2012年10月09日

◆ iPS細胞はトンデモだった

 iPS細胞の件で、ノーベル賞が与えられた。この iPS細胞という研究は、それまでの常識を覆すものである。それゆえ、発表された時点ではトンデモであった。 ──

 iPS細胞は、ノーベル賞が与えられたことで、正規の科学としての位置は揺るぎないものとなった。
 しかしながら、この iPS細胞という研究は、研究開発の当初の時点では、それまでの常識を覆すものであった。その意味では、いわゆるトンデモだったと言える。
 ES細胞で強く働いている遺伝子を100個ほど選び出した。実験で遺伝子の働きを調べ、世界で発表された重要そうな遺伝子も加え計24個に絞り込んだ。その遺伝子を一つずつ入れて試した。この時、高橋さんが「(遺伝子を導入するための試薬が)余ってもったいない」と24個すべてをある実験皿に入れた。するとこの皿にだけ万能細胞ができた。
 「実を言うと、24個の中に正解がある確信はなかった。宝くじに当たったようなもの」と山中さんは振り返る。実験を10回ほど繰り返し、間違いないと確信した。
 さらに作業を続ける。高橋さんのアイデアで、1個除いた23個ずつを細胞に入れた。万能細胞ができなければ、除いた1個が必要な遺伝子だ。ついに4個の遺伝子のセット「山中因子」にたどり着いた。
 06年、米科学誌に論文を発表。世界の研究者は驚いたが、親しいと思っていた研究者からも、うそつき呼ばわりされた。
( → 朝日新聞・有料版 2012-10-09
 要するに、「嘘つき呼ばわり」されて、「トンデモ扱い」されたわけだ。世界の最先端の専門家たちから「ありえない」と批判されたのだから、まさしくトンデモである。
 
 それでも、結果的には、この研究はノーベル賞を取った。では、トンデモ扱いされるような研究が、どうして認められたのか? それは、トンデモふうの発想を許容する人がいたからだ。
 研究費の申請も、あまりにとっぴな提案だったために却下されかかった。しかし、審査に当たった岸本忠三・元大阪大総長が「若い研究者の迫力」に感心して予算をつけた。
 その結果、一人の若者のアイデアが世界を一変させた。まさに科学のだいご味だろう。
 さまざまな個性を生かす場所があり、常識はずれの提案でも見どころがあれば評価してチャンスを与える。そんな懐の深い人と場所があってこそ、独創的な発見も生まれる。
( → 朝日・社説 2012-10-09
 普通の人ならば「トンデモだ」と却下するところだが、審査者が広い心の持主だったから、一見トンデモに見えたものの可能性に賭けた。「成果の確実さ」ではなく、「確実ではなくても巨大な可能性のあるもの」に賭けた。それだからこそ、巨大な可能性が開花したのだ。最初から巨大な可能性をめざさなければ、巨大な可能性が開花することもなかった。

 だから、換言すれば、こう言える。
 「 iPS細胞がノーベル賞の受賞に結びついた。それは、『トンデモだったのにもかかわらず受賞した』のではなく、『トンデモだったからこそ受賞した』のである」


 画期的な業績というものは、その時点では常識を逸脱しているがゆえに、その時点では「トンデモ」と見えるものだ。

( ※ ただし、物事の真偽を判定できない無知な人々が、「専門家が否定したからトンデモだ!」というふうに否定的な見解を述べる。そのことで、「いじめるのは楽しいな」と思いながら、「自分は利口だ」と思いたがるのである。……かくて、世の中には、トンデモマニアという精神を病んだ人々がはびこることになる。憎まれっ子、世にはばかる。)



 [ 付記1 ]
 科学常識に完全に反するような、ただの素人考えというものもある。たとえば、ホメオパシー。これについて「トンデモだ」と言うのならば、妥当だろう。
 一方、科学の最前線では、真偽が決着していない事柄も多い。ES細胞のような「細胞の初期化」という問題もそうだ。こういうふうな科学の最前線では、常識が定まっていないがゆえに、既存の常識が根底からひっくり返されることは、しばしばある。
 にもかかわらず、既存の(未定着な)常識を、絶対的な真実のごとく崇拝して、新たな画期的な見解が出るたびに、「専門家の意見に反するからトンデモだ!」と批判する連中が出てくる。それがトンデモマニアだ。
 こういう連中は、「科学の最前線とは何か」ということを、まったく理解できない半可通だ。それゆえ、次のことが成立する。
 「トンデモマニアは、トンデモである」

 つまり、「トンデモ、トンデモ」と騒ぐ連中こそ、まさしく無知なトンデモなのである。
 ただし、こういうトンデモは、山中教授とは違って、iPS細胞のような業績を生むことはない。なぜなら、彼らの能力は、悪口を言うことだけだからだ。

 [ 付記2 ]
 「そういうおまえはどうなんだ? トンデモマニアの悪口を言っているだけじゃないか?」
 と思うかもしれないが、そうじゃない。本項の目的は、「トンデモと呼ばれることを恐れずに未知の分野を開拓せよ」ということだ。つまり、「山中さんにならって、トンデモになれ」と勇気づけることだ。
 つまり、若い人々への鼓舞。それが、本項の目的だ。誰かをいじめることが目的ではなく、誰かを元気づけることが目的だ。



