この問題は、私も前に扱ったことがある。
→ 晩婚化・非婚化の理由
ここでは、女が「白馬の王子を夢見るお姫様」だから結婚しなくなり、そのせいで男もあぶれてしまう……というふうに述べた。ま、冗談半分である。
この項目では、次の記事をリンクしておいた。
→ なぜ昔は、学歴も年収も低くても結婚できていたのか - Chikirinの日記
その趣旨では、理由は、次の二点。
・女性が「結婚するために、自分の教育レベルを上げない」
ことをやめたこと
・年齢と収入が相関する、高度成長 & 年功序列時代が
終わったこと
しかし、どちらも納得しがたい。
・ 欧米では高学歴の女性もどんどん結婚している
・ 欧米だって、高度成長はない。また、年功序列がなく、
昇給の見込みも少ない。(ただし若いときから高所得。)
というわけで、上記記事の説は信用しがたい。
──
一方、次の記事も、はてなブックマークで話題になっている。
→ なんで昔の人は結婚できていたのか?
その趣旨は、一部抜粋すると、次の通り。
権力を維持するように、権力に従属する人々をネズミ講のように産出するシステムが「お見合い」である。つまり、(村のなかで)権力機構の維持のために、人々をお見合いさせた、というわけだ。
見合いシステムの支配は、結婚するために自分のスペックを押さえていたというような自由市民の意志・行動・市場モデルの作動ではなく、従属すべき権力機構に世帯を当てはめることだった。
現在、多くの男女の市民が従属すべき権力機構に配分されなくなった。
これはもっともらしいが、「お見合い」の対立概念は「恋愛結婚」である。上記のことは「お見合いがなくなったこと」を説明できるが、「結婚がなくなったこと」を説明できない。単に「見合い結婚が減って、恋愛結婚が増えたこと」を説明するだけだ。
そもそも、上記のようなことは「カーストの維持」を必要とするインドなら成立するかもしれないが、日本では成立しがたい。
また、「貧乏な武士よりは金持ちの商人」という傾向はかなりあった。
また、結婚は、村の中で完結するとは限らず、村の外に嫁ぐことも多かった。都会においては、いっそうそうだ。その意味で、話が根本的に狂っている、とすら言える。ピンぼけすぎ。これだったら、Chikirinの記事の方がまだマシだ、と言える。
──
以上の二つがあまりにもひどいので、私が正解を書いておく。先に書いたのは冗談だったが、デタラメが世にはばかるのはまずいので、きちんと論じておく。
(1) 非正規雇用
結婚の率が下がっているのは、女性が高望みしているからか? たとえば、バブル時代のように「3高」を望んでいるからか? 違う。女性の望むものは、はるかに低い。それは何か? 「最低限の経済力」である。具体的には、「定職を持つこと」である。それだけだ。当り前と言えば、当り前と言える。
ところが、この当り前のことが、現在では成立しなくなっている。最も安定的とされる公務員でさえ、「定職」にはならなくなっている。
《 自治体職員、3人に1人が非正規 自治労が実態調査 》最も恵まれているという「公務員」という職場でさえ、このありさまだ。全員ではなく、3人に1人という割合ではあるが、それにしてもひどい。田舎では半分以上が非正規職員ということも多いだろう。
自治労が実施した地方自治体職員の勤務実態調査で、非正規職員が全体の33.1%を占め、2008年の前回調査に比べ上昇したことが29日、分かった。賃金平均は時給型が950円、月給型が16万円で「年収換算で多くが200万円以下」と分析している。
調査は自治労加盟の労組がある1349自治体が対象で、845自治体が回答した。33.1%を教員、消防、警察などを除く自治体職員全体に当てはめると、非正規職員数は全国で約70万人になるとしている。
( → 読売新聞 2012年10月29日 )
これでは「定職を持つ」という最低限の条件が満たされない。多くの女性が「せめて正社員の男性を」と思うのは当然だし、それが満たされない男性が結婚してもらえないのも仕方ない。
要するに、現代の人々が結婚できない理由は、「長期の不況」なのである。ここが根源だ。
(2) 昔は?
