前項に述べたように、42円という高価格は、太陽光発電の普及を狙った価格だ。この件は、「利潤に配慮する」という言葉で、引用文がある。(前項)
なるほど、「高価格にすれば、普及が促進される」という効果はあるだろう。しかし、それは、短期的な話だ。長期的には、普及はかえって阻害される。なぜか? 次の原理による。
「総額が同じならば、単価が高いほど、数量は減る」
たとえば、百円もっているとしよう。単価が 10円ならば、10個買える。しかし単価が 20円なら、5個しか買えない。単価が安ければ安いほど、数量は多くなる。
これと同じことが、太陽光発電にも成立する。
補助金の額が一定だとすれば、単価が高ければ高いほど、数量は減る。たとえば、次のようになる。
・ 補助金単価が 40円 …… 100万kW の促進
・ 補助金単価が 20円 …… 200万kW の促進
・ 補助金単価が 10円 …… 400万kW の促進
というわけで、単価が低ければ低いほど、促進される電力の量は増える。
では、単価を下げるには、どうすればいいか? こうだ。
「単価が下がるのは、時間がたってコストが下がったときだ。ゆえに、数年間待って、コストが下がってから、補助金を出せばいい」
つまり、結論はこうだ。
「太陽光発電を大幅に普及させたければ、単価の高い今現在において補助金を出すよりは、単価の下がった数年後に補助金を出せばいい」
実際、次のことは言えるだろう。
「過去において拠出した多大な太陽光発電の補助金は、ほとんど効果がなかった。出しても出さなくても、現時点における太陽光発電のコストには影響しなかった。(影響したのは日本ではなくて海外のパネル販売量だった。)」
とすれば、今後数年間、42円とか 30円とかの高価格で買い取りをする(ように補助金を出す)としても、たいして効果はないのである。それよりは、買い取り価格が 25円ぐらいに下がった時点で、補助金を出せばいい。どうせ同じ補助金を出すにしても、価格が下がってから出す方が、実現可能となる発電量はずっと大きくなるのだ。
たとえば、毎年百億円ずつを出すよりも、今は全然出さずにおいて、数年後にたっぷりと出す方がいいのだ。
──
以上のことを、教訓ふうに、諺で言おう。
「急がば回れ。あわてる乞食は儲けが少ない。急いては事を仕損じる」
つまり、急げば急ぐほど、かえって遅れてしまうわけだ。皮肉なことに。
あるいは、次のようにも言える。
「朝に三つで夕べに四つじゃ、イヤだ。朝に四つで夕べに三つがいい」
いや、もっと悪い。こうだ。
「朝に三つで夕べに四つじゃ、イヤだ。朝に四つで夕べにゼロの方がいい。総数は減ってもいいから、朝のうちにいっぱい食べたい」
これが今の日本政府である。猿知恵。いや、猿にも劣る。
【 関連項目 】
実は、この話と同様のことは、前にも述べた。
→ 10年後の太陽光発電
ここから、一部を再掲しよう。
今すぐ最大限の普及をめざすと、10年後には普及率を上げることができなくなる。詳しくは、この項目を読んでほしい。
このことは、「ウサギとカメ」の話にも似ている。マラソンにおいてスタートで全力疾走すると、すぐに疲れてしまって、一休みするしかない。そうして休んでいる間に、亀に抜かれてしまうので、最終的には負けてしまうのだ。
【 追記 】
興味深いデータを得た。
・ ドイツのFITによる一般家庭の負担(2011年)は14.7ドル/月( 出典 )
・ ドイツの2012年の固定価格買い取り制度の賦課金は、月額1069円 ( 出典 )
つまり、ドイツでは月 1200円ぐらいでは負担に耐えかねた(2011年)ので、それよりも引き下げることに決まった。(2012年)
一方、日本の場合は、「太陽光発電の設置量が前年比 11%増えただけで、月 70〜100円の増加」である。とすれば、110%増えれば、月 700〜1000円の増加となり、上限額に近づく。
42円というのは馬鹿高値だから、初年度に前年度比 110%増えることは、十分あり得る。そして、もしそうなったら、その時点で、負担限度額に達してしまうのだから、欲念以降は、もはや補助金を出せない。(つまり高額買い取りができない。)
つまり、初年度にあまりにも高い価格を設定すると、使える枠を使い切ってしまうので、次の年から先は、もはや太陽光発電の推進ができなくなるのだ。「促進が減る」どころか、「促進がほぼ皆無」になるのだ。初年度にして枠をすべて使い切ってしまうがゆえに。
比喩的に言うと、「朝三暮四」の猿が、朝のうちに7個を得たせいで、そのあとは1個も得られない、という状況だ。
ひどいね。猿より愚かというべきか。地デジの補助金を得たせいで、その後に大損した家電業界より、もっと愚かかも。
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