( ※ シリーズの第2回。画期的な新説。) ──
現生人類と、デニソワ人・ネアンデルタール人とには、共通遺伝子がある。このことを説明するために、「(古人類と)混血したからだ」と見なすのが、普通の説だ。
だが、混血によらずとも、共通遺伝子を持つ原理はある。その原理を説明する。
原理の説明
原理を簡単に示そう。
原理:
共通遺伝子は、現生人類において(混血などを通じて)新たに獲得されたものではなく、古来の人類から備わっていたものである。ただし、アフリカ南部の人類(ネグロイド)は、亜種としての分岐後に、その共通遺伝子を喪失した。それだけのことである。
図示すれば、次の通り。
共通祖先 ━━ 現生人類 ━┳━ アフリカ北部人━━ 他
┗━ ネグロイド
※ ネグロイドのみ、分岐後に、共通遺伝子を失った。
※ 「他」というのは、コーカソイド・モンゴロイドなどで、
共通祖先との共通遺伝子を保持している。
──
この原理は、従来の説と、どう違うだろうか?
従来の説では、次のように考えた。
「現生人類の遺伝子は、アフリカで最も多様である。そのことは、アフリカで現生人類が発祥したことを意味する。つまり、アフリカ人以外の人類(コーカソイドやモンゴロイド)は、アフリカ人の子孫である。そして、アフリカ人とは、ネグロイド(アフリカ南部の人々)である」
しかしそれは勘違いだ。アフリカ人とネグロイドは等価ではない。むしろ、人類の発祥の地はエチオピアであるのだから、エチオピア人が現生人類の最も祖先に近いと考えられる。そして、コーカソイド・モンゴロイドだけでなく、ネグロイドもまた、エチオピア人の子孫なのだ。……私はそう考える。
図式で示すと、次の通り。 (左が古く、右が新しい。)
《 従来の説 》
ネグロイド ───→ コーカソイド・モンゴロイド
《 私の説 》
エチオピア人 ─┬→ コーカソイド・モンゴロイド
└→ ネグロイド
従来の説では、ネグロイドを最古の現生人類と見なした。すると、「ネグロイドにおいていったん共通遺伝子を失ったのに、その後、コーカソイド・モンゴロイドでは共通遺伝子をもつようになった」と認識することになった。そこで、「いったん失った共通遺伝子を復活させたのは、共通遺伝子をもっている古人類(デニソワ人・ネアンデルタール人)と混血したからだろう、と推定した。
私の説では、ネグロイドは最古の現生人類ではなく、(最古の現生人類である)エチオピア人から(亜種として)分岐したものだ。そして、分岐後に、共通遺伝子を失った。この場合、コーカソイドやモンゴロイドが共通遺伝子を持っていることは、何の不思議もない。(ゴリラのような類人猿から)デニソワ人・ネアンデルタール人まで継続してきた共通遺伝子が、そのまま現生人類にも引き継がれ、さらにコーカソイドやモンゴロイドまで届いた、というだけのことだ。何の不思議もない。
──
ただし、以上の原理を受け入れるには、あらかじめ、次の原理を受け入れる必要がある。
旧種(古) ━┳━ 旧種(新)
┗━ 新種
これが進化の図式である。これは次のことを意味する。
・ 旧種(古)と、旧種(新)とは、同一種である。
・ 旧種(古)から、旧種(新)へは、小進化だけがある。
・ 新種は、旧種(古)から、大進化による分岐で誕生した。
具体的な例は、次の例だ。
原ネアンデルタール人 ━┳━ ネアンデルタール人
┗━ ホモ・サピエンス
ここで注意。原ネアンデルタール人のような、旧種(古)は、一般に、それ以前の種から分岐した直後なので、数がきわめて少ない。だから、この段階では、化石は残らない。そのせいで、化石の上では、見かけ上、次のように見える。
祖先種 ━━ ……… ━┳━ ネアンデルタール人
┗━ ホモ・サピエンス
つまり、見かけ上、次のように見える。
ネアンデルタール人
祖先種 ━━ ……… <
ホモ・サピエンス
この図式は、普通の進化論の図式と同じである。つまり、次のことを意味する。
「祖先種が進化して、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスに分岐した」
しかし、このような図式は正しくない。なぜなら、この図式では、祖先種が進化によって消滅しているはずだからだ。(小進化の蓄積によって古い個体集団は消滅しているはずだ。)
ところが、現実には、進化によって祖先種が消滅することはない。たとえば、ネアンデルタール人やホモ・サピエンスが出現しても、ホモ・エレクトスはその後何十万年も生存し続けた。(ほんの数万年前までホモ・エレクトスは生存し続けた。)
