「原発をなくすと、電気代が2倍になる」という政府試算がある。しかし、原発を使っても、電気代は1.7倍になる。だから、批判は妥当ではない……というのが、朝日新聞の記事だ。
一部抜粋しよう。
《 原発ゼロで電気代2倍? 実は「維持でも1.7倍」 》この記事は、ある意味では正しいが、ある意味では間違っている。
原発をなくすと、電気代が2倍に――。そんな試算をもとに、原発の必要性を訴える声が広がっている。根拠は、2030年を想定して政府が出した数字の一つ。実は、同じ試算では「原発を使い続けても電気代は1.7倍」ともある。危機感をあおる数字だけが、ひとり歩きしている。
原発を動かさないと、なぜ電気代は2倍になるのか。石油や天然ガスなどの値上がり分が含まれるほか、再生可能エネルギーを広げていくには、原発を使い続けるよりお金がかかるとされているためだ。
ただ、原発を維持する場合もこれらの費用はある程度必要だ。試算によれば、原発依存度を東日本大震災前とほぼ同じ25%とする場合も、電気代は1.2〜1.7倍に上がる。つまり、原発を動かし続けても値上げは避けられない。
「ゼロ」の値上がり率を「25%」と比べれば、ほぼ同じから1.25倍程度。にもかかわらず、10年との比較の「最大2.1倍」の数字だけが、抜き出されている印象が強い。
( → 朝日新聞 2012年9月28日:有料記事 )
(1) 原発稼働の有無
原発稼働の有無を比較するのは、正しい。
「原発を稼働しても電気代は電気代は1.2〜1.7倍に上昇するから、原発を稼働しない場合に比べて、1.25倍程度の上昇にとどまる」
という主張は、おおむね正しい。(数字のブレは許容する。)
たしかに、原発を稼働してもしなくても、電気代は大幅に上昇する。だから、「原発稼働の必要性が過大に強調されている」という主張は妥当だ。
(2) 再生可能エネルギー
ではなぜ、原発稼働の有無に関係なく、大幅な値上げが必要なのか? 記事には、こうある。
「石油や天然ガスなどの値上がり分が含まれるほか、再生可能エネルギーを広げていくには、原発を使い続けるよりお金がかかるとされているためだ」
とはいえ、石油はともかく、天然ガスは値下げが見込まれる。シェールガスが大幅に供給される見込みだからだ。今後の火力発電は天然ガスが主力になるはずだから、火力のコストはあまり考えなくていい。
問題なのは、再生可能エネルギーだ。こいつに金がかかりすぎる。この件は、私が前に「太陽光発電の負担金が月5万円に」という話で示した。
→ 太陽光の負担金が月5万円
今回の朝日の記事では、この負担金について、「原発を維持する場合もこれらの費用はある程度必要だ」と述べている。しかし、「必要だ」ということはない。このような負担金はまったく不要である。できればゼロにするべきだ。そして、こいつをゼロにすれば、電気代の値上げはゼロで済むのだ。2030年の電気代は、1.7倍でもなく2倍でもなく、1倍程度で済むのだ。
だから、記事では、
「原発を稼働しても電気代は上がる。(ゆえに原発の不稼働を問題にするべきではない。)」
と結論するよりは、
「原発を稼働しても電気代は上がるが、それは太陽光発電に過大な補助金を投入するからだ。(ゆえに太陽光発電の過大な補助金をやめるべきだ。)」
と結論するべきだった。結論の方向が狂っている。
ちなみに、もっと重要な情報がある。
→ 再生エネ導入、想定超え進む 全量買取開始2カ月で
→ 募集開始1週間で想定の3倍以上の応募
→ 制度開始2カ月で半分以上
太陽光発電の買い取り価格が大幅に高くなったせいで、設置台数が大幅に上積みされている。2カ月で予定の半分以上ということだから、1年では予定の 12倍以上となる計算だ。ざっと見て、予定の 10倍〜20倍になりそうだ。
そして、この分は電気代にきっちりと上乗せされる。つまり、「月 70〜100円」という政府予定に対して、実際には、「月 700〜2000円」の値上げとなるのだ。だから、政府が月 70〜100円」の負担だと述べたことは、真っ赤な嘘だったことになる。ついでに言えば、それをそのまま報道してきて、自社の論説の根拠としていた朝日もまた、真っ赤な嘘をついてきたことになる。嘘つき野郎!
朝日は産業界を批判するよりは、まずは自分がひどい嘘をつき続けてきたことを、反省するべきだ。「表示価格に比べて、実際に払う金は 10倍〜20倍」なんてのは、あまりにもひどい詐欺である。詐欺師!
ついでに言えば、この件は、私が半年も前に指摘していた。
→ 太陽光買取り制度の破綻
ただ、その記事は半年前のものなので、その当時の確定した数字に基づいて、「値上げは3倍」というふうに示しておいた。(確定値)
しかしその後、設置台数はさらに上積みされたので、本項では 10倍〜20倍という数値(予想値)になったわけだ。
で、この値上げは、今年度の設置分だけである。これが今後 20年間も続くほかに、来年、再来年には、さらに同規模の値上げが追加される。最悪の場合、こうなる。
・ 今年度分 2000円
・ 来年度分 2000円
……
これが延々と続いて、10年後には2万円アップとなる。ドイツと同様に、企業用の電力では負担金が免除されれば、家庭用の負担は倍増するので、10年後には4万円アップとなる。仮に家庭用の電気代が月1万円だとすれば、10年後には5倍だ。
つまり、結論はこうなる。
「原発を稼働してもしなくても、再生エネの負担金のせいで、10年後には電気代が5倍です」
これは、最悪の場合の数値だが、最悪の場合でなくても、10年後でなく 20年後には、このくらいの数値になりそうだ。
朝日は、どうせ数値を掲載するなら、こっちの数値を掲載するべきだった。
──
結論。
原発を稼働してもしなくても、料金の値上げ幅にはことさら大きな差は生じない。(3割程度の差で済む。)
しかしながら、太陽光発電の負担金は、政府の予想を大幅に上回る金額になる。朝日は、その数値を報道するべきだ。
「原発を稼働しても稼働しなくても電気代は2倍」という表現は正しくない。「原発を稼働しても稼働しなくても電気代は3〜5倍」という表現が正しい。そして、その理由は、(朝日の推進する)再生エネに巨額の補助金を投入するからだ。
朝日は「政府は嘘つきだ」と批判するが、実は、朝日自身の方が、政府をはるかに上回る嘘つきなのだ。
( ※ 相手の数字のミスにはよく気がつくが、自分の数字のミスにはまったく気がつかない……というのが、朝日。)
【 関連項目 】
本文中に示したリンクを再掲する。
→ 太陽光の負担金が月5万円
→ 太陽光買取り制度の破綻