 【 関連サイト 】

 iPS細胞は、ノーベル賞に至ったが、国の支援はまだまだ足りない。
 実用化を目指す研究は欧米の方が先行している。山中教授は、「欧米は研究資金も人材もはるかに潤沢」と、繰り返し警鐘を鳴らしている。
 欧米では、大手製薬企業が巨費を投じて研究を進めている。研究者の層も厚い。
 これに対し日本では、iPS細胞に限らず、新薬、新治療法の研究体制で後れを取っている。
( → 読売・社説 2012-10-09
 ただ、今回のノーベル賞の受賞を機に、国も重い腰を上げることになりそうだ。
  → 田中文科相、iPS研視察=「予算頑張りたい」
 それでも、現状は、まだまだ不十分である。
  → 山中教授、独創的“集金術”!マラソンで資金稼ぎも
  → 山中教授の寄付マラソン
 マラソンしても、千万円を超える程度。数億〜数十億を潤沢に投入する米国には大差で負けている。
 


 【 関連項目 】 

  → 最大のトンデモ経済学者(下村治)
   ※ 経済学で画期的な業績を上げた学者も、トンデモ扱いされた。
posted by 管理人 at 19:33| Comment(7) | 科学トピック | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは

今回のノーベル賞受賞は大変に目出度い出来事です.
山中教授の偉業,その礎となった方々の努力に最大の敬意を表します.

でも
山中教授が使用した科研費総額.結果的に無駄になった総経費と時間などを公表したら……どうなるでしょうね.
「事業仕分け」を支持した国民の皆様方の反応が見たいですね.報道機関は最先端研究のコスト.ノーベル賞獲得のコストを調べないのかしら.さらには,その研究がもたらすベネフィットも検討しないのかしら,特に物理学賞や文学賞に於いて

かくいう私も自分以外の方が供出した資金で医学博士になりましたので,「科学に於ける一見無駄な出費,実は無駄な出費」は嫌いではないです.
Posted by 耳鼻科医 at 2012年10月09日 21:06
東京オリンピックの招致費用は 150億円だったそうです。結果的にはすべて無駄に消えてしまいました。
 iPS細胞の研究費用は、「2009年度には145億円」とのことだが、ちゃんと生きた金です。成果はどんどん上がっています。ただし、金は全然不足していて、山中さんがマラソンで募金を集めたりしています。
Posted by 管理人 at 2012年10月09日 21:36
おはようございます.

山中教授は,確かにノーベル賞を獲得しましたが,研究途中ではそんなことはわからなかった,無駄になるかもしれないという可能性もあった訳で……そのような時点で研究費用を出すという文化・風土,さらには余裕が日本にあるかしら.「事業仕分け」を公約とした政党があれだけの支持をあつめた国ですし,国立大学もすべて独立法人化しましたのでねぇ.

もちろんこれからは,山中教授に対しては,状況が変化するでしょうけれど,それが次のノーベル賞獲得に繋がるかは,現時点では不明ですよね.
Posted by 耳鼻科医 at 2012年10月10日 06:06
ノーベル賞の効果で国が金を出す。以下、ニュース。
 ──
 文部科学省は、山中伸弥教授が率いる研究所を中心に、今後10年間、約300億円を助成する方針を固めました。iPS細胞の研究を巡っては、国はこれまでに2008年度から5年間で約100億円を助成していました。助成の上限が原則的に5年間の科学研究の分野では異例の措置
 → http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20121010-00000013-ann-soci
Posted by 管理人 at 2012年10月11日 07:00
ノーベル賞の二人は落ちこぼれだった、という記事。
 ──
 山中所長も自身の研究者人生を「失敗ばかり重なり20年余りの間ずっと泣きたくなる挫折の連続」だったと自評した。神戸大学医学部を卒業して国立大阪病院の整形外科の研修医だった時は手術がうまくできず先輩たちから「ジャマナカ」と呼ばれた。実際に10分ほどで終わる簡単な良性腫瘍摘出手術に1時間を超えることが常だった。
http://japanese.joins.com/article/997/160997.html


 ガードン教授は一般人の見方では異常な知能を持つ子どもだった。8歳の時に知能指数(IQ)検査でひどく低い点数が出てきた。ガードン教授は、「オレンジを描けとの問題に丸い果物を描いた他の人たちと違い、幹にぶらさがった姿を描いた。そんなことが問題になった」と話した。
イートンスクールに進学しても科学遅進児だった。16歳の時の生物科目の成績表は250人中250位だった。
http://japanese.joins.com/article/996/160996.html
Posted by 管理人 at 2012年10月11日 07:21
こんばんは

>イートンスクールに進学しても
このような学校に行った人に「成績は最下位だった」といわれましても………
私には謙遜を通り越した嫌味にしか聞こえませぬが……
Posted by 耳鼻科医 at 2012年10月11日 17:47
トップクラスのエリート校だとしても、最下位層というのは、けっこうつらいものですよ。ちょっと浮いた感じになる。
 だから、嫌みということにはなりません。
 ま、普通の人よりは、ずっと上でしょうから、普通の人からは嫌みに聞こえるかもしれませんが、研究者の仲間で話しあえば、「へえ」と驚かれるでしょう。私も驚きました。
Posted by 管理人 at 2012年10月11日 19:22
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