2012年07月28日

◆ CO2の長期目標を捨てよ

 CO2 の長期目標( 50年後や 100年後にこれこれの削減)は、捨てるべきだ。それは夢物語にすぎないからだ。 ──
     
 映画「カサブランカ」の有名な台詞。 
 「昨夜(ゆうべ)はどこにいたの?」(Where were you last night ?)
 「そんな昔のことは覚えてないね」(That's so long ago, I don't remember.)
 「今夜逢ってくれる?」(Will I see you tonight ?)
 「そんな先のことはわからない」(I never make plans that far ahead.)
 今夜の都合でさえ「そんな先のことはわからない」だって。 (^^);
 ところが、今夜どころか、50年後や 100年後のことを考えよう、という人々がいる。(来年のことを言うと鬼が笑う、と先人は言ったものだが。 (^^); )
 
 ──

 「 50年後や 100年後に、CO2をこのくらい削減をしよう」という長期目標がある。それはあまりにも遠い目標だ。ほとんど夢物語だ。ならば、そんな夢物語は捨てるべきだろう。

 似た例を考える。
 たとえば、100年前の 1912年の時点で、次の目標を立てたとしよう。
 「今から 100年後の 2012年には、すばらしい未来社会が構築されるでしょう。機械が計算するんです。超微細な歯車が高速回転することで、1秒間に1万回もの計算ができます。さらに、機械が思考して、人間の思考を代替します。機械が政治を扱うようになり、馬鹿な政治家が間違った政治をすることがなくなります。世界は安定し、戦争もなくなり、核エネルギーが光を点します」

 ところが現実には、こうなった。
 「それから 100年後の 2012年には、予想もできなかった社会が構築された。機械が計算するというより、電子が計算する。超微細な回路を電子が流れることで、1秒間に1億〜1京回もの計算ができるようになった。それでも、そいつが人間の思考を代替することはできない。政治を扱うこともできない。政治家はますます馬鹿だらけになる。ルーピーという超馬鹿な政治家さえ現れた。世界は混沌の極みであり、戦争も続いている。100年前にはなかった核兵器さえ誕生し、日本は北朝鮮の核兵器が現れるのではないかとビクビクしている.おまけに原発は放射脳をまき散らした」

 要するに、まったく予想のできない社会が形成された。予想と現実とはひどく食い違った。そのことは、次のページを見ると、よくわかる。是非ご覧ください。
  → 100年前のドイツ人が思い描いた西暦2000年の未来図

 ──

 このように、遠い未来のことは、まったく予想しがたい。今夜に付きあう女のことさえわからないのに、100年後のことなどわかるはずがない。
 とすれば、長期的な予想や目標などは、何の意味もないのだ。漠然たる目標を構築するぐらいならばいいが、自らの行動を縛るような目標を構築するのは愚かしい。
 たとえば、5年前に、「温暖化ガスの削減のために原発を大幅に増やす」という目標を立てていた。ところが今ではもはやその目標は捨てられてしまった。逆に「原発を減らして、温暖化ガスを増やす」という方針を取っている。たったの5年でひっくりかえるような目標を立てたのだ。無意味なことに。

 にもかかわらず、そこから反省するかわりに、いまだに長期的な目標が立てられている。
 「原発を長期的に削減する」
 「温暖化ガスを長期的に削減する」
 「太陽光発電を長期的に拡大する」

 というふうに。しかし、このような長期的な計画は無意味だろう。
 以下、個別に記す。

 ──

 (1)「原発を長期的に削減する」

 これはすでに国民的に含意されているようだ。だが、とんでもない目標であることが判明した。
 政府は 2030年の電源構成における原子力発電の比率を「0%」「15%」「20〜25%」という3つの選択肢を示している。「このなかのどれかにしよう」というわけだ。(いずれも現状より原発は削減される。)
 しかしこれがとんでもない見通しであることが判明した。
 経団連は……3つの選択肢について、「いずれも実現可能性に乏しく経済への悪影響など問題が多い」として再考を求める意見書を発表した。
 意見書は3つの選択肢は、経済成長率の前提を2010年代に実質1.1%、20年に0.8%としており、実質2%、名目3%を目指す政府の成長戦略と整合性がないと強調。
( → Sankeibiz

