2012年10月08日

◆ 「ウイルスで誤認逮捕」の本質

 「掲示板に爆破予告した」という理由で逮捕したのは、ウイルスゆえの誤認逮捕だった、という事件が話題になっている。その本質は? 保釈だ。 ──
  
 「掲示板に爆破予告した」という理由で逮捕したのは、ウイルスゆえの誤認逮捕だった、という事件があった。
  → PC乗っ取り犯罪予告か 所有者誤認逮捕の可能性(読売新聞)
  → 大阪市に殺人予告、第三者の疑い :時事ドットコム
  → 「大人数を動員して大騒ぎ…立件するしかない空気に」- 産経
  → 釈放の2人 同じソフトをダウンロード NHKニュース
  → 伊勢神宮爆破書き込み 大阪の殺人予告メール :東京新聞
  
 これについて、ネット上では議論が沸騰している。
  → はてなブックマーク - HP書き込みで起訴の男性を釈放 NHKニュース
  → モトケン氏の会話 (高木浩光)

 ──

 いくらか情報を追加すると、次のことがある。
 (1) 仮に有罪だったとしても、判例では、懲役二年・執行猶予四年であり、実刑にはならない。
 (2) 8月26日に逮捕、9月21日に釈放(読売新聞)だから、27日間も勾留していたことになる。無実の人に対して、これはひどすぎる。
 (3) そもそも勾留する必要はなかった。なぜなら肝心のパソコンは押収されており、証拠湮滅の恐れがなかったからだ。
 
 ──

 私の見解は、以下の通り。
  ・ 事件の詳細が判明していない時点では、逮捕と押収は仕方ない。
  ・ 本人が犯行を全面否定した時点で、犯罪事実を疑うべき。
  ・ 無実の人を 27日間も勾留するべきではない。
  ・ 勾留は3日程度が限度。その後は保釈すべき。


 つまり、「保釈」だ。
 今回、この措置が取られていれば、特に問題は生じなかったはずだ。なのに、「保釈」がなされなかったことが、今回の問題の本質だと言える。

 痴漢冤罪でもそうだが、無実の人が「疑い」だけでやたらと勾留されるのは、日本の悪いところだ。無実の人が官権の思惑だけで逮捕・勾留されるなんて、まるで途上国みたいだ。
 アメリカならば、こういうことはない。はるかに重罪でさえ、保釈金を積むことで、釈放される。
 そこまでやれとは言わないが、今回のような軽い犯罪(仮に有罪でも実刑なし)ならば、保釈をするべきだった。
 仮に、保釈したあとで、逃げてしまったら、その方がはるかに重罪となるのだから、逃げるはずがない。(逃げなくても実刑なしなのに、逃げてしまったら重罪で実刑を食らう。そんな馬鹿なことをする人はいない。そもそも定職のある人は、逃げることは不可能だ。)

 ──

 さて。警察が完璧であることは、もともとありえない。だから、「警察は完璧ではなかった」とか、「警察は間違っていた」とか非難しても、それは妥当ではない。
 大切なのは、「警察が間違っていた場合に、無実の被疑者に被害が生じないようにする」ということだ。それが「保釈」という制度だ。
 この制度がまともに機能していないというところに、日本の司法制度の問題がある。
 つまり、問題は、警察にあるのではなく、裁判所を含む司法制度にあるのだ。これは根源的かつ重大な問題である。
( ※ あなただって、無実の罪を疑われて、長期にわたって勾留されるかもしれない。潔白なのに実質的に長期の禁固。ひどいね。……例。無実なのに5カ月半も収監された、厚労省の女性局長。)
 


 [ 付記 ]
 事件は7月29日なのに、逮捕は8月26日であり、1カ月ほどもたっている。証拠湮滅の恐れがあれば、とっくに済んでいるはずだ。とすれば、もともと逮捕の必要がなかった。
 最初から任意出頭だけに済ませておくべきだったろう。そうしなかったのは、「証拠湮滅を恐れてのこと」ではなくて、「勾留によって実質的に禁固状態にする」ということを狙ってのことだろう。
 司法制度をないがしろにしている。民主的な裁判制度が機能していない。裁判なしの一方的な判決がなされているのと同じだ。
( ※ 上の厚労省の女性局長の事件では、無罪の確定後に、国は賠償金として 3770万円を支払った。仮に保釈をしていれば、この賠償金は支払わずに済んだはずだ。すごい無駄。)