では、正しくは? 先の図式にならえば、次のように表現される。
原エレクトス ━┳━ エレクトス
┗━ 原ネアン ━┳━ ネアン
┗━ 原サピ ━ サピ
※ ネアンは、ネアンデルタール人。
※ サピは、ホモ・サピエンス。
進化というものは、このように、次の二つで示される。
・ 先祖から、直系の子孫へ (直系)
・ 先祖から、分岐した新種へ (分岐)
このように「直系」と「分岐」という原理を取るといい。そうすれば、「直系の子孫では遺伝子がそのまま引き継がれるが、分岐した子孫では遺伝子がそのまま引き継がれにくい」ということが、うまく説明できる。
──
このような原理を取るときに、次の形の進化があったと推定される。
・ エチオピア人から、コーカソイドやモンゴロイドへ (直系)
・ エチオピア人から、ネグロイドへ (分岐)
そして、後者の分岐があったときに、いくつかの遺伝子が失われた。一方、直系子孫では、それらの遺伝子は失われずに維持された。そして、その維持された遺伝子は、ネグロイドを基準にして考えると、「おれたちネグロイドにはないのに、古人類(デニソワ人・ネアンデルタール人)と、他の人種には、共通する遺伝子だ」と見える。そして、そのあとで、「どうせあいつらは混血したのだろう」と推測する。
しかし、それは、ネグロイドを基準として考えた偏見である。実際は、それらの間に混血があったわけではない。単にネグロイドがそれらの遺伝子を失っただけなのだ。
( ※ エチオピアの位置は下図。エチオピアから南方に分岐した人々が、アフリカ南半分に住んでいる。それがネグロイドだ。)

以下では、さらに詳説しよう。
──
(1) ネアンデルタール人との共通遺伝子
ネアンデルタール人との共通遺伝子については、上記のことで十分に説明される。詳しくは次の通り。
現生人類はアフリカ北東部(エチオピア)で誕生した。その祖先種は、原ネアンデルタール人(= ネアンデルタール人の祖先形)である。原ネアンデルタール人の遺伝子は、(直系の)ネアンデルタール人と、(分岐した)現生人類の、双方に伝わった。原ネアンデルタール人の遺伝子の一部は、双方に共通して伝わった。これが現在、「ネアンデルタール人と現生人類の共通遺伝子」と見なされるものだ。
この共通遺伝子は、あとで混血によって混入したのではなく、原ネアンデルタール人という源流から、二つの支流(ネアンデルタール人と現生人類)に伝わったものだ。
原ネアンデルタール人 ━┳━ ネアンデルタール人
┗━━ 現生人類
この共通遺伝子は、ネグロイドが分岐したあとで、ネグロイドでは消失した。
原ネアンデルタール人 ━┳━ ネアンデルタール人
┗┳━ 現生人類
┗━ ネグロイド
↑ 共通遺伝子が消失
(2) デニソワ人との共通遺伝子
デニソワ人との共通遺伝子については、上記のことだけでは足りない。さらに「出アフリカ」という概念が追加的に必要だ。詳しくは次の通り。
現生人類の出アフリカは、二度あった。
一度目の出アフリカは、デニソワ人との共通遺伝子を持つ集団の、出アフリカである。これらの集団は、エチオピア付近から出発したあと、スエズ地峡を経て、東南アジアまで達した。その一部はのちに(ポリネシア人などの)オーストラロイドとなった。これらは古モンゴロイドに当たる。他方、一部は出アフリカのあとで、アラビア半島南端や南アジア経由で、東南アジアに達した。そのうちの一部は、分岐して、ニューギニアやオーストラリアに渡り、オーストラロイドとなった。(ニューギニアなどの)メラネシアにいるオーストラロイドは、デニソワ人との共通遺伝子を失わずにいたが、それ以外の人々は途中で共通遺伝子を失った。
二度目の出アフリカは、デニソワ人との共通遺伝子を持たない集団の、出アフリカである。このころには、もはや共通遺伝子は不要となっていたので、集団内で消滅していた。(アフリカ北東部の現生人類で。)その集団の一部が、スエズ地峡を渡ってから、一部は北方に出てコーカソイドとなり、一部は東方に出て新モンゴロイドとなった。これらのコーカソイドや新モンゴロイドは、デニソワ人との共通遺伝子をもともと持たない。新モンゴロイドは、すでにアジアに到達していた古モンゴロイドを追い出した。そのせいで、現在のアジア人には、デニソワ人との共通遺伝子が見出されない。
↓ 共通遺伝子が消失
北東部人 ━┳━━┳┳━ 北東部人
┃ ┃┗━ コーカソイド
┃ ┗┳━ 古モンゴロイド
