが可能になる。
( → 読売新聞 2012年11月4日 )
とはいえ、それは、ただの口実だろう。本当は、防衛省は前から無人偵察機の開発を狙っていた。2011年度は 100万円の調査費を計上していた。
→ 国産無人機の開発
また、2011年における 2012年度予算では、13億円を予算要求していた。
→ 無人飛行機(偵察機)
そのあとで、今回、4年間で 30億円を計上するらしい。
──
この件については、よく考えたすえ、私としては反対する。理由はいくつかある。
(1) 前例
国産無人機には、すでに前例がある。
防衛省は2004年度〜10年度にかけて、約100億円を投じて多用途の小型ジェット無人機の開発に乗り出し、計4機の試作機を作製。だが、飛行試験中のエンジントラブルで2機が海中に落下して水没するなど実用化に至らず100億円かけて開発しても、失敗して、結局は1台も配備できなかった。今回も二の舞になる可能性がある。
( → 国産無人機の開発:朝日新聞の孫引き )
ま、当時に比べれば、技術水準は向上しているから、何とかなるかもしれない。しかし、それにしても、見通しはあまり明るくない。
(2) コスト
最大の問題は、コストだ。今回、30億円というが、30億円で開発が済むはずがない。前回は 100億円かけても開発失敗だったのだ。新たに開発するなら、最低でも 100億円で、実際にはもっとかかるだろう。2009年の例では、こうだ。
→ 開発経費は103億円で当面の開発予定は4機。
※ 試作機の写真や図もあり。
かなり金がかかるのだが、それでいて、現実に配備される偵察機の総数は、最大でも 10台程度だろうから、1機あたりのコストはずいぶんと高額になってしまう。高価すぎる。
そのかわりに、無人機を輸入したら、どうなるか? こうだ。
→ RQ-4 グローバルホーク 3,500万USドル

出典:Wikipedia
つまり、国産機に比べてはるかに高性能(世界最高性能)のものが、3,500万ドル(28億円)で購入できる。
仮に、前回の開発をやめていたら、こいつをすでに4台保有できていたはずだ。
で、今回、新たに開発するとしたら、最低でもこいつを4台保有できるはずだったのが、できなくなる。さらに、そのかわりとして、低性能の国産無人機を得られればまだいいが、開発失敗して海の藻屑になる可能性もある。
──
というわけで、「素人がいきなり無人機の開発をする」というようなことは、やめた方がいい。ホンダジェットを作ったことのある会社ならまだしも、商用ジェット機を飛ばしたこともない素人会社が軍事用の飛行機を作るなんて、馬鹿げている。それはまるで、町の自転車屋が、F1 の自動車を作るようなものだ。無謀としか言いようがない。海の藻屑となる製品を作るとしても、当然のことだ。
※ 富士重工は飛行機を作った経験はあるが、ジェット機
ではなくプロペラ機を作っただけ。→ Wikipedia
なお、以上の私の判断は、私独自のものではない。似たような判断は、他の人(軍事オタ?)も述べている。
→ 無人偵察機2機の試作計画 米国製より劣り議論必至
これは 2005年の記事。このころから、無人偵察機を導入しようという計画が何度も出ている。
どうも、これは、富士重工の航空機部門を生きながらえさせるための、軍事産業育成計画であるのかもしれない。それだけが目的なのかもね。
軍事的な理由ならば、米国機の導入が最善であり、ごく少数の国産機の開発は馬鹿げている。今回の動きは、あくまで軍事産業の育成が狙いだとしか思えない。
( ※ つまりは富士重工が、軍事的には不必要なものを生産しようとて、国民の金を無駄にしているだけ。国民としては、無駄な金を浪費されたあげく、高性能の米国製偵察機を導入できなくなり、二重の意味で大損となる。)
[ 付記 ]
私が以上のように述べるには、理由がある。ひどい先例があるからだ。
→ AH-64D アパッチ・ロングボウ - Wikipedia
これは対戦車ヘリ(攻撃ヘリ)として、非常に高性能なものである。
→ 【まどマギ】ほむらの戦闘は陸自何個大隊分?
