「原発を再稼働させないなら、電気料金を値上げするべきだ」
という見解が政府などから出ているそうだ。それに対して反対論もあるそうだ。
→ 朝日新聞・朝刊 2012-04-18
なるほど。「値上げ」と聞くと、「そんなのは困る」と言う人が多いだろう。それは、もっともだ。去年の計画停電のころにも、「需給調整のために値上げせよ」という案が出たこともある。ただ、そのときは、私はその値上げには批判的だった。
→ 節電のために値上げ? (コメント欄にも補足がある。)
しかし、今回は異なる。「原発を停止すれば、その分、余分にかかったコストを値上げする」というのは、当り前のことだ。子供じゃないんだから、駄々をこねても仕方ない。
朝日の記事には、「値下げする余地があるぞ」という反対論もあるが、それとこれとは別の話だ。値下げする余地があるなら、別途、新たに値下げすればいい。それだけのことだ。(現実には、値下げする余地があるどころか、原発の補償費の分、値上げするだけだが。朝日の記事を読むと、現実を無視した「埋蔵金目当て」という夢想に、呆れはてるしかない。こういう阿呆が、詐欺に引っかかるんですね。)
──
さて。以上はニュースに対する話題だが、それとは全く別の趣旨で、本項では「値上げするべし」と主張する。
理由の一つは、もちろん、コストアップがあるからだ。原発を停止して、火力発電所を稼働させれば、コストは 17%ほど上がる。だからその分、値上げするのが当然だ。
( ※ このことは、原発停止を扱ったころから、論じている。「料金値上げを甘受して、原発を止めよ」というふうに。)
他の理由は、需給調整のためだ。
つまり、コストアップがあるからといって、単に「コストアップなので値上げします」というのは、芸がない。そこで、「コストアップ値上げ」と「需給調整値上げ」を組み合わせる形で、最適の組み合わせを求める、というのが、本項の趣旨だ。
以下では、産業用と家庭用に、分けて論じる。
──
(1) 産業用
産業用の電力価格は、もともと安い。しかも、従量料金が極端に安い。9円/kWh である。その具体的な値段は、次の形で示せる。 ( → 出典 )
9×N + T
ここで、Nは 使用量(kWh)であり、Tは定額料金(およそ 20日間稼働分)だ。
わかりやすく言うと、次のようになる。
・ 使用量がゼロならば、Tを払う。「9円で 20日間」に相当する額。
・ 使用量が普通ならば、Tの2倍を払う。「18円で 20日間」に相当する額。
・ 使用量が倍ならば、Tの3倍を払う。「27円で 20日間」に相当する額。
この2番目と3番目を比較すると、次の結論が得られる。
「操業時間が倍ならば(つまり1日に 20〜22時間操業するならば)、電力消費は倍になるが、料金は 1.5倍にしかならない。つまり、電力単価は 0.75倍(25%引き)になる」
要するに、こう言える。
「企業向けの電力料金は、利用すれば利用するほど、単価が安くなる。ほぼ1日中電力を使用すれば、単価は 25%も下がる」
「逆に、(操業時間が短くて)利用量が少ないと、単価はものすごく上がる。電力使用がゼロのときには、電気を使わないのに金を取られるから、単価は無限大となる」
これが現状だ。この現状は、「電力の浪費を促す」という料金体系だ。
そこで、この料金体系を是正して、「電力の浪費を抑制する」という体系に改めるといい。具体的には、次のようにするといい。(数字は一例。)
- 平常料金と夏期料金を分ける。平常料金は現状維持だが、夏期料金は値上げする。
- 夏期料金は、完全に従量制とする。(定額部分をなくす。)
- 従量料金は、6月と9月は 18円で、7月と8月は 27円。( kWh あたり)
なお、上記の制度がイヤなら、受け入れなくてもいい。その場合は、従来の料金制度のまま、単純に 17% の値上げを受け入れてもらう。
以上の発想は、次の二点からなる。
・ 火力発電の増加によるコストアップ分は、当然 負担してもらう。
・ 需給が逼迫している場合には価格を上げる(市場原理)
要するに、ごく当たり前のことをやる、というだけだ。別に「懲罰的に高価格にする」というような制度じゃない。市場原理なのだから、経団連なども受け入れやすいだろう。まさか、ここに限って、「市場原理はイヤだ」とは言うまい。(それでは自己否定だ。文句を言う会社があったら、「市場原理を否定するなら、国有化してやるよ」と言って、国が接収してしまえばいい。それでお望み通りだ。)
( ※ さらに、このような基本料金制度に加えて、需給調整契約なども併用するといい。)
──
(2) 家庭用
家庭用も、企業向けに準じる。別に「懲罰的に高価格にする」というような制度は必要ないが、経済原理にかなった料金制度にすればいい。次のように。
・ 原発を稼働しない電力管内では、17%の値上げ。