┃ ┗━ 新モンゴロイド
┗━━━━━ オーストラロイド
なお、出アフリカ後の経路については、下記の図がある。

出典:Wikipedia
二つの説の真偽
本項で述べた説を、「分岐説」と呼ぼう。それは、エチオピアにいた現生人類の一部が、亜種の形で分岐して、アフリカ南部に進出した、という説である。(そうして生じた亜種がネグロイド)
一方、混血があったと見なす説を、「混血説」と呼ぼう。
§ 科学的な証明
分岐説と混血説は、どちらが正しいか? それを決めるための科学的な方法はあるか? ある。
それは、二つの説の極端に違う点を調べて、どちらが正しいかを確認することだ。つまり、次の比較だ。
・ 分岐説 …… 共通遺伝子は、現生人類にとって不要だ
・ 混血説 …… 共通遺伝子は、現生人類にとって有利だ
説明しよう。
分岐説では、「共通遺伝子は、現生人類にとって不要だ」とされる。だからこそ、アフリカ南部に進出した集団では、ネアンデルタール人との共通遺伝子が消失した。また、二度目の出アフリカをした集団では、デニソワ人との共通遺伝子が消滅した。いずれにせよ、それらの遺伝子は消滅した。その意味で、それらの遺伝子は不要なのである。
混血説では、「共通遺伝子は、現生人類にとって有利だ」とされる。ここで、有利というのは、ちょっと有利という意味ではなく、圧倒的に有利という意味である。だからこそ、混血した少数の個体にあった遺伝子が、急激に集団全体に拡散していった。ネアンデルタール人と混血した少数の個体の遺伝子は、アフリカ南部を除く全領域に拡散した。デニソワ人と混血した少数の個体の遺伝子は、メラネシアで広く拡散した。
だから、科学的には、次のいずれかを示せばいい。
・ 分岐説 …… 共通遺伝子は、現生人類にとって不要。
・ 混血説 …… 共通遺伝子は、現生人類にとって有利。
どちらが正しいか? 私の予想では、かなり容易に判定が付くだろう。つまり、「共通遺伝子は現生人類にとっては不要だ」ということが、かなり簡単に判明するだろう。私としてはそう予想しておく。
( ※ 実際、それはすでに半分ぐらいは証明されている。なぜなら、共通遺伝子を持たなくても不利ではない、という例が、すでにたくさん判明しているからだ。それらの共通遺伝子は、あってもなくてもいいものであり、つまりは、有利でも不利でもない遺伝子[中立説に従うような遺伝子]なのだろう。)
( ※ なお、「不要だ」というのは、「有益性が皆無だ」ということを意味しない。少しぐらいは有益性があってもいい。ただしそれは、「失ってもいい程度の小さな有益性」にすぎない。……それが「不要だ」ということの意味。)
( ※ 一方、「有利」というのは、「圧倒的に有利」という意味であり、「逆にそれがなければ圧倒的に不利」ということだ。仮に、分岐説が正しくないとしたら、共通遺伝子をもたない個体は、圧倒的に不利となるので、急減するはずだ。たとえば、ネアンデルタール人の遺伝子をもたないネグロイドは、アメリカ合衆国では急減していくはずだ。ちょうど、アジアや欧州で急減していったはずであるように。……ところが現実には、アメリカ合衆国では、ネグロイドの急減という減少は見られない。むしろ増加している。 → 典拠 )
( ※ ともあれ、「分岐説が正しく、混血説が間違いだ」ということは、比較的容易に判定が付くだろう。)
- 【 追記 】
ただし、あとで考えると、この DNA は、核 DNA でなく、ミトコンドリア DNA であるようだ。( → Wikipedia )
とすると、「有利・不利」というのは、あまり意味がないかもしれない。もともと単なる偶然性を意味しているだけかもしれない。
とすると、二つの説の真偽は、「判定できず」となるのかも。
《 再訂正 》
実は、ミトコンドリア DNA だけでなく、核 DNA もあるようだ。となると、「有利・不利」も判定できそうだ。
科学的な証明のための方法は、他にもある。次のことだ。
「西アジアで混血が起こった、という仮説の真偽を知るために、北アフリカにおける遺伝子を調べる」
私の説に従えば、アフリカ北東部・西アジア・アフリカ北部の遺伝子集団はすべて同等であるはずだ。(ネアンデルタール人との共通遺伝子はない。)
混血説に従えば、西アジアで混血が起こったはずなのだから、西アジアと、アフリカ北部・北東部の遺伝子集団は異なるはずだ。(ネアンデルタール人との共通遺伝子は、西アジアでは「ある」となり、アフリカ北部・北東部では「なし」となる。)
