2012年10月16日

◆ 2012年ノーベル経済学賞:マッチング理論

 2012年ノーベル経済学賞は、マッチング理論の業績を上げた二人に与えられた。これはどのような業績か? (実は、経済学よりも、数学に近い。) ──
 
 この件は、「マッチング理論」や「マーケットデザイン」という用語で説明される。
 まずは引用しよう。
 伝統的な経済学では市場の「見えざる手」により需要と供給が最適化するとされるが、実際には市場原理だけでは経済的な現象を説明できない場合がある。そこで、比較的少数の経済主体間の戦略的な駆け引きをモデル化する経済学の「ゲーム理論」を取り入れるなどして、現実の世界に存在する多様な要素を加味したのが「マーケットデザイン」。
( → 日経

 2人はゲーム理論を使い、臓器提供者と患者や、学生と学校などの組み合わせを理論的に解析できるようにする「マーケットデザイン」を確立した功績が評価された。シャプリー氏が1960年代に理論を構築し、ロス氏が80年代に発展させ、具体化した。市場が存在しなかったり、市場がうまく機能していなかったりして、需要と供給の双方に不利益が生じている状態から、その組み合わせをいかに改善させ、効率的にするかを研究した。
( → 朝日新聞

 現代社会では、人によって好みや経済力、学力などが異なる一方、サービスを提供する企業や学校、病院などの側も専門性が細分化されている。シャプリー氏は、どのような制度設計をすれば、さまざまな特性を持つ参加者を効率的に引き合わせることができるかを、理論経済学を用いてモデル化。その後ロス氏が実際の制度設計や実証研究などを通じて理論を具体化した。
( → 毎日新聞

 2人は、例えば地域での学区の設定方法や、臓器の提供者をどのように移植が必要な患者と合致させるかといった「市場がない」あるいは「市場が正常に機能しない」状況を、制度設計を通じて解決する理論を構築。需要側と供給側の双方に利益をもたらす「市場デザイン」について個別に研究した業績が評価された。
( → 読売新聞

 「様々な志望校の中からそれぞれ自分が望むところを選ぶわけですが、
 それを可能な限り希望通りに進ませたいような時」
 などはこのマッチング理論が使えます。
( → 個人ブログ

 シャープレーのゲーム理論への貢献は、マッチングの分野にまで及んでいる。彼はデイヴィッド・ゲールと共に安定マッチングを導くためのゲール=シャープレー・アルゴリズムを定式化した。このアルゴリズムは社会的な要請を解決するメカニズムとして様々な問題に応用されている。例えば学校選択制において学校を割り振るのにニューヨーク市やボストン市などの自治体で用いられている。また医師の臨床研修制度においても研修医と病院をマッチングするためにアメリカなどで用いられており、日本でも2004年から新しい臨床研修制度を導入する際にゲール=シャープレー・アルゴリズムが取り入れられた。
( → Wikipedia
 ── 

 さて。以上のような解説があるが、よくわからないと思う。そこで私なりに解説しよう。

 「ゲーム理論」という言葉が使われているが、この概念はあまり関係ない。発想するときには利用したかもしれないが、本質的にはゲーム理論とは似ても似つかぬものだ。とりあえずは、「ゲーム理論」という言葉を忘れた方がいい。
 
 本質的に言えば、次の項目が参考となる。
  → 安定結婚問題 - Wikipedia
 男(1,2,3,4)の集合と、女の集合(a,b,c,d)があって、ペアを作るときに、それぞれの希望を生かした最適の組み合わせはどうすれば得られるか、という問題だ。

 ここでは、結婚の問題というので、ちょっとリアリティがない。そこで、次のように考えるといい。
 「自分では『好きだ』と言えない小学生たちのクラスで、それぞれ好きなもの同士がくっつくように、先生が決めて上げる。各人の希望をうまくすりあわせて、最適の組み合わせを決めて上げる」
 ここで、最適の組み合わせはどうやって得られるか……というのを考えたのが、ロイド・シャプリーだ。
 安定結婚問題の解は安定なマッチングである。安定結婚問題の例題に対し、互いに現在組んでいる相手よりも好きであるペア(以下ブロッキングペアとする)が存在しないマッチングを安定なマッチングという。
 下図に安定結婚問題の例題とその例題の解となる安定なマッチング、および、安定でないマッチングを示す。
( → 安定結婚問題 - Wikipedia


