( ※ シリーズの第4回:完結編 ) ──
主要な事柄はすでに述べたが、取りこぼした情報や話題があるので、補足しておく。
※ (1)〜(5)は軽い話題。(6)〜(9) は重要な話題。
特に (9) は最重要。
(1) 人種の名称
人種については、次の専門用語がある。(出典:Wikipedia )
・ ネグリロ …… ピグミー
・ カポイド …… コイサン
・ コンゴイド …… カポイド以外のネグロイド
左が専門用語で、右がその意味。(一般語)
左の用語はあまり一般的ではない。そこで本項では、「ピグミー」「コイサン」という一般用語の方を用いた。(「銃・病原菌・鉄」に従った。)
また、「コンゴイド」という用語は、いちいち使わなかった。
(2) エチオピア人とネグロイド
エチオピア人の扱いは、本項と世間とでは、異なる。
・ 本項では …… コーカソイドの仲間で、初期からあるもの
・ 世間では …… ネグロイドの一種
たとえば、Wikipedia には、次の記述がある。
エチオピア人種は、ネグロイドの下位区分。アフリカ北東部に住む。他の黒人ほど肌の色は濃色ではなく、赤褐色とも黄褐色とも。 顔立ちは彫りが深く、白人と黒人との中間のような形質を持っているといえるため、黒人とアラブ系のコーカソイドの混血とも考えられるが、黒人から白人への移行人種というふうに見る向きもある。しかし本項では、そういう見方を取らない。
容貌的には、エチオピア人は、肌はやや黒っぽいが、アフリカ南半分のネグロイドのように真っ黒ではないし、目鼻立ちもコーカソイドふうだ。エチオピア人からエジプト人・リビア人への変化はかなり小さい。
→ エチオピア人の写真 ,リビア人の写真
また、言語的に、アフリカ北半分は同一の語族だ、という点も大きい。(前項)
また、遺伝子的にも同様だ。前項の最後で示した図では、アフリカ北東部の系列は、コーカソイドの系列と同じ系列であり、他の系列(ネグロイドやコイサンやピグミーらしい)とはまったく異なる系列だ。その意味で、のちに欧州コーカソイドやモンゴロイドを分岐するようなアフリカ太古の系列(つまりエチオピア人の系列)は、他の系列(ネグロイドやコイサンやピグミーらしい)から分離して考えるべきなのだ。
┏━━━━ ピグミー
┣━━━━ コイサン
┏┻━━━━ ネグロイド
初期サピエンス ━┻━┳┳┳━ 北アフリカ
(エチオピア人?) ┃┃┗━ 欧州コーカソイド
┃┗┳━ 古モンゴロイド
┃ ┗━ 新モンゴロイド
┗━━━ オーストラロイド
結局、容貌的にも言語的にも遺伝子的にも、エチオピア人の系列は他の黒人とは隔絶している。ゆえに、エチオピア人はネグロイドの一種とは見なされない。
ここで注意。
一般的には、「現生人類の祖先はネグロイドだった」(*)としばしば言われる。しかし、そこで言うネグロイドとは、(本項で言うネグロイドとは違って)「黒人とエチオピア人とを含めた全体」という意味だ。
なるほど確かに、その意味でなら、その表現(*)は間違いではない。しかし、その意味でならば、「現生人類の祖先はコーカソイドだった」と言ってもいいはずなのだ。というのは、現生人類の祖先はエチオピアにいたからだ。(あとで述べる。)
だから、「現生人類の祖先はネグロイドだった」という表現は、妥当ではない。特に、「現生人類の祖先は(エチオピア人以外の)ネグロイドだった」という見解は間違いだろう。
現生人類の祖先がどの人種に属したかは、はっきりとはしない。というのは、まだ人種が分岐する前のことだからだ。だから、「現生人類の祖先はネグロイドだった」という表現は、しない方が好ましい。その表現は、あまりにも不正確すぎる。
(3) 最初の現生人類
最初の現生人類はエチオピア人だったか? それははっきりとしていない。
