国会事故調の報告を、以下では一部抜粋し、さらに私の評価を加える。( 出典は → 産経新聞 2012-07-05 )
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地震・津波対策を立てる機会が過去、何度もあったのに、政府の規制当局と東電が先送りしてきたと断定。その背景に「組織的、制度的問題」があると指摘した。これは妥当である。実は、こここそが、事件の核心であり、事件の本質だ。それを見事に剔出した点で、この報告書は基本的には優れている。
事故の根源的な原因として、経済産業省と密接な関係にあった東電が、歴代の規制当局に規制の先送りや基準を軟化するよう強い圧力をかけ、「規制する立場と、される立場の『逆転関係』が起き、規制当局は電気事業者の『虜(とりこ)』になっていた」とした。
その結果、経産省原子力安全・保安院の「原子力安全についての監視・監督機能が崩壊していた」とし、東電を「自らは矢面に立たず、役所に責任を転嫁する黒幕のような経営体質」と断じた。
ただし、残念ながら、自分に対して盲目である。ここには、次の肝心の一分が抜けている。
「歴代の規制当局に規制の先送りや基準を軟化するよう強い圧力をかけたのは、自民党を通じてである。つまり、事件の張本人は、東電と自民党だ」
真犯人は、二人組である。その二人組がいることをちゃんと指摘したのに、二人組の一人である東電を名指ししながら、もう一人である自民党を名指ししない。何やっているんだか。
ま、事故調自体が、自民党主導なんだから、「泥棒が警官を兼ねている」のと同然だ。泥棒が自分を摘発するはずがないですね。前に述べたとおり。
→ 東電・全面撤退の真偽
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事故の直接的な原因として「事故は津波が要因」との見方を否定する見解も盛り込んだ。政府の事故調査・検証委員会(政府事故調、畑村洋太郎委員長)の中間報告書(昨年12月公表)や、東電の社内調査報告書(今年6月公表)は「非常用電源の喪失は津波による浸水が原因」との見方を示してきた。これは重要な指摘だ。なお、ここから得られる結論は、次のことだ。
しかし国会事故調の報告書は、津波の到達時間などを検証した結果、少なくとも1号機の非常用電源の喪失は津波によるものではない可能性があると指摘した。原子炉圧力容器の圧力を下げるための弁が作動していなければ、「1号機では地震の揺れによる小規模の冷却材喪失事故が起きていた可能性がある」とした。
「原発事故は、千年に一度の大地震による、ごく稀な津波(池田信夫の言うブラックスワン)が原因だったのではなく、よくあるような震度6強ぐらいの自身ですら、あっさりと起こるような事故なのだ。原発は、震度6強ぐらいですら破壊されてしまうような、脆弱な装置なのだ」
これは別に不思議でも何でもない。前に私が指摘したとおりだ。
→ 関電の原発耐性評価
要するに、今の原発は、震度6強ぐらいが耐震性の限度である。実際に震度6強になったら、破壊されるかどうかは、ケースバイケースだ。五分五分と見てもいい。(地震が震度6弱ならば安全だろうし、地震が震度7ならば確実に破壊される、とも言える。)
というわけで、浜岡その他の原発は、いくら津波対策をしても無意味である。津波が来る前に、震度6強の地震で、原発そのものが破壊されてしまうのだ。これも前に述べたとおり。
→ 浜岡原発は停止へ(菅直人)
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東電が原発からの「全面撤退」を検討したとされる点は「東電内部で全面撤退が決まった形跡はなく(官邸側の)『誤解』だった」と結論付けた。この後半は正しいが、前半はおかしい。
ただ、誤解を生んだ最大の責任は「民間企業の経営者でありながら、自律性と責任感に乏しい清水(正孝元)社長が、あいまいな連絡に終始した点に求められる」と指摘。「東電は、官邸の誤解や過剰介入を責められる立場になく、そうした事態を招いた張本人である」とした。
