「その形質が備わったのは、異性へのアピールのためだ」
という性淘汰説がある。これについては、そのほとんどがデタラメな珍説だと見なせる、というのが私の見解だ。
たとえば、
「男性の顎がとがってヒゲが生えたのは異性へのアピールのためだ」
という説がある。しかし、実際は逆でしょう。性ホルモン(ステロイド)によって、そういう形質が生じるから、逆に、そういう形質が「男らしい」と見なされるだけのことだ。ここでは、論理が倒錯している。
( → [ 付記 ] を参照。)
──
こういう倒錯を恐竜にも当てはめた説が出現した。
北海道大総合博物館の小林快次准教授とカナダ、米国の共同研究グループはカナダの約7000万年前の地層から羽毛のある恐竜の化石3体を発見した。化石から、恐竜が翼を持ち始めたのは飛ぶためではなく、繁殖行動に利用するためだったこともわかった。ここに書いてあるのは、ほとんどデタラメだと言っていいだろう。それが私の評価だ。
見つかったのはティラノサウルスと同じ獣脚類に属するオルニトミムスで、羽毛があるのを確認したのは初めて。
3体のうち2体は体長1.5メートルと3.4メートル。それぞれ1歳未満と成長期を過ぎた5歳程度だと推定され、体の周囲に羽毛の痕跡が残っていた。残る1体は体長3.6メートルで10歳程度の成体。腕に羽毛の痕跡があった。
1歳未満の化石は翼が発達していなかったが、成体は羽を備えた翼があったと推定できた。成長してから形成された翼は異性へのアピールや卵を抱くなどの繁殖行動に使うために発達したと考えられるという。
( → 日経 2012-10-26 )
まず、記事には、こうある。
「恐竜が翼を持ち始めたのは飛ぶためではなく、繁殖行動に利用するためだったこともわかった」
ここでは「わかった」と書いているが、わかっていないでしょう。単に「成体は羽を備えた翼(腕)があったと推定できた」というだけのことだ。自分で勝手に推定しているだけだ。何の証拠もない。

また、そもそも話が矛盾している。一方では「翼」と書き、一方では「腕」と書く。どっちなんだ?
そこで、Wikipedia を見ると、「細長い腕」があったという記述が見つかる。画像は、右図だ。
で、この「腕」に羽毛があったことがわかったから、「この腕は翼だ」と主張したいのだろう。
しかし、「腕に羽毛があるから翼だ」というのは、牽強付会(けんきょうふかい)に過ぎる。なぜなら、この時代の恐竜の羽毛は、「羽根」の形状を持たず、「ボア」の形状でしかなかった。
前に「走鳥類の羽毛と足」でも記述したように、こうなのである。
特に頭部や首のあたりに着目すれば、風切り羽はまったくなく、獣毛状の細長い羽毛があるだけだ。ここで紹介したページの図でダチョウの羽毛を見ればわかるように、羽毛は獣毛と同様のものでしかなかった。こんな獣毛みたいなものがあるから「腕は翼だ」と決めつけるのであれば、ほとんどの陸生哺乳類はみんな翼を持っていたことになる。(人間だけは、ほとんど「無毛の猿」なので、獣毛を持っていないが。)
→ ダチョウの頭部の羽毛 (画像)

──
要するに、「腕に羽毛があったから、この腕は翼だ」と決めつけるのは馬鹿馬鹿しい。この腕はあくまで腕だったのだ。その点、同時期の他の恐竜(特に鳥型恐竜)と同様である。
恐竜というものは、原則として、腕(というより前肢)をもつ。前肢があるのを見て、「翼があった」と決めつけるのは、馬鹿馬鹿しい。
そしてまた、前肢を見て、「恐竜が翼を持ち始めたのは飛ぶためではなく」というふうに判断するのも、馬鹿げている。前肢は前肢としての目的(物をつかむことなど)のためにあるのだ。空を飛ぶためでないのは、最初からわかりきったことだ。
結局、彼らは、論理の自縄自縛に陥っている。
「前肢に羽毛があった」
→ 「だから前肢は翼だ」(妄想)
→ 「この翼は飛ぶためのものではなかった」
→ 「翼は飛ぶためにあったのではない」
これじゃ、妄想の上に論理を組み立てているだけだ。馬鹿馬鹿しいにもほどがある。
では、正解は?
