2012年10月20日

◆ 針葉樹林 < カエデ林 < 混合林

 スギやヒノキなどの針葉樹林よりも、カエデ林の方がいい、という見解がある。しかし、混合林の方がいい、と私は思う。 ── 
 
 スギやヒノキなどの針葉樹林よりも、カエデ林の方がいい、という見解がある。樹液からメープルシロップを取れるからだ。

  ・ スギやヒノキの伐採後にカエデを植える、という運動がある。
  ・ カエデは樹齢20〜300年まで毎年平均20リットルの樹液が取れる。
  ・ 一本の木が毎年8000円の利益を生み出す計算。
  ・ 秩父市でこの運動が始まった。(NPOなどによる。)
  ・ スギやヒノキは採算に乗らないが、カエデならOK。
  ・ 間伐されないスギ林・ヒノキ林は、荒廃して、土砂災害や
   花粉症をもたらす。その問題がなくなる。
  ( → 朝日新聞・夕刊 2012-10-20 [紙の新聞])


 うまいことずくめに見えるが、私はあまり賛成しない。なぜなら、混合林の方がいい、と思うからだ。

 ──

 一般に、人工林は単一種を植林するものだが、それには問題がともなる。「間伐」の問題だ。
 単一種を植林するなら、1メートル間隔ぐらいに密植したあとで、樹木が生長したあとで、中間の樹木を間引くことになる。しかし、その間引くこと(間伐)には、ものすごく手間がかかる。だから、実際には、間伐はなされないのが普通だ。そうなると、森林は荒廃する。密植された樹木が、いずれも痩せ細ってしまうからだ。(光や土地などの限られた栄養資源を、多くの樹木で分けあうから、どの樹木も十分な栄養資源を与えられなくなる。これが「森林の荒廃」だ。)
 だったら最初から密植しなければいい、と思えるだろうが、樹木というものは、初めのうちは密植しなければ、育たない。風にさらされて倒れてしまうことが多いからだ。
 というわけで、どうしても密植させて間伐するしかない、というふうになる。そのあげく、間伐されないまま、森林は荒廃する。

 ──

 この問題は、古くから知られてきた。では、どうすればいいか? 自然に学べばいい。自然状態の森林は、別に間伐などをしなくても、きちんと育つ。なぜか? 混合林だからだ。
 中学や高校の教科書で学んだはずだが、自然林は、
   陽樹 ⇒ 陽樹と陰樹 ⇒ 陰樹

 というふうに、だんだんと変化していく。次の図のように。
  → 解説図
  cf.  自然林の形成

 ──

 これにならって、次のようにすればいい。
  ・ 初めは、カエデの苗と低木を同時に植える。(混合林)
  ・ 最初は低木が目立つ。それらがゆっくりと育つ。
  ・ やがてカエデが低木の背を追い越す。
  ・ 時間がたつと、低木はすっかりカエデの下に隠れる。


 《 当初 》
         †  †  †  †      

 《 将来 》

       †  †  †  †   

 このようにすれば、いちいち人手をかけて間伐しなくとも、実質的に間伐をしたのと同じことになる。かくて、低コストで、森林を維持できる。

 なお、この方法がまずいとしたら、最初から自然林と同様にすればいい。つまり、「草地 → 陽樹 → 陰樹」という形で自然回帰させればいい。この場合にも、低コストで森林を維持できる。
( ※ ただし、森林の新陳代謝は大きくなくなるので、CO2 の吸収量はあまり見込めないが。)
 