 以上によって、マッチング理論というものがどういうものか、だいたいわかるだろう。

 ※ 図の詳しい解説は、本項末の 【 追記 】 を参照。
 
 ──

 ここで、私なりに解決しよう。
 このことがなぜノーベル経済学賞になるか? これが経済学の「市場原理」つまり「ワルラス的な調整過程」と同類の理論であるからだ。
 市場原理では、
 「同等の商品が価格調整で市場競争にさらされる」
 というふうに考える。たとえば、鉄とか、小麦とか、木綿とか。誰が作っても同じようなものが、市場原理のもとで「低コストで作った製造者がシェアを得る」という形で、競争にさらされる。(……「多数 対 多数」の関係になる。売り手と買い手が。)

 逆に、趣味性の高いものは、市場は小さいが、独自の市場を形成するので、高額で販売することが可能だ。たとえば、下記。
  ・ デザイナーズブランドのプレタポルテ
  ・ フェラーリやポルシェなどの高級車
 これらの場合は、競争者が少ない(市場を共有しない)ので、独自のニッチな市場で(少数のファン向けに)独占的な地位を得ることができる。そうなると、「価格競争」という市場原理にはさらされない。だから高い利益を得ることができる。(……「少数 対 少数」の関係になる。売り手と買い手が。)
 この傾向をさらに強めると、「1対1の関係」になる。たとえば、結婚がそうだ。(男と女が「1対1の関係」になる。)

 ただし、その「1対1の関係」としては、さまざまな組み合わせが考えられる。では、そのうちのどれが最適か、という問題が生じる。
 市場原理を使うならば、「市場に任せて価格調整」という方法でカタが付いた。しかし「1対1の関係」では、「市場に任せて価格調整」という方法は使えない。つまり、市場に委ねることはできない。
 では、どうすればいいか? 市場を超越した管理者が、最適の組み合わせを決めればいい。そこで、そのための方法を考えたのが、今回の二人だ。
  
 ──

 マッチング理論の成果からすると、次のような結論が得られる。
  ・ 男性がプロポーズすると、男性たちにとって最適な組み合わせが得られる。
  ・ 女性がプロポーズすると、女性たちにとって最適な組み合わせが得られる。


 このことから、私なりに結論を下せば、次のように言えるだろう。
 「さっさとプロポーズした男性が、自分にとって得られる範囲内で最もランクの高い女性を得ることができる」
 「ぐずぐずしてプロポーズしない男性は、女性からプロポーズされるのを待つしかないが、その場合には、自分にとって得られる範囲内でもランクの低い女性しか得られない」(ランクの高い女性は、さっさとプロポーズした男性に奪われてしまって、残り物しかないため。)
 「自分からはプロポーズせず、女性からもプロポーズしない男性は、組み合わせからあぶれてしまう」
 「あぶれてしまった男性や女性のためには、管理者としての『世話焼きおばさん』が登場して、お見合いをさせてくれる」
 「『世話焼きおばさん』がいなくなると、あぶれてしまった男性や女性は、結婚できなくなり、独身のまま年老いてしまう」


 おもしろいですね。 (^^);

 ──

 最後に重要なことを述べておこう。
 マッチング理論は、市場原理では扱えないようなことを、扱うことができる。そこで、次のように思うかもしれない。
 「マッチング理論は、市場原理の拡張だ」
 しかし、そうではない。マッチング理論は、市場原理の拡張ではなくて、市場原理の否定なのである。
 市場原理は決して万能ではない。市場原理が成立するのは、「価格調整が有効である」という場合に限られる。男女の組み合わせで言うなら、「女性を金で買う」というような場合に限られる。そして、価格調整が有効でない場合には、市場原理とは別の原理が必要だ、と示しているのだ。特に、「神の見えざる手」なんていう自由放任ではダメであり、「最適な組み合わせを選ぶ管理者」というものが必要だ、とも示している。
 そして、その管理者のために、具体的な手法も提供されているが、それは、その場合ごとに、今回の理論を使っていろいろと考えるといいだろう。