 経済界が最も心配するのは経済成長への影響だ。野田政権は年2%の経済成長をめざしており、それは消費増税の前提でもある。ところが、今回の選択肢では1%前後の低い成長しか見込んでいない。経団連も日商も「成長戦略との整合性がない」と批判する。
 失業者は現状の 300万人弱から、改善するどころか、400〜500万人に増加。(図表)
( → 朝日新聞 2012-07-28 有料記事・紙の新聞)
 経団連の指摘ではあるが、これは非常に優れた指摘だ。つまり、政府は、次の二枚舌を使っている。
 「消費税増税をします。ただし成長率は2%ですから、特に悪影響はありません」
 「原発を大幅に削減しても、経済には影響はありません。現在では成長率が1%ですが、今後も1%の成長でしょうから、年1%の成長を見込んで、それに必要な電力さえまかなえれば十分」

 つまり、あるときは「2%」で、あるときは「1%」。高い数値が好ましいときには「2%」という数値で、低い数値が好ましいときには「1%」という数値。ご都合主義の二枚舌。
 で、その二枚舌を信じて邁進すれば、どうなるか? 「1%という低成長率のせいで、景気悪化にともない、莫大な失業者が発生するはずだ」……というのが、経団連の試算だ。これは妥当である。(経済学の知識があれば、初心者でもわかる。)

 まとめて言おう。
 「原発を大幅に削減する」という目標は、簡単に達成できるように見えて、実は「低成長」(景気低迷)という結果をともなる。そのせいで、「莫大な失業者の発生」や、「莫大な企業倒産」も起こる。
 今はシャープやソニーやパナソニックやNECが倒産の危機に瀕しているが、「原発を大幅に削減する」という目標を達成したら、これらの企業が消滅するだけでなく、稼ぎ頭である自動車産業なども次々と消滅してしまうかもしれない。
 ま、そうなったら、日本は途上国みたいになって、乞食ばかりになる。で、「乞食ばかりで産業がなくなったので、原発は不要になりました」というふうにするつもりなんですかね? それならば論理的に整合するが。 (^^);
 しかしこうなると、ほとんど漫才ですね。
 「おい、熊さん。金持ちになると、毎日遊んで暮らせるぜ」
 「ほう、そうかい。だったら今のままでいいや。乞食をやってりゃ、毎日遊んで暮らせるぜ」

 (2)「温暖化ガスを長期的に削減する」

 この目標は、漠然と考えているだけならばいいが、具体的な目標を考えるのは、馬鹿げている。その理由は、冒頭に述べたとおりだ。つまり、「先のことはわからない」からだ。
 具体的に示そう。技術というものは、あるとき急激に発展するのだ。
 コンピュータで言えば、1980〜1995年のころの発展は緩慢だったが、1995年に Windows95 が登場したあとは、驚くほどの発展を遂げた。その少し前(1993年)に現れた HTML という規格を通じて、インターネットというものが出現した。
 すると、それまではただの計算機(情報処理機)だと思われていたコンピュータが、通信を通じて情報の広範な伝達をするようになった。それまでは高額な国際電話を使うしかなかったのに、無料でいくらでも世界各地の情報を得られるようになった。
 これは社会に「グローバル化」という現象をもたらした。そのせいで、途上国で iPhone や液晶などが生産される一方、先進国はコストアップに耐えきれなくなり、工場生産がなくなっていった。
 つまり、NEC やシャープのような最先端の情報機器産業は、自らIT社会を発展させるたが、同時に、発展したIT社会にともなうグローバル化の影響を受けて、自分自身が倒産の憂き目に遭ってしまった。
 このような皮肉を、誰が予想しただろう? むしろ、Windows95 の出現したころは、「NEC の未来はバラ色だ」と思われたし、CRT から液晶への転換が進んだ 2000年ごろには「シャープの未来はバラ色だ」と思われた。ところが、それから10〜20年ほどたつと、NEC や シャープはほとんど倒産寸前になってしまったのである。
 技術発展というものは、これほどにも予測しがたいのである。