 [ 付記1 ]
 日本の林業は、根源的に、産業としては成立しがたい。なぜか? 
 なるほど、日本の国土の8割は森林であるから、「日本は林業に適している」と思えるかもしれない。私が子供のころに習った教科書には、そんな趣旨のことが書いてあったと思う。
 しかしながら、日本の森林のほとんどは、山地にある。つまり、斜面にある。そこでは、伐採した樹木を運び出すのが、ものすごく大変なのだ。
 やるとしたら、「皆伐」という形で、山を丸裸にする形で、ごろごろと材木を転がすことになる。だが、それは「間伐」などとは別の、「自然林の破壊」みたいなものでしかない。前にも述べたように。
 たとえば、大雪山国立公園では、糠平湖付近で、トド松の森が消失していた。9ヘクタールの山肌が剥き出しになり、表土も剥がされ、石と砂利が散らばっていた。植物生態学の教授は「ひどすぎる」と憤り、環境省国立公園課の担当者は「これほどひどい皆伐は見たことがない」と驚いた。その近くでも 25ヘクタール以上の天然林が同様に乱伐されていた。
( → 天然林の消失
 結局、山地(斜面)だらけの日本では、林業は産業としては成立しがたい。平地に森林がある外国とは競争できないのだ。そもそも、人件費が馬鹿高いので、もともと競争力がない。

 だから、日本の森林は、「林業で利益を得よう」と思うよりは、「自然林のまま単に森林を保全しよう」と思う方がいい。
 そして、植林のためにかける金は、そのまま貯金でもしておけばいい。通常の景気状態ならば、実質金利が3%ぐらいはあるので、それは森林の収益である1%よりもはるかに高い。
 デフレの現在でも、金利はゼロ金利だが、円がどんどん高くなっているので、対ドルの金利は3%ぐらいはある。つまり、現金のままタンス預金しているだけで、利子が付くのと同様だ。
 一方、金を植林に投じると、林業の収益はマイナスなので、どんどん損をする。(木材の価格は毎年大幅に下落しているからだ。円高のせいで外材がどんどん安くなるせいだ。下図参照。)

木材価格の推移( → 林野庁

mokuzaikakakusuii.jpg

 [ 付記2 ] 
 木材価格が下落することには、根源的な理由がある。
 そもそも、紙とかベニヤとかに使うための木材は、細い安物の木材だから、売っても金にならない。金になるのは、建築用の太い木材だ。ヒノキの柱ならば、柱1本分で何万円かになる。
( ※ 壁裏に隠れる構造材ではなくて、室内から見える見映えのいいもの。)
  → Yahoo!知恵袋
  → 販売価格表
 
 ただ、最近では、構造材としての木材は、鉄骨に置き換わっている。プレハブ住宅は大半が鉄骨だ。こうなると、木材の需要が大幅に減ってしまうので、木材の価格は下落せざるを得ない。
 昔の住宅は、大半が木造住宅だったが、今では鉄骨住宅が主流だ。こういう時代の流れゆえに、木材の必要性は薄れている。特に、上質な針葉樹については。
 というわけで、時代の変化ゆえに、林業は産業としては成立しにくくなっているのだ。となれば、日本では、「森林で儲けよう」とは思わず、「森林で環境を保全しよう」とだけ思っていればいいのだ。そして、環境保全のためには、保水力の低い針葉樹林よりは、保水力の高い広葉樹林の方が好ましいのである。
  
 [ 付記3 ]
 カエデは広葉樹だが、好ましいか? 甘い樹液を出すとなると、熊や鹿がいっぱい増えて幹を削ってしまいそうな気もする。そのうち「カエデ林に獣害」という見出しが出るかもしれない。そんな気がする。
 あまり「森林で金儲けをしよう」とは思わない方がいいだろう。
 一般的には、その地で古来からある樹木が最適であることが多い。日本では、ナラやシイやブナなどがそうだ。
 関連情報として、下記のページがある。
  → 照葉樹林文化とナラ林文化
 


 【 関連項目 】

 → 天然林の消失 【 重要 】
 → 杉林の転換(列状伐採)
 → 開墾による森林消失
posted by 管理人 at 20:04| Comment(6) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
賛成。とにかく斜面だらけの日本の森林は手間がかかりすぎて産業としてはほとんど成立しません。で、少しでも間伐の経済性を上げようとしてバイオマスエネルギー利用やらに補助が出たりしてますが所詮焼け石に水。大変な労力をかけて山から下ろしてもそれに見合う利用価値がないのだから、効率はむしろ悪化します。
国産メープルシロップも最初は珍しがられるかもしれませんが何十年もカナダ産に太刀打ちできるとは思えませんしね。