このことを調べて、どちらの説が正しいか、確認できるだろう。
( ※ 私としては自説の正しさを確信している。)
[ 付記1 ]
先に次の図を示した。
原ネアンデルタール人 ━┳━ ネアンデルタール人
┗━ ホモ・サピエンス
ここでは、次のことに注意。
- 原ネアンデルタール人の遺伝子は、ネアンデルタール人と、ホモ・サピエンスの、双方に伝わる。その部分については、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスに共通する遺伝子となり得る。ただし、原ネアンデルタール人の化石は(数があまりにも少ないので)残らない。
- ネアンデルタール人の化石は(数が多いので)残る。ただし、ネアンデルタール人の遺伝子が直接的にホモ・サピエンスと共有されるわけではない。(化石的な)ネアンデルタール人から、ホモ・サピエンスが進化した、というわけではないからだ。
- 原ネアンデルタール人は、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの共通祖先、と見なしてもいい。ただしそれは、未知の種ではないし、ホモ・エレクトスでもない。この共通祖先は、ネアンデルタール人の(直系の)祖先であるにすぎない。原ネアンデルタール人と(化石的な)ネアンデルタール人は、とても良く似ている。というか、もともと同一種であり、小進化の差があるだけだ。
- ホモ・サピエンスは、原ネアンデルタール人から、分岐の形で進化した。そこには大幅な進化がある。別の種となるような大幅な進化が」(詳しくは「クラス進化論」を参照。)
- ホモ・サピエンスが分岐したあとも、ネアンデルタール人は存在し続けた。この分岐は 50万年ほど前に起こったと推定されているが、その後、今からほんの2万4千年前に絶滅するまで、ネアンデルタール人はずっと存在し続けた。(「旧種から新種に交替した」わけではない。一般に、進化の過程では、進化が起こった後も、旧種はしばらく存続し続ける。)
[ 付記2 ]
デニソワ人の場合は、次の図が書ける。
┏━ デニソワ人
原ネアンデルタール人 ━┳┻━ ネアンデルタール人
┗━━ ホモ・サピエンス
デニソワ人とホモ・サピエンスが共通遺伝子を持つのは、その共通遺伝子が原ネアンデルタール人にもあったからだ。それが、デニソワ人、ネアンデルタール人、ホモ・サピエンスに共通する形で引き継がれた。(途中で消えた遺伝子もあるが。)
さて。前項で、次の話があった。
ネアンデルタール人のDNAの約4%、デニソワ人のDNAの最大6%が現生人類の一部に引き継がれている。ここで示された「4%」や「6%」という数値は、いかにして与えられたか? ネアンデルタール人やデニソワ人と、ホモ・サピエンスとの間に、何らかの関係性があったからだろうか?
HLA-B*73は現代アフリカ人に見つかることはまれな一方、西アジアでは一般的だ。
いや、それは、「混血説」を前提とした発想だ。「分岐説」に従えば、次のように言える。
「4%とか 6% とかの値は、共通部分として追加された量ではなくて、ネグロイドにおいて失われた量である。そこで失われた遺伝子は、不要なものであるとして失われたものであるから、その量はかなり恣意的である。つまり、分岐説に従えば、4%とか 6% とかの値には意味はろくにない。ただの偶然のようなものだ」
一方、混血説に従うと、「ネアンデルタール人で 4%、デニソワ人で(最大)6%」というのは、ちょっと不自然だ。この数値は、デニソワ人よりもネアンデルタール人の方が、現生人類に近い、ということを示唆しているように見えるからだ。
というか、それ以前に、これほどにも多くの遺伝子が「有利だから」という理由で新たに追加されたというのは、あまりにも不自然だ。(前項の (3) で述べたとおり。)
[ 付記3 ]
「ネグロイド」という言葉は、本項では、「アフリカ南半分の黒人たち」という意味で使っている。そこには、褐色の肌をしたエチオピア人は含まれない。
一方、エチオピア人を「ネグロイド」に含める呼称の仕方もある。その呼称は、本項の呼称とは異なる。
これらの点については、話が細かくなるので、次々項で説明する。
【 関連項目 】
進化の図式(旧種と新種の図式)は、詳しくは下記で。
→ 断続進化 (断続平衡説)
→ 進化は 変化か交替か
──
本項の話はまだ完結していません。次項に続きます。
(科学的に実証するにはどうすればいいか、という話。)