・ 原発をすべて稼働する電力管内では、値上げなし。
・ 原発を少し稼働する電力管内では、案分して、値上げする。
これならば、完全に理屈が立つ。当然の理である。
現状では、当然の理が働いてない。だから、橋下はこうしたがっている。
「原発は再稼働させない。ただし料金は現状維持」
こんなのは道理が通らない。「原発は再稼働させない」というのならば、当然、ただちに料金を 17% 上げるべきだ。当り前でしょう。「値上げ」を口にしないで、「再稼働には反対」なんて言うようでは、道理が通らない。(経済観念が抜けているんだろうが。)
ついでだが、橋下のことだから、こうも言いそうだ。
「わかった。値上げは受け入れる。その代わり、広域停電はやめてもらいたい」
これには「吉本じゃあるまいし、馬鹿も休み休み休み言え」と言うしかないね。
そもそも、値上げはコストアップの分であり、当然の負担だ。当然の負担をしたからと言って、広域停電がなくなるわけじゃない。それはそれで、別の話だ。
もちろん、大阪の場合は、「値上げ」と「広域停電」のダブルパンチとなる。まともな人間ならば、そんな道は取らない。しかし橋下は狂っているんだから、仕方ない。経済観念もないし、道理もわきまえない。だから大阪は、「値上げ」と「広域停電」のダブルパンチを甘受するしかない。
( ※ ま、うまくやれば、企業の節電で、広域停電は回避できる。しかしそのためには、私の案を受け入れることが必要だ。橋下みたいに「エアコンの節電で」なんて言っているようでは、広域停電は不可避である。)
──
結論。
原発停止にともなうコストアップが生じたのだから、当然、電気料金を値上げすればいい。それによって、一石二鳥の効果が出る。
・ 値上げ(および制度改正)によって、節電が進む。
・ 原発停止による値上げが起こる、という現実を知ることができる。
(妄想に基づいたコスト無視の反対論がなくなり、意見集約が進む。)
※ ただし、「値上げしたから、広域停電なし」ということにはならない。
家庭用の料金をいくら値上げしても、それだけでは駄目だ。要するに、
企業向けが大幅削減されないと、広域停電は起こる。
[ 付記1 ]
「企業向けの料金を(家庭向けのように)累進制にせよ」という案もある。しかし、料金設計が不自然になるので、私としては推奨しがたい。この案は、発想が安直すぎるのだ。
そこで私が代わりに出したのは、「月ごとに従量料金を変える」(暑いときほど従量料金を高くする)という案だ。これならばシンプルな料金設計だし、理屈も通る。……だから、本文でその案を示した。
[ 付記2 ]
ただし、それには、たった一つの難点がある。「電気使用量を日ごとに計測することが必要だ」という点だ。
これは、簡易スマートメーターみたいなものが必要なので、家庭用では実現できない。だが、企業向けでは実現できるはずだ。(対象となる企業の数は限られているから、今からでも後付けできる。)
というわけで、「月ごとに従量料金を変える」(暑いときほど従量料金を高くする)という案は、企業向けならば可能なのである。
ただしそれは、家庭向けには無理だ。検針は1カ月単位であり、何日に検針するかが、家庭ごとにバラバラだからだ。ゆえに、家庭向けには、累進制にするしかない。
[ 付記3 ]
累進制は、基本的には間違った制度である。所得税なら累進制も妥当だが、電力は「使えば使うほど悪」というのは、夏にしか成立しないからだ。だから、夏だけに累進制を適用するならともかく、他の季節にまでそれを適用するのはおかしい。
他の季節では、電力は不足していない。その際は、
固定費 + 燃料コスト
というのが原価だから、この原価計算に従う方がいい。
とはいえ、原発があるときならともかく、原発がないときなら、「固定費が総費用の半額になる」ということはありえない。
ゆえに、現状の企業向け料金の、「定額分が半分になる」という制度設計はおかしい。「定額分は全体の1割程度」にするべきだろう。その場合、定額分が引き下げになる代償として、従量料金は、現状の9円から大幅に上がることになる。この件は、前にも述べたとおり。
→ 前出項目の「結論3」
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→ http://j.mp/fYl6ZJ
本文では記述し忘れたが、原発を稼働させるときには、「原発の保険料」も追加するべきだ。水棺の処理がしてあるなら、その加算はゼロ同然。旧式の原発を稼働させたら、その加算はかなり高額になる。浜岡を稼働させた場合には、その加算は猛烈に高額になる。その場合、中電の料金は現状の 100倍ぐらいに上げるのが妥当だろう。
更に原発の恩恵を受けながら原発反対を言う首長をいただく自治体居住者には懲罰的料金を課してはいかがでしょう。(笑)