ただ、エチオピア人であったかどうかはともかく、最初の現生人類はエチオピア付近で誕生したようだ。そう推定される理由は、次の化石的事実だ。
最も古いホモ・サピエンスの化石は、エチオピアで見つかった。それは 16万年前の化石で、その人類は「ホモ・サピエンス・イダルトゥ」と呼ばれる。
→ ホモ・サピエンス・イダルトゥ ( Wikipedia )
これが人種的にどれに属するかは、よくわかっていない。エチオピア人かもしれないし、ネグロイドかもしれない。ひょっとしたら、ピグミーかもしれないし、コイサンかもしれないし、すでに絶滅した別の人種かもしれない。ただ、時期的に考えれば、これらの人種が分岐する時期(17万年前)とほぼ同じ頃だから、人種的に未分化なものと見なしてもいいだろう。(分化したばかりのものとも見なせるが、未分化なものと見なしてもいいだろう。)
その意味で、「現生人類の祖先はネグロイドだった」という表現は、しない方がいい。(先に述べたとおり。)
なお、人種的にどうであるかはともかく、その領域がエチオピア付近であることは判明している。
→ トゥルカナ湖 ( Wikipedia )
→ その地図
(4) バンツー族の拡大
ネグロイドはアフリカ中央部(カメルーン付近)から、東や南に拡大していった。それは次の図にも示されている。(ページの下の方にある。)
→ 民族拡大の地図(カラー)
同様の図は、次の図の左上(アフリカの部分)にも、矢印三つで示されている。

出典:Wikipedia
では、この矢印(カメルーン → 周辺)は、人類の祖先が拡散していった経路を示すのだろうか? すぐ上の図を見ると、「イエス」と思えるだろう。だが、実は、違う。
「銃・病原菌・鉄」の 19章(350頁)に記してあるが、この民族拡散は、紀元前 3000年から西暦 500年にあった。つまり、比較的近年のものだ。決して大昔の現生人類の拡散を示しているのではない。
その意味で、上記の二つの図にこの矢印(カメルーン → 周辺)を書き加えることは、不適切だ。数万年前という化石年代においては、このような民族拡散は起こっていなかった。
どちらかと言えば、その逆だったはずだ。つまり、最古の現生人類は、エチオピア付近で誕生したあとで、アフリカ南部全体に拡散していったはずだ。それがネグロイドである。(ピグミー・コイサンを含む。)
(5) コイサンとピグミー以外は?
「銃・病原菌・鉄」によると、バンツー族がアフリカ南部で拡大していった理由は、農耕民族として狩猟民族を圧迫していったことだ。狩猟民族であるコイサンもピグミーも、圧迫されて、土地を失っていき、人口も減っていった。
そのことからすると、ひどく圧迫されたせいで絶滅した狩猟民族が、他にいくつかあっただろう。そのような民族があったかどうかは、今日ではもはや残っていないのでわからないが、そういう民族がいくつかあったと考えていいだろう。
それらはいずれも狩猟民族で、独自の言語と文化をもっていたはずだ。さらに、人種をなすほどの差(容貌差・遺伝子差)もあったはずだ。
にもかかわらず、それらの人種は、農耕民族に圧迫されて、絶滅したのだろう。その絶滅の時期は、農耕民族(バンツー族)の拡大したころだ。つまり、紀元前 3000年から西暦 500年までの間のいつかだ。
かつて鳥類のドードーや、哺乳類のジャワトラが人類によって絶滅されられたように、アフリカにいたいくつかの人種もまた、人類によって滅亡させられたのだろう。(推定)
その意味で、ネグロイド以外の人種として、ピグミーやコイサンとは別のものも十分に想定される。特に、ピグミー・コイサン・ネグロイドの間で遺伝子の差がかなり大きいことは、同様に差をもつ別の人種があったことを窺わせる。(あくまで可能性だが。)
(6) 分岐時期
デニソワ人・ネアンデルタール人・現生人類の分岐の時期は、いつか?