 【 関連サイト 】
  → Wikipedia 「保釈」
 被告人を拘束し続けることは、社会復帰を阻害することになりかねないという欠点がある。後に無罪判決を受けた場合はもちろん、執行猶予判決の場合であっても、判決前に長期欠勤を理由に解雇されてしまうという例は珍しくないからである。保釈制度の趣旨は、被告人の出頭確保などによる刑事司法の確実な執行と、被告人の社会生活の維持との調整を図ることにある。

  


 【 追記 】
 事件の再発を防ぐには? 簡単だ。「悪いことをしたら罰される」という原則を適用すればいい。次のように。
 「無実の人を長期勾留した場合には、担当の検事および組織のトップを処分する」
 たとえば、今回の事件では、実際に保釈しなかった検事と、検察組織のトップを、ともに減給処分にする。(例。減給1割を半年間。)場合によっては、降格もあり。特に、組織のトップは、自発的に辞職するべきだろう。
 今回の例では、このような処分が最も妥当だと思える。
 
 ──
 
 そもそも、裁判もなされないうちに、勝手に検察が「禁固処分にする」(厚労省の女性局長の場合は禁固半年間も!)なんて、検察による私刑(リンチ)も同然だ。これは、換言すれば、公権力による「いじめ」である。
 公権力が、国民を守るどころか、国民に「いじめ」をするんだから、日本はあまりにもひどすぎる。民主主義が機能していない。中国みたいな非民主主義の独裁国家に似ている。
 こういう問題を排除するには、民主主義を否定する違法な組織(つまり検察)を、そのたびごとに処分するべきだ。すぐ上に述べたように、組織の長は自発的に辞職するように、世間が圧力を掛けるべきだ。「いじめの責任を取れ!と。
 もし辞職しないなら、訴追してもいい。罪名は「公権力乱用罪」だ。今回の被害者も、検察のトップをこの罪名で告訴してもいいだろう。
特別公務員職権濫用罪(刑法194条)
裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者がその職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁したときは、6か月以上10年以下の懲役又は禁錮に処せられる。
( → Wikipedia
 ──
  
 ただ、本質的に言えば、検察よりは裁判所が悪い。裁判所が「保釈」の決定をしないからだ。
 となると、「保釈」の要件を緩和するように、法改正するのが妥当かも。その場合は、国会議員の責任となる。
 とはいえ、条文を素直に読めば、保釈はあって当然なのだから、やはり裁判官が狂っているんですよね。狂った裁判官にもわかるように、わかりやすい条文を書くには、どうすればいいか? 気違いにのみ理解できるような条文にすればいいか? (^^);



  【 補説 】
 《 以下は細かな法律論議です。興味のある人のみ、お読みください。 》


 本サイトについて「トンデモだ」と批判する見解があり、それについて検証しているサイトもあった。
  → 保釈は起訴後にしかできない
 言っていることはわかるが、見失っている点があるので、説明しよう。

 上記記事の指摘した事実は、次のことだ。
 「保釈は起訴後にしかできない。起訴は勾留期間の 10日+10日 のあとだから、20日間は保釈できないことになる」
 
 しかしこれは、前提となる勾留期間について誤認している。Wikipedia から引用しよう。
 嫌疑及び勾留の理由がある場合でも、被疑者を勾留することにより得られる利益とこれにより生ずる不利益とを比較して、権衡を失するときは、被疑者を勾留することは許されない。このような意味において被疑者の拘禁を相当と評価すべき実質的な理由である(刑事訴訟法87条1項参照)。
( → Wikipedia
 ここで、「勾留の理由」については、直前に次の各項を示している。
  ・ 住居不定
  ・ 罪証隠滅のおそれ
  ・ 逃亡のおそれ

 また、「犯罪の嫌疑」については、次のように示されている。
 被疑者の勾留の要件としての犯罪の嫌疑は、逮捕状による逮捕の要件としての嫌疑(同法199条1項本文)よりも高度な嫌疑が必要である。
 つまり、逮捕の要件としての嫌疑があるだけでは足りず、「勾留の理由」(罪証隠滅のおそれなど)が特になければ、この時点で釈放しなくてはならない。
 これは、警察・検察および裁判所のすべてに当てはまることだ。