「ほむら」さんの同時攻撃(索敵)能力が「最大256台の車両(攻撃目標)から16台を同時攻撃出来る」ロングボウ(この能力が旧型との最大の違い)に優(まさ)ってたら。。。怖いわ!アニメの話なので、私にはよくわからないところもあるが、どうもすごい攻撃力があるらしい。で、アパッチはそれほどすごい。
と云うことで、「ほむら」さんの戦闘力=「アパッチ ロングボウ」1機分。
ところが、これを日本で配備したときは、下記のようになった。
2001年(平成13年)8月27日にAH-64Dの採用が決定した。米国製のを買えば、1800万ドル(15億円)。なのに、富士重工がライセンス生産したら、単価が216億円だから、約 15倍だ。げっ。おまけに、400億円の損失が別途生じているらしい。
2008年(平成20年)度予算で調達を打ち切り、調達数を62機から13機に縮小することを決定した。
しかし2008年度予算の概算要求に計上された3機の調達費には、残りの52機の調達費に分割するはずだったライセンス生産料金や設備投資費などを上乗せしたため、単価が216億円にまで高騰してしまった。その結果3機分の予算計上は見送られ、わずか10機で調達を終了することとなった。富士重工はボーイング側に支払ったライセンス料や設備投資費など約400億円を回収できなくなったため国を提訴している[2]。
──
ユニットコスト: 米国 1800万ドル(2007年)
( → Wikipedia )
ま、その後、継続生産することで、単価は下がっているらしい。しかし一方で、別の問題も生じた。防衛省と富士重工の癒着だ。話題になったので、覚えている人も多いだろう。
→ 価格値下げを要請か 防衛省幹部、川重側受注に便宜
→ 新型ヘリ官製談合
→ 富士重工、戦闘ヘリコプター調達中断で生じた損害の賠償を求め防衛省を提訴
富士重工は、アパッチの調達中断で生じた損害の賠償を求めた。防衛省はそれで困って、富士重工に何らかの便宜を図ることで、提訴を止めてもらいたかった。普通ならば、そうなる。そこで、次期多用途ヘリ「UH−X」という案を出して、富士重工に受注させようとしたらしい。もくろみ通り、富士重工が優位に立って、受注寸前になった。
ところが、川崎重工と関係の深い連中が、ここに割り込んで、強引に川崎重工に受注させようとした。無理筋。無理が通れば道理引っ込む。かくて官製談合という不正が発生した。理由は、「川重に過去12年間で、少なくとも幹部自衛官68人が天下り」という癒着のせいらしい。どうも川重の側が、「これほど受け入れているのだから」と防衛省に圧力を掛けたのだろう。「当社に受注させないと、次の高級官僚を受け入れてやらないぞ」というふうに。
まったく、ひどいものだ。無理に少数生産の国産化をすると、こういう奇妙奇天烈なことになる。まともな装備はなくて、国民の金が食いつぶされるだけ。
【 関連サイト 】
軍事オタクの見解を見ると、「グローバルホークの導入でいい」という意見が多いようだ。
→ 2ちゃんねる まとめ
→ グローバルホークと開発中の国産HALE
→ ロボ飛行機 宇宙機構が開発
http://www.asahi.com/science/update/1117/TKY201211170575.html
> → RQ-4 グローバルホーク 3,500万USドル
>つまり、国産機に比べてはるかに高性能(世界最高性能)のものが、3,500万ドル(28億円)で購入できる。
>仮に、前回の開発をやめていたら、こいつをすでに4台保有できていたはずだ。
グローバルホークの輸出価格については,以下の報道がありました。
『
米政府、韓国への無人偵察機「グローバルホーク」売却を正式提案
(ロイター 2012年12月26日)
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPTK826426020121225
』
こちらによりますと,売却代金の総額は4機で12億ドルで,
頭割りしますと1機あたり3億ドル(御記述のレートで240億円)です。
交渉により最終的な価格はより安くなる可能性もあるようなのですが,
アメリカが韓国に過去に提示した最低額(2009年)でも,総額約378億円相当だったそうで,
1機あたり約95億円となります。
wikipedia記載の価格と輸出向け価格は,必ずしも一致しないという一例ではないかと存じます。
さらに、次の記述もあります。
──
> 仮に導入するとなると、日本全域の警戒・監視には3機が必要となり、センサー類を除く機体本体は1機約25億円で、司令部機能を持つ地上施設の整備などと合わせて初期費用の総額は数百億円になる予定である[1]。
本体よりも地上設備の方が高額であるようだ。こっちまで国産にしたら、数千億円になるかもね。
大金かけて配備されないのも当たり前だろ。