 (3)「太陽光発電を長期的に拡大する」

 太陽光発電を拡大するという目標は、漠然と考えているだけならばいいが、具体的な目標を考えるのは、馬鹿げている。つまり、「50年後に太陽光発電を全発電の30%にする」というふうに漠然と考えるのならばいいが、年ごとの目標を立てて「毎年1%ずつアップ」なんていう計画を練るのは馬鹿げている。
 なぜか? すぐ上でも述べたように、技術革新の程度は予測が付かないからだ。
 特に、太陽光発電は、この先が見通しにくい。朝日新聞のようなお馬鹿な人々は、「大量生産によってコストが激減するだろう」と主張する。しかし、それは誤りだ。なぜなら、大量生産は、数年前の時点で、すでになされているからだ。そのことは、前に示した通り。
 いまだ大量生産がなされていない商品(実験室の手作り商品)ならば、大量生産によるコストダウンはある。しかし、すでに大量生産をしている商品は、コストダウンの効果はたかが知れているのだ。
( → 米国の太陽光発電

 2002年以降は、だいぶ価格が下がってきたが、そのかわり、コスト低下はほとんどなかった。(特に、大量生産の効果は、あまりなかった。大量生産技術はすでに確立しつつあったからだ。価格低下は主として技術の向上によってもたらされた。)
( → 太陽光発電の嘘(Wikipedia)
 太陽光発電がこの先どうなるかは、技術革新の程度しだいだ。そして、技術革新がどうなるかは、まったく先を見通しがたい。
 ただ、コンピュータの例からすると、次のようには言えるだろう。
 「あるとき画期的な技術が出現して、大幅なコストダウンが生じる。そのあとは、技術が急激に発展して、信じられないほどの技術発展が続いていく。それがどういうものであるかは、現時点ではまったく予想できない」


 1980年の時点では、コンピュータやインターネットがどうなるかはまったく予想が付かなかった。それと同様に、2030年や 2050年の太陽光発電がどうなっているかは、2012年現在ではまったく予想が付かない。
 それゆえ、現在の時点で、細かな目標を立てるのは、愚かしいのだ。特にひどいのは、次の目標だ。
 「現在の技術を使うことを前提とした上で、毎年1%ずつ、太陽光発電の発電シェアをアップさせる。30年間でシェア 30%になるようにする。そのために毎年莫大な補助金を投入する」
 これほど馬鹿げた目標はない。そこには「技術革新」という概念がまったく欠けており、「現在の技術」という古臭いものを、このままずっと使うことを前提としているからだ。(単に大量生産をするだけ。お馬鹿さんですね。)

 比喩的に言うと、次のようなものだ。
 「 1956年の時点で、わが国最初の真空管式コンピュータ FUJIC が誕生した。これを普及させるために、政府は莫大な補助金を投入することに決めた。普及率を毎年1%ぐらいアップさせていけば、やがては圧倒的に多数のコンピュータが普及する。真空管式コンピュータを普及させることで、日本は世界最先端の科学技術国家となるだろう」
 ところが、その2年後の 1958年には、ICが開発される。すると真空管はもはや時代遅れになってしまうのである。
 先のことを見通せないまま、補助金だけで新技術を普及させようとすれば、「その時点での先端技術はたちまち陳腐化する」という現実につぶされてしまうのだ。
 
 太陽光発電も同様だ。この分野では近年いろいろと技術革新が進んでいる。ざっと見た限りは、現在は主流のシリコン式は時代遅れとなりつつあり、無機薄膜式(CIS)などが台頭しつつある。ただし、他の方式もあり、どれが最終的な勝者となるかは見通しがたい。「シリコン式は敗者になりそうだ」という見通しだけはあるが。
 にもかかわらず、政府は「補助金漬け」という方式で、シリコン式を大量に配備させようとしている。それはまるで、真空管式のコンピュータを補助金で普及させるようなものだ。そんな形で強引に普及させても、金が無駄になるだけなのだが。

 ────────────

 結論。
 CO2長期目標( 50年後や 100年後にこれこれの削減)は、捨てるべきだ。
 なるほど、漠然と「 CO2 をなるべく減らそう」という目標を立てるだけならば、特に問題はない。しかし、具体的な数値目標を立てて、それに強制力を持たせるようなことは、するべきではない。なぜなら、先のことは見通しがたいからだ。
 原発をなくすとか、太陽光発電を普及させるとか、そういうことも、漠然と目標を立てるだけならばいいが、「10年後にはこれこれ」という形で数値目標を立てて、それを強制するのは駄目だ。
 なぜか? 現在の人間は、未来の技術を見通せないからだ。現在の人間が知ることができるのは、現在の技術だけだ。とすれば、その現在の技術を使って、できる範囲のことをやるだけでいい。未来の技術を使えば容易にできることを、現在の技術で強制的に普及させよう、なんて思ってならない。真空管時代の技術で、トランジスタ時代や LSI 時代の世界を動かそうとしてはならない。