では、昔はどうだったか? 誰もが定職に就けた、とも言える。今のような長期の不況は、20年前に始まったもので、人類でも空前の出来事だった。そういう現象は、これまでなかったから、誰もが定職に就けた、という状況が続いた。
だが、それは本質ではない。昔と今とでは、女性の求める最低水準が異なる。
・ 今 …… 男が定職を持つこと
・ 昔 …… 自分が生きていけること
こういう差がある。
今の女性は、男に「定職を持つこと」を要求する。しかし、昔の女性は違った。昔の女性は、「結婚すること」以外には、生きることができなかった。また、男性にしても、「結婚すること」以外には、生きることができなかった。
なぜか? 次の二点による。
第1に、同居することで、住居費と食費を浮かせることができる。この点からして、「両親・息子・息子の妻」という形で、二世帯が同居するのが標準であった。この場合には、住居費と食費が最小限で済んだ。(バラバラで暮らすとコストが著しく上昇する。)
第2に、家庭内で女性労働力が必要とされた。というのは、電気釜も電気洗濯機もないので、家事労働はものすごく大変だったからである。女性は朝から晩まで家事に追われていた、という傾向もあった。男性の立場で言えば、母親に家事をやってもらうか、妻に家事をやってもらうか、どちらかでしかなかった。自分で炊事や洗濯などをやるとしたら、まともに仕事ができるはずがなかった。(交通機関も発達していなかったので通勤時間も長かった。)
というわけで、昔は「結婚しなくては生きていけない」という状況にあったのだ。だからこそ男性も女性も、「生きるためには否応なし」という形で、結婚するしかなかったのだ。相手がどんな相手であるかは、二の次だった。とにかく結婚することが必要だった。生きるために。
(3) 文明の利器
ではなぜ、(2) のことは現代では成立しなくなったのか? それは、電気釜や電子レンジや冷蔵庫や洗濯機のような文明の利器によって、家事労働が著しく軽減された結果、独身でも生きていけるようになったからだ。昔ならば、独身者は、独身寮で暮らすか、下宿で暮らすか、どちらかだった。しかるに今では、文明の利器を使うことで、独身生活が可能となった。
要するに、昔は独身が不可能だったが、現代では独身が可能になった。こうして、独身(=非婚)という状態が、持続可能のまま継続されるようになった。それが、非婚者が増えた理由だ。
──
さて。この問題を考えるに当たっては、次の二つを区別する必要がある。
・ 個人はなぜ結婚しないかという個人レベルの理由
・ 社会はなぜ非婚率が高まったかという社会レベルの理由
後者(社会レベル)を理解するには、「全体的」「マクロ的」な認識が必要である。その認識をなしたのが、本項だ。
先の Chikirin の記事では、「女性がなぜ結婚したがらないか」という視点からとらえたが、それは、個人レベルの認識であり、社会レベルの認識ではない。個人レベルの認識では、「その人はなぜ結婚しないのか」という理由を一人一人について説明することはできるだろうが、社会全体について「社会の非婚率はなぜ高まったか」という理由を説明することはできない。
一方、先の「権力による見合い」という趣旨の記事では、社会的な認識はできたが、そこで示されたのは、「見合い結婚がなされなくなった理由」であり、「結婚がなされなくなった理由」ではない。そこから得られる結論は、「恋愛結婚が増えた」ということだけであり、「結婚の率が減った」ということを説明しない。実際、日本以外の欧米では、見合いなんかはもともとないが、非婚率が高いわけではない。
本質的に言えば、非婚率が高いことの理由は、昔との比較をしても意味がない。
そもそも、タイトルからしておかしい。「昔は結婚できた」のではなく、「昔は結婚しなければ生きられなかった」のだ。だから否応なしに結婚したわけだ。そこでは「好み」が入る余地は非常に小さい。運悪く「行き遅れ」になった女性は、親が死んだあとは、野垂れ死にすることも多かった。
一方、今の人々が結婚できなくなった本当の理由は、「非正規雇用の増加」、つまり、「長期の不況」なのである。ただし、結婚はできなくても、「独身のまま生きる」ということが可能になっている。その分、今の方が、人々は生きやすい。そして、生きやすいがゆえに、かえって非婚率は高まっている。そういう事情があるのだ。 《 ここが核心! 》
[ 付記 ]
池田信夫は、「非正規雇用でも、雇用があるだけマシだから、非正規雇用が増えるのは好ましい」なんて言っている。だが、そういう滅茶苦茶な理屈で「長期の不況」を放置するから、人々は結婚しにくくなり、日本はどんどん国家崩壊の道をたどってしまうのだ。
結婚するかしないかは、個人レベルではどうしようと本人の勝手だが、社会レベルでは、「将来の生産力の減少」という形で、国家崩壊をもたらすのである。その重要性を理解するべきだ。
最悪の場合、将来の子供はゼロとなり、日本は若者がいなくて老人ばかりの国になる。現実にはそれほど極端にはならないが、半分ぐらいはそういうふうになる。なぜなら出生率は 2.0 から 1.0 をめざして、どんどん低下しているからだ。
→ 出生率のグラフ
→ 出生率のグラフ ( Google )
【 追記 】
本項では昔との比較をしたが、外国との比較はどうか?