 だから、「起訴前」であれば、三日間を過ぎたら、「勾留の理由がなくなったこと」を理由に、勾留停止にするのが妥当だ。少なくとも十日後には、勾留停止にするべきだ。そうするべきだと法律に書いてある。
 したがって、四日目(遅くとも11日目)以後は、「保釈」ではなく、「勾留停止」の形で、保釈金なしで釈放するのが妥当であろう。その後は警察がいくらでも自分で勝手に調査すればいいし、検察がすぐに起訴してもいい。
 今回の事例では、IPアドレスが同一だったということ以外には、何の証拠もなかった。とすれば、「証拠不十分」という理由で、さっさと「勾留停止」にするのが、妥当な処分だったことになる。
 それなのに、そうしなかったのは、日本の検察が「証拠主義」でなく「自白主義」になっているからだ。「長期間勾留することで、精神的に圧迫して、何とか自白に持ち込もう」というわけだ。こうやって、証拠もないまま、強引に虚偽の自白をさせようとするわけだ。かくて冤罪が起こりがちになる。……ここに日本の検察の根源的な問題がある。
  → 釈放の男性 “犯人と決めつけられた”
  ※ いかに精神的に追い詰められたかを被疑者が語る。
  
 上記の解説サイトでは、次のように提案している。
 証拠隠滅および逃走の恐れがない場合には起訴前でも保釈できるように法律改正をして欲しいところ。日本弁護士連合会はかなり前から提言している様子。
 ま、それはそれで、ごもっとも。ただし、それ以前に、「過剰な勾留をやめよ」ということがある。そして、それは、単に「法律を守れ」というだけのことだ。
 現状では、20日間の勾留を、あたかも検察の既得権のように見なす向きが多い。上記の解説サイトもそうだし、日弁連もそうだ。だが、20日間の勾留は、あくまで特別な例外なのである。法律にそう書いてある。
 なのに、たかが「掲示板に嘘の書き込みをした」というぐらいのことで、大量殺人をした極悪人のように 20日間も勾留する、ということが、本質的に法律違反の違法行為なのだ。この違法行為を是正するべきだ、というのが、私の見解だ。
 本項では、「起訴前の保釈」を主張してきたので、それについては「起訴前の保釈はありえない」という解釈も成り立つ。だが、「保釈」でなく「勾留停止」というふうに読み替えれば、結局は同様のことになる。そしてまた、「保釈か勾留停止か」というような法律論は、本項ではあまりにも細かな法律論議であり、どうでもいい些細な問題だ。
 具体的に当てはまる法律条項がどうであれ、「三日程度で勾留を停止せよ」という結論は同じだし、「それができていない司法システムには問題がある」という指摘も同じように当てはまる。その意味で、本項の趣旨は何ら変わらない。ただし、具体的な法律用語を当てはめる段階で、「10日目までは釈放」「11日目以後は保釈」というふうに用語を区別するのが正確だ。
 しかし、そんな法律用語の区別なんて、ただの用語の問題だし、たいていの人にはどうでもいいことだろう。本項の本質とは関係のない、枝葉末節の問題にすぎない。
 
( ※ ただし、些細な法律用語の正確さにこだわるあまり、本項の全体を「トンデモだ」と騒ぐ人もいる。それで鬼の首でも取ったつもりなんだろう。……こういう人は、「木を見て森を見ず」の典型だ。話の本質とは関係のない重箱の隅を取り上げて、揚げ足取りをして喜ぶ人。そんなことをして嬉しいか。)
( ※ とはいえ、私としても、読者に少しお詫びしておこう。本項の本文中では、「保釈」と「釈放」が厳密に区別されていない。「保釈」と書くよりは「釈放」と書く方が正しい箇所がある。その箇所については、「法律用語をいい加減に使っている」と批判されても仕方ない。)
( ※ しかしまあ、学術論文じゃあるまいし、ニュースの出た当日に書いた記事としては、このくらいの不正確さは許容範囲だろう。もしかしたら、先に私のことを批判した人は、私のことを、「寸分の誤りもない文章を、あっという間に書く、神のごとき才人」だと見なしているのかもしれない。それについては、「期待のしすぎだよ、私は神様じゃない」と、釈明しておきます。)
( ※ なお、私の書く文章に瑕疵を見つけたなら、それをきちんと指摘すればいい。そうすれば私は「ご指摘ありがとう」と感謝の言葉を贈ります。一方、「トンデモだ」と騒ぐ人は、どうかしている。重箱の隅の傷を見つけるたびに「トンデモだ」と騒ぐ人は、さぞかし完全無欠の神様なんだろう。自分がいかに神様であるかを、誇示するといい。「私はあらゆる点で無謬であり、人間を上回る超越的な存在なのだ」と。その人に敬意を表します。きっとノーベル賞の山中さん以上の天才なんでしょう。)
( ※ それにしても、難点があったとき、きちんと指摘してくれれば、建設的な議論になったものを、どうしていちいち喧嘩腰で「トンデモだ!」と言う人がいるのだろうか。自分を天才だと思っているせいかな。)