「東電内部で全面撤退が決まった形跡はなく」
というが、「決まった」なんて、誰も言っていないでしょうが。私が知っている範囲では、次のようになったはずだ。
「東電が『全面撤退したいが、それでも良いか』と官邸にお伺いを立てたら、菅直人が『それは絶対駄目だ!』と息巻いた」
ここでは「お伺い」と「拒否」があっただけだ。「東電の決定」なんて、どこにもない。事故調は夢でも見ているのではないか? 菅直人を攻撃するために、ありもしないものを妄想している。いわゆる藁人形論法。
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事故後の対応では、保安院や東電の説明不足に不信感を募らせた官邸が現場に介入したとし、「情報を把握できないまま介入し混乱を引き起こした。事故の進展を止められず、被害を最小化できなかった最大の要因」と批判。「官邸、規制当局、東電経営陣には、準備も心構えもなく、被害拡大を防ぐことはできなかった」と強く批判した。何これ? 自分で自分の言っていることを理解していない。
本項の冒頭で示したように、原発事故の最大要因は、事前の対策が皆無だったことだ。特に、保安院や原子力安全委が、マヒ状態だったことだ。そして、それらがマヒ状態だった理由は、東電と自民党の圧力(安全体制の骨抜き)だった。……これが最大の要因だった。
自分で正解をほぼ示していたくせに、その舌の根も乾かないうちに、「菅直人の介入のせいだ」と責任転嫁している。頭が精神分裂している。
そもそも、首相がやるべきことは、自分で事故の解決を主導することじゃない。下位の担当部局がきちんと行動するように、指示を与えることだけだ。
ところが今回、保安院と原子力安全委が、骨抜き状態になり、機能しなかった。そこで菅直人が出てきたわけだ。
はっきり言って、この時点で、日本は機能マヒ状態にあった。全身マヒに近かった。そのまま日本壊滅になっていたとしても、不思議ではなかった。
なのに、日本がマヒ状態になっていたありさまで、首相が獅子奮迅して、「目を覚ませ」とビンタを打って、マヒ状態の東電を覚醒させた。
事故調の言い分は、「東電のなすことを妨害しなければ、事故は速やかに収拾したはずだ。なのに、菅直人が妨害したから、事故は拡大した」ということだ。
笑止千万。東電は、(1兆円ぐらいの損失となる廃炉を恐れたせいで)海水の注入さえ拒否したのである。それほどのエゴイストの東電に任せれば、事故は速やかに鎮静したというのか? 事故調はどこまで馬鹿なのか? 呆れるほかない。
殺人犯が拳銃を向けて殺そうとしているときに、「殺人犯に任せれば命は助かるから、殺人犯に抵抗してはならない」と言い張って、殺人犯をぶんなぐろうとする菅直人の足を引っ張るようなものだ。そんなことでは、日本が全滅する。
この世で最悪の悪党に任せるべきだ、と語るなんて、事故調はほとんど狂気に近い。
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事故発生翌日の3月12日朝、菅直人前首相が現場を視察したことに関しても「現場の士気を鼓舞したというよりも、自己のいら立ちをぶつけることで、むしろ現場にプレッシャーを与えた可能性もある」と指摘した。これもまた、「トップというものは、前線に出たりせず、本部で指揮を執るべきだ」という原則からの意見だろう。
しかし事故調は知らないのだろうが、当日の官邸には情報がまったく入ってこなかった。通信網は分断され、ツイッターが生きているぐらいで、現地における津波の死者数さえ判明しなかった。
この時点で、首相ができることは、部下から上がる情報を処理することではなくて、部下からの情報が皆無の状況で、テレビの画面を見ていることだけだった。
だから、事故調が言っていることは、「首相は何もしないでテレビだけ見ていろ」ということだ。しかし、そんなことでいいのか?