最初のころの項目で紹介したの記事では、次のように示された。
ネアンデルタール人やデニソワ人が現生人類との共通祖先から分かれたのは 80万4000年前、ネアンデルタール人とデニソワ人の祖先は 64万年前に分かれたこれと同様の記述は、下記にもある。
→ Wikipedia
しかし、この数値だと、矛盾が生じる。というのは、次の数値がはっきりと得られているからだ。
「現生人類とネアンデルタール人が分岐した年代は、約 50万年前だ」
この数値には、プラスマイナス5万年ぐらいの幅があるが、おおむねその範囲に収まっている。だから、現生人類とネアンデルタール人とがに分岐したのは約 50万年前だと考えていい。
なのに、デニソワ人とネアンデルタール人が分岐したのが 64万年前だとすれば、矛盾が生じる。デニソワ人とネアンデルタール人は姉妹群である(同系である)からだ。
次の図を参照。
↓ 64万年前
┏━━━━ デニソワ人
共通祖先 ━┳━┻━━━━ ネアンデルタール人
┗━━━━━━━ 現生人類
↑ 50万年前
この図では、50万年前の方が、64万年前よりも、古いことになる。矛盾。
ただし、Wikipedia の記事には、次の文言もある。
「ネアンデルタール人と分岐した年数も、35万年ほど前との説も浮上している」
これに相当する記事では、次の記述がある。
研究チームでは、デニソワ人はおよそ35万年前にネアンデルタール人の祖先から分岐したのではないかと見ている。ここでは、35万年前という数値が出ている。これならば問題ない。
( → ナショナルジオグラフィック )
というわけで、デニソワ人とネアンデルタール人が分岐したのは、35万年前だろう。
ただ、この数値は、最初の記事の数値とは、かなりズレが大きい。その意味で、この数値はおおまかには信頼していいだろうが、信頼性はいまだ十分ではないと見ていいだろう。
また、デニソワ人がネアンデルタール人の姉妹群だとしても、本当に別の人種をなすほど大きく違っていたのか、あるいは、亜種レベルの差しかなかったのかは、なお問題として残るだろう。
私のヤマカンで言えば、デニソワ人はネアンデルタール人の亜種にすぎないと思う。新たな種というものはそう簡単に生じるものではないからだ。デニソワ人とネアンデルタール人は、いくらかの遺伝子差があるとしても、小進化レベルの差であるに過ぎず、大進化レベルの差ではあるまい。同じ種のまま、欧州に進出した亜種がネアンデルタール人であり、アジアに進出した亜種がデニソワ人である。……そう推測する。
( ※ ただし、そのことを確認するには、核 DNA や骨格化石が必要だ。ミトコンドリア DNA を調べるだけでは、それを判定するほどの詳しい情報は得られない。だから、この件は、なかなか結論は出せないだろう。デニソワ人の化石が続々と見つかるのでない限り。)
(7) デニソワ人との共通遺伝子とは?
重要なことを述べよう。
先に、次の図を示した。
↓ 共通遺伝子が消失
北東部人 ━┳━━┳┳━ 北東部人
┃ ┃┗━ コーカソイド
┃ ┗┳━ 古モンゴロイド
┃ ┗━ 新モンゴロイド
┗━━━━━ オーストラロイド
さらにすぐあとで、次のようにも記した。
「実は、上の図には、ネグロイドが含まれていない。ネグロイドの分は、ネアンデルタール人の場合と同様になる。つまり、ネグロイドにおいて、共通遺伝子が消失した。(ただしここでは、ネアンデルタール人との共通遺伝子ではなく、デニソワ人との共通遺伝子が消失した。)上で予告したように、ここ[(7)]で説明しよう。
( ※ どうして両者で同じ遺伝子が喪失したか、という件については、次項の (7) で言及する。)
実を言うと、「ネグロイドにはない遺伝子集団」と「コーカソイド・モンゴロイドにはない遺伝子集団」との比較は、十分ではない。「混血が起こったのだ」というシナリオに合わせて、うまく集団をまとめてしまっているようだ。勝手につじつま合わせをしているわけだ。
(A)研究の食い違い
実例を見よう。実際の研究結果を調べてみる。
まずは、最初の報道では、次の記述がある。
現生人類のホモ・サピエンスは、この数万年の間にアフリカから世界中に広がったが、パプアニューギニアなど太平洋南西部だけは、ゲノムの5%前後がデニソワ人由来であることも判明。これによると、共通遺伝子は、メラネシア地方だけにあり、他地域にはないことになる。
( → 共同通信(2010年12月) )
一方、新たな報道では、次の記述がある。
遺伝子変異体「HLA-B*73」の起源がデニソワ人まで遡ることを発見した。デニソワ人は西アジア付近で現生人類と交雑した可能性が高いとされているが、HLA-B*73は現代アフリカ人に見つかることはまれな一方、西アジアでは一般的だ。この記事によれば、その遺伝子は、現代アフリカ人では稀だが、西アジアでは一般的だという。
( → AFPBB通信 011年08月26日 )
これは、先の記述に反する。先の記述では、「メラネシアだけにある」とされたからだ。
では、どう考えればいいのか?