「前肢は何かのために誕生したのではない。恐竜などの爬虫類には前肢がもともとあった。魚類から両生類に進化した時点で、四肢が生じた。その四肢が、進化の過程でいくらか形状を変化させただけだ」
つまり、こうして前肢の形状がいくらか変化しただけだ。
ではなぜ、羽毛を持つような形状に変化したのか? それが次の問題となる。
記事にはこうある。
成長してから形成された翼は異性へのアピールや卵を抱くなどの繁殖行動に使うために発達したこれもまた勝手な思い込みだ。そういう役割はあったかもしれないが、それは単に役割の一つにすぎない。それはいわば、
「人間の腕は、異性へのアピールや卵を抱くなどの繁殖行動に使うために発達した」
というのと同じぐらい馬鹿げた説だ。そういう目的が部分的にあるとしても、そんなことはごく一部分にすぎない。
- ※ なお、「前肢が発達した」という認識は、ちょっとおかしい。鳥型恐竜では、前肢は拡大したのではなく縮小したからだ。そして、縮小すると同時に、「腕」「手」としての機能が加わったようだ。
ただしこれは、器官が発達したというよりは、脳が発達したことによるのだろう。ちなみに、人間の「脳のホムンクルス」では、手や腕の部分がきわめて大きい。)
→ 脳のホムンクルス
では真実は? 私なりに見解を示そう。
オルニトミムスが「飛べない翼」を持つようになったのは、現代の走鳥類であるレア Rhea と同様だろう。つまり、「走るための補助」である。
人間ならば、走るときに、腕を前後に振る。このことで、体のバランスを取る。つまり、二本足で駆けたとき、そのままでは上体がひねられてしまうので、上体が揺れるのだが、それぞれの片腕を同じ側の片足とは逆方向に振ることで、上体のバランスを取れる。
ところが、レアは、腕を持たない。そのせいで、上体のバランスを取れない。しかるに、翼があれば、うまく足と連動させることで、上体のバランスを取れる。このことで、安定して拘束で走れるようになる。
つまり、レアが「飛べない翼」を持つのは、「空を飛ぶため」ではなくて、「地上を拘束で安定して走るため」なのである。
「飛べない翼」を持ったのも、レアと同様だろう。
──
ついでに言っておこう。オルニトミムスの翼と、鳥類の翼との、関係だ。この両者には、関係があるか? いや、関係はまったくない。両者の関係は断絶している。
オルニトミムスのような鳥型恐竜が翼をもつことはあった。だが、それは、鳥類につながる流れにはなっていないのだ。翼をもつ恐竜はすべて滅びたのだ。
一方、翼を持たずに、小さな前肢を持つ鳥型恐竜がいた。そのうちの一部は、恒温性を半分ぐらい持ったまま、前肢を消失させて、恐鳥類となった。
→ 鳥型生物の2系統
恐鳥類は、前肢の遺伝子を偽遺伝子のまま変化させたあとで、翼の遺伝子としてから、その遺伝子を発現させて、翼を発生させた。
→ 鳥類の本質
こうして、
前肢 → 前肢消失 → 翼
という順序で、鳥類の翼が誕生したのだ。
つまり、前肢がだんだん変化して、鳥類の翼になったのではない。前肢はいったん消失してから、小さな翼が出現して、それが大きな翼になったのだ。そして、初期の翼は、鶏の翼と同様に、小さなものだった。それは、「空を飛ぶためのもの」ではなくて、「宙にジャンプするためのもの」だった。
→ 樹上性/地上性(飛ぶ前) の (3)
以上が、私の考える「恐竜のあとで鳥類に翼が出現したわけ」だ。
【 補説 】
次の項目を参照。
→ 恐竜と鳥の系統図
これを見ると、恐竜と鳥の関係がわかる。
では、今回のオルニトミムスは、この図のどこに位置するか? それを調べるには、Wikipedia を見るといい。
→ オルニトミムス - Wikipedia
これによれば、オルニトミムスは、マニラプトラに並置される。つまり、上記の図の全体に並置される(兄弟関係にある。)
結局、オルニソミムスは、「のちに鳥類になる恐竜」ではなく、それの兄弟であるにすぎない。さらに、兄弟よりも遠い従兄として、ティラノサウルスがいる。オルニソミムスは、「のちに鳥類になる恐竜」(恐竜の祖先)と、ティラノサウルスとの、中間に位置するものだ。その意味で、「恐竜の祖先を見つけた」というふうには認識しない方がいい。