やはり、ごく一部の銘木産地とか、備長炭のウバメガシ林のような価値の高いものを除き、国内の森林は保全目的と割り切って自然に戻していくべきでしょう。混合植林も悪くないですが、うまくやるのはなかなか難しい。原則として帯状に(いっぺんにやると土砂崩れを起こすので)皆伐し、草地に戻して自然の植生回復に委ねる「天然更新」の方がはるかに効率的だし、長期的にみて強い森林を作れると思います。
Posted by 深海誠 at 2012年10月20日 22:07
日本の国土の7割が山地なので、それを生産目的に使えないだろうかと発想するのは、ごく自然でしょう。しかし、在来種を使った森林経営は、世界中で実験しつくされているはずですから、今更何か上手い手が見つかるとは思えない。

新種を開発するしかないでしょうね。成長が速いとか、商品価値が高いとか、収穫が容易とか。

南堂さんおすすめの「銃・病原菌・鉄」には、古代の人々がいかにして、野生種から栽培種を創りだしたかが書いてありましたが、今の遺伝子操作技術なら、直接的に、新しい作物ぐらい作れるんじゃないかと思います。たとえば、間伐や枝打ちのいらない杉とか。

「花粉の飛ばない杉」も開発されているのですし。
Posted by 井上晃宏 at 2012年10月21日 13:21
別に新種を開発しなくても、本項で述べた混合林の方式で大丈夫。

新規にうまい手を見つけなくても、既存のうまい手を使えば、それでうまく行くことは多い。現実には、無知な人々が多いだけで。

というか効率も何も考えず、単に目先の売上げだけを狙って、皆伐というひどい環境破壊もやっている。日本には森林経営も森林保全もない。あるのは林野庁が自分たちの給料を得るための売上げを稼ぐことだけ。一種の収奪農業。
Posted by 管理人 at 2012年10月21日 13:47
多くの種類の苗木を混植・密植させ、その土地本来の植生を回復させようとがんばっているのが宮脇昭先生ですね。
杉が大量に花粉を撒き散らすのは、もともともっと寒い場所に育つ針葉樹を暖かい場所に植えたために、子孫を残そうとしているのだと聞いたことがあります。皆伐して宮脇方式、強度間伐して陽樹→陰樹が育つのを待つなど、人によって意見はあるようですが、いずれにせよ、その土地にあった植生に戻していくべきだと思います。
Posted by のび18 at 2012年10月21日 17:22
> 新種を開発するしかないでしょうね。成長が速いとか、商品価値が高いとか、収穫が容易とか。

 の件ですが、「商品価値が高い」という点なら、すでに果樹があります。ももやリンゴなら、十分に採算に乗ります。
 ただし斜面では効率が悪く、平地の果樹には負ける。実は、日本には農地は(農作放棄地として)たっぷりと余っているんだから、農業をやるなら平地でやる方が利口だ。
 斜面で金儲けというのは、どう考えたって成立しない。人件費の高い先進国ではね。
(ただし途上国ならば何とかなる。……昔の日本はそうだった。)
Posted by 管理人 at 2012年10月21日 17:50
間伐の方法として、運び出さず切った樹をそのまま転がしておくという方法があります。間伐材を運び出す手間を省略しそのまま現地で朽ちさせます。鹿や熊の移動を防ぐ効果もあります。

だいたい間伐材の利用とか利用価値の高い樹種を植樹とか、日本の山地で利益を得ようというのが間違っている。間伐して、そのまま自然林に帰せばよいのです。

>井上さん
>成長が速いとか、商品価値が高いとか、収穫が容易

それが実はスギなのですね。日本の固有種スギは枝打ちさえすればどこまでも真っ直ぐ伸び成長は早く大きくなり長生き、葉は芳香を放ち樹皮は柔らかく清潔感があります。おまけにひこばえしないので植生をコントロールできます。

こんなにいい樹なのでアゾレス諸島などにも持ち込まれて植えられています。スギが悪いのは、スギのせいじゃないんですよね。
Posted by tubird at 2012年10月23日 04:14
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