前者の研究では、次のモデルを考えた。
ネアンデルタール人がユーラシア大陸西部に分布していたのに対し、デニソワ人はユーラシア大陸東部に広く分布していたと考えられる。メラネシア人の祖先は、東南アジア付近でデニソワ人と出会い交雑した後、パプアニューギニアまで移動したというのがわれわれの説である。後者の研究では、次のモデルを考えた。
( → ナショナルジオグラフィック )
デニソワ人は西アジア付近で現生人類と交雑した可能性が高いとされている。しかし、この二つの説は、いずれも一長一短だ。
古代のHLA遺伝子が現生人類の間で増殖していき、現代のユーラシア人の半分以上に広がった。
( → AFPBB通信 011年08月26日 )
(i) 前者の説では、後者の共通遺伝子を説明できない。
(ii) 後者の説では、前者の共通遺伝子を説明できない。
説明しよう。
前者の説では、「東南アジア付近でデニソワ人と出会い交雑した」とされる。ならば、西アジアに共通遺伝子 HLA-B*73 があることを説明できない。
後者の説では、「西アジア付近で現生人類と交雑した」とされる。ならば、共通遺伝子が見つかるのがメラネシアばかりだ、ということが説明できない。むしろ、アジアや欧州の全域で見つかっていいはずだ。
というわけで、前者の説も、後者の説も、破綻する。
つまり、食い違いを放置したまま、勝手に「混血した」という説を採っているわけだ。首尾一貫した論理もなく、矛盾を含んだまま。
それが研究の現実である。
(B)定義の問題
そもそも「混血した」という先入観のもとで、「共通遺伝子」というのを探しているから、共通遺伝子というものが見つかるだけだ。
では、先入観なしで考えたら? 当然、次の二つのグループになるはずだ。
・ ネグロイドで失われた遺伝子集団
・ 古モンゴロイドで失われた遺伝子集団
・ コーカソイド・新モンゴロイドで失われた遺伝子集団
このうち、後者の二つはほぼ同一らしいので、一つにまとめると、次の二通りのグループができる。
・ ネグロイドで失われた遺伝子集団 (P)
・ コーカソイド・モンゴロイドで失われた遺伝子集団 (Q)
それぞれのグループ(遺伝子集団)を、P ,Q と書くことにしよう。すると、次の三種類ができる。
P∩Q = P と Q の共通部分
P’ = P から P∩Q を除いたもの(補集合)
Q’ = Q から P∩Q を除いたもの(補集合)
この三つは別々のものだ。ただし、研究の際には、 P∩Q だけに着目したのだろう(!)。そして、この部分を、「デニソワ人との共通遺伝子」と定義したわけだ。ただし、デニソワ人とも共通するものに限るが。……そうすると、「コーカソイド・モンゴロイド・ネアンデルタール人の三者ではその遺伝子が失われたが、メラネシア人とデニソワ人にだけはその遺伝子があるから、その遺伝子は「メラネシア人とデニソワ人との混血によって獲得された」という結論が出されるわけだ。(論理のペテン。)
同様に、ネアンデルタール人との共通遺伝子の場合は、「ネグロイドで失われた遺伝子集団 (P)」を、「ネアンデルタール人との共通遺伝子」と定義したわけだ。ただし、ネアンデルタール人とも共通するものに限るが。……そうすると、「コーカソイド・モンゴロイド・ネアンデルタール人の三者で、その遺伝子があるから、その遺伝子は「混血によって獲得された」という結論が出されるわけだ。(論理のペテン。)
(8) 他の細かな問題
他にも細かな問題が二つある。次の (A)(B) だ。
(A)欧州のネアンデルタール人との混血
ネアンデルタール人との混血というものが容易に起こるのであれば、西アジアで起こるだけでなく、欧州でも高頻度で起こっていたはずだ。というのは、欧州にはたくさんのネアンデルタール人がいたからだ。
なのに、今の欧州人を見ても、「欧州人はネアンデルタール人との混血が多かった」という形跡は見られない。新モンゴロイドや古モンゴロイドと大差がない。
これは「現生人類とネアンデルタール人が容易に交雑した」ということの反証となる。
(B)有益な共通遺伝子
前述の HLA-B*73 という遺伝子については、問題がある。この共通遺伝子はどうやら、西アジアだけにあり、欧州やアジアにはないらしい。(そうは明示されていないが、そういうニュアンスで書いてある。)そこでネットで調べてみると、確かにその通りだ。
→ Wikipedia
ただ、これによると、西アジアには多いが、他地域では「皆無」というより「少ない」だけだ。
結局、西アジアの一部だけで、突出的に多い。しかも、この遺伝子は、免疫系で有用な効果を持つらしい。
→ AFPBB通信 011年08月26日
このような事情を考えると、私としては、次の結論を下したい。
「このように有益性を持つ遺伝子は、中立説には該当しない。ゆえに、種の起源をたどるために使うには、不適切だ。この遺伝子が西アジアの一部で突出して多いのは、西アジアではその形質が環境において有利であったからだろう。つまり、自然淘汰によってその遺伝子が増えたのであろう。また、デニソワ人が同じ遺伝子を持っていたとしても、ただの偶然だろう。(数多くある遺伝子のなかでは、そういう一致があってもおかしくない。)」