──
さらに言えば、「鳥類」の形質を「空を飛ぶ翼を持つもの」として定義すること自体が、本質的に間違っている、というのが私の立場だ。仮にそんな分類をしたら、コウモリも鳥類だし、トンボやバッタや蝶々だって鳥類だ。だから、そんな定義自体が間違っている。
→ 鳥類の本質
鳥類の定義は、何らかの形質(特に翼と羽毛)によるのではない。では何によるかと言えば、系統関係による。
それでも特に形質に着目するのならば、「恒温性」が最も重要だろう。この件は上記項目で詳しく述べた。そちらを参照。
[ 付記 ]
性ホルモンと「男らしさ」について。──
「途上国の男性は、マッチョな方が生き延びるので、マッチョがモテる。しかし先進国の男性は、マッチョでない方が女性に優しいので、マッチョでない方がモテる」
という趣旨の記事がある。
→ マッチョ?フェミニン?女性が男性を選ぶ「遺伝子的」基準とは
【 関連サイト 】
参考記事。
→ 翼の進化は求愛のため?
図があるが、勝手に立派な羽毛を妄想している。
そんな立派な羽毛は、ありえそうにないのに。( 理由は → 鳥の翼と羽毛 の「羽毛の発達史」 )
本人の論文。 New
→ 北米大陸初の羽毛恐竜の発見と鳥類の翼の起源を解明 [PDF]
【 追記 】
新たに次の記事が出た。
今回研究の対象になったオルニトミムスは、より原始的なオルニトミモサウルス類であるが、……翼を持ったもっとも原始的な恐竜であることが判明した。まず、最後の「羽毛の目的」の点では、私は「保温」のためだと思う。オルニトミムスは全長は約3.5m( → Wikipedia )とやや小型であるので、放熱量が多いからだ。上記の見解には「保温」という目的を抜かして、勝手に推測しているが、論理が破綻している。
生まれて少なくとも1年間は、腕には毛のような羽毛で覆われており、体も1.5mを超える1年以上も後にようやく羽軸を持つ羽が生えた翼を持つことが判明。これにより非鳥類型恐竜は、現代の鳥類とは異なった翼の形成過程があることが明らかにされた形となった。
今回発見されたオルニトミムスは、進化の過程で一度も飛翔に関わっていないため、飛翔や滑空という目的であるとは考えられず、また、この恐竜は植物食であることが知られているため、獲物の捕獲ということもないと考えられた。さらに、オルニトミムスは幼少期から走行性に優れているにも関わらず、幼体に翼がないことから走行のバランスも排除され、この結果、、翼は本来飛翔のために開発されたものではなく、繁殖行動(個体識別のためのディスプレイや抱卵)に起源を持つことが結論付けられたという。
( → マイナビ・ニュース )
また、羽軸を持つということから、「立派な羽根をもつ」というふうに推定して想像画を描いている。
→ その想像画
だが、このような羽毛はありえそうにない。なぜなら、「生まれて少なくとも1年間は、腕には毛のような羽毛で覆われており」ということから、この羽毛は、たとえ羽軸を持つとしても、ボア状のものであると推定されるからだ。次の図を参照。
《 羽毛の発達史 》( Wikipedia から。)
この図で言えば、「羽軸を持つが、ボア状のもの」として、4の段階がある。たぶん、それが事実であろう。
なのに、今回の論文では、一挙に6の段階にまで飛んでしまっている。しかし、「生まれて少なくとも1年間は、腕には毛のような羽毛で覆われて」いる状況から、一挙に6の段階に飛ぶことは、ありえそうにない。
論文は、
これにより非鳥類型恐竜は、現代の鳥類とは異なった翼の形成過程があることが明らかにされたなんて言ってゴマ化しているが、そんなゴマ化しの主張は、iPSの捏造論文並みの屁理屈だ。むしろ、「遺伝子的にありえない」というものを主張している、と見なす方がいい。
結局、この恐竜は、羽毛をもつし、その羽毛には羽軸があるけれども、その羽軸は原始的なものであるし、「立派な羽毛があった」と見なすこともできない。この羽毛はボア状のものであって、あくまで保温のためにあったと見なす方がいい。