 教訓。

 人間は未来を見通せない。ゆえに人間はその無知さをわきまえるべきだ。
 なのに今の人間は、自らの無知を理解できないまま、自らを賢明だと思い込んだあげく、すぐに時代遅れになるような愚劣な技術を、補助金で普及させようとしている。あまりにも愚かだ。現代の人間は、百年前の人間よりも、はるかに愚かになっている。
 百年前の人間は、未来を夢見ることはあったが、それは夢だとわきまえていた。しかし今の人間は、夢を夢だとわきまえないまま、夢と現実を混同したあげく、夢を金によって実現しようとする。そのあげく、大金を無駄にする。これほどにも愚かなのだ。
 21世紀になって、科学技術は1世紀前よりも大幅に進歩したが、人間の判断力はかえって大幅に低下してしまったのである。自らの愚かさに気づかないほどに。



 [ 付記 ]
 「じゃ、どうすればいいのか?」
 という質問も来そうだ。その解答は、本文を読めばすぐにわかりそうだが、最近の人々は国語力が低下しているので、読んだだけではわからないかもしれない。そこでわかりやすく説明しておけば、こうだ。
 
 Q じゃ、どうすればいいのか?
 A 何もしなければいい。補助金を出す必要もないし、「太陽光発電を普及せよ」と騒ぐこともない。普通の人々(政府を含む)は、何もしないのが最善だ。
 その間に、頭のいい研究者が、技術を発展させて、安価で高効率な太陽光発電を開発するだろう。それは 2020年かもしれないし、2030年かもしれない。
 そして、そうなったら、その時点で初めて、「安価で高効率な太陽光発電を普及させよう」と思えばいいのだ。それはちょうど、1995年に「安価で使いやすいパソコンができたから、みんなパソコンを使おう」と思うようになったのに似ている。
 一言でいえば、「機が熟すのを待て」となる。そして、機が熟す前に焦って行動すれば、かえって墓穴を掘るだけだ。真空管式のコンピュータを普及させようとするように。
 太陽光発電のような未熟な技術については、「機が熟すのを待て」という態度が賢明だ。まだ普及段階にない技術を見たら、それにやたらと飛びつかず、じっくりと金を貯めておくのが賢明だ。
 「何もしないで、金だけ貯めておけ」
 というのが、結論となる。
posted by 管理人 at 19:36| Comment(5) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
うん十年後には管理人さんが言ってたように寒冷化してるかもしれませんね。そもそもCO2の温暖化との相関なんてたいしたことないのに。
Posted by ACL at 2012年07月28日 20:47
人工光合成に成功。
 → http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD2707P_Y2A720C1MM8000/

 これはすごい。太陽光発電よりも有望かも。自動車もエタノール型燃料電池車が普及するかも。
 未来はまったく思いも寄らぬ形のエネルギー事情になるのかもね。「人工光合成」なんて、(ほとんど)誰も言っていなかったしね。
Posted by 管理人 at 2012年07月29日 11:26
昨年はトヨタでした。記事に依ると植物と同等の効率の様なので、植物の効率を上回る研究成果が得られる事を期待しています。
植物(藻類)は放っといても増えて、新陳代謝で世代交代もするので、長期間一定の生産能力がありますが、無機系の場合、経年劣化を考えると少し気がかりです。
でも水と光と二酸化炭素があれば有機物が合成できるということは公害で汚染された地域や生物が棲めない所でもなんとかなるので、宇宙用途に有効かもしれません。
Posted by 京都の人 at 2012年07月29日 17:47
人工光合成についての詳報
  → http://j.mp/OA6th8  :日本経済新聞

効率が低すぎるかな。コスト的には、普通の農産物の方がまだ上ですね。種をまくだけだし。
Posted by 管理人 at 2012年08月01日 06:56
変換効率0.04%が一年で0.2%と5倍/年の開発速度…線型近似する人が出そうですが、それはおいといて、無機材料なので蛋白質が変成する高温で効率が上がるかもしれません。
楽しみな技術です。
Posted by 京都市の人 at 2012年08月01日 18:20
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