 普通の人が理解すべきことは、「市場原理ではうまく行かない場合もあるのだ」ということだ。特に、「1対1の組み合わせ」を考える結婚( or 恋人関係)を築くときには、最適の組み合わせを築く手法が必要となる、と理解するといい。
 そして、そのことが、「病院と研修医の組み合わせ」やら、「高校と受験生の組み合わせ」やらに、応用できるのである。

 ──
 
 オマケとして、成功例を示そう。次の記事がある。
 ロス氏は、ニューヨーク市の公立学校が使う学校選択制度の改革に寄与した。同アカデミーによれば、ロス氏が考案したアルゴリズムによって、自分が全く希望しない学校に割り当てられた生徒数は90%減少したという。
( → ウォール・ストリート・ジャーナル
 これは立派な効果だ。
 これにならえば、次のことも可能なはずだ。
 「受験において最適なマッチングをする。誰もがどこかの大学に入学できるようにする。『高望みをしすぎたせいで浪人する』というような無駄がなくなる。『浪人するのを恐れて、不適切に低い学校に進む』というような無駄もなくなる」
 これは高校進学で役立つだろう。実際、そうしたのが、上記の例(ニューヨーク市の公立学校が使う学校選択制度)であろう。



 [ 付記 ]
 一見すると、社会主義的な「国家統制経済」を是認しているように見えるが、そうではない。普通の経済は、価格調整で済むのだから、市場原理で済む。
 また、社会主義的な「国家統制経済」は、「1対1の組み合わせの最適化」を考えているわけではない。単に「勝手な統制」をしているだけだ。結果的には、「最適」どころか「最悪」にちかい関係を構築することになる。

 似たものとしては、統一教会の集団結婚がある。あれも、上からの統制による「1対1の組み合わせ」だが、そこには「最適化」という概念はない。単に勝手に組み合わせているだけだ。
 で、それで大当たりした男性は、桜田淳子とか山崎浩子みたいな美人と、うまく結婚できる。一方、はずれた男性は……たとえば、下記かな。
  → 画像1画像2 (閲覧注意。見ると、うなされます。)
  


 【 追記 】
 具体的な手順を示す記事があったので、一部転載する。
■ 最も良い結婚相手を決めるには
 まず第1ラウンドで、男性全員が自分が最も妻にしたいと思う女性にプロポーズする。複数の男性からプロポーズを受けた女性は、そのうち1人の男性のプロポーズを受け入れる。1人の男性からだけプロポーズされた女性もそのプロポーズを受け入れる。誰からもプロポーズされなかった女性は次のラウンドを待つ。
 次に第1希望の女性にプロポーズを断られた男性たちが第2ラウンドへ進み、第2希望の女性にプロポーズする。第1ラウンドですでに他の男性のプロポーズを受け入れている女性も、独身として第2希望の女性に含めることができる。
 こうして男性たちの希望リストが最後の女性に至るまで、この手順を繰り返す。途中、女性のほうは前のラウンドでプロポーズを受け入れていても、次のラウンドでプロポーズしてきた男性のほうが自分にとって好ましければ、前の婚約を解消できる。最終的に全員がパートナーを獲得する。
( → AFPBB ニュース
 より詳しくは、リンク先を参照。

 ※ この話からわかるように、マッチング理論は、経済学
   よりも、数学の「順列・組み合わせ」の理論に近い。
 


 【 関連サイト 】
 
 さらに詳しい情報を知りたい人向けに、次のサイトを示す。いずれもかなり詳しい。

 (1) 概説
  → 『ゲーム理論』とマーケットデザイン

 (2) 学校の受験の事例
  → 学校選択制の 理論分析と政策提言 [PDF]

 (3) 研修医の事例
  → 研修医の「地域偏在」と マッチング理論 [PDF]
 




 マッチング理論の書籍。

posted by 管理人 at 19:21| Comment(3) | 科学トピック | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最後に 【 追記 】 を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2012年10月17日 17:07
最後に 【 関連サイト 】 を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2012年10月18日 06:05
マッチング理論が社会に受け入れられている、という概説。
 → http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20121016/238121/
Posted by 管理人 at 2012年10月19日 13:02
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