なお、幼体のときは羽軸がなく、成体のときには羽軸があるのは、単に、体のサイズによるのだろう。幼体ならば、羽軸がなくても、ふんわりと体を覆える。しかし成体ならば、体が大きいので、羽軸がないと羽毛がぺたりとしてしまう。一方、羽軸があれば、ボア状の羽毛がふんわりと全身を覆える。それだけのことだろう。
具体的には、ダチョウの羽毛を想像するといい。
→ 画像1 ,画像2
これはかなり発達した羽毛だが、それでも、普通の鳥類の羽根とは違って、外から見ると、ふんわりと体を覆っているにすぎないとわかる。

この場合はもちろん、保温のためであろう。性的なディスプレイのためではない。
オルニトミムスの場合には、羽毛はさらに原始的で、ボアふうであったと推定される。
──
※
なお、(【 関連サイト 】で示した)原論文には、もっと詳しい説明があるが、特に改めて言及するほどのことはない。お暇な人は、読むといいかも。
※
また、ダチョウの羽毛の画像については、下記が参考になる。(前出。)
→ cf. ダチョウの羽毛の画像
※
「ボア」についてわかりにくいという人のためには、下記の図を示しておく。
→ ボア ストール (画像)
※ 以下は細かな話題。
[ 補足 ]
次の疑問があるかもしれない。
「なぜ羽軸のある羽毛は、前肢だけにあったのか? 保温のためだとしたら、前肢だけだというのは不合理であり、むしろ全身を覆うべきではないのか?」
この疑問はもっともだ。そこで、次のように答える。
「保温のためにあったのだから、それは前肢だけにあったのではない。もちろん、全身を覆っていたはずだ。ただし、化石としては、前肢にのみ、羽軸が残った」
そこで、次の疑問が生じる。
「化石としては、前肢にのみ羽軸が残ったとしたら、それはなぜか?」
これについては、次のように答える。
「前肢にのみ、羽軸が残ったのは、前肢でのみ、羽軸が太かったからだ。胴体部分での羽軸は、あるにはあったが、細かったので、化石としては消失した」
ではなぜ、前肢でのみ、羽軸が太かったのか? これについては、次のように答える。
「前肢はよく動く部分なので、羽軸が細いと、羽毛が擦り切れて、消えてしまう。だから前肢では、羽軸が太かった。一方、胴体部分では、羽軸が細くても、擦り切れることはないので、羽軸は細かった」
以上で、問題は解決する。そして、6億年以上を経たあとで、そのときの知的な生物が化石を見たあとで、
「胴体部分には羽毛がなかったが、前肢部分には羽毛があった」
と勘違いしたあげく、
「前肢部分の羽毛は、性的なアピールのためだ」
という珍説を主張するのだ。
( ※ 性的なアピールがあるとしたら、その生物は[単なる生物的な反応でなく]性的な魅力を感じるほど知性的だった、ということになる。つまり、爬虫類の脳を超えて、かなり発達した脳を持っていた、ということになる。それは「恐竜の脳はごく小さかった」という事実に反する。矛盾。/そもそも、そんなことぐらいで性的アピールが生じるとしたら、たいていの鳥には同様の性的アピールのある形質が備わっていたはずだ。しかし、そんなことはない。たいていの鳥は、オスもメスも同じ色だ。例外もあるが、それは性的アピールのためではない。目立つことによって、あえて捕食者の餌食になるためだ。 → 身代わり説 )
( ※ なお、論理的に言っても、「性的なアピールのために羽毛が生える」ということは、ありえない。「性的なアピールのため」だとしたら、「羽毛が生えたあとで、何らかの独自の形質を帯びる」というふうになるだけだ。たとえば、「オスの羽毛は青く着色され、メスの羽毛は赤く着色される」というふうな。……そういうことならば、ありえなくもない。しかしながら、「性的アピールを目的として羽軸が生える」というようなことは、まったくありえないことだ。それはいわば、「男性への性的アピールのために乳房が出現した」というのと同じぐらい、馬鹿げた珍説だ。論理が倒錯している。)


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