現実には、菅直人は、ヘリコプターに乗って、現地の悲惨な状況を見た。そのせいもあって、ちゃんと「20キロ圏内の住民の避難」という最重要の決断を出せた。これは、あの時点では、必要不可欠なことだが、それをまさしくなし遂げたのだ。
仮に、ヘリコプターに乗っていなければ、「自分では即断せず、部下の意見を待つ」というふうになっていたかもしれない。その場合、福島第1原発の放射性物質を、住民はまともに浴びていたかもしれない。( 14日頃にまき散らされたからだ。)
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結論。
事故調は、「あれが駄目、これが駄目」と文句を言うことしかできない。ただの駄々っ子のようなものだ。「あのとき官邸は何をしたか」というプラス面を含めた、総合的な評価ができていない。
何事であれ、物事のマイナス面ばかりしか見られないような人間は、正しい決断をできない。仮に、事故調のような人間が首相になっていたら、あの時点で、福島の住民の多くは放射性物質を大量に浴びていただろう。また、福島第1は放棄され、3号機や4号機も爆発し、プルトニウムがまき散らされていただろう。
→ 4号機、危機一髪
→ 4号機、危機一髪 2
そういう地獄のような状態が起こっていた可能性が十分にあったということも理解できず、「首相が何もしなければ万事うまく行ったはずなんだ」と主張するなんて、あまりにもおめでたい。能天気というしかない。
事故調の本質を示せば、次の画像だ。
【 追記 】
さらに、新たな記事が出た。( → 産経 2012-07-06 )
野村修也委員「東電のテレビ会議の録画などを精査した結果、官邸側には全面撤退のニュアンスで伝わっていた。東電側がはっきりと『何人を残す』と言っておらず、うやむやな言い方をしているから。これは自分で決めず、相手に言わせる東電の経営体質のせいもある。官邸側は東電に不信感を抱いていたから、そう理解をしたのは致し方ない」この認識は大切だ。前に私が指摘したとおりだろう。
→ 東電・全面撤退の真偽
この意味で、「官邸側が悪い。東電は悪くない。東電は全面撤退なんて言っていない」と述べた、前回の事故調報告(中間報告)は、妥当でなかったことになる。事故調は自己反省するべきだ。
( ※ 要するに、東電のテレビ会議を見ていなかったから、真実がわからなかったわけだ。私はテレビ会議を見なくてもわかったが、事故調は直接的に証拠を見るまで勘違いしていたわけだ。バカボンだから、仕方ないが。)
「一方、清水社長は官邸に呼ばれる前に、一部を残すことを決めていたので、菅総理が撤退を食い止めて日本を救ったというストーリーは非現実的。東電もまったくの被害者だという顔をして報告書をまとめているが、それも違和感がある」「一部を残す」って、それじゃ駄目でしょ。「必要な戦力を徹底的に投入する」ことが必要だ。そして、それを命令したのが、菅直人だ。
テレビ会議を見ても、まだわからないんだな。「一部」だけで作業が簡単に済むと思っているほど、甘ちゃんで能天気なのか。……ま、バカボンだから、仕方ないが。
→ トップページ。
http://naiic.go.jp/report/
→ http://icanps.go.jp/post-1.html
なお、最終報告は、近日中に出されるらしい。
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事故の根本原因が日本人に染みついた慣習や文化にあると批判。権威を疑問視しない、反射的な従順性、集団主義、島国的閉鎖性などを挙げ、「事故はメード・イン・ジャパンだったことを痛切に認めなければいけない」とした。
→ http://www.asahi.com/politics/update/0707/TKY201207070003.html#
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あまりにも馬鹿らしい。批判している人もいる。
→ http://d.hatena.ne.jp/ryoko174/20120708/1341698637
要は小金を惜しんで自滅したのであり、福島県民にはとんだ迷惑だ。
「寝た子を起こすな」と言った人がいるようです。
「地震発生から津波到達までの45分間は(非常用)電源が生きていたのでメーターの記録がある。それを見ると配管破断を示すような圧力ロスなどは観察されていない(中略)1号機は地震で配管破断などの損傷を負っていなかったというのが実情だ」(http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120723/316908/?ST=business&P=3)と指摘していますが、どう思いますか?
それは、政府事故調と同様で、国会事故調とは反対ですね。
私としては、もともと国会事故調をあまり信じていないのですが、この件については、特に個人的な見解はありません。
前にどこかで述べたと思うが、このときの福島の振動の大きさ(**ガル)は、配管の破断が起こるかどうかが五分五分ぐらいの値だったはずです。