そもそもこの遺伝子は、他地域の人々に見出されないわけではない。単に「少ない」というだけのことだ。そして、そのような遺伝子が特定地域で特別に高い値を示すとしたら、その理由は、「他の種との交雑があったから」と考えるよりは、単に「自然淘汰で有利であったから」と考える方が妥当である。
私の予想では、このような例は、他にもいくつか見つかると思える。次のように。
「 G という遺伝子は、デニソワ人と共通するもので、P という地域で頻度が高い。ゆえに、P という地域では、デニソワ人との交雑があったのだ!」
ここで、G や P に当てはまるものを変えた例が、いくつも見つかりそうだ。
ただし、そこで示された事実から得られる結論は、「その地域でデニソワ人との交雑があったこと」ではなくて、「その地域ではその遺伝子が環境のなかで有利であった」ということだけだろう。
(9) 最後に
最後に一言述べておこう。
先に、「バンツー族の民族拡散」という話をした。このことは、遺跡や言語痕跡などを通じて、確認できる。(「銃・病原菌・鉄」下巻 350頁 ) ただし、それが可能なのは、比較的新しい時代の出来事(せいぜい紀元前 3000年)だからだ。
一方、本項で扱っている話題は、17万年も前のことだ。そのころにどのようなことがあったかは、遺伝子を通じて推測することしかできない。これまでは系統関係を分子生物学的に推測するだけだった。
ところが、今回、デニソワ人の遺跡がアジアで見つかった。また、共通遺伝子がメラネシア(オーストラロイド)に限られていることもわかった。このようなことから、「東南アジアで混血が起こったからだ」という推測が生じた。
しかし、異種間の多大な混血というのは、生物学的には起こりにくいことなのだ。考えてもみるがいい。あなたはチンパンジーとセックスしたがるか? また、女性はチンパンジーに犯されたがるか? とうてい、ありえないだろう。一部の変態は別として、まともな人間がそういうことを望むはずがない。[ 参考画像:猿の惑星 ] また、人間でなく一般の哺乳類でさえ、異種間の交雑は嫌がるのが普通だ。……生物には性欲というものはあるが、それは一般に同種の異性に対する欲求であり、異種生物に対する欲求ではありえないのだ。さもなくば、その生物は滅びてしまうはずだからだ。
というわけで、生物の基本を考えると、「異種間の交雑は、ほぼありえない」と結論できる。
→ 異種間の交雑
では、デニソワ人やネアンデルタール人との交雑のかわりに、何があったのか? その問題に対する解答を出したのが、本項までのシリーズだ。
これによって提出されたのは、人類の進化の過程についてのモデルだ。そこでは「コーカソイドからネグロイドが分岐した」という重要なモデルも得られる。そして、そのモデルは、「ネグロイドにはネアンデルタール人との共通遺伝子がない」ということから導入されたモデルなのだ。
こうして、17万年前の分岐について、ネアンデルタール人との関係を通じて、新たな知見が得られた。これが、今回のシリーズの成果だ。
要するに、大切なのは、ネアンデルタール人と混血したかどうかではなくて、アジア人や欧州人などが自らの出自の根っこを突き止めたことなのだ。「われわれの先祖は、黒人ではなくて、初期のコーカソイドであるエチオピア人なのだ」と。
【 関連項目 】
今回のシリーズは、これで一応 終わります。
ただし次項でも、余談ふうの話が続きます。
デニソワ人のゲノムの完全な配列を高精度で再解読
→ http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2012083100040
→ http://www.eurekalert.org/pub_releases/translations/sci083112jp.pdf
>一部の変態は別として、まともな人間がそういうことを望むはずがない。
「変態」という現生人類の価値観/主観/先入観で、化石人類を論じるのはいかがなものかと・・・・。
なぜならば、現生人類においてさえ、12〜3歳の少女に性欲を感じるのは「変態」とされておりますが、サハラ以南のアフリカなどでは、12〜3歳出産し、30歳ではもう孫がいるような状態が当たり前だからです。
先進国の価値観では、『ロリコン』は変態とされますが、人類が滅びないようにするための知恵です!ヒトという種の存続の観点からすると、2次性徴に対していち早く反応し交配を試みるオスが遺伝子を残す確率が高い。
一方、12〜3歳は、ロリコンかどうかの境界線でしょう。私としては特に論じていません。
念のためにロリコンという語で検索してみましたが、私はロリコンについては特に論じてはいません。オタクについては現実遊離を問題視したが、ロリコンについてはあまり考えても論じてもいない。