 ──
 
 なお最後に、まとめふうに、話を整理しよう。
 まず、「今回の例では、三日ぐらいしたら保釈するべきだった」というのが基本となる。話の趣旨はこれである。これだけを理解しておいてもいい。
 ただし、現行の制度では、「起訴前の保釈はできない」というふうになっている。これに対しては、「起訴前の保釈ができるようにせよ」という対案が成立する。これは長期的な課題だ。今回の事例には間に合わないが、長期的にはこれを狙うべきだ。
 今回の事例に限れば、三日経過後の「勾留停止」というふうにするべきだった。検察はそうするべきだ。また、裁判所としても、当初は「勾留三日間だけ」を許容し、その後は、「勾留の延長」を拒否するべきだった。(これで勾留三日間が実現する。)
 そもそも、問題の根源は、「証拠主義」でなく「自白主義」を取ることだ。「証拠主義」ならば、「勾留三日間だけ」で済むはずだし、勾留を長くしても意味はないからだ。
 結局、現行制度は、「無実な人を精神的に苦しめて自白させることで有罪にしようとする制度」つまり「冤罪を作る制度」となっている。ここを根本的に解決すべきだ、というのが、本項の趣旨だ。今回の事例においてどうするべきだったか、というのは、二の次の話題となる。したがって「今回の事例では起訴前の保釈はできない」という現行制度の欠陥については、特に大きな話題とはならない。それは、問題の解決策にはなるが、本項の趣旨は、「どこに問題があるかを明らかにすること」である。「問題の解決」は、本項のあとに来ることであるにすぎない。

 


 《 参考 》
 次項に関連した話題がある。
  → ジョブズ、爆弾設置容疑で逮捕
posted by 管理人 at 12:24 | Comment(6) | コンピュータ_03 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私も無実の窃盗の罪で逮捕、22日間拘留されました。(今年の話です)
私自身は個人経営で従業員もいない上、運良く大きな仕事も無かったので影響は最小限で済みましたが、
これが違った環境であった場合の事を考えると、恐ろしいですね。
知人の親類に警察関係者がいますが、知人を通じて話を聞いたところ、
警察自身にも捜査の間違いを認めようとしない体質があり、
それが拘留の無用な長期化につながっている面もあると感じました。
Posted by K'z at 2012年10月08日 15:19
最後に 【 追記 】 を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2012年10月08日 18:48
「保釈してしまうと間違いだったら証拠隠滅されてしまう。証拠は自宅機器だけじゃないし」

 という見解があったので、注釈しておく。

 たかがアニメ演出家なら、コンピュータの知識もろくにないはずだし、あちこちに証拠をおけるはずがない。また、まともな知識があれば、IPアドレスがバレるようなことをするはずがない。(ネットカフェでも使う方がいい。)
 そもそも、証拠湮滅するなら、逮捕までの1カ月間の間に、とっくに湮滅している。

 以上により、「逮捕後に証拠湮滅するかも」という論理は成立しない。そいつは牽強付会だ。
Posted by 管理人 at 2012年10月08日 19:16
こりゃ「いじめ撲滅」なんて机上の空論ですわ…。
寧ろ腹にも思ってないことを
ただリップサービスで言ってるだけって感じ。
Posted by 奈々氏 at 2012年10月09日 07:29
そもそも日本の警察の捜査方法は国連で人権侵害だと認識されているという事実が周知されるべきでしょうね。

3.11以降のアメリカの無法な蛮行で有耶無耶になってしまっている感があるが、自由権規約B案で10年にもわたって非難され、その後ほとんど改善されていないまま現在に至っている状況がおかしいわけで。

多少、可視化などの改善に動いているように見えるが、今回のような長期拘束や外部との接触の制限がまず人権侵害であり国際的には異常なことだということを認識し改善を求めていくべきなのでしょう。
Posted by Barguest at 2012年10月10日 18:01
久しぶり読むに耐えうる論調に
  接しわれも襟をたださん  (感謝!)
白を黒黒を白とのマツリゴト
  人道無視し権益護る    (込怒!)
このクニもほころび見える国政に
  基地に水銀セシュウム汚染 (闇深!)
          赤緑亭 白道
  御健康とご健闘を祈りながら 風如
Posted by 赤緑亭 白道(風如) at 2012年11月09日 08:38
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