外国では結婚の率が下がっているわけではない。では、それはどうしてか? 次のグラフが参考になる。
主要国の失業率 ( → 出典サイト )

失業の統計の取り方が各国で異なるので、数値の絶対値には意味がないが、各国ごとで年ごとの相対的な違いがわかる。
日本ではバブル破裂以降、高い失業率が長期的に続いている。失業率は以前の2倍程度になっている。これにともなって、非正規雇用が大幅に増えている。この「非正規雇用の増加」が最大の問題だ。
欧米では、失業率は特に増えても減ってもいない。2008〜2009年のところに急増のピークが見られるが、これはリーマンショックによる一時的なものだから、結婚という長期的なトレンドにはあまり影響しない。
というわけで、欧米には「特に結婚率が下がる」という原因は見出されない。バブル破裂後の長期不況が続く日本とは異なる。本項では (2)(3) も説明したが、根源はあくまで (1) だ。これは欧米との比較にも耐える。一方、 (2)(3) は、昔との比較である。これは欧米との比較には関係しない。
《 参考 》
もっと詳しい情報を得たければ、上記サイトの別の情報が参考になる。
→ 非正規労働者比率のグラフ
ここにあるグラフをいろいろ見ると、この 20年間の推移について、次のことがわかる。
・ 若年の非正規労働者は、20%から 45%へと激増した。
・ 結婚率は、正規労働者が 60%、非正規労働者は 30%。
これほどはっきりとしたデータが出ている。「結婚できない理由は非正規雇用だから」というのは、完全に証明されたと言えるだろう。
( ※ それだけが理由ではないが、最大の理由である。)
《 蛇足 》
本項で述べたのは「結婚」(婚姻率)であり、「出産」(出生率)ではない。「日本ではなぜ少子化が進んでいるか」という問題は、本項と密接に関連するが、話題としては別の話題である。ここでは特に言及しない。
【 関連サイト 】
→ なぜ昔は結婚しやすかった?
→ その目次
※ なかなか楽しい記事。
エッチするために結婚するが、今は……という話。
学生時代の友人達は皆、奥方が一人娘か姉妹、あるいは男子は実家から出て行ったという家庭でした。
その為、私を含め結婚に際しては奥方の両親から「婿養子に来てくれるのか」「老後の面倒をみてもらえるのか」という条件が事ある毎に出され、説得?妥協?にとても苦労しました。その中で1人の友人は破談になっています。
私は結果的にお互いの実家から等距離のあたりに居を構える事で収まりましたが、お互いの老親を一つの家計で支えようと思うとなかなか覚悟の要る事ではあります。御説の様に、皆が一つ屋根の下で生活出来れば負担が軽くなる事は分かっていても、精神衛生上よろしくない、という理由で避けた私はチキン野郎ですかね(^_^;)
少なくとも「お金がないから結婚できない」という説は成立しない、と示しているだけです。昔よりはずっと豊かなんだから。
> お互いの老親を一つの家計で支えようと思うとなかなか覚悟の要る事ではあります。
一人っ子でなければ、兄弟姉妹で支え合えます。この世代ならば普通は二人の子がいるはずなので、各家庭ごとに二人の子で二人の親を支えるわけですから、特に負担にはならない。
一人っ子の場合には、負担は大きくなるが、遺産も独り占めできるので、遺産があればかえって有利です。
あと、決定的なことは、「今の老人は年金をもらえる」ということです。その分、子の負担は小さい。
一世代上だと、年金がほとんどなかったので、子が親を丸ごと養う必要がありました。今はそんなことはない。
今の現役世代は、とても恵まれています。遺産のことまで考えると、負担どころか、かえってプラスになりそうです。
→ 女性に告白して発せられる拒絶理由。
http://blog.livedoor.jp/maruchan_73/archives/7546418.html
「出生率」のグラフは本文中でリンクを示しています。
そんな人は例外でしょう。たとえばホモとか。
普通の人は「彼氏」「彼女」が欲しくて欲しくて仕方がないはずです。独り身なんてまっぴらだと思っている。
ただし既婚者を除く。 (^^);